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冬の女王のなみだ

作者:うたう
 人々がおかしいなと気づいたのは三月もなかばを過ぎた頃でした。もう春の気配がちらほらとあってもいいはずなのに、草木は変わらず眠ったまま、それどころか川や湖にはぶ厚い氷がはっています。冬が終わらないのです。
 季節は当たり前のように移りかわるものと思っている人々もこの冬ばかりは塔を見上げました。国を治める王さまの住むお城の隣にある、お城の屋根よりも高くそびえ立つ塔には、四人の女性が順番にぐるぐるとかわりばんこで住んでいました。彼女たちはそこで三ヶ月ほどを過ごすと次の女性に塔をゆずります。すると不思議なことに、季節はそれに合わせるようにめぐるのでした。季節が変わったなと思ったときには、やはり塔の住人も入れ替わっていました。
 人々は王さまのお城の隣でお城よりも高いところに暮らす彼女たちのことを、それぞれの季節に合わせ、春の女王、夏の女王、秋の女王、冬の女王と呼んでいました。でも人々にとって彼女たちは渡り鳥のようなものでした。渡り鳥は春と一緒にやってきますが、誰も渡り鳥が春を連れてきたとは思いません。
 秋に蓄えた食べ物がなくなりかけてくると、人々は塔に向かって祈りを捧げるようになりました。ひょっとしたら塔に住む女王たちには季節をあやつる力があるのではないかと考えたからです。日に一度祈っていたのが、三度にまで増えました。それでも雪は深く、春の足音は聞こえてきません。
 人々が塔の周りで祈りを捧げているのを冬の女王は知っていましたが、冬の女王にはどうすることもできませんでした。冬の女王には、本当に季節をあやつる力があったのですが、あやつれるのは冬だけでした。季節を冬にすることはできても、ひとりで冬を終わらせることはできないのです。冬を終わらせるには、塔を春の女王にゆずる必要があるのでした。
 それに春の訪れを待ち焦がれているは、冬の女王も同じでした。冬の女王は、春の女王が塔にやってくるのを待ちわびていました。春の女王はきっと、冬の女王の恋人をこの塔まで連れてきてくれると信じていたのです。
 冬の女王の恋人は吟遊詩人の青年でした。恋人は、夏のはじめに楽器を持って、ふらりと旅に出たっきり、秋になっても戻ってきはしませんでした。秋になって二ヶ月が過ぎ、冬の女王が塔に向かわなければいけない日が近づいてくると、冬の女王はひと目だけでも恋人に会いたくなって、年が近くて仲のいい春の女王に相談しました。塔でひとり過ごす三ヶ月はとても長いのです。春の女王は絶対に会いに行ったほうがいい、探すのを手伝うと言ってくれました。そうして冬の女王は春の女王と一緒に恋人の後を追う旅に出ましたが、見つけることができないまま、塔に行かなければいけない日を迎えてしまいました。
 春の女王は塔へ向かう冬の女王に約束してくれました。冬の女王の恋人を見つけて、必ず塔へ会いに行くように伝えると。そう言ってくれた春の女王から届いた手紙には、恋人を見つけたと書いてありました。ちょうど交代の時期が近いから、一緒に塔に連れていくとも書いてありました。でもそのまま一週間が過ぎ、春になるはずの日になっても恋人と春の女王は現れませんでいた。二週間たっても同じでした。
 冬の女王は不安になりました。恋人は、冬の女王を捨て、自分よりもかわいらしい春の女王のことを好きになってしまったのではないか、春の女王も冬の女王との約束を破って、恋人とともに過ごすことを選んだのではないだろうかと思いました。そうやって冬の女王が思い悩むと、雪はいっそう強まりました。
 塔の部屋の扉をノックする音がして、冬の女王は飛び上がりました。やっと恋人が来たのだと思いました。しかし扉をあけて、冬の女王はがっかりしました。扉の向こうに立っていたのは王さまでした。
 王さまは、もし冬の女王が塔にいることで冬が終わらないのなら、国民のために早く塔を出てほしいと、冬の女王にお願いしました。冬の女王だって塔を出ていきたいのはやまやまでした。塔を出て、恋人を探しにいきたい。でもそれはできませんでした。塔には季節の女王の誰かが必ずいないといけないのです。そうでなければ、この国は季節をなくしてしまい、季節をなくした国は砂漠になってしまうのですから。冬の女王は王さまに、春の女王が来ない限りは塔から出ることはできないと伝えました。すると王さまは、春の女王が来ればいいのだなと言って、おふれを出しました。
 おふれには、春の女王を連れてきたものにはなんでも望みのほうびを与えると書いてありました。たくさんの人が春の女王を探しに出かけました。でも誰も見つけだすことはできませんでした。季節の女王たちは、人々に女王と呼ばれてはいても、王冠をかぶっているわけではありませんでした。服だってきらびやかなものではありません。人々はみな、バルコニーに立つ春の女王を遠目に見たことはあっても、しっかりと顔を見たことはなかったのです。
 冬の女王は暗い気持ちになりました。春の女王は恋人を連れてきてくれない。王さまがおふれを出したというのに、誰も春の女王さえ連れてきてくれない。冬の女王は、恋人に会えないどころか、もう塔から一生出られないかもしれないと思いました。いっそ塔から飛び出して、この国を砂漠にしてしまいたい、砂漠にしてから恋人と春の女王を探し出し、ふたりの頬を思いっきりひっぱたいてやりたいと思いました。でも砂漠になったら、多くの人が住むところを失って苦しみます。それどころか多くの人が死んでしまうかもしれません。そう考えると冬の女王は塔から出ることはできませんでした。冬の女王がますます暗い気持ちになると、それに合わせるように気温はぐんぐんと下がっていきました。こんなに寒いのだって人々を苦しめてしまう、明るいことを考えなくちゃと思っても、もうどうにも止まりませんでした。

 春の女王は焦っていました。北のはての小島で冬の女王の恋人を見つけただしたものの、帰れなくなってしまったのです。いざ帰ろうと思ったら、岸につないでいた冬の女王の恋人の乗ってきた小舟が吹雪によってか流されてしまっていました。春の女王を乗せてきてくれた船は、冬の女王への手紙を持って、港に引き返してしまいました。春をむかえるはずの日はとっくの前に過ぎています。本当なら春の女王はもう塔の中にいないといけないのです。
 冬の女王の恋人は、もうすぐ春になるからと言います。春になったら、はての小島まで漁師が魚を釣りに来るのだそうです。そしたら漁師の船に乗せてもらって帰ることができるでしょう。でも春の女王は知っていました。春の女王がここにいる限り、春が来ることはないのです。それを伝えると、冬の女王の恋人は、一瞬目を大きく見開いておどろきました。でもすぐに木を切りはじめ、船を作るしかないと言いました。
 もうだいぶ春のおとずれが遅れてしまっています。春の女王は早く帰りたい一心で、一生けんめいに手伝いました。冬の女王のよろこぶ顔を想像するとがんばれました。
 冬の女王の恋人は、はての小島まで指輪の石に使う星くずを取りにきていました。夏のはじめからずっと、夜になると空に矢をはなって、星くずを取っていたのです。冬になって空気が澄みはじめてやっと、冬の女王の恋人は満足のいく星くずを取ることができました。星くずは冬の女王のひとみの色と同じきれいな青で、そんな星屑をはめこんだ指輪はきっと冬の女王に似合うだろうと、春の女王は思いました。
 船はなかなか完成しませんでした。冬の荒れた海を渡るにはよっぽど頑丈に作らないといけません。毎日必死にがんばっても、まだまだ完成しそうにありませんでした。ますます寒さが厳しくなっていきます。きっとみんな春を待ちわびていることでしょう。
 そうやって船を作っていたある日、突然ものすごく冷たい風が吹きました。すると、海が凍りはじめたのです。凍った海の上を歩けば帰ることができます。春の女王は飛びはねました。でも冬の女王の恋人は氷が溶けてしまわないかと不安そうでした。でも春の女王がここにいる限り、春は来ないのです。溶けるほど暖かくなるはずがありません。春の女王は凍った海に足を踏みだしました。

 塔に向かって歩いてくる恋人と春の女王の姿を見つけたとき、冬の女王は目を疑いました。何度も目をこすって確かめました。二人の姿はどんどん大きくなります。二人が塔の入り口にさしかかり、それから塔の部屋の扉を叩いたとき、冬の女王の心臓はうれしさで破裂しそうになりました。でも扉をあけて、恋人と春の女王の顔を目にすると、急に恥ずかしくなりました。二人を疑ってしまった自分を責めたのです。
 そのことを二人に伝えると、春の女王は、これだけ待たされたのだから疑いたくもなるよねと言って気にしませんでした。そして約束を守れてよかったと笑いました。
 冬の女王の恋人は、本当はもっと早くに戻ってくるつもりだったんだけどと言って、気まずそうに鼻をかきました。それから星くずの入った指輪をポケットから出して、結婚しようとプロポーズしました。指輪が冬の女王の薬指にはまると、冬の女王は目をうるませました。
 春の女王に塔をゆずって、冬の女王は恋人と塔から出ることにしました。塔を出ると王さまが待っていました。
 塔のバルコニーから春の女王の声がしました。
「みなさん聞いてください。みなさんが冬の女王と呼び、たった今まで塔とこの国の季節をまもってくれていた彼女がついさっき婚約しました」
 そう言って、春の女王が冬の女王に向かって手をひらくと、塔の周りに集まっていた人々から、おめでとうと歓声がわき起こりました。
 王さまが冬の女王の恋人に向かって、「春の女王を連れてきた者よ、なんでも望みのものを言うがよい」と言いました。
 冬の女王の恋人は、「今日、わたしは婚約することができました。そしてそれをみなさんに祝福していただきました。これ以上望むものはありません」と答えました。
 冬の女王はそれを聞いて、涙をこぼしました。
 ぽたりぽたりとおちた涙は、真っ白な雪にちいさな穴をあけました。
 さあ、春のはじまりです。

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