第十一話 頑張る神様
石で囲んだだけのささやかな祭壇に料理を並べ、準備が整った。
ヤナさんが宴の開始を宣言する。
「それではじゅんびもできましたので、うたげをはじめましょう! かみさま、ありがとうございます!」
「「「かみさま、ありがとうござます!」」」
開始とともに、皆は思い思いに料理を食べていく。中でも塩ラーメンが大勢の興味を引いた。
同じ味ばかりじゃ飽きるだろうと、味が違うものも持ってきたが正解のようだ。
「おもったよりあじがこくて、びっくり」
「うすあじだとおもってたわ~」
「なかなかいけるな」
皆は豆もやしをこんもりと盛って、美味しそうに食べている。結構好評のようだ。
俺と親父も、エルフ達の野菜の出来具合を確認するために、ちょっとずつ味見していった。
ついでにデジカメで、記念写真も沢山撮影していく。
今までは食べるのに必死だった彼らを撮影するのは控えていたけど、今日は違う。
これは祝いの席なので、皆笑顔だ。こういうのは記録に残すと良い思い出になる。いずれプリントアウトして皆に配ろうと思う。
パシャパシャ撮影しながら料理を味見していくが、これが思ったより出来が良い。
「親父。エルフ達の野菜、美味いな」
「ああ、育ちが早いから、正直いうと大味かと思ってたよ」
実際にエルフ達が育てたもやしを食べてみたが、しっかりとできている。ハナちゃんが数分で量産した野菜とかは、普通に作ったものより甘みがあり美味しい。
即座にできて普通より美味しいとか、反則技級の能力だ。俺も習得したいくらいだ。……無理だろうけど。
そうしてもぐもぐと野菜の味を確認していると、ハナちゃんが出来栄えを聞いてきた。
「タイシ、うまくできてるです?」
「うん、これは凄いね! 普通に育てるより美味しく出来てるよ」
「うふ~」
お墨付きをもらえて嬉しそうなハナちゃん。これ以上褒め倒すと、ぐにゃってしまうので今回は抑え目にしてみたが、それでも顔はでれでれだ。可愛らしいが、そのうちぐふふぐふふ言い出すのでここらへんにしとこう。
さて、一通り味見もしたし、最後にお待ちかねの異世界素材の土器煮込みを食べよう。一番の楽しみだった料理だ。
でれでれのハナちゃんと一緒に料理を食べに行くと、かなり大量に作ったみたいでまだまだ沢山あった。作りすぎではないだろうか……。
料理の方は、ぽこぽこと煮えていた。丁寧に灰汁を取っていたので、スープは澄んだ琥珀色をしている。
「これが皆さんの郷土料理ですか」
「はい。だいたいこれをつくってました」
「ハナはこれ、だいすきです~」
カナさんがそう言いながら、料理をよそってくれた。ハナちゃん一家と土器の周りに腰を落ち着け、皆で食べることに。
さて、どんな具材が入っているかな? お椀を覗いて具材を確かめてみる。……あれ? いくつかの具が蛍光色に光っている。
……これ、食べても大丈夫なの? あっ……トゲトゲの枝みたいなのもある……。
「それじゃ、みんなでたべるです~!」
「「「いただきま~す」」」
未知の具材にためらっていると、ハナちゃん一家がエルフ特製謎煮込みを食べ始めた。
顔を見合わせる俺と親父。そんな俺たちをよそに、皆はバクバクと料理を食べていく。
「ひさびさにたべたけど、おいしいな」
「おいしいです~」
「たくさんたべなさい」
美味しそうに謎煮込みを食べるハナちゃん達。それを見た俺と親父も、腹をくくって――スープだけちょっとすすってみた。
そして――衝撃が走る! これ! この味は……まさか!
「親父……。これ、俺には薄いカレー味に感じるんだけど」
「……奇遇だな。俺もそう思ってた」
やっぱり! 俺の気のせいじゃなかった。これ、薄味だけどスープカレーにかなり近いぞ。
「タイシ、どうです?」
まさかのカレー味に、かなり驚愕している俺と親父を気にしたのかな? ハナちゃんがぴょこっと俺の隣にすわって聞いてくる。
ハナちゃんも料理(火起こししただけ)を手伝ったので、味の感想が気になるのかな?
別に取り繕う必要もなく、素直に美味しい。そのまま伝えよう。
「美味しくてびっくりしたよ」
「ほんとです~?」
「ほんとほんと、これと似た味の料理がこっちにもあって、皆大好きなんだよ」
「よかったです~! おりょうり、うまくできたです~」
美味しいと評価をもらえて、がんばって料理(火起こししただけ)を手伝ったハナちゃんも大喜びだ。料理に火力は重要だから、貢献度高いよね? 多分そうだと思う。そうだと良いな。
「しかし、まさかカレー味とは……」
「そんなににてますか?」
色も香りも違うのに、味はカレー。驚く俺にヤナさんが興味深そうに聞いてくる。
「匂いは違うのですが、味はそっくりですね」
「ほほう」
「こんどたべてみたいです~」
そうだな。いろんな野菜作った後で、カレーでも作るか。普段からカレー味の料理を作っている彼らだから、多分喜んでくれると思う。
土器煮込みのカレーとか野性味あふれて良さそうだ。
ちなみに蛍光色に光るやつは、まんまジャガイモだった。トゲトゲの枝みたいなのは、シャキシャキして慈姑のような食感で、味は良かった。
しかし、一時はどうなるかと思ったが、味の好みがそれほど違わなくて安心した。
おかげで、異世界の森でエルフ達と一緒に土器を囲んで、和やかに食事をする。この数日前に憧れた光景を実際に体験することができた。
料理はまさかのカレー味だったけど、逆に食べやすくて美味しかった。
こんな体験ができるなんて、エルフ達がこの村に来てくれて良かった。彼らと過ごせる事ができて嬉しい。
これからもエルフ達と一緒に、村を良くしていこうと強く思う。この気持ちを彼らに伝えよう。
「今日は良い経験が出来ました。皆さんが来てくれて、本当に良かったと思います」
「こちらこそ。タイシさんには、かんしゃしています」
「タイシ、これからもよろしくです~」
「うん。ハナちゃんもよろしくね」
「あい~」
そうして皆と気持ちを伝えあっていると、辺りがにわかに騒がしくなった。何だろう?
「おい! かみさまがきてるぞ!」
「おそなえもの、ひかってる!」
「りょうがおおいから、なんかくろうしてるぽい」
神様が来たって?! 俺は慌ててお供え物の方に駆け寄る。確かにお供え物が光っている!
……でも、なんか大変そうな感じの光だ。
量が多いから苦労してると言うのも、なるほどと思うほどの必死さだ。
「……なんかじかんかかってるね」
「でも、てつだえないしなあ」
「ぜんぶもってくつもりだよねこれ」
決定的瞬間を逃すまいと急いで来てみたけど、これほど時間がかかっているなら……別に急がなくても良かった感がある。なんだろこれ。
しばらく、周囲に微妙な時間が流れる。
「……みなさん! せっかくなので、かみさまにかんしゃをささげましょう!」
「そうだな」
「せっかくだしな」
ヤナさんの提案で、この微妙な時間を取り繕うために神様に感謝をささげることになった。俺も便乗しとくか。
「ではみなさん! せーの!」
「「「かみさま、ありがとう!」」」
「神様、ありがとうございます。これからもよろしく!」
皆で感謝をささげると、光が強くなっていった。やがて、ピカっと強く光ったと思ったら、お供え物が消えていた。ようやく持って行けたようだ。良かった良かった。
「ようやくだべ」
「かみさま、こんかいはがんばったな」
「すごいくろうしてたな」
皆も安心して、お供え物の消えた祭壇を見つめる。なんだかんだ言っても、皆神様の事、好きみたいだ。
笑顔で祭壇を見つめていた。
そんなほんわかした雰囲気の中、一人のエルフが言った。
「まあ、なべごともってったけどな」
……ん? 鍋ごと持ってったって?
あ! 確かに、料理を入れていた食器やら鍋やら土器やら、皆持っていかれてる!
神様頑張りすぎじゃないかな。それに鍋持っていかれたら困るんだけど……。
困惑気味の俺を見て、ヤナさんが慰めるように言ってきた。
「まあ、こういうかみさまですけど、タイシさんもすきになっていただければと」
……そうだな。ちょっと面白い神様だけど、親切だし良い神様だと思う。そこは当初の印象からは特に変わっていない。
「そうですね。ちょっと面白い、いい神様だと思います。こういう神様、好きですよ」
思わず笑顔になってしまう、微笑ましい神様だ。お供え物を持って行こうと必死になる、面白い存在。俺もこの神様が好きになった。
俺の返答と表情を見て、ヤナさんも同じく笑顔で言う。
「よかったです。わたしたちも、そうおもっていますので」
「身近に良い神様が居てくれて、素晴らしいですよ」
(それほどでも~)
なんだか謎の声が聞こえたが、気にしないことにした。
以上で第三章及び導入部は終了となりまして、次回(次章)の投稿は書き溜めが終わってからとなります。
投稿再開のめどが付きましたら活動報告にて報告致しますので、今後ともご贔屓お願い致します。