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ワールドネイション  作者: 雷帝
第二章:草原編
37/39

草原の戦塵6

どうもお久しぶりです

夏バテと仕事疲れですかね……ここんところ何をするにも気力が湧きませんでした……

ごめんなさい

 一人の男がぼんやりと簡素な椅子と机以外何もない殺風景な部屋で連絡を待っていた。

 本当なら彼はこんなぼんやりとしている時間などない。だが、今は違う。半ば休暇、いや表向きは休暇扱いとなっている上に、本来彼はここにいない事になっている。当然、仕事もさすがにそんな相手に回ってくるはずがない、というか回ってきたら拙い。それは彼がここにいるという事が余所にもばれている可能性を意味するからだ。

 お陰で暇を持て余しながら、その脳裏には今日の『仕事』、ティグレ名乗る獣人に情報を与えた事が思い浮かび、その仕事が導くはずの結果を今はただ待ち続けていた。


 『動きました』


 そして、そんな時間は唐突に終わりを迎えた。

 卓上に至極無造作に置かれた魔道具から部下の声が響いた事で。


 「おう、ご苦労さん、どうだ?」

 『予定通りですね』


 具体的な名称は出さない。

 これは遠方から声を届ける事が出来る便利な道具だが、欠点も幾つかあり、その最大のものがこの道具双方の場所同士を結ぶ為に僅かながら位置を知らせる為の魔力線が走っており、居場所が発覚する危険性があるという事だ。その為に裏社会の連中はまずこの道具を使う事はない。

 ……繰り返し言うが、裏社会の人族はこの道具を使う事はない。

 では彼らは何者なのか。

 そもそも、ここは元は帝国の要塞であった。

 現在こそ要塞が都市に飲み込まれる形で領主の城扱いになっているものの、一事あれば即城砦として用いる事が出来る。

 さて、その上で考えて欲しいのだが、現在帝国は草原の民に対して大規模な謀略を実行している真っ最中だ。当然、さらった獣人達の奪還を目指す動きへの警戒もしているし、その為の人員も配置されている。そんな所へのこのこと街中に現れた商人でもない、初顔の怪しい動きをする獣人が一体。本来は見逃すはずなどありはしない。

 では、何故ティグレは拘束されなかったのか。無論、表向きは獣人達草原の民との交易や関係がこれまで通り行われている以上、顔見知りの獣人が来た程度ならばそこまでの警戒はしない。だが、初顔となれば密かに門に配備された担当が上へと情報を上げる。そうして、上が要警戒と看做せば監視の目がつく……。

 けれども、それが途中で途絶えればまた話は異なってくる。

 情報というものは正確に伝わってこそ、命令系統というものは正確に指示が下されてこそ意味がある。誤った情報が上に伝われば、当然上は誤った情報に基づいて誤った判断を下し、命令系統に乱れがあれば本来命じられるはずのなかった部署へと命令が行くか、或いは最悪命令がどこに消えたのか分からなくなる事すら起こりうる。そして、それが故意に行われたものだとすれば尚更だ。

 その結果が彼の動きであり、ティグレが監視に引っかかりながら未だ拘束されていない現状であり、男が帝国軍城砦内部の一室でこうしてのんびりしていられる答えだった。


 「まあ、疑ってもそうするしかないわな。で、首尾は?」

 『順調かと』


 当然部下に見えるはずもないが、頷く。

 ティグレが疑うのは折込済みだ。

 というか、疑って当然と男も判断している。

 しかし、虎獣人ことティグレには他に選択肢がない。だからこそ、少し間を置いたのだ。

 都市に入って早々に接触した所で現実を理解する事は出来ないだろう。だが、現実に自分で動いて、単独で捕らわれの獣人達の場所を把握する事の困難さを理解してもらった後ならば話は別だ。間をあえて置く事で現実を認識してもらい、そこへ手を差し伸べる。

 例え疑った所で、その手を取る以外に手段がなければそれを選ぶしかない。その道を進むしかない、と当人に判断させる事が大事なのだ。

 それに嘘はない。彼に与えられた情報通り、あの屋敷には人質にされた獣人達がいる。ただし、あの虎の獣人の、潜入工作にはド素人であろうにも関わらず、その圧倒的身体能力で彼らが把握する時点まで見事に警備を欺いていたという事以外は。

 警備など通常の衛兵の見回りはザル同然だ。

 なまじ安全な場所にいるという気持ち、長年彼らが生まれた時から暮らしていた街という思いが自然と緊張を解く。裏を返せば気が抜けているという事だ。

 無論、新人は別だ。新人は緊張故に真面目に仕事をする。しかし、新人だからこそ勘違いも多くしてしまうし、見間違いも多い。

 だからこそ、ティグレが活動している時、多少の物音が響いた所で気のせいだと気にも留めない。ティグレが盗みをしていれば、衛兵も捜査を開始していただろうが、ティグレはそうしたものには一切手をつけなかった。

 そんな男でも情報がなければ、一部の情報を欠けさせただけでこうして見事に踊ってくれる。


 「やだねえ、年食った連中ってのはやる事が陰湿で仕方ねえ」

 『…………』


 返事はない。

 答えに困るという事もあるだろう。まあ、そもそも彼らのボスはまだ十分以上に若いのだが。

 

 「まあ、予定通りならこっちもその通りにな」

 『分かりました』


 そう、最後まで固有名詞を出す事なく、彼らの会話は終わった。

 

 (さあて、おそらくは街の外に待機させてんだろうが……お仲間と一緒に捕らわれた連中を上手く助けだすこったな。そうじゃねえと、こっちが困る)


 ただ一つ彼もまた勘違いをしていた。

 それはティグレが単独だったのはあくまで都市内での活動を行っていたからであって、都市の外に手勢を伏せていると考えていた事だった。

 さすがに全て一人でやる気だとは考えていなかった。というか普通は考えない。

 それが、一つの物語を生み出す事になるとは、それが一つの動きを導き出す事になるという事を彼はまだ知らない。



 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 ティグレが潜り込んだ先は確かに「当たり」だった。

 一見すると豪勢ではあるが、ごく普通の商人の屋敷。

 貴族が裏で絡んでいたとしても、貴族の屋敷をそのまま使う訳がない。商人なら切る事が出来たとしても、貴族では帝国の責任も免れないからだ。まあ、商人にした所で本当の意味での大手が関わっている可能性などあるまい。彼らはこんな危険な事をしなくても儲ける手段があるし、潰れては国としても困る。

 かといって中小連中では大きな屋敷を用意する事も出来ない。

 結果、今回の仕事で用意されたのは没落した商人の屋敷、を身元怪しげな者達が借り受けたもの、となっているらしい。金がなくて、四苦八苦している状態では多少怪しげであろうと金払いがいいなら、構わない、という事なのだろう。

 無論、実態は帝国という国が裏で動いてはいるのだろう、だが、表向きは言い訳が効くように直接の繋がりはないように見せかけている。


 「ま、そう簡単に確たる尻尾を掴ませてくれりゃ誰も苦労はしねえ、と」


 するり、と侵入した先で一人、また一人と始末してゆく。

 既に捕らわれた者達の場所も姿も確認した。

 見回りの時間まできちんと情報提供されており、不足はない。有難いのは外部から交代の者が来ない、という事か。帝国側としても表立っては繋がりを見せたくないというのはここに来ても徹底している。

 

 「しかし、帝国内部では騒乱の種、と」


 この手の古い歴史を持つ国に権力争いはつきものだ。或いはあの連中にした所で誰かの手の者な可能性だってある。

 いや、間違いなくそうだろう、とティグレは確信している。だって……。


 そうでなければ、帝国を敵に回す可能性のあるような行動など取らないだろう。


 彼らの言い分はもっともに思える。

 あくまでこの街のみで考えるならば、彼らの「邪魔をするな」という言葉は正しいのだろう。

 しかし、これが帝国自体の長年に渡る作戦の一つというならばまた話は異なってくる。彼らはそれに気づいてはいないのか?そんな事はあるまい。ならば、自分に情報を流す、という行動が下手をしなくても帝国の一部(そう一部だ!)を敵に回す可能性がある、という事を知っていたと考えるべきだろう。そんな事は普通はしない。

 暗殺という行動に出る可能性だって多分にあるだろうし、そうでなくてもこっそり垂れ込みをしておけばいい。それだけで帝国側の覚えも良くなる事だろう。

 しかし、彼らはそうではなく、ティグレに対して詳細な情報を提供する、という行動に出た。すなわち、この時点で彼らという組織の可能性は二つ、全体の状況を見る事が出来ない愚か者か、或いは帝国の別の勢力と結びついた(もしくは帝国の一部である)組織なのか。ティグレはそれを後者と見た。

 もちろん、前者の可能性はあるが脅威としては後者の方が圧倒的に上。ならば脅威度が上と見ておく方が対処もしやすい。


 「それに帝国に草原を抑える意味がないと考える奴は確実にいそうだしな……」


 草原というのは実の所さほど豊かな土地ではない。

 草しか生えない、樹木が生い茂る程の豊かな土地ではない、という事だ。更に寒冷な土地となってしまえば生えるのは苔類だけとなる。

 植物の精霊王である友人の姿がティグレの脳裏に浮かぶ、彼が居を定めれば草原にも豊かな緑が生い茂るのかもしれないが……しかし、その時は草原の民自体の生活を根本から変えねばなるまい。その過程で下手をしなくても滅ぶ、生活を維持出来ずに崩壊する氏族とているはずだ。

 しかし、そうでないならばとても農耕に向いている土地とは言えない。

 長い長い時をかけて土地を豊かにして、最低限の農耕は可能、或いは寒冷に強い作物とてない訳ではないが、雨の量など様々な要因によって草原は草原であり続けている。下手に開墾した所で塩害などの要因によってすべて無駄骨に終わった、などという事になりかねない。

 そして、草原の民は独立独歩の気概が強く、部族間でさえ独立心が強い。統治にも相当難儀する事になるだろう。

 つまり、美味しくない訳だ。

 草原を制圧した所で農業に使える土地が広がって、農業生産が上がる訳でもなし。

 特産物といえば草原の民が飼っている家畜から得られる物産ぐらいで、どこかに鉱脈があったとしてもまずはその探索から。草原の民自体も反抗心を募らせ、統治にはとんでもないコストがかかるのは明白だ。草原を支配した、という名に拘る者がいる一方で、統治コストの大幅な増大を嫌う勢力がいたとしても全くおかしくはない。或いは、当初は賛成か黙認したものの、作戦が進むにつれて開発や統治計画を策定し始めた結果、その割の合わなさに気づいて反対に回った者もいるかもしれない。

 おそらくはそうした勢力が今回の背後にいるのだろう。だが……。


 (ま、こっちの狙いと一致するなら文句はねえが、な!)


 また一人、一気に距離を詰め一気に落とす。

 声を上げさせるような真似はしない。

 斬れば血の匂いで気づかれる危険があるから刃も使わない。

 どうせ正規の兵でもあるまい。


 (にしちゃあ、闇でやってる連中という感じでもねえな)


 こりゃあ、本気で表向きは奴隷商人が云々って事で警備連中も集めた可能性があるな。

 要はいざとなれば切り捨てられる使い捨て、だ。

 

 (……どうなってる?どうにもチグハグだ)


 おかしい。

 ティグレの脳裏にはその言葉がある。

 草原で動いていた者達は多少の質の差はあれど、それなりの腕を持った一団だった。というより、かけられた手間と時間を考えれば、国が目的意志を持って動き、その手となって動く組織がバックにいなければ出来るような事ではない。当然、彼らは精鋭と呼べる一団だろう。

 その一方で、この施設にいる者は……。


 (これは……草原を支配下にしようとしている連中が相当追い詰められている、って事か?)


 実はその通りだった。

 帝国はその一時の分裂期においての経験から、幾つかの規定を設けている。

 その一つが皇帝位に就く者には何らかの功績が求められる事だ。

 誰もまだ実績を立てるだけの年に達していない可能性や皇帝が急に亡くなる事もある為、その場合は貴族議会の中央に置かれた箱に厳重に納められた皇帝直筆の封書に記された皇子が新たな皇帝となる。ただし、その場合は実績が出せねば、十年で皇帝位は自動的に剥奪されるなど厳しい規定がある。

 問題は年齢やバックとなる貴族だが、先に生まれた皇子の方が実績作りはしやすいのは当然で、バックとなる貴族がいなければ何かを現実に成し遂げるのは難しい。結果として、割と早期に帝室に輿入れした、それなりの貴族家と繋がりを持つ皇子が新たな皇帝になる、という訳だ。次の皇帝との太いパイプが出来るという事で、どこの家も援助を惜しまない。

 逆に、皇帝に見初められて早期に子が出来たものの、背後になれる程力のない貴族などは敢えて活動を控えたり、或いは派閥の長の家の養子として差し出したりしてしまう事で「自分の家は次の皇帝を狙ったりはしませんよー」と示す訳だ。


 さて、この草原支配の案件は第二皇子が進めていたものだった。

 彼は始祖、いや旧帝国でさえ統治出来なかった草原を、その民ごと支配する形で自らの功績としようとしたのだ。だが、実の所、見た目の功績に捕らわれた彼は既に追い詰められつつあった。

 長年各種の堅実な功績を立てながら、書類仕事を愛するが故に皇帝位ではなく実務担当を願う第一皇子。

 母譲りの美貌を持ち、外交と軍事で功績を上げる第五皇子。

 金勘定が大好きで、大商人の祖父を持ち、財務健全化におおいに辣腕を振るった第六皇子。

 最有力とされるこの三人の皇子達が手を組んだ為だ。

 第五皇子が皇帝位に就き、第一皇子がそれを支える宰相位に。第五皇子は実質的に皇位継承権を放棄し、やりたがっている商売へ手を出す事を皇帝と宰相は黙認する。傍から見れば「なぜ皇帝を目指さない!?」と思うかもしれないが、人間やってみると「これをやってみたい」「この仕事楽しい」「自分には向いてない」という事はよくある事でもある。トップに立って辣腕を振るいたいと願う者もいれば、面倒だからトップはやりたくない、そこそこの責任と役職に就いて生活に困らなかったらそれでいいと願う者もいる。無論、第六皇子は皇帝の財務面でのアドバイザーは引き受ける。

 そんな最有力の皇帝候補達が手を組んだ事で、第二皇子の政策はここ二年程の間に急速に勢いを失いつつあった。もう時間がない、と判断した第二皇子が現在はまだ動かせる勢力を駆使した結果だったが……。それがティグレという想定外の男の動きを生むとは、帝国で「この際第二皇子側の勢力を完全に炙りだし、叩き潰す」事を狙って動いた側も想像していなかった。神ならぬ身、にそれを予測しろというのはさすがに無理があるだろうが。

 通常はここまで敵視される事はないのだが、そこには草原とそこに生きる民という統治した所で面倒ばかり多い癖に旨味が少なく、かといって今後を考えると生贄の羊がいなければ草原の民を一応納得させての関係改善も図れないと見た訳だ。とはいえ……。


 (いずれにせよこいつは俺にとっての好機だ)


 そう判断したティグレは次々と片づけつつ先へと進み、他のお膳立てもなされている事を確認した上で遂に彼女らと出会う事になる。


 「ここか……」


 鍵は見つからなかった。

 場所こそ判明していたものの、所持者が誰かわからなかったのか、それともどこかに仕舞ってあるのか、或いはここにいる者には渡さないようにしてあるのか……おそらくは仕舞ってはあるのだろう。万が一火災が発生した時に出せなかったら困る。人質は生きていてこそ意味がある。

 いや、探す気になれば探せたはずだ。誰か生かしておけば聞き出す事も可能だっただろうが……。

 元より、そのつもりがない。

 自らの愛剣、王威の大剣を抜き放つ。

 扉には頑丈な補強が為されているが。


 「ま、関係ねえわな」


 特に技を載せる事すらいらず、いともあっさりと扉を刃は切り裂く。

 大剣という武器は日本刀と異なり、斬れ味を追求し、引く事で斬るという武器ではなく、その重量でもって圧し切る武器だ。まあ、それはあくまで現実の武器で、王威の大剣ともなると切れ味自体も下手な刀系などの切り裂くタイプの武器を上回る。お陰で、鉄の補強材が入っていようが紙の如し、だ。

 切り裂いた扉に手をかける。

 幾ら切れ目を入れたとはいえ、本来なら逃亡を防ぐ為に頑強極まりない扉はそうそう屈する事などないはず、なのだが……。

 今、メキメキと音を立てながら、扉はティグレの剛腕の前に屈していた。

 

 「あー……もうちったあ楽かと思ったんだけどなあ。おい、誰かいるかい?」

 「なんだい、あんたは?」


 意外というべきか、当然というべきか。彼らが閉じ込められていた環境は悪くはなかった。ここら辺は元々が牢獄などが設けられていた場所ではなかった為だろう。とはいえ、鉄格子の二重に嵌められた窓を含め、普通に暮らしたいと思えるような環境でもない。

 そこでティグレの前に一人の中年女性が立っていた。頭から突き出た角から判断するに山羊の獣人らしい。ティグレ自身の感じた印象から言えば正に「肝っ玉母さん」といった雰囲気だ。

 

 「おっ、いたかい。俺はティグレってもんだ。ある部族の長をやってる」  

 「……ふうん?」

  

 どこか疑問を感じたような声だったのは仕方あるまい。こんな牢獄のような館にたった一人で現れて、それで「味方だ」と言われても即効納得出来る訳がない。それでも即効で否定しないのはティグレが獣人だという部分が大きいのだろう。

 どこかの小さな部族の長だとしても、部族の長を名乗る相手を否定しづらい、というのもある。

 

 「……ここにいた見張りとかは?」

 「倒した」

 「……あんた、本気でそれ言ってんのかい?」 


 疑念と共に怒りを感じる声。

 ああ、当然だろうな……これで退路がなくなった。

 ティグレが見張りを片づけた、これで彼らは「逃げる」という手段を取らざるをえない。それを理解しているのが一人でもいて助かった、というべきか……。

 これで残った所で既に「草原の民にもばれた」事は疑いない。或いは、対抗派閥に確たる証拠を握られたか……いずれにせよ待っているのは良くていずこかへの更なる厳重な幽閉、悪ければ証拠隠滅の為に消される事になるだろう。というか、後者の方が可能性が高い。

 必然的に、脱出するしか道はない、という事になる。

 いや、追い詰める形になる事は分かってはいたが……初対面でいきなり「助けに来た!さあ、脱出だ!」と叫んだ所で素直に「分かりました!」といくか自信がなかったティグレの責任ではある。知り合いや、或いは現実世界でなら信用のおける組織や味方ならともかく、ティグレは部族の長となったとはいえ壊滅寸前の、しかもこれまで外部の者だった以上知り合いがいる訳もない。

 だからこその考えた上での手段だった訳だが……まあ、追い詰めるような説明しなくて済んだだけ良かったと考えよう。


 (それやっていたら完全に悪役だったよなあ)


 などと思いつつ頬をかくティグレの前で、肝っ玉母さん――アウロラというらしい女性はてきぱきと他の女性や子供達へと指示を出していた。

 どうやら、他の者はそこまで頭が回らず、純粋に助けが来た、という事に喜んでいるらしい。


 (まあ、当然か……)


 ここまで連れてくるとなると、ある程度吟味はされているだろう。

 弄ぶ気があるかどうかはさておき、閉じ込めておくなら抵抗しなさそうな面々を連れて来た方が面倒が少なくていい。誰だって、見るからに強そうな戦士風の男と、弱そうな震える少女のどちらを人質にするかという状況であれば後者を選ぶに決まっている。


 「んじゃまあ……いっちょ派手にやるかねえ」


 それが自分の狙いにも繋がる。

 既にご丁寧な事に脱出手段まで用意されている事を知っているティグレはそこだけは今回の一件を仕組んだ連中の思惑を崩してやるつもりだった。


どうもお久しぶりです。随分長い事投稿が遅れました。申し訳ありません


今回出てきた設定としては現皇帝は若い頃から精力的で子作りには定評があった為、多数の皇子がいる

んで、第三皇子は侍女へのお手付きの為、バックがない

第四皇子は病弱で既に死去といった状態です


草原季候などを無理やりに開発してもどこかに弊害が出ます

アメリカの広大な南部の農業地帯は塩害を大量の水で洗い流す事で成立している部分がありますし、歴史に残るものでは旧ソ連のアラル海の開発があるでしょうか

自然改造計画に基づき、広大な地域をアラル海に流れ込む河川から引いた水で綿花地帯として開発を目論んだものですが、結果は大失敗

塩害によって畑は荒れ、更なる被害を被ったのがアラル海。なんと世界第五位の規模を誇っていた広大な古代湖が現在ではほぼ干上がってしまうという惨事を招く事になりました

現地の漁業や水産業は壊滅。水でさえ現在では給水によって賄っているという状態な上、かつて湖水上にあった島に設けられた化学兵器などの研究施設が現在では陸続きといった弊害も……ダムを造ったり、回復に金大量に突っ込んで、何とか一部だけでも残そうって状態です。下手に人が自然に手を出してもろくな事にならないという現実を今に伝えてくれますね

 

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