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4-1

 僕は平凡な日常が大好きだ。


 アニメやらゲームやらライトノベルやらと、非日常でファンタジーな幻想世界にのめり込んでいる人間が何を言っているのかと思うかも知れないが、実際それらのオタク的趣味を好きな人間はそうなのではないかと思う。


 アニメを観ているからといって異能力者達の戦いに巻き込まれたくはないだろうし、ゲームをしているからといって異世界で化物達のいるダンジョンに態々入るのはご免だろうし、ライトノベルを読んでいるからといって異世界に強制召喚されるのは断固拒否である。


 きっとオタクな人達は皆同じ考えを持っていることだろう。


 だから、僕は平凡な日常が好きなのだ。


 愛してると言ってもいい。いや、『愛している』は言い過ぎかも知れない、うん。


 何はともあれ。


 朝起床し、学校に行って、先生の授業に耳を傾け、放課後はオタク趣味に没頭し、夜は彩楓の家で夕食をご馳走になり、就寝する――そんな平凡な日常は良いものだ。


 何もかもが変わらない日常。それを嫌う人もいるだろうが、実際の所、何もかも変わらないまま時間が過ぎることこそが幸せなのだろうと僕は考える。


 高校を卒業するだけで今の生活は格段に変化を来たすだろう。大学に合格すれば尚更、社会に出てしまえば今のような他愛のない時間はほぼ訪れないと言ってもいい。


 そういった意味でも僕は今のような平凡な日常のことが好きなのだ。


 さて。


 少しばかり話が逸れてしまったが、どうして僕がこのようなことを語っているのかと言えば、平凡な僕の日常に急激な変化が訪れたからだ。


 人によっては何てことない変化かも知れないが、僕にとっては多大なる変化である。


 ある日の放課後、教室から部室にやって来てみれば。


 何故かそこに宝船璃乃がいたのである。


「こんにちは、萩嶺なお――」


 宝船が最後まで言い切る前に僕は脊髄反射で部室の扉を閉めた。


「ちょっ! ど、どうして閉めるのよ!」


 念のために施錠もする。


「鍵をかけるなぁーっ!」


 宝船の怒声が聞こえてくるが気にしない。僕は何も見ていない。ていうか宝船璃乃って誰だっけ?


 現実逃避をしながら僕はその場から立ち去ろうとする――しかし、勢いよく開いた部室の扉の奥から飛び出してきた宝船に捕まってしまった。


「残念だったわね、萩嶺直斗君。鍵というものは外からかける分には良いけれど、内側から開ける分には儚く脆いものなのよ」


「鍵というのはまるで人の夢のような存在なんですね。という訳で僕帰ってもいいですかね」


「待ちなさい。ちょっと私と話をしましょう、萩嶺直斗君」


「嫌だと言ったら?」


「い、嫌だと言ったら……えっと、あなたの上履きの中に墨汁を注いでおくわ」


 うわ、何そのレベルの高い嫌がらせ。不登校になるレベルだぞ。


「お前って意外と腹黒なんだな、墨汁だけに」


「上手くないわよ。というか、人のことをさり気無く腹黒って言うの止めて頂戴」


「それは悪かった。謝るから僕の腕を掴んでいるその手を離してくれないか?」


「却下。私は離さないわ、絶対にあなたの手を離さない」


 感動的な台詞だが使う場面を間違えているのは気のせいか。

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