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ブサイクの逆襲  作者: 黒田 容子
本編
15/33

大いなる保護者さま 御登場

 空高く、あたし肥えるナントカ。

…んー、いい天気だなあ。屋上でランチするには最高じゃん♪と思っていたのに、面倒くさい電話掛かってきた


 ハーイ、横浜事業部名物 カナコ彼氏殿の逆ギレ電でござい!

 やれやれ。あたしは、面倒くさい気持ちいっぱいで、「はい権田です。」電話に出た。


「少し時間とらせるけど、今、いいよな?」

 あ、断定系なんだ?

チラッとツッコミは入れたくなったものの、イライラしていたあたしは、すぐに好戦モードに入った。

はいはい、お付き合いしますよー


「お前、カナコに『いらない』って言ったらしいな。」

 あー、いきなり本題ですか。単刀直入ですな。本当にこの人たち、付き会ってることを隠すつもり、無いんだなあ…

 社内恋愛、するなとはいわないけど、こういう露骨なエコヒイキは、ホント止めて欲しい。


 さて、よしっ!

 あたしの中で、盛大に戦いのゴングが鳴ったのであった。


「庄内さんにですよね、んー 言っちゃいましたね。未だに基礎的なこと理解出来てないんだもん。」

 彼氏殿は、「そこは聞いていない」と言いたげにため息を吐く。

「権田、後輩育てるのがお前の仕事の一つだろう?」

 いやいやいやいや。

 世の中 出来ることと出来ないことが有りますからね?

「新人研修のおさらいを、2年目の今更で?」

「人には人の習熟度がある」

 おっと、そう来たか。

「去年やったのに、本人の不注意で忘れてたことを?」

「後輩の失敗は、先輩の責任だ。」

 ふふーん、そんな事言っちゃって良い訳かしらーん?

「あたしが現場へ出ていた間ですよ?あたしの失敗なら、当然、あたしの上の人達にも非があるって事になりますよね」

 どうだっ!言い返してやったぜ!

「それは、そもそも お前のヘルプ期間中での引き継ぎとコミュニケーションに問題があったんだろ?」

 あっそう。

 本当に、どこまでも あたしだけが悪者扱いされるのね。

 


 あたしには、チラッと過ぎる会話があった。

 ヘルプ期間中の時さ、彼氏殿から電話あったと思うの。


「お前、いつヘルプから戻るんだよ? あの量、カナコに出来る訳無いだろう?」


 あん時も 思ったんだよね。

 何故、あたしが責められなきゃいけなかったんだろう。って。



「それとお前、パワハラで今、訴えられたら負けるからな」

 え。どうしてソコまでそんな話になるの?

 誰が?あたしを?どうやって?


 もはや、あたしは、呆れて笑ってしまった。


「お前は人事権もないのに、後輩を脅迫したんだ。お前の感情的な一言は、不用意な言葉でしかない。パワハラは、基本的には受け手が感じた結果論で判断されるからな、お前がどうであれ。」


 あっそう…さよでっか。

 …あたしは、怒りというか、呆れを通り越して、別な感情が込み上げてきた。


「良くて相打ち、地味に訓戒ってとこですかね」

 もはや、開き直ったという感覚とも違う。ここまでくると、悟りきった大らかな気持ちだった。

 

 …可哀相に。この人たち、本当に法律知らないんだ…


 彼氏殿の電話の向こうから、トラックが走り抜ける音がした。

「余裕だな」

 彼氏殿が言った。

「慌てなくていいんですか?」

 わたしも言葉を返した。

「それはお前だろう」

「えー?そうかなあ?」


 あたしに、パワハラで訴える可能性を告知するのは、パワハラに当たらないのかな

 どうにせよ、まずは。


「…従業員規則、良く読んでからの方がいいと思いますよ?」

 予想外の切り返しだったのだろう、するとというか、やはりというか。彼氏殿は唸るような空気を漂わせた。


 …「従業員規則」っていうヒントで 検討、ついたのかな。いや、知らないだろうな。


「勤怠が、一番の処分対象かな。」

 あたしは、話し始めた。

「勤怠はね。雇用側から一番処分を出せる理由なんですよ。」

 結構知られてないけど、リストラを合法的に出来る手段の一つに、勤怠実績がある。

「だってあれは、電車遅延」

「ふふふ、毎日15分早く家を出れば解決する問題ですよね?

 登録作業員たちにも、私たちは毎日言ってることです。社員が出来ないってのは、おかしいでしょ?」


 また法律的な細かい話しをするとね?


 会社側は、従業員と労働条件を個別に定めてあるはずなのよ。

「いつ、どこで、何時から何時までで、出勤日と休みがいくらで…等々」雇用に関する条件をね。


 だから、遅刻ってのは

 就労場所へ就業開始時間までに、出社が出来てない

 =会社側との契約を守れていないっていう扱いになっちゃうのよ。



 まあ、本社はそこまで社員に厳しくないけど、さ。

 彼氏殿が、あたしを脅したいんだったら、受けて立とうじゃないの。


「それと、出社早々トイレに籠もるのも問題かな?

 本人が

 実際に出勤してきた時間と

 実際に提出している勤怠表の時間と

 実際にパソコンの電源を入れた時間と

 実際に関連した業務システムへログインした時間

 ログは全部、本社に残ってます。


 関係性調べたら、どう判断するか。

 第三者の目撃証言も、いくらでも取れますから、ご心配なく。」

 

 簡単に言っちゃえば、あんたの彼女の遅刻は、調べればバレますよ。今はまだ、懲罰委員会が動かないだけ、有り難いと思いなさいって話。


「ウチの従業員規則に書いてありますよ。

 間違いあったら、返金請求するとか、書いてあったから…」

 

 ま、初犯は警告で済むでしょ。直んなかったら、訓戒や出勤停止などの処分に段階が進むと思う。


 ああそう。

「前に、勤怠の悪い登録作業員を解雇した《きった》時、労働基準監督署ろうきへ相談したので、有る程度資料もお送りできますよ?」


…要ります?


 無言の空気で伝えたら、無言の沈黙があった。あたしは、要らない と判断して、話を続けさせてもらった。


「まっ そんなとこですかね?」


 これで懲りずにまだ騒いでごらん?

遙か昔、あんたの指示で偽造した基本契約書と請求書…細工したときの加工資料ごと 本社に送っちゃうから。



 ブサイクだからって、ある程度いい加減に接してきたんですよね、アナタは。ですが、ブサイクは、ブサイクなりに仕事して知恵もいっぱい稼いできたの。


 ブサイクだから、軽んじるとね、こういう事になる…こともあるのよ


 呻いたまま返事をしない彼氏殿へ 悲しさと寂しさが混じった笑顔で あたしは、電話を切った。


 ブサイクは、ブサイクなりに頑張ってきた。ブサイクだからこそ、自衛出来るよう、神様はお知恵を授けて下さったんだと思う。


 負けるな、あたし。

 ブサイクには、ブサイクの神様がついてるハズ

 ついてるはずなんだ。

そろそろ胡散臭くなってきた黒田の労務知識ですが…



 勤怠が一番処分しやすい という話は、有る程度の条件が重なって 可能となります。


 基本的には、そこの企業で定められている従業員規則がベースであり、そこから個別の就業と労働の条件を明示した契約に基づいて なにがどうこうが始まります。


 あたしが実際に知ってる事例ですが、常軌を逸したセクハラ発言と1年半の間 無遅刻無欠勤だった月が全くなかった従業員へ 訓戒を出すまで3ヶ月かかっていました。

 


 ちなみに、労働基準監督署に問い合わせると、各拠点でも担当者毎に法解釈が異なってきたりしますが、御国も御国で統率がとり切れてないなあ、というのが 業界の認識のようです。


 …違ってたらスミマセン

 

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