第29話。決着の時。
ドラパンの手にはキンキンステッキこと物質変換装置。
それを握り締めてドラパンは僕達の元へと走り寄る。彼はステッキの先をナイフのような鋭利な物に変えると薫さんに向かってその先を向ける。
だが薫さんは避ける事もせずにそこに立っていた。
そしてナイフの先が薫さんまで後数十センチのところまで来た所で、やっと薫さんは行動を起こした。
「それを止めろ。」
命令口調で言っても止まるはずのないナイフの切っ先。それが急に、ぴたりと止まった。
「な…?」
ドラパン自身も驚いているようだった。何故ならドラパン自身、止めるつもりが無かったはずなのに手が止まったからだ。
驚いている彼を気にする事も無く、薫さんはまた、口を開いた。
「そのナイフで自分を刺せ。今すぐに、だ。」
「「!!?」」
そんな事を言ったって、自分で自分を刺すはずは無かった。
だけどドラパンの腕は何か見えない糸のようなものに操られているかのようにナイフの先を自分へと向けていた。
考えるよりも先に、僕の体は動いていた。
「止めるんだドラパン!」
ドラパンの肩を掴み、後ろに引っ張るような具合で止めようとした。ドラパンの体が数歩後ろに下がり、彼の手からステッキが落ちる。
ギッと薫さんを睨みつけてどやし立てるドラパン。
薫さんはステッキを拾ってドラパンの問いに答えた。
「私に何をした!?」
「僕を改造したのはこっちに引き込みやすくする為ってのもあるんだけど、時間があったからもう1つある機能を作ったんだ。君が裏切った時の為にね。
それは僕を中心とした半径5メートル以内では君の体は僕の声に反応して抵抗の有無に関係無く僕に従う。
そしてその機能はスイッチとなる僕の声が無くなる…つまり僕が死なない限り解ける事は無い。
…そしてドラパン、君はまだ僕の洗脳の出来る範囲内に入っている。」
ハッと気付くとドラパンは僕を引っ張って薫さんから遠ざかった。その姿を見て薫さんはクスッと笑う。ステッキを持ったままで。
「苦しいよね。僕を殺せる位置にいるのに殺す事が出来ない。
僕が近くに来るだけで、恐れを抱いてしまう。
君は僕が近寄るだけで遠くへと遠ざからないといけない。じゃないと皆を殺しちゃうかもしれないから。
のび太君。君もいつ襲われるかわからない仲間を持っているよりは、いっそ僕達に明け渡した方が良いんじゃないのかい?
そっちの方がケジメがついて…」
「嫌だ。」
僕は薫さんが話している途中だったけど、それでも異様に腹が立った。
「ドラパンは洗脳されたときでも、僕達のことを思い出してくれた。
操り人形になっていても、苦しんでいても。
そんな大切な仲間を抵抗もせずに受け渡すくらいなら、
僕達はずっとずっと皆と一緒に逃げてやる。
どんなに流れの早い河があっても、渡り切ってやる。
どんなに険しい山があってもそこから逃げない。登ってやるさ。
そしてどんなに強い敵が来たって僕達は最後まで戦って見せる!」
僕がそう言った瞬間だった。
ドラえもんのポケットが、今まで無いような輝きを放ち始めた。
王ドラの四次元袖が。
キッドの四次元帽子が。
ドラリーニョのポケット。
ドラメッド3世のポケットが。
ドラニコフの四次元マフラーが。
マタドーラの四次元ポケットが。
輝きを放ち出し、そして皆の目の前に光が集まってある物の形をかたどった。
ドラパンが、口に微かに笑みを浮かべる。
「コレだ…間違い無い。」
「まさか、コレが…。」
「親友テレカ!!!」
所持者達自身も驚いているようで、自分達の目の前のそれを手の平の上において見る。
輝きは徐々にひいて行き、その内絵柄がハッキリと分かるようになった。
一瞬光は完全に止んだが、また強い光を放ち始め、今度は僕の目の前に現れた。
カードではない別の形を、僕の目の前で象って行く。
これは…。
僕の目の前に落ちたそれはよく映画とかで刑事とかが使っている拳銃だった。
だが側面には
「The☆DORAEMONS」
の文字が彫ってあり、オリジナルのものであると言う事が分かる。
しかも驚いた事に、その銃には弾が入っていなかった。これでは今だされても、全く意味が無い。
手に持ってみるとズッシリとした重さがあり、本物その物のような感じがした。
不意に、声が聞こえた気がした。
目を閉じて、その声をよく聞いてみる。
―――思いを込めれば良い。
仲間を守りたい、傷つけたくない…
そう言った思いが、この銃の弾丸となるのだから。
なるほど。
ドラえもんズらしい物だ、と僕は思った。僕はその銃の照準をセワシたちの足元の地面へと向ける。
流石に彼等に当てるわけにはいかない。だから…
ぎゅっと目を瞑り、銃を込める手に力をこめる。
目蓋の向こうで、眩いほどの光が銃に集まっているのが分かった。
銃と同じように重い引き金をひく。
ガウン!
そんな音がして目を開けて見ると、地面が割れているわけではなく、煙幕のような煙がもうもうと僕達の周りを囲んでいた。
僕とドラパン、それにドラえもんしか見えない世界に、沢山の足音が聞こえてきた。
王ドラ達ではない、重くて固い足音。
「時空警察だ!クロネコ、逃げ道は無い!
観念しろ!」
そんな男の人の声が聞こえ、セワシと薫さん、それにドラミちゃんの話し声がしなくなったかと思うと回りの煙幕が晴れだした。
僕達と時空警察以外の人の影は見えず、セワシたちは逃げたのだと僕は理解した。
さっきの声の男の人が僕達に寄ってきた。
結構若い人で、ウォームグレイの髪で左の眼を隠している。時空警察手帳をこちらに見せてから彼は自分の名前をタバコを咥えながら名乗った。
「俺の名前は雷山。ここにクロネコがいたのは間違いねえな?」
「え、あ。はい。」
僕は戸惑いながらも頷いた。それを見ると雷山さんは苦々しげにしたうちをしてから、他の皆がいる方へ振りかえった。
「チッ。また逃げられたか。まぁいい。それよりも、まずはあいつだ。」
雷山が指差す先にはイヴさんの近くで眠る小龍。
―――そうだ、小龍…。
ドラたちと一緒に駆け寄る途中、ドラパンが僕に行った。
「アレだけの力でこんなに眠るとは…もう力が限界に達してたんだな。」
***
小龍はまだ黒いままだった。それでも呼吸は荒く、時々咳き込む時には口から血を吐いていた。
その姿は小龍が黒い時に変わる物と似ていて、僕達の不安は一層増した。
微かに髪の色が黄色がかっているがそれでも王ドラの話だともう変わる前に死んでしまうかもしれないらしい。
「無理な制限解除の連発がここまで彼を追いこんだのでしょう…。」
―――そんな…
僕は、手に持っている拳銃を見つめた。
そして、しばらく考えた後に僕はそれの銃口を小龍に向けた。
「オイ何やってんだお前!」
キッドの問いに、僕はあくまで冷静に答えた。
「これが親友テレカの力で生まれたのなら…この銃はきっと仲間を守る為の物だ。
もしかしたら小龍が助かるかもしれない。」
僕は目をつぶってまた気持ちを銃に集中し始めた。
小龍を…救いたい!
また光が銃に集まってくる。ふと僕の手に暖かい何かが触れるのを感じた。
目を開けて見ると、僕の手の上にドラえもんが自らの手を乗せていた。それを見て、他の皆もドラえもんと、僕の手の上に自分の手を重ねて行く。
王ドラ達は勿論、
ジェドーラも。
イヴさんも。
そしてマリアも。
雷山さん達も、僕達を見守っている。
お願いだ、小龍を…!
そして僕は、引き金をひいた。さっきと同じ銃声が部屋に響き渡る。
恐る恐る目を開いてみると銃弾は小龍の心臓の位置に当たり、光を放っていた。
見る見るうちに髪の色も、服の色も黄色に変わっていく。
いつのまにか小龍の体は元の黄色に戻っていた。
ゆっくりと金の綺麗な目を開く小龍。
「アニ…キ…俺は…。」
微かに開いた口から聞こえたその声。ドラは小龍に駆け寄って小龍に話しかけた。
「小龍、終わったよ。もう君は何も心配しなくて良い。」
「すいません…。俺のせいで…俺のせいでたくさんの人が死んでしまい、傷ついてしまった。
たった一人の俺と言う存在にたくさんの人が悲しみの感情を抱いてしまった。
俺は…もう生きてちゃいけないんスよね…。」
「そんな事言わないで!!!」
ドラえもんが目からほろほろと大粒の涙を零しながら叫んだ。涙の1滴1滴が小龍の白い頬に吸いこまれるように落ちていく。
「君のせいじゃない…君のせいなんかじゃ無い!
確かに君はたくさんの人を殺して、取り返しのつかないことをした!
だけど…生きてちゃいけないなんて、言わないでよ!
そんなに寂しい事…言わないでよ…。」
「兄貴…でも俺は…」
「ちょっと良いか?」
割り込んできたのは雷山さんだった。煙草の煙をふうとはいてから話し始める。
「その事なんだがな。
お前はNN−NC型ロボの小龍だよな?」
「そっスけど…。」
「こっから先はあんまり民間人に話すべきことじゃないんだが…お前は不良品だと世間に公表され、現にお前の中のもう1つの人格が人殺しをしたということになっている。
だがこの前そこの協力者に貰った情報によるとお前は不良品だからもう1つの人格ができたんじゃない。
クロネコの幹部、滝沢薫がメンテナンスと偽ってお前を改造したんだ。
つまりまぁ…簡単に言うとお前は無実って事になる。」
「え…」
小龍が体を起こすのと同時にドラが彼の体に抱きついた。
涙と鼻水をなすくりつけながら抱きつくドラを何とか押さえながら小龍は雷山さんに尋ねた。
「おめでとう小龍!!!」
「でも俺が人を殺したって言うのは事実で…。」
「わーってるよ。
その件だが良いか小龍。
今日からオメーは俺の元で働くんだ。
めんどくせーが上からの命令だ。
そしてお前の改造の件も本庁へ行ったらすぐに始めてやる。
良いな小龍。いや…ちょっと長いな。
んじゃ、良いなシャオ!」
少し呆然としていたが、小龍は差し出された手にゆっくりと自らの右手を重ねた。雷山さんは手を握るとにっと笑い、小龍を立ちあがらせた。ドラが小龍の体からゆっくりと離れ、旅立ちを見守る親鳥のような目で小龍を見つめた。
だが小龍はマリアとイヴの方を向いて少し心配そうな顔をする。
イヴは一回少しだけ笑ってからこう言った。
「あなたが満足の行く道を行くのなら文句は無いわ。ね、マリア。」
「…せいぜいこき使われれば。」
プイと顔を赤らめてそっぽを向いてしまったマリア。事情のわかる人々はクスリと笑ったが僕にはその意味はよく分からなかった。
***
そして僕達はその建物から出て、小龍達の家へと一旦帰った。
雷山さんが言うには洗脳はすぐに解く事は出来ず、またほとんどのネコ型ロボット達が行方不明になっているためこの件に付いてはまだ少し時間がかかるという。
だが場所は大隊分かっている為、洗脳を解く一ヶ月の間は無くなった記憶は元のままにしておくらしい。だが人間化は薫さんにしか解く事が出来ないみたいなので、全員しばらくはこのまま、だそうだ。
クロネコの刺客達はジェドーラを抜いて三人とも彼等に付いて行ったらしい。時空警察の人が行った時にはもぬけの殻だったらしい。
きっとまた何かを仕掛けてくるだろう。
それでも僕等は戦うつもりだ。
大切な仲間を守る為に。
そういえば、僕がマリア達に感じていた違和感、あれについてはマリアもイヴさんも教えてくれなかった。
その代わりイヴさんが僕に1つだけヒントを教えてくれた。
「二学期の転校生、がヒントです♪」
らしい。
何故2学期の転校生がすでに会った事になっているのかは分からないが。
***
僕達は誰もいない元の世界の、元の場所に戻ってきた。
まだママ達は旅行中で帰ってきていない。
強制回収がかかっていたのに僕達があそこにいた事は雷山さんにお咎めは食らわなかった。だがその代わりに、
『人間化が解けるまでまた何か起こるだろうから全員が同じ場所にいる事』
を命じられ、またもとの騒がしい生活に戻った。
「ふ〜。俺疲れたぜ。シエスタシエスタ。お休みなさーい。」
「マタドーラ!おんまえこんな所で寝てるんじゃねーよ!起きろ!もっと別の場所で寝ろ!」
「キッド!あなただってそんなに騒ぐのは止めてください!うるさいですよ!」
「がう、がう!」
「あれあれ〜?僕お腹すいて来ちゃった〜!」
「なら一緒に作らない?おいしいドラ焼き。」
「タロット占いで美味く出来るかどうか調べてみるであーる。」
「…うるさいぞ貴様等。ブロンズ像にでもなるか?」
「ドラパン、そんな物騒な事を…」
そして僕達の騒がしい幾日は、幕を閉じた。
それでももう少し、事件はまた起こると思うから
その時はまた教えてあげるね。
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