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英雄たちの回廊 作者:松本裕弐

【元勇者と仲間達の回想録】

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【1話:目覚め】

 現実感の無い部屋に自分はいた。
いたというよりかは、置かれていたと言った方が正しいかもしれない。
なぜなら、自分の姿は寝台に仰向けにされて胸の前で手を組んで、顔には丁度ハンカチサイズの白い布が被されていたからだ。
端的に言えば荼毘(ダビに付した身体を、横たえていたと言うべきか。
 意識が混濁こんだくしていて自分の姿勢すら知覚出来ない状態から少しづつ脳の反応作用が戻ってきた感覚がわかったが、まだ身体を動かすことは脳神経の覚醒と言う観点から無理な状態であった。
それでも、暫くして意識のレベルが上がってくることを感じて俺の置かれている状況を把握すべく行動を起こす手順がよみがえってきた。
 まずは、頭部を動かして視界を確保すべく頭部にかけられていた白布を落とす作業をする。
はらりと落ちた白布が目の前から消え去ると薄暗い部屋の天井が視界に入ってきた。
その部屋はいわゆる霊安室の様な仮置きの手狭な部屋では無く、それはそれは結構大きな部屋のように見受けられた。
 まだ、手足を動かすまでの覚醒には至っていないので周りを見渡して状況を確認する程度しか出来なかった。
でもそんな状況での自己安否判断として危険状況かどうかの状況把握は出来ていたと思う。
 部屋には自分以外の人なる生体は存在していなかった。
単にお一人様であるということだが、それでも何故か、魂として自分以外の何者かの存在感覚はあった。
こんな状況でも感覚として認知出来るのは魂を感じる身体感覚器が人間の臓器からの反応によるものではなく、いわゆる「気」を感じると言う、第六感と言う何かに依存しているからであろう。
感じる気は二つ、自分を境に右と左に分かれてそれは存在している。
というよりは存在しているであろう何かを感じることが出来ていた。
それでも、今の自分を生きている存在なのか、それとも霊的な状態での認識なのかはまだわからない状態であった。
 そろそろ動かせる部分があるかどうかを確かめる為、無理矢理でも手足に起動信号を送ろうと試みる。
如何や右手の先に感覚が薄すらと蘇った。
「おぬし、もう右手は動くのか?」
 右の方から感じる「」の何者かが問いかけてくる。
問いかけてくるとはいえ、言葉として脳で認識しているが声として耳から聞こえたものでは無かった。
直接、脳に話しかけているような感覚である。テレパシーか?
とも思ったが声の無き声の主はそれに対しても答えをくれた。
「テレパシーでは無いぞ、妾達わらわたちは個では無い、おぬしと同化かされた魂であるから見えねども一緒にいる存在と思うてよろしい」
「単に意識として一緒にいると思うてくれればいい、今は……」

 「意識して下されば、その意識の想いがそのまま私達に伝わると思っていただいてよろしいかと……」
 今度は左の方の「」の何者かが答えを返してくる。
両者の声無き声を聞き分けると、なにやら危害を加える敵という存在ではなさそうだった。
しかも、見えないから本当はわからないが気の何者か達は性別でいえば女性っぽかったし、なんとなく若そうな感じが伝わってきた。
「おぬし、女好きか? まあよい、その方が妾達わらわたちにとっても都合がよいことが多かろう」
「まあ、またウギさんはそんなことを言って、ご主人様に何を期待しているのかしら?」
「サギ殿、そのような戯れ言にたわむれている場合では無かろうに、あるじが目覚めたのであればさらにやるべきことがあるであろう。はよせぬか!」

 んっ! 右側の魂は”ウギ”? 左側のそれは”サギ”? 詐欺さぎか?

 「ご主人様、私しめを詐欺さぎと掛けるとは余りにひどい戯れ言でございます」
「まあまあ、サギも詐欺さぎも真実をついていると思わぬでもないがの……」
「んっ、ウギさんそんなことを言って私をおとしめる道理はあるのですか? 今回だってウギさんの先走りが招いた結果ですよ」
「…………うっ!」
 なにやら右左で雲行きが怪しくなってきた。
まてまて、俺は今どういう状況だ?
何故なぜここにいる、っていうか俺は誰だ?
何者?
人か?
生きているのか?
覚醒した意識の中で記憶をさかのぼろうとしているがまったく覚えが無い状況から脱することが出来ないでいた。
「ご主人様、まだ無理をして脳内覚醒を早めてはいけません、ゆっくりとでいいのです」
「何せ……百年もの眠りから覚めたところですから!!」

 「……百年……!!」
声が出た、確かにのどからの音として自分の耳に伝わってきた、声を出せる、言葉がしゃべれるということは俺はやはり人か?
やはりと思うのはそれなりにではあるが、何となくではあるが、そうであることが当たり前の認識として感じられていた。
とにかく動くことから始めなければならない。

 どれくらいの時間が経過していたのだろうか、時間感覚という物が全くと言っていいほど戻っていないかった。
サギとウギの意識を感じながら、ままならない肉体感覚にさいなまれながらも薄暗がりの中で必死に肉体の尊厳を取り戻すべく、意識と脳と筋肉を神経細胞の反応反復と言う形での繰り返し作業をしていた。 
「本当に百年も寝ていたのか……?」
「嘘だろう……?」
懸命な肉体蘇生にくたいそせいの作業の中でも別の意識が現状を把握しようと努めている。
 寝台は丁度ちょうど、自分の身長にあっているように大きすぎるわけでもなく、そう言っても窮屈きゅうくつなほど小さいと言うわけでも無かった。
マット部分は薄手で仕上がっていてクッション性が特に優れている風でもないが、そうかと言って異様に堅いわけでもない。
とは言っても、こんな所で百年もただ横たわっていたとは思えない状況であることは認識出来ていた。

 「百年とは既存の人間たちの時間感覚であり、妾達わらわたちの空間との認識時間軸とはことなるのだよ。あるじよ」
 ウギの言葉が聞こえる。
「まあ、そうは言ってもなかなか理解は出来ぬであろう、それは致し方ないことだ」
「なあ、サギよ」
「そうですわね、ご主人様の疑惑も当たり前でしょうが今はそれ以上の詮索は無用かと思われます」
「時間はいかほどでもありますから、私たちから必要な情報を得ていただくには十分であると……」

 自分と左右の魂達との関係性が全く見えてきていないが、そんな焦る状況では無いらしいことは伝わってきた。
右手の指が意識通りに動くようになってから、右側のウギと言う魂に問いかけてみる。

 「ウギさんとやら、ひとついいかな?」
「なんぞや?」
「質問かあるじよ」
「ああ……全くもって何がなんだか解らないがひとまず聞きたいことがある」
「何じゃ?申してみよ!」

 「……俺は誰だ?」
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