表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブサイクの逆襲  作者: 黒田 容子
本編
16/33

キックオフ ドランカー

「かんぱーい!」

なみなみと注がれたジョッキ生たちがぶつかり合い、鈍い音があちらこちらから上がった。


 今日は立ち上げ成功を祝う打ち上げ。通称『キックオフ』

 ここは、現場からほど近い人気の焼き肉屋。目の前のテーブルは、景気よく肉、肉、肉…が並び、周囲の席からは、モクモクと煙とともに、こってりとした匂いが立ち上っている。


 乾杯が済み、いよいよ第一弾の肉が焼きあがってきたころだった。


「権ちゃん、またケンカしたんだって?」

 …またって、何よ?


 爆弾発言を切り出したのは、この場の中堅どころベテラン現場社員。武藤の親父さんが、何だかんだで一番しごいてる人。


 あたしが「ケンカってまあ…」顔に出るよりも早く「ほれ、遠慮するな」と、小皿へ牛タンを放り込んできた。


…肉でも食べながら、事情聴取ってか…


 やり取りが始まるや否や周りの耳もまたダンボになっている。

 んー

 この様子だと…営業所でブチ切れた話は、早くも社内で回ったってことなんだろうな。


「後輩泣かした上に、営業所で『女教師ごっこ』して、で、最後に止めに入った…誰だっけ?前の所長だっけ?そんなんなんかの電話にも逆ギレしたんだっけ?」


 んーまあ、それなりに正解な情報伝達だわね。オフィシャル的には、そういう文言になってるか。


「権ちゃん、出たがるなあ」

 さっそく 隣の席の男性社員に冷やかされる。


 幸いかな。

 最近のウチの社内は、この場含めてだけど…カナコに甘いこと平行して「また権ちゃんがキャンキャンとキレたらしいよ」で片付けてくれるようになってるらしい。


 良くも悪くも、麻痺してきたんだと思う。良くも悪くも…ね。 



 ため息をついたあたしは、ほぼ悪態のよう呟いた。

「カナコ、勉強しないんだもん。」

 あたしは、これでもかっ!と、ネギを盛り、牛タンにレモン汁を掛ける。

「アイツがいるだけで、売上落ちる気がする。」

 まずは、鋭気を養うべく牛タンを「頂きま~す」と口へ放り込んだ。


 この仕事なんて、誰でも出来るわよ。出来るからこそ、勉強して人より努力しないと、客にも登録作業員にも見放されて、他の同業他社へ逃げられてしまう。


 なのに、カナコは 何もしない。

 それでも、守られてる。

 あらゆる男たちに。


 あたしは、そこが許せない。 


 客にも、登録作業員たちにも、あたし自身の同僚たちにすら、「庄内カナコちゃんなら、仕方ないよねー」マスコットのように甘やかされ、むしろ歓迎されるカナコ。 

 良いご身分よね、早く 顔に怪我でもしないかしら?

 過激な想像だって、ついついしたくなる。



 一人が話し始めた。

「俺は、事務所のことよく分かんねえけどさ…権ちゃんは、何をそんなに キレキャラ扱いされやすいんだ?」

 そんなん、答えは一つよ。

「さあ?」

 あたしは、凶暴になりたくて 日頃 出社してるんじゃない。

 いい仕事したいから、努力と勉強続けてるだけよ。


…覚えたことが身に付くたびに、周りとちょっと浮いちゃうのよ。なんでか知らんけど。なんでか…ね。


 相手は、一通りあたしが結論を出すのを待っていたけど、何も切り出さないあたしをみて、先に話し始めた。


「何で 気持ちで自分に負けてんだよ?」

 ビールジョッキを持ったまま、続けられた言葉。それは、ポソっと落とされた一言だったけど、あたしは 思わず牛タンを頬張ったまま見上げてしまった。


 だが、ぽかーんとしたのは、あたしだけだった。


 隣の席にいた男性社員が「そうそう。」同じく頷いた。

「そんなさー。物事は、なるよーにしかなんねーんだしさ。『何でも、だいたい大丈夫』って思えねー時点で、負けだよね。」


 そうなの?ねえ、そうなの?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ