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ワールドネイション  作者: 雷帝
第二章:王国
30/39

そして蠢く者達

久々の更新です

久しぶりの休みにやっと仕上がりました……

 ブルグンド王国とヴァルト連盟、双方の戦の行方を周囲の国々が常になく関心を持って見ていた頃、複数の国、異なる立場の人々が時も場所も違えど同じような事を考えていた。

 彼らに共通するのはその国の重要な立場にあるという事。

 ある者は王宮の執務室で、ある者は自宅の書斎で、またある者達は宴の片隅で同じような事を考え、口にしていた。

 

 「……矢張り危険すぎるな」


 彼らは一様にヴァルト連盟の国の認可を得る為に取った手段を危険視していた

 ヴァルト連盟は自分達の国との国交樹立を求めた。

 それは各国がヴァルト連盟を「国」として認めたという事。

 それはいい。

 問題はその手段だ。


 各国後宮への侵入を行っての書簡の直届け。


 それが問題だった。

 彼らの事情は分かる。急いでもいただろうし、これまでこうした事への経験がない事という事だってあっただろう

 通常ならば各国もこうもすぐにヴァルト連盟の大使という人族ではなくエルフ族の相手と対面し、国として認めるという行為はなかっただろう。

 だが、後宮へとあっさり忍び込まれた、或いは忍び込む直前まで行かれたとなれば話は別だ。

 もちろん、国によっては王に実権がなく、宰相や有力貴族が実権を握っているという国もあったのは事実だ。

 だが、王宮は仮にも国の顔であり、後宮は王の私的な場。幾ら王を飾り物としている国でも後宮に忍び込まれたとなれば、面子は丸潰れだ。当然どの国もその事実は隠蔽したが、同じようなタイミングでヴァルト連盟を複数の国が承認したとなれば誰でも何が起きたか想像はつく。 

 無論、各国が承認した事にブルグンド王国は表向きは抗議の使者を送ってはきた。

 彼らからすれば国内問題という事で片をつけたいところが各国がヴァルト連盟を国として承認してしまった為に国同士の戦争として扱われる事となってしまったのだ。これは意外と大きな影響を持つ。国内問題ならば各国の干渉も手出し無用と突っぱねられるが、国同士の戦争となれば各国から調停の申し出という名の干渉を断りきれない。

 ……無論、ヴァルト連盟があっさり潰されないという事が前提ではあるが、各国からすれば王国に対して文句を言いたい所だから扱いも悪くなる。その扱いの悪さに王国側は薄々何かが、ヴァルト連盟が何らかの手を打ったのだという事を察する事が出来る訳だ。

 王国同士との戦争、そういう点では悪くない。

 だが、それでも彼ら国の重要人物達からすれば。


 「悪手と言わざるをえんな」


 そう判断せざるをえない。 

 あの時、国交を成立させる事を決めたのは王であったり皇帝であったり、或いは宰相や公爵であったりと立場は様々だったがその最大の理由が「奴等が暗殺者となった時止められるのか?」という点だった。

 何しろ後宮に忍び込んだ、或いは忍び込もうとした他国でなら凄腕級の連中を最低でも彼らは今回国交を結んだ国と同数は抱えていた、という可能性があるからだ。もちろん、使いまわした、という可能性もあるがそこは悪い方を考えておいた方がいい。

 そして、それらを使い捨て同然となりうる任務で使ったという事は……アレと同程度の腕を持つ存在が、いや、それ以上の存在がヴァルト連盟にはいる可能性が高い。

 もし、それらが暗殺者となって牙を剥いた時、果たしてどうなるか。

 それを考えれば速やかに国交を結んだという行動自体には彼らとて否定するつもりはない。むしろ当然の事だと思える。

 そして同時に現状では彼らがヴァルト連盟を敵とする事は出来ない、という事も。最低でも暗殺者を防げる体制を築いた上で、尚且つ短期間に一気呵成に攻め滅ぼせるだけの体制を構築してでなければ「うん」とは言わないだろう。

 暗殺者を防ぐ、と言うがそれは警備などに負担をかける。

 現状の警備だって決して甘い訳ではないのだ。それを更に、となればどこかに無理がかかる。数ヶ月程度ならまだしも何年も続けるのは無理がある。

 裏を返せば、その数ヶ月の間にヴァルト連盟の工作員を壊滅に追い込める状況が出来て初めて戦闘を仕掛ける体制が出来た、と言える訳だ。まあ、ブルグンド王国のトップらが暗殺されていない事、こうして各国との短期間での国交成立を重視した事からヴァルト連盟のトップ、もしくはその近い所にいる者の思惑は予想がつく。まず間違いなく、王国との和平と領土の一部割譲程度に留めての今後の協力体制を考えているのだろう。無論、前と今回とで死亡した貴族らは連盟を恨むだろうがそもそも戦闘を仕掛けたのは彼らから、完全な逆恨みだ。

 それでもそうした行動はなくならないものだが、上層部はそれらを抑えて動く、だろう。

 南部域なら貴族領ではない為に割譲しても貴族からの不満は出ず、王国にしても負担が減るだけだ。幾ら将来は王の直轄領としての収入が期待出来るといってもそれにはまだまだ金も時間もかかるのだ。

 

 しかし、和平を結ぶ為にはブルグンド王国が相手を国として認めなければならない。

 単なる地方勢力では国内貴族らで不満を持つ者が反乱を起こした際に同じ事が起きかねない。

 だが、今回は各国が次々とヴァルト連盟を国として認めた為にそこもクリアしている。一国二国ぐらいなら相手の国内を霍乱する為と看做せなくもないが、これだけ多数が同時となればそうも言っていられない。ブルグンド王国としてもヴァルト連盟を国として扱わざるをえない。何せ、今回国交を承認した国の中にはブルグンド王国とは仲の良い国もある。例えばある国はブルグンド王国の先代王の妹が嫁いでいる、という国だってあるのだ。

 そうした意味では強引にでも国として認めさせたヴァルト連盟のやり方は目先を見るならば間違ってはいない。

 だが、当然ながらそういう強引な手法で認めさせられた国の側としては不快感を裏で持つ。

 だからこそ、彼らは考える。


 (……相手が馬鹿ではないとするならば)


 おそらく、そんな事ぐらい気付いていただろう。

 では何故気付きながら、このような手を取ったのか、まるで……。

 時間がないようだ、と思う。

 もしかしてそうなのだろうか?自らの寿命が近づいているからこそ、短絡的な手を……。

 ……事実かは分からない以上、希望的観測として切り捨てなければならない。

 いずれにせよ……。


 「我が国が関わらぬ所で、奴等の手の内を暴こう、或いは弱めるというのならば」


 それを否定する必要もあるまい。

 


 ◆



 「……ふむ、順調なようだの」


 ヤトマル教国大主教という国の最高官の立場にある老人、サネトモ・リューグナーはにこやかな笑みを浮かべたまま幾度も頷いた。

 ヤトマル教国には順調に各国からの黙認、或いはそれとない支援の形が現れつつあった。

 別に積極的な支援を行ってもらう必要はない。一口に支援といっても色々な形がある。

 ヤトマル教国が行っているのはきちんと正式な外交、ではなく伝手を用いた交渉である。正式な外交での承認を求めれば大々的な支援も受けられるが、それは反面目立つという事でもあり、また正式ゆえに時間もかかってしまう。別にヤトマル教国が求めているのは公式に支持を求めたりする訳ではないが、それでも正式な、というのはそういうものだ。

 だからこそ裏口。

 と、言ってもヴァルト連盟が行ったようなものではなく、それなりに長い歴史を持つ故の方法。

 交易などで交流が発生すれば、或いは大使として赴任していれば自然と貴族のパーティに招かれるなどの付き合いが発生し、その過程で顔見知りとなり上手くいけば更にその先、貴族同士による婚姻といった事も発生する。

 そうした個人的な伝手を通じて、承認と言わずとも黙認レベルの事前の確認を取る訳だ。

 これならば親書を受け取った彼らは彼らなりの国内の伝手を使って、更に上へと届けてくれる。

 幾らこうしたルートを用いたとてそれ自体は一国のトップからの手紙だ。迅速に上へ、上へと上がってゆく。

 かくして、王や宰相といった人物の目に触れる機会を得た親書はその特に彼らの国にとって損をする事のない事柄ゆえに順調に承認が得られる。

 その結果として彼らが必要とする素材などの交易に関してほんの少し優遇が為されるという訳だ。無論、金はきちんと支払われるので他に悪影響を及ぼさない程度に留める限りはどこからも文句は上がらない。

 もっとも、とサネトモはうっすらと笑みを浮かべて呟く。

  

 「果たして本当に彼らが思っている程、損がないかは分からんがの」


 だが、そんな事は自分の知った事ではない。

 国それぞれが持つ知識というものも重要なのだ。ヤトマル教国は長年、かつての大戦からずっと資料を管理し続けた。だからこそ他国に対して今回の一件に関しては優位に立ち、こうして物事を進めているが、その弊害に関しては他国は情報がない故に『ヴァルト連盟に対しての工作』という部分のみが目を引く訳だ。

 まあ、そうした国のトップ達を擁護するならばヤトマル教国の国家運営に関わる者達ですら今回の計画のマイナス面に気付いている者はサネトモの見る限り見受けられない。

 そして、サネトモにわざわざそれを語ってやるつもりはない。

 大体、彼らの立場ならば気付く余地は十分にあるのだ。自分自身が気付いたように。それに……。


 (懸念に終わるやもしれぬしな。全て上手くいけば)


 そしてその可能性は決して低い訳ではない。

 無論こちらのやりようによっては成功する可能性を大きく下げる可能性もあるが、そこら辺はサネトモ自身が手綱をしっかり握っていれば済む事だ。別にサネトモ自身は自殺志願者ではないのだから、可能性が極めて低い事を敢えて押し通すようなつもりは全くないし、可能性をわざと下げるつもりもない。

 それでも最悪の方向へと転がる可能性はあるのだ。

 そう考えつつ、サネトモは新たな書類を取り上げた。

 

 (ふーむ……ヴァルト連盟のトップは人のような形状をした魔物とな?)


 どうやらあれも順調のようだ、と思うが正直、首を傾げてしまう。

 おそらく行われたであろう勇者の召喚。

 その結果訪れた存在が魔物?

 それはサネトモに新たな考えを抱かせる。


 (ふむ……求められる者が優先であり、対象は選ばない、という事かの?だとすれば少々拙いかもしれぬな)


 これがエルフ達という人族とは異なる亜人族が行った儀式であるから。

 或いは、彼らが術式に何らかの加工を行ったというならそれは当然の結果と言えよう。

 だが、もし、そうでないなら。

 そうでないとしたら自分達の儀式においてもまたそうした魔物が出現する可能性が存在している。さすがにそれでは各国を納得させるどころか、国内を納得させる事も難しい。それどころか教団内部ですら召喚陣の解析と召喚を行った者達に対して不審の声が上がる事は必須だ。間違っても、魔物を支援するなどという事にはならないだろう。かといって無差別に放つという事も無理だ。それでは以後各国ともヤトマル教国との関係を見直すだろう。

 大体、魔物をただ放っただけでヴァルト連盟に直進してくれるとは思えない。普通に考えれば進行経路上で暴れるか、その途上のどこかで国家の騎士団による迎撃を受けると考えた方が余程現実的だろう。

 そもそも魔物を呼び出す召喚陣など国内からも「どこかで解析を誤ったに違いない!!」という意見が出るに決まっている。

 つまり、もし勇者召喚陣が『対抗可能な存在を呼び出す』事が優先された代物というのが真実であった場合、召喚された対象次第では改めて「本物の」勇者召喚陣を実質的に新規開発しなければならない訳だ。

 そこまで考えた所でサネトモは深い溜息をつきたくなった。


 (勇者召喚陣が開発された当時の事を思えば、なきにしもあらず、じゃのう)


 何しろ、当時はこの世界の住人達は追い詰められていた。

 とにかく撃退してくれるだけの力がある戦力なら魔物でも構わない、という考えに至った可能性は十分にある。魔物を呼び出すならそれはそれで相手の陣営の傍で呼び出せばいいだけの話だ。勝手に突っ込んで行って勝手に暴れて被害をもたらしてくれればそれでいい。

 そんな風に考えて、魔物すら歴史に残っていないだけで戦力として活用していた可能性は……十分にある。

 だが、それでは困るのだ。少なくとも自分にとっては。

 しばし、考えた後、サネトモは小さな卓上のベルを鳴らした。


 「お呼びでしょうか」

 「うむ、呼び出しをかけてもらいたい。メンバーじゃがな……」


 即座にやって来た侍従神官に指示を出す。

 どのみち一人で片のつく問題ではないのだから。


 ・

 ・

 ・


 「……という訳じゃ」


 集まった一同を前にサネトモは自らが調べた資料を基に説明する。

 ここにいるのは今回の召喚儀式で殆どが何らかの責任者の立場にある者だ。

 殆ど、と敢えてつけたのは呼ばれていない者もいる為で、そういう者は「神のご加護のある我らにそのような事はありえぬ!」と思考停止している者か、ただ場を引っ掻き回すだけの名門と金だけで成り上がった者であったりする。幾ら教団が大きな力を持っていようとも組織である以上腐敗する者、無能な者は出るし、また組織である以上運営にはお金がかかるのだ。

 なので、どうしても一定割合でこうした人物も存在する。

 もっとも、そうした人物は同時に仕事に熱心ではない為、面倒な実務に関しては今ここに代理で出席しているような補佐官が行っている事が殆どな訳だが。

 彼らは説明を受け、口々に語る。


 「矢張り、危険があるのならば一旦魔法陣稼動予定を停止して……」

 「馬鹿な!今更それは出来ん」

 「そうだな、他国の手前もある」

 「ならば、魔法陣起動までに魔物も、いや違うか」

 「そうだな、召喚されるのが人族、せめて人族によく似通った区別のつかない者であれば」

 「うむ、それなら問題はない」

 「とすると、起動前までにどのような召喚が行われるかの解析と、その選別を行う機能の追加か……」

 「無茶を言うな!!今でさえギリギリなのだ」

 「そうだな、古の当時の種族全てが己の持つ技術を持ち寄って組み上げたと言われる技術だ……今では失われたものも多いと聞く」

 「そこに追加など不可能ではないか?」


 彼らの懸念は最もだ。

 勇者召喚の魔法陣は追い詰められたこの世界の種族達がそれぞれに己のそれまで秘匿していた技術や知識を総動員して一気に組み上げたと言われる代物。

 当然、そこには人族の技術だけではなく、エルフやドワーフ、獣人や魔人といった種族特有の技術も混じっているという。

 もちろん、のんびり解析している余裕があればこれだけの技術の結晶、誰かが解析を試みたかもしれないが、当時はそんな余裕もなく、またいちいち細かなトラブルを潰している余裕もなく、完成即起動とでもいうような有様であったらしい。

 確かにそんな状況では細かな確認などしている暇もなければ余裕もなく、結果として成功した事からそこからは国土奪還が最優先となり、それが成功すれば今度は復興事業が最優先となる。

 衣食住足りて礼節を知る、という言葉があるが、まずは着るもの食うもの住める場所が最優先で、研究だの芸術だのはその後。無論、全く為されない訳ではないが、研究も復興に関する事が優先され、今や悪い言い方をすれば用済みな勇者召喚陣などをのんびり研究している余裕はなかったのである。

 ようやっと世間が落ち着いた頃には人族の当事者達は既に鬼籍に入り、各種族はそれぞれ好みの土地にてバラバラに暮らしていた。召喚陣も当時を知るのはエルフ族という長寿の種族ぐらいで、かといって既に森の活用や恵みに関してエルフと人族は対立が始まっていた為に頭を下げてまで手に入れようという動きはなかった。

 結果として、現在残る「勇者召喚陣」はエルフ族が用いるものか、そうでなければ人族が遺跡扱いで保護してあった建物に残る僅かな現物のみ。

 ドワーフ族の知識を記した大書庫にはあるとも言われるが、他種族がドワーフの貴重な知識を閲覧するのは大変だろう。何せ、そこにはドワーフ族の技術の結晶が眠っているようなもの。下手に許可を与えて知識の流出が起きたら世界に酷い混乱を巻き起こしかねないものまで混じっているというから当然と言えば当然の話。

 話を戻すが、そんな貴重なものが勇者召喚に用いられる陣。

 そんなものに機能を追加すると言ってもそう簡単な話ではない。下手しなくても、一から機能を解析し、最低でも同じものを作れるぐらいにはならないと万が一下手に弄って陣としての機能自体が壊れでもしたら取り返しがつかない。

 複写すればいいのではないか、と思うかもしれないが事はそう単純ではない。ただ地面に描いただけでいいなら、幾ら大事に保存していたとてそう延々と持つものではない。

 それに複写するならば召喚陣の陣を描く為に用いられた染料などの素材から調べなくてはならない。もしかしたら、そこも関係しているかもしれないからだ。

 つまり、更に一層の時間と手間がかかる。

 しかも、これらの最大の問題は「どれだけ時間がかかるか見当がつかない」という事にある。

 一月程度なら誤差だろう、だが一年も二年も長引かせる事は出来ない。既に周辺各国には協力を要請しているのだ。

 議長役として敢えて口を出さず、彼らの意見を聞いていたサネトモは深い溜息を押し殺して口を開いた。


 「つまり、現状では特効薬となりうる対策はないという事か?」


 殆どの者がその結論であったのか押し黙る中、口を開いた者がいた。

 ハルノブ・ガルゲン。

 ヤトマル教国主教の地位にあり、国としては軍で後方を担う責任者たる職にある。


 「なに、簡単な事ではありませんか」


 彼を見て、初見で軍人と思う者は余りいないだろう。福福しい顔、いわゆる恵比寿顔は強面という表現からは程遠い人物であり、鍛えられた体もゆったりとした法衣に包まれてしまえば傍目には小柄な老人にしか見えまい。常に、にこやかな笑みを浮かべているのもそれを加速している。

 しかし、その内実は冷徹な狂信者と呼ぶべき男。

 味方には慈悲深く、有能でありながら外には冷徹な判断と分析を下し、切り捨てる事が出来る男。

 そんな男の発言に全員が視線を向ける中、サネトモは興味深げに尋ねた。

 

 「ほう……簡単とはどういう事かな?」

 「殺せばいいのです」


 さらりと言われた言葉を理解するまで一瞬の間があった。

 

 「殺すとは……召喚された対象を、という事か?」

 「その通りです。勇者召喚陣は勇者を召喚する陣……ならば魔物の召喚など単なる事故でしょう」


 あくまでハルノブはにこやかな笑みを浮かべたままだ。

 だが、それを気味悪く思うような者はここにはいない。

 顔見知りという事もあるし、こうした裏の場を知る者達という事もある。だがそれ以上に彼らもまた同じように壊れているからだ……。


 「……当たりを引き当てるまで引く、か。力技ではあるのうが、問題はじゃ」

 「触媒などをどうするか、ですな?」

 「その通りじゃ」


 サネトモとハルノブの会話に他の者も頷く。

 勇者召喚陣の稼動にはそれなりの触媒も必要とされる。

 少なくとも人が動かす陣においては決して馬鹿にならぬ量が……エルフ並の魔力量と魔術構成の巧みさがあれば発動はより容易であると考えられているが、エルフ達とて相当大規模な儀式を行わねば、異界より求める勇者を召喚する際に相手が渡ってくる力は相手頼りになるであろう。

 いや、召喚出来ればまだいい。

 最悪、発動はしたが相手が魔力量不足で陣が不発動に終わる可能性だって存在する。

 揃える余裕がないならばともかく、仮にも国を挙げて行う儀式でそのような真似は許されない。かといって、何回も行うに足る程の触媒ともなれば相当な量になり、費用がかかる上、そもそも何回目で成功するかも分からない。

 だが、ハルノブは焦りを見せる穏やかに告げた。


 「簡単ではありませんか」

 「む?」

 「呼ばれたものは魔物だとて、それなりの力を持っているのですよ……」


 僅かに考え、一同は納得した。

 そう、勇者召喚陣は力ある者を召喚する。

 ……そして、召喚された以上その存在は十分な力を持つ存在であり、それならば触媒の代わりと贄として用いる事が出来る……。

 ハルノブは魔物が召喚された場合、失敗として次の儀式の生贄として用いるという事を提案しているのだ。

 これならば、触媒は最初の一回分で良い上、術者が回復さえすれば幾度でも繰り返す事が可能だ。

 だから、だろう。

 他の者も「それなら」とばかりに頷いている。

 それを確認し、サネトモは一同に確認を取る。


 「良かろう、ならば我らヤトマル教国は……準備が整い次第、勇者召喚の儀を行うものとする」


 頷く者達を見ながら、サネトモは内心で嘲笑い、自嘲していた。


 (……かつて我が国の祖となる方はすがる民を見捨てられずその身を削って民を救い……その名残を名前などに残す事で祖が倒れた後、この国を建国した)


 人は変わらぬ者よの、何百年経とうが未だ変わらぬまま醜悪な事よ。

 そう、サネトモは心の内で呟いた。

 

年末の大掃除と思い、部屋を掃除していましたが……

いや、本が多い

自分はアレコレ本を買ってますが、正直こんなにあったっけ?と……仕舞ってたダンボールからも引っ張り出したら床が完全に本で埋まってる……

何とかある程度まで捨てて、部屋を綺麗にせんとなあ……

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