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ワールドネイション  作者: 雷帝
第二章:草原編
38/39

草原の戦塵7

随分お待たせしました

次ぐらいで草原編は一区切りで、幕間として妹ちゃん達を書いてから精霊王側に戻ります


※3/31一部修正

 その日、シチートの街は大きな混乱に襲われる事になった。

 始まりは貴族街。

 そこで大きな馬蹄の轟きが響き渡ったからだ。


 「何があった!」


 この世界の寝る時間というのは電気によって明るく照らされた世界のそれより遥かに早い。無論、明かりを供給する魔法や、薪や油などの各種の燃料によって明かりを求める事は可能でもそれらは電気のそれより家庭の財布にとって遥かに高い。

 自然と一部を除き、「日の出と共に起き、沈むと寝る」という生活環境になってくる訳だ。

 貴族やら大商人は多少懐に余裕があるが、だからといって宴も何もないのに屋敷を派手に明るくするなど単なる無駄でしかない。従って、当主や見回りなどごく一部が魔法の明かりを用いて作業を続けるものの、下っ端などはさっさと寝てしまう訳だ。

 星明りしかない世界というのは暗い。

 文明の明かりのない山などに一度夜に行けば分かるが、真っ暗闇で本当に伸ばした手の先が見えない。そんな中での作業など無謀でしかないからだ。

 さて、そんな寝静まっている夜中にいきなり爆音が響いて来たらどうだろうか?そりゃあ騒動にもなろうというものである。


 彼らは女子供の集団ではあった。

 ただし、騎馬民族の女子供だった。

 実の所、馬に乗ったまま何かをする、という事は難しい。鐙の出現によって帝国兵であっても突撃や近接戦闘では騎馬民族の兵士に対抗可能になってはきたものの、これが「馬などの動物に乗りながら何かを行う」という事になってくると矢張り普段地に足のついた活動をしている帝国兵と、場合によっては馬の背に揺られ移動しながら寝る事すらする騎馬民族出身者ではやはり馴れが違う。彼らにとっての馬上とは生活の一部だからだ。幼少時より常に騎乗という行動に慣れ親しんでいるというのは大きなアドバンテージという事だ。

 つまり、女子供という集団は普通の農耕民族或いは森林地帯や山岳地帯の出身ならば馬車辺りが移動には必要だし、ましてやそれが兵士でもない一般人の女子供となれば当然、その移動速度は成人男性の兵士などに比べれば大きく劣るけれども、騎馬民族であれば話は別。

 今、脱出した一同は事前に用意されていた馬を用いて街中を疾走していた。実は元々は馬車に繋がれていた裸馬が多数なのだがそんなもの誰も気にしていない。さっさと馬車から外し、子供を連れた女性が普通に馬を操っていた。

 加えて、人のそれに比べ獣人は夜目が利く。星明り程度の明かりでも彼らには十分だった。


 (ま、戦闘は無理、ってか全員にいきわたる武器がないしなあ)

 「それでどうすんだい!こんな派手に動いたらすぐ見つかっちまうよ!!」


 ティグレがそんな事を考えていると、アウロラが馬を寄せて話しかけてくる。とはいえ、石畳を駆ける馬蹄の音が凄いので怒鳴るといった方が正しいのだろうが。尚、ティグレ自身の召喚獣スレイプニールは麒麟同様僅かに地表から離れて空を駆けているので、意識して音を出そうとしなければ無音で駆ける事も出来る。もっとも周囲が騒音を立てている今の状況では意味がない訳だが。

 

 「ま、確かにそうなんだろうけどな。どうせ時間の問題だ……ほれ」

 

 くいっとティグレが顎で示す方向を見て、アウロラは顔をしかめた。

 そこに見えてきたのは門。

 貴族や大商人など裕福な連中が住む場所と、それ以外の場所。元々、防衛都市という性質上、防壁を都市部が拡大するにつれて構築していった都市という事もあり、都市内部にも幾つものかつての外壁が存在し、それぞれの壁に設けられた門は夜間には閉じられる。

 しかも、富裕層の住む場所に通じる門という事で当り前のようにそれなりの数の警備兵が配備されている。

 そんな場所へと馬蹄の音を轟かせて突っ込んでいっているのだ。警戒しない方がおかしい。そして、騎兵の最大の利点はその機動力であり、平原での戦闘。こうした防壁など堅い拠点を攻めるには向いていない。だが、そんな事はティグレには百も承知。


 「門があるのは分かってるさ。任せておけ!!」


 そう吼えるなり、ティグレがぐん!と前へ出る。

 その速度は駿馬などというレベルではない。天を駆ける、神の愛馬とされるスレイプニール。その速度は風すら置き去りにする神速の神獣。アウロラ達を瞬時に置き去り、どころか次の瞬間には既に門の前へと到達している。

 驚いたのは警備兵達だろう。

 彼らは馬蹄の音が轟くのを聞いて、警戒していた状態だ。獣人達程夜目の効かない彼らは未だはっきりと姿を捕らえていなかったのに気づけば大剣をかざした馬に乗った獣人が門前に迫っている。

 慌てはしたが、兵を無視して門へと突っ込む姿に唖然とした。単独で閉じられた門へと突っ込む意図が分からなかったからだ。打撃武器ならまだ分からないでもないが、剣で何をする気なのだろうか?その意図は次の瞬間明らかになった。


 【破城槌】


 スキルが発動する。

 機動戦を得意とする騎兵を主体とする軍を編成していたティグレにとって一番厄介なのは防壁を構築しての守りと、そこからの反撃を行うプレイヤーだったし、騎兵への対抗策としては織田信長の三段撃ちなどといった話だけでなく、馬防柵や掘によって騎馬の機動力の発揮を妨げ、遠距離攻撃を行うというのは当然の手段。

 ティグレ自身がその上で勝利を収めるには、そうした戦法への対抗策を用意するのは必須だったし、ワールドネイション運営側もゲームである以上、騎兵側が何とかする為の方法を用意していた。

 このスキルはティグレ自身が取得していたそうした対抗策の一つ、オブジェクト破壊スキル。

 この攻撃は通常のユニットを相手にした場合は殆どダメージが入らない。しかし、ユニット以外の障害物などに対しては極めて高い効果を発揮する。

 ましてや、ティグレレベルのプレイヤーが参加するクラスの戦闘では防壁系のオブジェクトに使われる素材も一級品、それこそ伝説の金属が用いられているのが当り前だった。そして、現在スキルが用いられた対象構築物に使われているのはガッチリ作られているし、良品が用いられているとはいえ普通の鉄や石。そんなものに、遥かに上級の品相手の破壊を前提とした威力のスキルが叩きつけられるとどうなるか?

 ――結果は明らかだった。


 ズガアアアアアアン!!!!


 轟音を立てて、門がぶち破られるだけにとどまらず、僅か一撃でその周囲の壁ごと吹き飛んだ。吹き飛ばされた岩塊だの扉の破片だのはそのまま前方へと吹き飛び、着弾する。そう、その勢いは正に『着弾』と呼ぶにふさわしいものだった。

 幸いだったのは、城壁の門前には防衛を見越したある程度の広場があり、その先にあるものも夜間には人気のない店舗であった事が幸いだっただろう。事実、この飛散した残骸による死者はゼロ、怪我人も城壁や門の破壊っぷりに比べれば驚く程少なくて済んだ。ただし、実の所ティグレ自身は内心ゲームではなかった効果に(ゲームではオブジェクトが光の粒になって消滅するだけだった)、冷や汗ものだったが。ティグレも別段、この都市の一般人に被害を出したい訳じゃないからだ。

 このスキルは見た目に比べオブジェクト以外の生物や敵兵に対するダメージは発生しない。この為、オブジェクトに籠る敵兵なんかがいると砦が消え、平原に兵士が出現したようにゲームでは表現される事になる。

 現実で使うと目の前で起きたようにオブジェクト相当品を構成していた物体が飛んでいくという現象が発生した訳だが、おそらくこのスキルを用いた所で生物にダメージを与えられないという点は変わっていないのだろう、多分。

 しかし、傍から見れば一撃で頑丈極まる門を粉砕してのけたとしか見えないティグレがスレイプニールの足を止め、ぐるりと周囲を見回せば警備兵達は思わず後ろへと下がろうとし、けれど足がもつれてこける者。震えて動けない者などがいるばかり。かろうじて槍を構えている者もいない訳ではないが、穂先はカタカタと上下に揺れ定まらない。

 もっとも驚いて止まりかけたのは脱出を図る一行も同じだったが……。


 「止まるな!進め!!」

  

 その怒声で止まりかけた一同の足が咄嗟に動く。

 兵士はびくり!と体を止めて動けない。

 ここら辺は覚悟と、ティグレが敵か味方か、という部分が大きい。そりゃあ正体不明の突然現れて門を一撃で破壊した虎人と見る警備兵と、人質にされていた所から助けてくれ、ここから何とか脱出しないといけないと思っている同じ獣人と見るアウロラ達では前者が恐怖で身が竦んだのに対して、後者は驚きで立ち止まりかけたという事。

 だからこそ、ティグレの怒鳴り声に対して、警備兵はしかし、駆け寄る事が出来ず、アウロラ達は近づき、駆け抜ける事が出来た。


 「無茶苦茶だね、あんた!!」

 「はっはっは!なあに、無茶でも何でも勝てばいいのさ!!」

 「そりゃ真理じゃあるけどね!!」


 無茶に付き合わされる一般人はたまったもんじゃないんだよ。

 アウロラとしてはそう言いたくもあったが、そこはぐっと飲み込んだのだった。


 「ええい!もうこうなったら毒喰らわば皿までってやつだよ!!きっちりあたし達を家族のとこまで連れてくんだよ!!」

 「最初からそのつもりなんでなあ!」

 

 そんな言葉を交わしながら、彼らは次々と門を強引極まる方法で突破していったのだった。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 「おいおい、マジかい」


 そんな光景を遠方から眺めながら呆れたような声で呟いた。

 さすがにこれは想定外だった。

 一部は自分達の考えが甘かったのは認めよう。確かに馬車を用意したのは失敗だった。馬車と馬だけでは引っ張る物がないだけ馬だけの方が早いのは当然だ。ついつい自分達の感覚で考えてしまったが、確かに騎馬民族ならば馬車なんぞ不要だろう。

 しかし、さすがにこれは想定外だった。

 門をどうやって突破するか、だが。奇襲を仕掛けて警備兵を仕留めて、門を開けるぐらいだろうと考えていた。

 素人同然だったとはいえ普通に城壁を超えて、侵入する事を可能とした虎人がいたし、そもそも素人同然などと言えるのは自分達専門家だからこそ。一般警備兵程度ではそうそう見破れまい。それなら、数人の警備兵程度なら何とかなる。そう考えていたのだ。

 誰が予想するだろうか。

 音を立てる事を承知の上で、速度を重視して門そのものを破壊するとは!

 速くはあっても、反面隠れる気など欠片もない行動のお陰で、既にシチートの街は大騒動だ。もっとも、一般市民は外に出る者はいないようだ。余程に平和ボケしてるような国でもあれば自分に危険が及ぶ可能性を考えもせず、根拠もなしに「自分は大丈夫」と判断して野次馬根性で現場を見に来る者とているかもしれない。

 けれども、そんな人間は長生き出来ないのがこの世界だ。皆、下手に外に出るのは危険と見て、閉じ籠っている。


 「いや、音を消す方法にしたってそんなもんを身に着けてる俺らが例外なんだよな」


 そこら辺も失敗したなあ、と頭をかく。

 馬の足先を布で包むなど工夫によって深夜でも静かに移動する手段はあるが、普通はそんなもの考えたりしないだろう。とはいえ、自分達が例外ならあの虎人はもっと例外中の例外だろう。

 しかし、こうなると別の問題が発生する。


 「……あんだけの轟音となると時間稼ぎも出来ねえな、こりゃ」

 「どうしましょうか?」


 忘れてはいけないが、ここはれっきとした城塞都市なのだ。当然駐留する軍隊も存在している。

 これが数名の警備兵が殺されて、門が開けられていました!なら元々騎馬民族達の家族が捕らえられていた事自体が秘匿されていた事もあり、軍隊を誤魔化すのも楽だった。普通は警備兵が殺されて、門が開け放たれているとなれば警戒されるのは内部に入り込まれた、というもの。

 当然、軍は貴族・大商人達の住む区画に散らばり、異常がないか探るであろうし、領主らの護衛に兵を割く。内部から脱出した、と考えて捜索の兵を出すにしてもそれは異常がないか探し回ったけれど怪しい者は見当たらない、という状態になってからだ。それまでにひたすら逃亡していれば十分な距離が稼げるであろうし、追った所で逃げた連中は騎馬民族の女子供だ。裏事情を知らぬ連中ならば見つけた所で普通に心配して、無事家族の所に帰れる事を祈る程度だろう。

 が、今回は違う。

 明らかに内部から飛び散った瓦礫の山。

 目撃者は生存している警備兵が複数。

 これでは軍が出動すれば早々に「内部から逃げ出した集団がいた」と判明するだろう。部下が質問してきたのもそれを踏まえての上での発言だろうが……。


 「ほっておけ」

 「……よろしいのですか?」

 「どのみち俺達だけじゃもうどうにもならん」

 

 匙を投げた。

 新たな轟音が街に響く。どうやら次の門も同じく粉砕されて突破されたらしい。

 ここまで来ては最早隠蔽工作など不可能だ。というか、多少の誤魔化しでどうこうなるレベルを遥かに超えている。まだ皇族から直接命令を出してもらった方がいいだろう。出来る訳がないけれど。そんな事をしたらそれこそ皇族が隠蔽工作に関わっている事をばらすようなものだ。この件はあくまで表向きは「第二皇子以外の皇子は知らなかったし、関わっていなかった」で通さないといけない。

 例え、どれだけその後の動きが不思議な程に素早かったとしても、だ。


 「まあ少なくとも第二皇子の処断には十分だろう。上にはそちらで満足して頂くしかあるまい。それに……」 

 「?」

 「あれだけ派手に暴れる事の出来る奴を抑えられる者が果たして、第二皇子の手の者にいたかな?」  

  

 なるほど、と部下の顔にも納得の表情が浮かぶ。

 門を一撃で吹き飛ばす豪傑。

 そんな事が出来る者となれば帝国でも数える程しかいない。そしてそんな勇士で尚且つ国に属している者となると、そのほぼ全員が次期皇帝に内定している第五皇子の配下だ。

 裏事情を話せるような将ならば更に減る。

 そもそも第二皇子が数少ない腕の立つ配下を早々自身の所から手放す、手放せるような状況では既にない。しかし。

 

 「とはいえ、ゼロではありませんな」

 「ああ、ゼロではない」


 彼らの脳裏には一人の男の姿が思い浮かんでいた。

 幾ら腕が良くても人格面で問題があるあの男では、さすがに傍に置いておく気にはなれまい。

 反面、このような場面でなら存分に使う事が出来る。そう、逃げられた以上証拠を消す為にも全てを消し去ってしまうのなら。


 「誤誘導ぐらいなら可能と思いますが」

 「やめておいた方が無難だろうな……奴の勘の鋭さは異常だ」

 「…………」

 

 まあ、自分達は自分達の仕事をするとしよう。

 精々、無事に生き残れる事を祈っておいてやるさ。


 (もっとも、次に出会う時は奴を消す時かもしれねえけどな……)


 そんな思いを抱きながら。


お久しぶりです


都会の明るさに慣れてると実感ありませんが、自然の中の暗さってのは怖いぐらいに真っ暗です

私の体験としては社会人になっての研修で、山中の施設で研修受けた事があって、この時は泊まるとかではなく、研修時間終了後、帰る事になったのはいいけど山道が本当に真っ暗闇で全く見えませんでした……あの時は他の面々と一緒に携帯電話の明かりで足元照らしながら恐る恐る道路まで出たんですよね


スキル【破城槌】

オブジェクト破壊用のスキルだけど、現実に使うとこうなる

尚、スキル自体はダメージ与えないけど、普通の人間に対して使った場合、ティグレの身体能力と武具自体の破壊力は普通に発揮されるので一般兵程度ではやっぱりミンチになる

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