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その6.少年の名は悠馬(ゆうま)
 クラスに入ると、見た事ある顔も、見た事無い顔も僕の方を向く。
 全員が一瞬黙るもすぐに騒ぎ出す。
「アッハッハー! へぇーじー♪」

 ……この元気な声は。
 ミホがブォンブォン嬉しそうに手を振っていた。
 君とまた一緒かー……。

「何よー! 私と一緒じゃ嫌そうねー!」

「嫌『そう』じゃ無くて嫌なんだよ……」

「ム! 何よー!」
 可愛らしくミホが頬を膨らませている。
 ……解った解った。
「私は……すっごい嬉しかったんだけどな」

 そうミホは小さく零す。
 少し悲しそうに、寂しそうに。
 まーたか、まーたそうやって罠を仕掛けるのか!
 と、思ったが、もし本当にそう言ってくれるのなら嬉しい限りだけど。
 この子は何が嘘なのか何が本当なのか解り難い。
 
「……嘘だよ、知らない奴ばっかより、知ってる奴が居た方が嬉しいしね」
 そう言って、落ち込む様に下を向いているミホの頭をポンポンと軽く叩いて見せる。
 ミホは目を丸くして僕を訝しそうに見た。
 え、そんな目をされるのは予想外だったんだけど……

 不審そうにしていた瞳が、今度は優しそうな瞳へ変わった。

「へーじ、本当に……変わったねェ?」
 嬉しそうな口ぶりだ。
 人に言われなきゃ解らない事もある。
 僕は変わったか。
 ……いいじゃないか、人間変わってなんぼだろ?

「そんなに変ったかい?」

「変ったねー! 以前だったら死ね腐れ女! ぐらい言うでしょうにね~?」

「え、僕ってそこまで酷かったっけ!?」
 笑いながら言うミホの言葉に軽くショッキング!
 ミホは僕の言葉にアッハッハ! と豪快に笑う。

「ンまァ~、私はどっちのへーじも好きだけどね♪」

「……アァ~そう、解った解ったから」
 相変わらずのミホの言葉にため息を零す。
 この子は変わったんだか変わってないんだか……。


「それよりへーじってば朝っぱらから悠馬ゆうま君に絡まれるとかどんだけ運悪いの~?」
 そう言ってミホはケラケラと笑う。

「悠馬って……あの銃刀法違反の奴?」
 朝に殺されかけた相手の事はさすがに直ぐには忘れないけどさ。
 結構カッコイイ名前だったのね。

「しんない? 中学の時は結構な悪だったらしいよん?」
 そらまー日本刀振り回すんだから相当悪だと見たね。
 誰でも解るわいウン。

 縁は片っ端から不良を叩き潰している。
 確かに有名な不良だとしたら縁の名前はイヤでも耳に入るだろう。
 悠馬が縁の事を知っていてもおかしくは無いな。

「家がヤクザの家らしいからねー、そりゃ刀も持ち出すよねー!」

「そういう問題!? っていうか……ヤクザの家の方だったんですか……」
 僕は気持ちからして何か暗くなってしまう。

「ッブ! アッハッハッハッハッハ! 何でいきなり敬語~? 私はこれから悠馬君とへーじがどんな面白い事してくれるか楽しみで仕方無いよん?」
 人の事も気にせず何を爆笑してるんだ君は!
 ハァァ~、また悠馬って子と会うだろうと思うと頭が痛い。
 しっかし……あの子は何で僕の名字を知ってたんだろう?
 情報通のミホにそのままの疑問を聞いてみる。

「え? へーじの名字を知ってた?」
 ミホも軽く首を傾げて見せる。
 情報通のミホがこんな態度を取るのだから、やはり知っている筈が無いよな……。

「……まーへーじは色々と有名だしね、ちょっと調べたら出ない名前でも無いしねー?」

「え、そうなの!?」
 僕ってばそんな有名!?

 ミホは何が楽しいのかまたケラケラと笑う。
「アッハッハ! なーに言ってんの! 銀行強盗を一人でやっつけたんだからそりゃー有名にもなるって~!」

 た……確かに過去にそんな事もあった。
 アレは相当運が良かっただけであって決して僕が簡単に敵をなぎ倒したわけではない。
 もし同じことが起これば、生きている保証は無いだろう。

 例えとして、その銀行強盗の件で僕が有名であったとしても……襲われる理由にはならないと思う。

 僕は何処を見るでも無く空中を眺め、そして小さくため息を付く。

 不良ならば興味本位でいきなり襲ってきてもおかしくは無いけれど。
 あの切れ長の美青年、悠馬ゆうまという少年は、何か違う気がした。
 あの瞳に宿る、心からの殺意は、そんな興味本位で向けられるものでは無いだろう。
 彼が、何の目的で僕を狙ったのか、そして何故名字を知っていたか、いつか解る時が来るのかもしれない。
 その時は、多分……。
 あの少年は、また僕に刀を向けているだろう。


 怒りに燃える黒い瞳は、いつかの自分を見ているようにさえ思えた。


「……なんでボーっとしてんの?」

 考えごとしてんだよ、ボーっとしてるわけじゃ無いから!
 でも口には出さない……。
 考え事してる時に突っ込むと折角考えてたことが吹き飛びそうになるからだ。
 今はミホは無視だ無視。


「んー……何か恋する乙女みたい」

「っは!?」
 ミホの突然の発言に大声で反応してしまった。
 そんな僕を見て楽しそうに笑うミホ。

「アッハッハ! なんちってなんちって~!」
 ……この子は、真剣に人が悩んでるって言うのに。
 僕はまた大きくため息を零す。
 ため息を零せば幸せが逃げていくというけど。
 僕は今日一日で何回幸せが逃げているのだろうか……。
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