すぅ、はぁ、
※アイデンティティが一つのテーマになっています。同性愛をにおわす表現がありますので、苦手な方はご注意ください。
脈略のない、突発的な作品です。書きたいことを詰め込んだだけです。
えっと、皆さま。ご紹介に預かりました、七海旭です。
今日は新郎の友人代表として、この場に立たせていただくことになりました。まず、スピーチの前に一言、新郎新婦にお祝いの言葉を送らせていただきます。
祭、柳枝、いや美代子さん。ご結婚、おめでとうございます。
御両家、御親族の皆さま、本日のご良縁、誠におめでとうございます。心より、お喜び申し上げます。
本当に、ほんとうによかったです。
今日という日を迎えるまで、おれ、僕は毎日ドキドキして、いつ祭がヘマやらかさないか、心配で心配で仕方なかったです。
というのも、高校時代から祭という人間は非常にそそっかしく、抜けているところがあったからです。良い縁に恵まれたのは本当によかったのですが、それをふいにしてしまわないか、美代子さんに愛想を吐かされないか、心配だったのです。
いま、祭のほうから心配しすぎだと叫ばれましたが、残念ながらそこまで心配しないといけないのです。高校時代の祭は、本当の本当にそそっかしかったので。
さて、祭がそそっかしい話は横に置いて、何度も言うようですが、祭、美代子さん、ご結婚本当におめでとうございます。
あのそそっかしい祭を上手く操縦し、文字通り操っていた美代子さんのその晴れ晴れとした表情を見るに、祭はいい人に巡り合えたなぁ、と神様に感謝しています。
私事になりますが、僕は友達を作るのが下手で、一人でいることが多く、そんな僕にとって祭は数少ない友人の中でも上位を占める、所謂親友です。
学生時代、祭にはいつも助けられていました。思い出すのは、高校の入学式、勢い余って僕に跳び蹴りを食らわせた祭の、鬼気迫る土下座です。
アレがきっかけで話すようになり、さらに席が近いこともあって、祭とは頻繁に話すようになりました。そこから気づけば今日、祭の結婚式に友人代表として参加しています。
僕は最初、ここまで続かないだろうと思っていたのに、まさか出会って10年経っています。あの、まだ幼さの抜けきれない16歳の祭が、もう26歳です。
祭のご両親もうんうんと頷いていますが、本当に、この10年あっという間で、日々成長していく祭を、同じ年なのに親の気分で見ていました。
本当、あの、購買のカレーパンを求めて人混みのなか突進していった祭が、いっちょまえにスーツを着て、ネクタイをピシッと締めて、愛するひとの隣で涙ぐんでる。
今日という日ほど、喜ばしいものはありません。本当の本当に、うれしい。
僕は、彼の友人代表としてこの場に立てることを、喜びに思います。
高校時代から、僕は祭と、野球で例えるならバッテリーのように、近しい間柄にいました。高校3年間、僕はずっと祭と同じクラスで、彼の女房役のような、そんな感じで。
だから、なんだか上から目線に感じられるかもしれないのですが、彼の近しい友人の一人として、祭と美代子さんの健やかな結婚生活のために、ひとつだけアドバイスさせていただきます。
祭は、おちゃらけた表面上とは違って、その中身は殴りたくなるほど繊細です。でも、性格が性格なので表情に全然でなくて、よく誤解されます。
けど、繊細な祭が落ち込んでるとか、悲しんでるとか、そう言うのは以外と簡単に見分けがつくもので、彼には負の感情に陥ってる時、人を君付けさん付けで呼ぶクセがあるのです。
いきなり君付けになったりさん付けになったら、ああこの繊細め! とでも思ってください。そして、それがわかったらできるだけ、傍にいてあげてください。
祭はすっごく繊細で、すっごく寂しがり屋で、誰か人が傍にいないとぬいぐるみ相手にコントを始めるのです。
僕は、そんな祭はもう見たくないです。美代子さんも、そんな祭は一生に一度だけで十分だと思います。
……ああおい祭、花嫁の衣装に涙を擦り付けるな。
えーと、最初はこんな話、するつもりなくて。えっと、スピーチ内容用意してたんですけど、いざとなると出てこなくて。
最初何を言おうとしてたのか、忘れてしまいました。本当にすみません。
えっと。その。最後に、言わせてください。
美代子さん、祭はどこまでも一途な奴で、実はあなたが初恋です。初恋なんて実らないんだろどうせ! とか言いながら僕に泣きついていた祭ですが、貴方に恋をしている間、他の女性に見向きしたことは一切ありません。
貴方以外の女性に視線一つくれなかった奴なんです。恋が愛に変わっても、きっと貴方一筋で、浮気なんて決してしないでしょう。俺が保証します。祭は貴方を絶対に幸せにします。
だから、美代子さんも祭を幸せにしてください。祭、たぶん貴方とじゃないと幸せになれないので。
そして祭。お前は美代子さんを幸せにしてさしげろ。お前のそそっかしさが原因で何度も呆れられたのに、それでもお前が良いといった女性だ。後にも先にも、これほどお前を愛してくれる女性はいない。
……初恋なんて実らないとか言ってけど、ちゃんと実ったじゃないか。大丈夫だ。もう、何も恐れることはない。
二人とも、どうかどうか、幸せになってください。
僕は、どっかで二人の幸せを、ずっとずっと祈っています。
今日は、お招きいただきありがとうございました。大事な親友の、晴れやかな舞台でスピーチできることを、心より感謝します。
……くどいようだけど、本当の本当に、おめでとう。
拍手の音がやけに遠く、鮮明に聞こえた。
壇上に立つ旭くんの、涙ぐんだ目が高城くんを映し出す。
「お疲れさま、旭くん」
「ああ。うん。……どうだった?」
「すごく良かったよ」
「そっか」
短く刈り上げた髪を掻き上げて、旭くんがくつりと笑う。
髪を掻き上げた手で目を覆い隠すと、続けて喉に突っかかるような笑い声がもれる。
ぽたっ、ぽたぽたって旭くんの目から涙が零れ落ちて、グレーのスーツの袖を濡らして、濃い色のシミが水玉模様を作っていった。
「旭くん、みて、これからブーケトスやるみたいだよ」
「うん」
「高城くんったら、緊張でガチガチだね」
「うん」
「あっ、花嫁さんが投げる花束、高城くんが投げちゃった! やり直しだねー」
「……うん」
「花嫁さんに怒られてる。高城くんのあの困り顔、よく旭くんに―――」
「……もぅ、いいんだ。いいからっ、うん、うんっ」
旭くんのグレーのスーツ、その肩を、大きな水玉模様が彩っていく。
肩口に押し付けられた頬が痛い。けど、それ以上に痛かったのは、旭くんの肩越しに見つめた、美しい新郎新婦の姿で。
濡れたグレーを纏った、太く勇ましい腕が私を締め付けた。私のグレー架かったドレスに、手が伸ばされたことによって皺ができる。
くしゃりと、旭くんの右手が私の撫でるように、でも乱暴に抱き留めるように、伸ばされた。
うん、と何度も詰まりながら旭くんが頷く。誰かが嬉し泣きねと呟く傍で、私は。
ごめんなさい、とも呟けなかった。
目の前が霞んでいく。旭くんの肩口が濃く色づいていく。
誰かが花束を受け取ったのか、その胸に花束を抱き留めた綺麗な女性が、華やかな笑顔を見せた。
「ななみん、ななちゃん、二人とも! 来てくれてありがとー、って!! え! なに、二人ともなに! 嬉し泣き? 嬉し泣きなの!」
「うるさい祭黙れうるさい!!」
「五月蠅い2回言った!? ちょっと、今日ってば祭さんの人生で最高の日なんだよ! ……へへ、ななみん、ありがとう。ななちゃんも、来てくれてありがとね」
男性にしては1段高い美しい声が、私と旭くんを柔らかく包んだ。
満ち溢れた幸せと、10年前出逢った時と変わらない涼風が吹き抜けるような笑顔が向けられる。その瞬間の、旭くんの右手が強く握られたのを、私は見つめた。
震えそうになる唇をかみしめて、なんとか口角をあげた。高城くんの後ろで、花嫁が微笑んでいる。
私が着ている、濃いグレー架かったアリスブルーのドレスが成りきれなかった、純白のウェディングドレス。
旭くんもその目に映したのか、くしゃりと顔を歪ませて、うん、と小さく呟いた。
「あっ、美代子が呼んでるみたい。じゃあ、またね二人とも!!」
花嫁と同じ、純白のスーツが一度だけひらりと舞って、彼の待つ愛おしい人のもとへと駆けて行った。
「美味しいパンケーキ、焼こう。君の好きな目玉焼きも焼いて、手作りケチャップソースをかけて」
「その前にサラダを作ろうか。君の苦手な野菜に、さっぱりとしたドレッシングをかければ平気だ」
「メインディッシュはふわふわのハンバーグ。肉汁たっぷりで、お腹いっぱいに満たそうか」
「ヨーグルトデザートにしよう。食後すっきりしたら、ミルクで喉を潤そう」
ぽたっ、ぽたぽたぽたっ
旭くん、服が真っ黒になっちゃうよ。
せっかくの明るいグレーなのに、暗くなっちゃう。
今日のために、特別に仕立てたんでしょう? 私に、アリスブルーのドレスまで作っちゃって。
届いた結婚招待状にサイン、旭くんがいつまでも悩んでるから、二人そろってやったね。
式の前日に、このアリスブルーのドレスを渡された時は、凄く戸惑ったよ。だって、旭くんたら泣きながら渡してくるから。
今日の朝に着た時も、えぐえぐ泣いて、美容室のお兄さんが吃驚してたよ?
式場に着いた時にはもう目が赤くなってて、開始前なのに泣いてたの?って、高城くんのお母さんに言われたね。
グレーのスーツは綺麗なままだったけど、裾がちょこっとだけ黒くなってた。
「旭くん、もうすぐ、結婚式が終わるよ」
「うん」
「美代子さん、高城くんを幸せにしてくれるかな」
「うん」
「見て。高城くん、笑ってるよ」
「うん」
「すごく、しあわせそうだね」
「……うん」
「ずっと一緒だったから。いつも、ずっと。でも、今日が最後だ」
旭くんが揺れる声で囁いた。
大きな右手でくしゃくしゃにされた髪の毛を梳かす。私の時とは違って、暴慢な動作で掻き上げられた髪の毛が旭くんの目を遮った。
ぽたり。
「なな、ありがとう。ずっと傍にいてくれた」
「ううん」
「もう10年も経つ。ずっと傍にいたから、諦めきれなくて、結局この様だ」
「旭くん」
「なぁ、もう、10年経ったんだな。あの日から」
緩慢な動作で、旭くんが顔を上げた。
真っ赤な目が長い瞬きを刻む。
その目には、ある暑い日の教室、その窓側が映っている。窓越しに白い綿菓子雲が浮かぶ空がきらめいて、でも暑さで陽炎が踊っていた。
窓側の席の、一番後ろ。木製の机に腰かけた少年が、窓を開けて外を見ていた。
熱い南風がカーテンを揺らして少年の顔を隠す。その膝に置かれた本が捲れ、パラパラと音がした。
黒板を叩くチョークの音がするのに、生徒がいなかった。ガラガラッ、と扉が引かれるのに、誰も入ってこなかった。
突き抜けるような晴天が広がる、外の景色とは裏腹に教室は夕焼け染め。少年の周りに散らばったプリントは、風が強いのに飛ばされない。
窓側の席、一番手前。黒板の右端を見るにはちょっと大変な位置。そこに座る、ひとりの少女。
机に伏して眠っているフリ。風が熱い。
アイボリー色のシャツがべったりと張り付く。ジワリと広がる汗。額から流れ落ちても、拭うことはできない。
風は窓側の一番後ろから、教室にまとわりつくように吹いていた。誰もいない生徒。けど、少女一人だけが、チョークの音を確かに聞いた。
ガラガラッ、と引かれる扉の音も、床に散らばったプリントの存在も、少女一人たしかに。
夕焼け染めの教室は静かだった。いくつもの賑やかな声が聞こえるのに、誰も彼もこの教室を知らないように通り過ぎる。
窓の外は青い空。教室は夕焼け染め。廊下は星空。
汗ばむ肌を、赤らんだ頬で耐え切れず拭った。暑い。机の上も汗で滑る。
ガタッと音がするほど、勢いよく立った。頬は林檎も真っ青になるくらい、真っ赤になっていた。
「なな、俺はちっとも成長できていなかった」
「そんなことないよ」
「ううん。こんなに涙が止まらない。成長できてないんだ。結果なんて解り切っていたのに。こんなにも、虚しい」
「あさひくん」
「こんなの、いらなかった」
「知りたくなかった」
「どうしてなんだ神様。貴方は無償の愛をくれるけど、俺は誰にも愛を捧げられない。苦しい。愛なんてそんなの、知りたくなかった。欲しいのに、手に入らない。確かな形で伝えたいのに、伝えられない。胸に涙が溜まっていくんだ。夢で交えた愛なんて、所詮夢で。現実はこんなにも辛い。もう嫌だ。どうしてなんだ。なんでなんだ。いらなかった。こんな気持ち、知らなければ、持ってなければ、もっと楽だった。もっと楽に、もっと笑ってられた」
「――― 好きなんだ。たまらなく。神様。貴方がくれる無償の愛を投げ捨ててしまいたくなる。どうして俺だったんだ。何十億人もいるこの世界で、どうして、俺を選んだんだ」
今より10センチメートル低い少年が、身を切るほどの慟哭を轟かせる。
本の中で愛を説く神様は、悲しい程の愛を少年に教えた。受け止められないほどの、愛を知った。
グラスに注いだ水が零れて、あたりにシミすら作れない水溜りを形作る。その水を見て、人は嫌な顔をする。もう、誰か拭いてよ、なんて。
誰かが知ったかぶりで頷く、その裏側は横振りの頷き。イエスかノーならノー。
何重にも皮で包んだ、禍々しい薔薇の棘に気付かないまま、その花を手に取った。
「なな。ななが良かった」
「あさひく―――」
「俺が、せめて普通だったなら。きっとななだった。ずっと傍にいてくれた、なな。ごめんなさい。ななだったら、良かった」
10年間。
長かった。苦しかった。辛かった。抱えた暗闇の重さに、十字架を探していたほど。
短かった。甘かった。幸せだった。時間の愛おしさに、身を焼かれそうになるほど。
異端審問にかけられた、敬虔とはいいがたい信者のように。
誰かが許されざる愛だと言った。その胸に抱いた気持ちは認められないと、泣きじゃくる少年に叩き付けられた。
普通って何だろう。いつか問いかけられたこと。私は答えられなかった。
解らなかった。生まれて十数年、普通を特に意識もしていなかったから。少年は分っていたのかもしれない、それが普通なんだって言った。
けど、自分は普通じゃないとも、泣きじゃくりながら言った。
「なな。なな。ごめんなさい。ごめんなさい」
「旭くん、旭くんは何も悪くないよ」
「私のほうがごめんなさい。ずっと、知ってた。見てた」
あなたの、許されざる愛を。
たぶん誰よりも一番身近で、涙のダムで開けられなくなった扉の内側にいた。
あの燃え盛る夏の、夕焼け染めの教室のなか。密やかに行われた甘い感情を、閉じた目を通して見つめた。あなたの、精一杯を。
壊れないように、必死な姿を。誰かが言う普通の愛よりも、何倍も慎重で、臆病な足取りを、その背中をさすっていた。
大丈夫、なんて無責任な言葉。夕焼け染めの教室から、私たちは青い空を見上げ、星空を待ち望んだ。結局、どちらも見れなかったけれど。
「なな、ゆるして」
もう半ば口癖のようになっていた、旭くんの言葉。
さらりと水に溶けだす、青酸カリのような毒性。耳元から浸食しだす苦しみ。
何を許せばいいのだろう。旭くんの、ナニが許されなかったんだろう。
私ね、旭くんに内緒にしていたことがあるんだ。きっとずっと、内緒にしていなくちゃいけないことがあるんだ。
旭くん、あなたの愛が認められない、許されざるものだというのなら、きっと、私のコレも許されないんだろう。
だって愛してしまった。グラスから溢れ出す水の上から、無味無臭、透明な毒素を注ぐ。
なんででしょうか、神様。貴方も私に、知りたくなかった愛を教えた。一生叶わない、苦しい愛を知ってしまった。
旭くんの気持ちが痛いほどわかる。
高校生の頃、先生が言った、お前たちはあまりにも似すぎているって言葉。昔は否定したソレを、今なら力強く頷ける。
そうだ。私たちはあまりにも似すぎてしまった。
反対にした名前。静かな性格。何かに寄せる思い。一生知りたくなかった、愛をしったこと。
神様は、私たちを精巧な2体のドールにしたかったのかな。
姿形似てなくても、その中身が同じ精巧なドール。喋る人形。息する人形。
「なな、ゆるして。おねがいだから」
ねぇ、旭くん。
旭くんは前に言ったよね。
自分を否定したくない。でも、消し去りたい。
わかるよ、凄くわかる。私はね、私を否定したくない。この神でさえ尊いと言うこの気持ちが間違いだなんて、思いたくない。けど、私と言う精巧なドールを消し去りたい。
旭くん、前に自分のことが嫌いだって言ったね。誰かにヘンだって言われた、自分が。愛を間違えた、愛を知ってしまった、自分が憎いって言ってたね。
私も同じだよ。何も、ここまで同じじゃなくていいのに、同じなんだよ。
私は、旭七海は、あなたと同じなんだ。
夕焼け染めの教室で、伏して眠ってるフリをした少女。それは私だった。
「ねぇ、あさひくん。ゆるして。わたしを、ゆるして」
否定なんてしたくない。この気持ちも、消し去りたくない。本当はね。
でも、自分は可笑しいんだって、誰かに言われるのは構わないんだ。
でも、でもでもでも!! これが罪だって、認めるのだけは嫌だった!!
だから、許してほしいんだ。同じあなたに。
ごめんなさい。ごめんなさい。
あの壇上に立つ旭くんの、肌色の涙をずっと見てた。高城くんがね、涙ぐんでるの。割と近くに居たから見えたんだよ。
旭くん、知らなかったでしょ? 高城くんがね、泣いてるんだ。泣いてたんだよ。
旭くん、ねぇ旭くん。高城くん、知ってたのかな。まさか、ねぇ。
「まさか」
「ねぇ」
遠目で、花嫁の姿が見えた。
綺麗な女性が受け取った、色とりどりの花束と同じ、カラフルなソレ。
私はアリスブルーのドレスを翻した。
「なな。なな。だいすきだ」
「あさひくん。だいすきよ」
えっと、ただいまご紹介に預かりました、旭七海です。……えっ! ああ! えー、1度目の彼とは苗字と名前が逆なんです。ええっ! 面白いですか!?
あ、あんまり笑わないでください。その、人前に立つのは苦手で。今回は、新郎の友人代表スピーチその2として、壇上に立たせていただきます。
スピーチの前に、その1同様、結婚のお祝いから入らせていただきます。
高城くん、美代子さん、結婚おめでとうございます。御両家、御親族様がた、本日の良縁誠におめでとうございます。友人の一人として、今日という晴れやかな場に参加できること、喜ばしく思っています。
さて、私は新郎側の代表ですが、その、実は新郎である高城くんとお話したのはそんなになくて。ただ、高校時代から見れば10年間、ともにいたことは事実です。
何分私が口下手なため、高城くんと話した時間がとても少なかった、というだけでして。間に七海旭くんを入れて、3人で行動していました。
高城くんは気さくで明るく、いつもクラスのムードメーカーでした。明るい裏側で、予習復習をきっちりしたり、勉強はあまり好きではなかったみたいですが、頑張っていました。
私はそんな彼を、とても尊敬しています。私は先ほども言った通り、口下手で、その、恥ずかしがり屋でもあったので、クラスに上手く溶け込めていなかったんです。
そんな私を心配して、高城くんはいろんなアドバイスをくれました。緊張しない方法や、上手く話せる方法、高城式会話術などなど。時には間に入ってフォローしてくれたり。
高城くんには感謝してもし足りないくらい、たくさんお世話になりました。私が、こうして壇上に立っても気絶しなくなったのは、高城くんのおかげです!
高校生時代の高城くんは、とにかく底抜けに明るく、彼がいるだけでどんよりしたところも一転して楽園のようになりました。えっ、何が言いたいかって、つまり清涼剤です!!
えっと、えっと。高校生時代の高城くんの印象は、以上で。これから、大学生時代の高城くんに移ろうとお思います。
本人は止めてぇ! と言っていますが、高城くんと花嫁・美代子さんの出逢いについて語らせていただきます。
大学生になった高城くんは、今まで何度か染め直していた黒髪を、思い切って金髪に変えて大学生デビューしました。黒歴史? えっと、意味が良くわからないので、高城くんの言い分を却下します。
高城くんは10人中9人は振り返る美形さんですので、金髪はそれはもう似合っていました。教授に注意されたりしてましたけど、女子学生はカッコいいと口々に言っていました。私もカッコよかったと思います。
ちょっと脱線してしまいましたけど、新郎新婦の出逢いは入学式。キャンパスのあまりの広さに迷っていたところを、1つの上の先輩である美代子さんに案内していただいたのが始まりです。
美代子さんを一目見た高城くんは、そのまま恋に落ちた、のではなく。実はそれが初対面じゃなかったみたいなんです。というのも、高城くんは一歩的に美代子さんを知っていたらしくて。
えっ、高城くん美代子さんに言ってなかったんですか? えっ、ストーカーみたいで恥ずかしい? そんな、大丈夫ですよ! ストーキング行為なんてしていなかったでしょう?
新郎の高城くんは、高校2年生の時に私たちの母校でやった、交換留学で来た美代子さんを見て、一目で恋に落ちたそうです。
交換留学の期間はたったの1日。美代子さんの名前を聞くことはおろか、話しかけることもできないまま、美代子さんは帰ってしまいました。
何もできなかった高城くんの落ち込みようは凄まじくて、お気に入りのテディベアを殴るほどです。それが、大学に行ったらたまたま美代子さんの進学先で。
入学式の後、美代子さんに土下座して連絡先を手に入れた高城くんの、あのしたり顔。思い出すだけでも悪寒がします。
さて、新郎の片想いから始まった二人ですが、高城くんのあの手この手の努力で恋仲にまで発展し、ようやく本日を迎えます。
それまでの間は、七海旭くん同様、私もハラハラしてみていました。
高城くんは本当にそそっかしくて、たまにデートの日にお財布を忘れちゃうこともあるのです。え、ばらさないで? すみません言ってしまいました!!
美代子さんの深いため息を見るたびに、高城くんを心配していた自分がいます。
本当に、本当に本当に、今日という日を迎えられて、感無量です。
高城くん、美代子さん。本当に、結婚おめでとうございます。
傍から見ても美男美女で美しい二人が、こうして仲睦まじく純白の服に身を包み、手を繋ぎ合っている光景を見るだけで、今にも涙が出てきそうです。
……まさか今のタイミングで泣き出すとは思いませんでしたが、高城くんも美代子さんも、泣くのは最後にとっておいてください。私よりも凄いひとからナニカあると思いますので。
どうかお二人とも、幸せになってください。七海旭くんと同じになりますが、美代子さん。どうか高城くんを幸せにしてくださいね。高城くん、美代子さんを幸せにしてくださいよ。
いつか二人の愛の結晶を見れることを夢見て、二人の生活が半永久的に幸せに満ち足りたものでありますように。
どこか遠い場所にでも、その幸せを祈っています。
本当の本当に、くどいようですけど、本当に、おめでとうございます。