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春風 ~四季の想い・第二幕~ 作者:雪原歌乃

第五話 言葉に出来ない

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Act.3-02

「同期って、女の子?」

 内心は穏やかでなかったものの、平静を装いながら訊く。

 朋也はわずかに躊躇い、ゆっくりと首を縦に動かした。

「ついでに……、彼女に変なことも言われたから……」

「何を言われたの?」

 つい、口調を荒らげた。
 朋也の立場になってみれば、ただの〈友人〉でしかない涼香に詰問される謂れはない。
 それはよく理解していたが、負の感情がじわじわと心を支配してゆく。

 涼香の苛立ちが伝わったのか、朋也はバツが悪そうに目を逸らす。

「告白とかされた?」

 図星だったらしい。
 朋也がビクリと肩を上下させた。

「そう」

 涼香は素っ気なく言った。
 もちろん、心の中は相変わらずどす黒い感情が渦巻き続けている。
 朋也に堂々と告白した〈誰か〉が妬ましく、また、ほんの少しの勇気も持てない自分が腹立たしかった。

(私は、『好き』だなんて言えない、絶対……)

 朋也の本心を知っているから――いや、そんなのはただの建前で、単純に嫌われてしまうことを恐れている。
 涼香には、紫織や〈誰か〉のように真っ直ぐに相手にぶつかるだけの度胸がまるでない。
 仕事なら、周りの男達に負けるものかと必死になれるが、恋愛に関しては人一倍臆病なのだ。
 先の先まで考えてしまい、一生、自分の想いは閉じ込めたままでいようとしてしまう。
 言葉にせずとも、いつかは想いが伝わるかもしれない、などと都合の良いことを考えているのも確かだ。

(でも、高沢には行動だけじゃ伝わらないんだ……)

 酔いがしだに醒めてゆく。
 アルコールを大量に呷ったはずなのに、本当はまだまだ足りなかったのだろうか。

「山辺さん?」

 名前を呼ばれ、ハッと我に返る。
 顔を上げると、朋也が心配そうに涼香の顔を覗き込んでいた。

「大丈夫? だいぶ飲んでたから具合悪くなったんじゃねえの?」

 邪気のない優しさが、涼香の心の傷を深く抉った。
 もう、朋也と一緒にいられる状態ではなかった。

「ごめん、私ここからひとりで帰るわ!」
 涼香は精いっぱい明るく振る舞った。
 だが、自分でも不自然さを感じたから、朋也もさすがに疑わしげにしている。

「ほんと大丈夫だから! そんじゃ、またねえ!」

 脱兎のごとく、涼香はその場を去った。
 遠巻きに朋也の引き留めるような声が聴こえた気がしたが、振り返らなかった。

 闇を駆け抜けながら、目の奥が熱くなってくるのを感じた。

 泣きたくなどない。
 なのに、どうして思えば思うほど涙が頬を伝ってゆくのか。

「はあ……はあ……」

 朋也の姿が完全に見えなくなった所で、ようやく立ち止まった。
 ワンピースの胸元を掴み、その場にしゃがみ込むと、何度も深呼吸を繰り返した。

「泣くなよ涼香。私らしくない」

 口に出し、自分を叱咤する。

 泣かない、もう泣くもんか。
 呪文のように唱え続けていたら、ほんの少しだけ心が穏やかさを取り戻した。
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