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春風 ~四季の想い・第二幕~ 作者:雪原歌乃

第六話 揺らめきの行方

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Act.3-02

「それよりどうしたの、こんな時間に電話なんて?」

『ああうん。ちょっと声を聴きたくなって』

 朋也の心臓が跳ね上がった。
 もしかしたら、涼香は深い意味で言ったわけではないかもしれないのに。

「ほんとに、なんかあったんじゃない?」

 逸る鼓動を抑え、朋也が重ねて問う。
 そんな朋也に対し、涼香は、『何もないわよ』とケラケラ笑った。
 だが、すぐに笑うのをやめてしまった。

『――この間、嫌な思いをさせちゃったかな、って思って……』

「この間?」

『ほら、一緒に飲みに行った帰り……』

「え、ああ。そんなこともあったっけ?」

 憶えていたどころか、まさに宏樹にその時のことを相談に乗ってもらったばかりだった。
 だが、それを悟られたくないから、わざと忘れたふりを装った。

 電話越しだったのが幸いだった。
 鋭い涼香も、朋也がとぼけていることに気付いた様子はなく、『そんなこともあったのよ』と真面目に返してきた。

『とにかく、ずっと謝りたくて……。ほんとごめん。あんな風に逃げられてわけ分かんなかったでしょ?』

「別にいいよ。てか、全く気にしてねえし」

 むしろ謝るのは俺の方だよ、と心の中で返した。

『ほんと、高沢君っていい人だね』

 涼香の『いい人』という言葉に、朋也の胸がチクリと痛む。
 別に〈いい人〉じゃない。
 そう思われるようにしているだけだ。

「そういや、山辺さんは今日は仕事だったの?」

 わざとらしいと思いつつ、朋也はあえて話題を変えた。

 涼香はどう思ったのか分からないが、とりあえずはいつもの調子に戻り、『仕事でしたよお』と返してくれた。

『今日も真面目に稼いで参りました。ま、終わってからその分、存分に息抜きしたけど』

「飲みに行ったの?」

『まあね。職場の上司と。あ、上司ってのは女ね』

 朋也に誤解されたくないと思ったのか、〈女〉を強調してきた。

「別に男でも女でも構わないんじゃない?」

『私、基本的に男性とふたりっきりで飲まないし』

「俺とは飲むのに?」

『高沢君は別よ』

 即答したように思えたが、何となく、言葉を詰まらせたような気がした。

『そうゆう高沢君はどうなのよ?』

「俺? 俺も飲んできたよ」

『この間言ってた女の子と?』

 探りの入れ方があからさまだ。
 やはり、よほど誓子の存在を気にしているのだろう。

「ハズレ。相手は男だし、俺の身内」

『え、もしかして実家にいたりする?』

「ご名答」

『じゃあ、紫織にも逢ったの?』

「いや、紫織には逢ってない。てか、今回は逢わないつもり」

『どうして?』

「まあ、ちょっとしたお忍び帰省だから……」

『ふうん……』

 涼香に白状してしまった時点で、お忍びでも何でもなくなった気がするが、アルコールが抜けきれていない影響もあって半ば開き直っていた。
 あとで涼香から紫織に報告がいきそうな気はするが、どうして自分に連絡してこなかったのかと叱られるぐらいならばまだましだ。

『よく分かんないけど、男同士で気兼ねなく飲みたいって気持ちは分からなくもないかも』

「紫織は下戸だしな」

『確かに、あの子を酒飲みの場に引っ張り込むのは酷だわ!』

 また、いつもの涼香に戻った。
 ゲラゲラと豪快に笑い、ひとしきり笑って気が済んだのか、『あ、そろそろ切るわ』と言ってきた。

『ごめんね。私から電話したくせに』

「いいよ。山辺さんは明日も仕事なんだろ?」

『ええ、私の仕事はカレンダー通りですから』

 わざとらしく敬語を使う涼香に、思わず苦笑いしてしまう。

「そんじゃ、ゆっくり休んで」

『ありがと。高沢君もいい休日を』

「じゃあ、おやすみ」

『おやすみ』

 通話を切ったとたん、一気に全身から力が抜けた。同時に、酔いも覚めた。

 屈託のない涼香。
 しかし、朋也も意識しながら耳を傾けていたから、どことなく涼香にもぎこちなさを感じた。

 これから涼香とどう向き合っていくか。
 朋也が気付いていないふりさえしていれば、涼香は朋也と友人としての付き合いを続けてくれるだろうと思う。
 とはいえ、誓子の問題を先に解決しないわけにもいかない。

 うやむやにしておくのが一番いけないことだ。
 今、涼香と電話で話していて改めて思った。

「もう少しだけ、時間をくれるか……?」

 握り締めた携帯に向けてひとりごちる。むろん、その声は涼香に届いていない。

 ゆっくりと瞼を閉じる。
 すると、大口開けて笑う涼香の姿が浮かび上がる。
 黙っていればモデル並みの美人なのに、全く飾らないのは涼香の長所のひとつなのかもしれない。

(ちゃんと考えて、答えを出すから……)

 考えているうちに、朋也から意識が遠のいていった。

[第六話-End]
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