第二十戦:ボコボコ
一人でチョコンとベットに寝て誰か来ないかな〜と待ってみたものの
誰一人として見舞いに来てくれない。
寂しいような虚しいような…俺ってけっこう嫌われてるのだろうか。
しかも、何故か周りのベットは全て開いていて俺一人だけだ。更に寂しい。
一人で虚しさ満天に凹んでたら、何故かご機嫌そうな九条先生がゆっくり近づいてきた。
「あら、お見舞いの子達はいないの?」
「うぅ…九条先生…俺、嫌われてんのかな?」
俺が先生の方を向くと何故かキョトンとした顔の先生。
そしてちょっと涙目の俺を見て、納得したようにポンと手を叩くと
急にニヤニヤした顔になって肘で体を突いてきた。
「いや〜楽しませてもらったわ〜ウフフ♪」
「え! ひでぇ! 孤独な俺を笑ってたんスか!?」
「え? い、いや…そうじゃなくてね。」
ニヤニヤ顔から急に困った顔になって俺をフォローしようとする。
先生がフォローしないといけないぐらい寂しい状況だったのか?
みんな酷いぞ、ちょっとくらい見舞いに来てくれてもいいのに
戦部もいくらヤクザ(?)が来たからって俺を置いて逃げることないだろうに。
殴った本人の千代は看病するどころか、仕事場だってのに見当たりもしないし。
「うぅ…千代もみんなも、俺が嫌いなのか。」
「いや、それは無いと思うわよ。」
俺がボソッと呟くとそこだけは妙にキッパリと断言する先生。
俺が頭に疑問符を浮かべるがウンウンと頷くばかりで答える気はないみたいだ。
てかキョトンとしたりニヤニヤしたり唸ったり忙しい人だな。とか思っていたら
思い出したように唸るのを止めてこっちに向き直った。
「そう言えばそろそろ模擬戦終わるって連絡入ったわよ?」
「え? マジで?」
「えぇ。もう平気なんでしょ? 演習場、行ってらっしゃい。」
「へ〜い。……てか、最後まで誰も来なかったな(泣」
ゆっくりとベットから降りて背伸びし、体を触って痛みが無いか確認する。特に異常は無いようだ。
しかし、体の方はバッチリなのにこの心の寂しさと虚しさは何なんだろう?
先生は俺が降りたベットを直しながら穏やかに首を振る。
「ウフフ。心配しなくてもみんな藤堂くんのこと心配してたわよ?」
「……なんか、知ってる風な言い方ッスね。」
「だから言ったでしょ? 楽しませてもらったって。」
そう言ってイタズラっぽく笑って誤魔化す先生。ココだけ見ると超いい女っぽい。
てか先生の言い方だと、一人か二人ぐらいは俺が寝てる間に見舞いにきてくれたんだろうか?
多分、蓮とか翔とか戦部とか…………ヤクザさんとか……
千代が居ないのはまだ謎のままだが、模擬戦が終わったら聞くことにしよう。
横に掛けてあった戦闘服の上着を羽織ると先生に片手を上げてテントの外へ歩き出す。
「じゃあ俺は行きますわ。ありがとう先生。」
「あんまりケガしないようにね。お大事に。」
「アレ? 雷那くんもう起きて大丈夫なの?」
「ん? おぉ、蓮か。それに翔と戦部も。無事だったんだな。」
「無事って…それはコッチのセリフだよ。」
しばらく歩いてると観戦場所の近くで置手紙を置いてった三人が居た。
戦部は火傷も直ったようで、なんとも無い様子だ。俺が寝てる間に治療したんだろう。
蓮も翔もこんなとこに居るってことは模擬戦は終わってるんだろうが、見た限りでは翔が
しきりに体を伸ばすぐらいでケガらしいケガは見当たらない。二人とも治療まで終わってるのか。
俺はどれぐらい寝てたんだ?……まぁいいか。
「ヤクザに追われてたんだろ?」
「え?……………い……まぁ…そうだね。」
「大丈夫だったのか?」
「…………まぁ、千代ちゃんが攫われたぐらいかな?」
「ふ〜ん、攫われただけか。……………って、はぁぁ!?」
予想外のことで声が若干裏返る。
おいこいつ、さらっととんでもないこと言ったぞ。
寝耳に水どころか寝耳に大放水だよ!! 頭おかしいんじゃねぇの!?
「おいおいおい、千代がどうしたって!!?」
「だから攫われたんだって。」
なんでそんな平気そうにしてるワケ!?
「な、なんだって助けに行かないんだよ!!?」
「そんなこと言われてもねぇ……」
「ヤクザっつても本当はかお……もごぉ」
俺が焦りまくってるのに蓮は大したことなさそうにキセルを吹く。
見かねて何か言おうとした翔は言葉の途中でどこからか現れた白いロープで口が塞がれる。
アレ? 戦部か? 何このロープ? どっから出したの?
ってそんなことどうでもいい。今は千代の方が大事だ。
「お前ら、そんなことしてる暇があったら千代を助けに行けよ!」
「そうだねぇ…ダレか行ってくれないかな?」
「お前らが行かないんだったら俺が行く!! 千代はどこだ!!」
「あっちの方行ったよ。」
何故か即答で治療テントの少し横の方を指差す。
千代がヤクザに攫われたってのに三人共余裕そうだ。正確に言うと余裕そうなのは蓮だけで
戦部はジト目で蓮を見ていて、翔はウンザリした様子で口に巻きついたロープを引っ張っている。
お前ら見損なったぞ。千代を見捨てるなんて。もっと骨のある奴らだと思ってたのに。
こうなったら俺がそのヤクザとやらをぶっ倒してやる。
「待ってろよ千代! 今行くぞ!!」
「いってらっしゃ〜い♪」
何か調子が狂うな〜〜
「………主、楽しんでいるだろう?」
「まさか、恋のキューピットだよ。」
「ふぉーふぇもひひへど、こへほろいへ (訳:どーでもいいけど、コレ解いて。」
蓮が指差した方向へ走ってすぐしたら向こうから二人組みの人影が見えてきた。
「あ、雷那や。お〜〜い、ちょっとこっち来てー!!」
「へ? 薫か? 何で分かったんだーーー?」
かなり距離が開いてたのに向こうから名指しされて少し驚く。
声からして多分薫だと思うが、もう一人はダレだろう? ん? ナース服?
そんなことより千代だ。薫なら詳しく知ってるかも知れない。
「薫! 千代どこに連れ去られたか知らないかーー!!?」
「連れ去られたって?? 千代ならここおんでーー?」
「なに!?」
咄嗟に身体強化して高速ダッシュする。あっという間に二人の目の前まで近づく。
確かに薫の横にナース服の千代が居た。薫が助け出してくれたのだろうか? 薫って戦闘系?
薫の横に居た千代は無事のようだが何故かやつれた様子でぐったりしている。
髪もボサボサで息を荒げている。
「も、もう勘弁して………」
そして何か意味分からない言葉を呟いている。
はっ、もしかしてヤクザのおっさんにあ〜んなことやこ〜んなことを!?
「千代!! 無事か? 千代! しっかりしろ!!」
「ひゃい!? ら、らら雷那!?? ちょ、ちょっと! 近い!!」
「千代! お前何とも無いのか!?」
「へ!? な、ナイナイ! 雷那とは何でもないから!!」
ん? 俺? 何か話がかみ合ってない気が……
肩を持って何とも無いか確認しようとしたら、さっきまでぐったりしてたのが嘘のように
急に顔を真っ赤にして伸ばした手を瞬時に弾いて二、三歩距離を取り手をブンブンと横に振る。やっぱり俺って嫌われてる?
ちょっと凹む。すると頬をスリスリしている薫がニヤニヤ顔で
肩を叩いてきた。そういやなんか艶々してるような気がするんですが……
「雷那。千代、結構いい体やったで。」
「は?」
「な、ななななななな!!!」
真っ赤だった千代の顔が更に赤みを増し、何か湯気見たいなのが出て来てる。
何か言いたそうだが、「な」しか出てこないようだ。
薫は両手をワキワキと動かして遠くを見つめてトローンとしている。
何かヤクザと一戦交える気だったのに変な方向に行ってないか?
「お前ヤクザに襲われた?」なんて言える雰囲気じゃない気がするし。
ついでに言うと、何故か嫌な予感がするのは俺だけだろうか?
「と、とりあえず落ち着け千………」
「特に、一見すると小ぶりな胸が実は…………」
「キャァァ―――――――――――――――――――――――!!!!」
ドゴムッ!!
「ごふっ!!?」
何を思ったか、薫の言葉が終わらない内に
おそらく身体強化したであろう速度で俺のボディに右ストレートを叩き込んだ。
咄嗟にこちらも身体強化して防御力を上げる。が、強化したにも関わらず重い拳が鳩尾にクリーンヒット。
息が詰まる。コレ、強化し遅れてたら絶対折れてたよ。
本当に治療系か?ってぐらい重い一撃を受けてその場に蹲る。し、死ぬ。俺何かした?
「あぁ!! ご、ごめん雷那! いや、これは、その、え〜〜っと……」
「お、お前な………」
ダメだ。怒ろうとしても息が出来ない。
俺って一応千代を助けようとして来たんだよな? 何で本人に殴られてんだ?
薫は我関せず。ってゆうかこの状況がまったく目に入ってないようだ。ウットリと遠くを見ている。
「そんで、全身を揉まれてる時の悶える顔がまた…………」
「キャァァ――――――――――――――――――――――――!!!!」
ドガッ!!
「ぐへっ!?」
蹲って動かない俺の腹に容赦なしのとっても重い蹴りが入る。
一応強化防御してるのに意識が飛ばされそうになる。今日で意識飛びそうになるの何回目だ?
しかもしっかり鳩尾蹴ってるし、ワザとか?
「キャァー!! ら、雷那! ご、ゴメン! ゴメンナサイ!!」
「………ふ………………」
い、息が………こ、殺される。
戦部でももう少し手加減してくれるぞ。
傍から見れば女二人で蹲る男の子リンチしてるように見えてるよ?きっと。
ってかおい、薫! 待て! 止まれ! ウットリしてんじゃねぇ! こっち気づいて!
「そんでもって………………」
「キャァァ――――――――――――――――――――!!!!」
ドスッ!!
「………………」
ピクピクしてる俺の背に踵落としが落ちる。し、死ぬ。殺される。
てか薫が言い終わる前に殺ろうとしたよな。絶対ワザとだろ。
「ら、雷那! 大丈夫!? しっかりして!?」
「…………」
しっかりしてない状態にしたのは千代なんだけどな。
「ごめんね!! あ、後で治してあげるから! ホント、ゴメンネェェェー!!!」
「いやー、今思い出しただけでも。って、ア〜〜〜〜レ〜〜」
「……………ふ………」
蹲ってピクピクしている俺(瀕死)を今度はどうするのだろうと思ってたら
ウットリしてる薫の手をガッシリ掴んで俺に早口で謝り
その言葉も終わらない内に観戦場所の方へ物凄いスピードで走り去っていってしまった。
そしてまた一人ぼっちの俺。しかも瀕死。
すっげーー寂しい。そして痛い。
ってか結局ヤクザはどうなったんだ?
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