第18話。一人目。
「どういうこと?どこでもドアが使えないって!」
気持ちを優先するあまり、つい声を荒げてしまう。
「どこでもドアが全く使えないんだ。どこに行こうとしても通じない。
タケコプターも変な電波に妨害されて使えないんだ。」
「そんな!だったら歩いていくしかないの?」
「そう言うことになる。」
僕達がいるのは滝沢グループビルの前。ドラえもんのどこでもドアを使おうと思ったのに、ドアをいくら開けても意味はなく、キッドが使おうとしたタケコプターも意味をなさなかった。
「我輩の絨毯も宙に浮かないであーる。歩いて行くしか方法はないであるな。」
「う…ん。そうだね。ところで、D−83地区って一体何がある所?」
僕は、ドラに尋ねてみた。ドラはどこでもドアをしまいながら言う。
「特に目立った建物がある訳ではないかな。それに人ごみも少ない。大それたことをしてもそんなに目立たない地区かな。」
「へぇ…。ここから遠いの?」
「距離は結構あるね。でもとりあえず、行ってみないと始まらない。とにかく、D−83地区へ急ごう。」
「うん。」
ドラを先頭に僕達は走り始めた。
―――絶対に小龍を取り戻す!
そしてこの騒ぎを止めてみせる。
でも…
薫さん達…BLACK CATの狙いは何なんだろう。
たくさんの猫型ロボットを人間型にして、洗脳して。暴れだした小龍も手駒にして。
そこまでにするからには、きっと巨大な陰謀があるのだろう。
でも、その陰謀って、何?
僕の頭からは、その疑問が離れることはなかった。
***
「ほら、この子達こっちに近づいて来てるよ?どうするの、薫?」
「本当だ。…早かったね、随分と。」
薫がそっとモニターの画面を覗き込む。そこに映っていたのはここに向かって走ってくるドラえもん達。
「どららー?」
「困った困った。僕まだ制限解除してないからねえ。」
ぺろりと舌を出して首を傾げる少女。
「制限解除か、忘れてた。よし、君と君は今からすぐに制限解除用のチップ埋め込むから、付いてきてくれる?」
煙草を灰皿にぎゅっと押し付けると二人の少女の肩をポンと叩いた。
「薫、私はどうしたら良い?」
「君はあの子達の相手をしてきてくれる?」
「OK。殺しちゃっても良いわけ?」
「それは君に任せる。」
それだけ言うと薫は部屋から出て行った。少女達もその後に付いて行く。
残された一人の青年。モニターで位置を確認すると3人が出ていったのと違う扉から外に出ていった。
モニターの画面はついたまま。
***
だいぶ人は少なくなってきた。それと同時に建物の数も少しづつ減って行く。
「だいぶ走ったけど…まだ着かないの?」
「もうD−83地区には入ったはずだけど…。」
「だったらちょっと止まろうよ、僕ちょっと疲れた…。」
もう何分走り続けただろうか。僕の体力は限界に近づいていた、というよりもう限界だった。
「人間はこれだから困る。」
わざとらしく溜め息を付きながらドラパンが横で言う。
「君達はロボットでしょ。僕は人間で、しかも体力は最弱部類に入るんだから。」
「ま、ちょっと休もうか。とりあえずD−83地区には入れたんだ。」
その言葉で僕はありがたく休ませてもらうことにした。
「あらあら、だめじゃない、敵陣で休憩なんか。」
声がしたかと思うと急に笛の音がした。
かと思うと、首をロープのような物で縛られ、宙に体が浮かんだ。
「のび太君!」
ドラの叫び声が聞こえるけど、返事を返せない。首をきつくしめられて、呼吸もままならない。
「だ…レ……?」
かろうじて出せた声がそれだった。次の笛の音でロープ全体が動き、笛を持つものの隣へ僕の体が動かされて行く。どうやら彼がいたのは僅かに立ち並んでいた小さなビルの1つらしい。ちらりと隣の青年を見てみるが、顔がはっきりとわからない。目の前がぼんやりとしか見えないからだ。
「ごめんね、はやく終わらせて、君もはやく楽にしてあげるから。
さて、と。」
彼は僕のほうを見ていたが、それだけ言うと彼はドラ達の方へ向き直った。
「君達だね?私等の邪魔する奴って。
私の名前はノラミャーコ。BLACK CATの1人だよ。
滝沢薫の命で、あんた達を殺しに来た。
ま、せいぜい安らかに死んでね。」
―――ノ…ラミャー…コ?
「ノラミャーコさん!?なぜあなたがBLACK CATに!?」
かすかに聞こえてくる王ドラの声。
「教えて欲しいの?でも教えないよ♪
ほら、はやくしないとあなた達のお仲間、死んじゃうわよ?」
「ノラミャーコ…さん」
ドラえもんの絶望とショックの合わさった微かな声。
僕の意識は、そこで途切れた。
目が勝手に閉じて真っ暗な闇の世界に入っていった。
***
―――にしてもなぁ。
制限解除用チップを埋め込みながら薫は考えた。
―――ノラミャーコって確かあのドラえもんの仲間だったんじゃなかったけなぁ。
まぁ、それを言ったらこいつらもそうだけど。
こんなかじゃあ一番はやく洗脳できたんだっけな。あいつは。
「よし、終わりだ。」
二人のスイッチを入れ直し、二人を起動させる。
「大丈夫?動きにくいとか、ない?一応頑張ってもらわないといけないからね。」
「ないねぇ。今の所特には。」
「どららー。」
起きあがる二人の少女達。まだ目は半分虚ろな感じだった。
「そう、良かった。どうする?今から行っても間に合うと思うけど。」
「いや、まだ良いや。僕等はね。」
「どらー。」
―――さすがに小龍みたいな感じにはならないんだな…。
もう少し戦闘意欲を加えれば、最高の戦士達になるのに。
まぁ、今の彼等にはこれで十分かな。
さて、と。
「じゃぁとりあえず休んでおきなよ。僕はあの人のところへ行ってくるからさ。」
***
「さ、はじめましょうか。言っておくけど、このピーヒョロロープ、別に音楽になってなくても私が吹くだけで何でもやってくれる、制限解除のモノなの。
もちろん、人だって殺せるわ。」
クスクスと笑いながら、更にロープに加える力を強くするノラミャーコ。紫の髪が時折風にふかれて揺れている。
「…知り合いか。」
ドラパンが王ドラに尋ねる。
「名前の聞き間違えでなければ、そうですね。」
「やって良いのか。」
冷淡に、事務的に聞くドラパン。
「そう言うことはドラえもんに聞いてください。」
ドラパンがドラのほうをチラリと見てみると、ドラの顔は絶望にあふれた顔つきだった。
「私は行きます。ノラミャーコさんとはいえ、今はとにかくのび太さんが気がかりです。」
四次元袖からヌンチャクを取り出し、軽々と建物を飛びながらノラミャーコの所まで移動する王ドラ。
「一番手はあなた?良いわ、相手してあげる。」
ピィィという甲高い音がしてロープが今度は王ドラに襲いかかってくる。
王ドラはそれに対してヌンチャクで攻撃しようとするが、すぐにロープに巻き付かれてしまった。
ヌンチャクを取り返す暇も無く他のロープ達が王ドラの両手首を固定する。
そしてもう一本。
王ドラの首に巻きつき力をこめた。
「ぐっ…」
ほんの少しの悲鳴を上げ、首をガックリとうなだれる王ドラ。
「王ドラ!!!」
皆の叫び声が人っ子一人いなくなった道に響き渡る。
「まずは一人目。」 |