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3-7

 僕は窓の鍵を解き、窓を開けて彩楓の入室を促す。「ありがとー」と笑みを見せながら先程の淡いピンク色のパジャマ姿の彩楓は部屋に入るとベッドに腰を下ろす。肩からは勉強道具が入っているのか、鞄が提げられていた。


「久しぶりだよねー。直斗の部屋に来るのって」


「そう言えば、高校に入学してから来る回数減ったよな」


「そうそう。何でだろうねー」


「分からん……で?」


「ん?」


「宿題、やるんだろ?」


「ああ、うん、やるやる。写させてー」


 言いながら鞄の中から筆箱とプリントを出し始める彩楓。僕も学校の鞄の中から数学のプリントを取り出した。


「これ、机の上に置いておくな。僕の机使っていいから適当に写しといてくれ」


「りょーかーい♪」


 まるで警察のように敬礼をして立ち上がる彩楓。女子ってパジャマの時、下着とか着けていないのだろうか……ただでさえ大きい胸がいつもより揺れているような気がする。


 ……って何を考えているんだ僕は。


「……ゲームでもするか」


 机の上に置いていた携帯型ゲーム機を手に彩楓と入れ替わりで再度ベッドに座る僕。そして、こちらも入れ替わりで彩楓が僕の机に座った。


「ありがとねー、直斗」


「何お礼言ってんだ。いつものことだろ」


「いや、何かお礼言いたくなっちゃって」


「何だそりゃ」


 訳が分からん。


「いーのっ。お礼が言いたくなったのは本当なんだから。直斗は有り難くそのお礼を受け取っておけばいいんだよ」


「さいですか」


 全く以て訳が分からない。


「とりあえず、早く終わらせろよ。お前はシャワー浴びたから大丈夫かもしれないが、僕はまだ風呂にすら入ってないんだからな」


「あ、別に入って来てもいいよ? あたしは勝手に宿題やったらまたベランダから帰るから」


「そういう訳にはいかない。お前あれだろ、さっきの仕返しにそんなこと言って僕の風呂を覗くつもりだろ」


「な、何言ってんの!? そんなことする訳ないじゃん!」


「冗談だ冗談。本気にするな」


「じょ、冗談にも程があるからっ! も、もー、直斗ったら全く……」


 頬を赤らめながら彩楓は再度机と向き直る。僕はこれ以上彩楓をからかわないことにした。実際の所、これ以上彩楓の宿題の進行が遅れても困るのである。


 静寂に包まれた部屋に時計の針が進む音、ノートをシャープペンシルが擦る音、僕の指がゲーム機のボタンを操作する音――そんな微かな音が大きく響き渡っている。


 普段なら、耐え難いような時間だ。誰かと二人きりで会話も無しに同じ部屋にいるなんてとても考えられない。


 だが、今の時間に僕はそこまでのわずらわしさを感じない。


 それは彩楓と一緒にいるからだろうか。定かではないけど、そんな気がする。


「直斗と一緒にいるとさ」


 すると、突然彩楓の声が部屋に満ちていた静寂を薙ぎ払った。


「黙ってても、平気なんだよね」


 その言葉に、僕のゲーム機を操作する手が止まる。それはつまり、ゲーム機の中で操作されていたキャラクターの動作も止まる訳で――今日何度目かの『GAMEOVER』の文字が液晶画面に浮かび上がった。


「……何を言い出すかと思えば」


 ゲーム機の画面に浮かび上がった『CONTINUE?』の問いに僕は『YES』を選択する。


「急に何を言ってんだよ、お前は」


「分からないよ、ただ言いたくなっただけ」


「訳が分からないな」


「友達とかだと無言の時間は耐え難いんだけどね。直斗と一緒だとそういう時間でも平気なんだ。何でだろ?」


 何気ない彩楓の問い。暗転していた液晶画面に再びゲームの世界が投影され、ステージのとある場所に佇むキャラクターの姿が浮かび上がる。そう言えばこんなところでセーブをしていたんだったか。さて、またラスボスの待つダンジョンの最奥に急がなければ。


 ゲーム機のボタンを操作し、僕はキャラクターをラスボスのもとへと急がせる。


 それから、彩楓のその問いに対する回答を考えてみた。


 どうして僕達はこんな他愛のない時間を何気なく過ごすことが出来るのか。


 理由は分からないが、その問いに対してすぐに浮かんだ答がある。


 それは少し考えれば思い付くような答だ。


 そして、きっと彩楓も多分既にその答を思い付いているはずだ。


「……そうだな」


 ラスボスの待つ大扉を前に『扉を開きますか?』という問いが液晶画面に表示される。その問いかけに対して『YES』を選択しながら、僕は彩楓の問いにこう答えるのだった。


「多分、僕達が幼馴染だからだよ」

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