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ワールドネイション  作者: 雷帝
第二章:王国
29/39

内部謀略の次戦

やっと上がりました……


 ブルグンド王国駐屯地。

 確かに見た目は立派だった。

 貴族達も多数が駐留していたのは間違いない、だが……表からは立派に見えていても中まで立派とは限らない。

 実はこの駐屯地自体がヴァルト連盟に対する罠のような存在だった。

 ガルガンタ侯爵や軍人が最も警戒していたのがヴァルト連盟という国家が如何なる存在なのか分からないという事……大森林地帯のエルフ達が立ち上げた組織だという事は分かっている。

 だが、こと戦争という視点に絞ってみても、では具体的にどのような戦法を取り、どの程度の人口、すなわち最大動員可能な兵力がどの程度でその継戦能力はどの程度か、それすら分からない。エルフが単独では人族を大きく上回る魔術の力量を持つのは……まあ、あくまで平均的な数字の比較ではあるが、事実だ。

 それだけに人族は戦術や数で対抗しなくてはならない。

 だが、相手の動員兵力が分からなければ、必要な数さえ分からないのだ。

 加えて、ポルトンでの一件がある。あの都市からの伝令で魔物がヴァルト連盟と思われる軍に加わっているのは判明していた。

 だが、そこからが分からない。

 ポルトンの戦力と加えれば防衛は可能と判断して送った軍勢は完全に消息を絶ち、全滅したのだろうと推測されている。だが、どうして僅かな生存者すらいないのか……通常、敗戦とみてとれば普通は逃げ出す。誰だって死にたくない。下っ端なら咎められるのを怖れて、或いは戦いに駆りだされるのを嫌がってそのまま逃亡してしまう事だってあるが、一部は戻ってくる。

 そもそも通常ならば一人残らず殲滅ともなれば数倍の数の部隊が必要になる。

 周囲を包囲して、逃がさないようにしなければならず、かといって数が少なければ包囲の一点に戦力を集中して食い破って逃走されてしまう。何せ、そのままでは皆殺しにされるのだから雑兵だろうが何だろうが皆必死だ。一方、勝ちの見えた側はなるだけ死なずに勝利の美酒を味わいたい。故に同数程度では食い破られる。必死の、死に物狂いの反攻すら押さえつける程の圧倒的な力が必要なのだ。

 すなわち、それだけの力があるはずなのだ。

 数千の人族の軍を殲滅可能なだけの力をヴァルト連盟は有しているはず。それが何なのか、数なのか、個の力なのか、或いは秘された大魔術の類なのか。知らないままに戦いを挑めば、再び敗北を喫する事になりかねない。

 本音を言えば全てを暴きたい所だが、そこまで高望みはしない。

 それでも、多数の軍勢を動員すればヴァルト連盟側もそれなりの手を仕掛けてくるはずだった、それ故の罠。


 実は駐屯地、確かに見た目は立派であった。だがその実、中身はといえば相当空に近い状態だった。

 元々魔術による建築というものは素材さえあれば作れる。ましてや外からの見た目だけきちんとしていればいい、となればもっと簡単だ。

 更に、地下に通路を作り、駐屯地から後方に戻す兵はそこを通らせるという徹底振りだ。さすがに地下までは常盤の、植物による監視の目も届かない。 

 それでも、もし常盤が常に詳細に監視出来ていたなら、駐屯地から離れた場所から出てくる兵士、騎士、貴族の姿に気付いたかもしれない。

 だが、実の所監視網とはいえ現代の科学技術によるそれとは違う。

 科学技術による監視網なら複数の人間が監視を行う事が出来る。一定時間後に交代し、更に機械によるセンサーや警報を併用する事で監視する人員が見落としても機械が警告するようにシステムが構築されている訳だが、植物を用いた監視網は確かに気付かれる危険性はより低い。ただ普通に生えている草木がそのまま目となり耳となるからだ。

 反面、巨大な欠点として存在するのが守森常盤という個人に全面的に依存している、という点である。 

 その気になれば常盤の植物を通じての監視は極めて広範囲に及ぶが……それをやると常盤の精神がもたない。数十人分の視点と音が一度に頭に入り込むようなものだ、耐えられるようなものではない。まず間違いなく気が狂う。試しに常盤も二点をやってみた事があるが、すぐに頭が痛くなってきて止めている。聞き流すにしてもごちゃごちゃになって訳が分からなくなってしまった。どうやら自分には聖徳太子のような真似は出来そうにないと実感した常盤であったが、これが結果として駐屯地から地下通路を通じて抜け出す者がいるのを見落とす原因となった。駐屯地を見ている間にそこから離れた場所から出ていくのだからどうしようもない。

 幾ら無限に近い監視カメラがあっても、それを監視する人員は常盤ただ一人。それがこの結果を生んでいた。 


 

 ◆



 もっとも、ではブルグンド王国側の思惑が全て成功したのかというならば、そうでもない。

 ヴァルト連盟の手の内の一端でも暴く、可能ならばより重要なものを、という狙いは成功した。問題はその代償だ。

 彼らはヴァルト連盟からの攻撃をあくまで彼らの常識の範囲で考えていた。

 少数による奇襲か大軍による強襲か、攻撃は物理的なものなのかそれとも魔術によるものなのか……当り前と言えば当り前の話だ。現実的な問題として考えうるありとあらゆる手段への事前対処など不可能だし、そもそもそのような事をした所で相手が取る手は一手のみ。すなわち、たくさんの対策を取れば取る程、取られなかった策への対抗策として使われた労力や資源も無駄になる。

 相手が想定外の一手を打ってきて、それが大打撃に繋がったらどうするのか、と思うかもしれない。

 だが、そもそも想定外の一手とは考えてもいなかった方法だからこそ想定外なのであって、考え付かないような策への対抗策など考えられるはずもない。

 なので王国側としては彼らとしての常識的な対策に留めていた。

 だが、感知魔術による探知網は発射前に感知する事を前提としている。

 まさか感知した時点で既に発射済み、砲弾の着弾まであと数秒という事態など想定していないし、急ぎ声を上げた瞬間には着弾する為に退避も防御魔術の強化も不可能だ。加えて、通常展開されている魔術は、遠距離からの魔術の発動阻害を目的としたものであって物理的攻撃への障壁を目的としたものではない。消費魔力の関係でどうしても通常はそうなる。

 退避すら出来ずに直撃弾を食らえば、被害が拡大するのはむしろ当然の話と言える。

 

 そもそもガルガンタ侯爵とて貴族派の無能を粛清とかそうした考えを持っていた訳ではない。

 ことなかれ主義の連中は自分達が一方的に損をするのでなければそこまで反対しない。

 被害を怖れる消極的な連中も今回に限っては問題ない。

 ある程度状況が分かる連中は理詰めで話せば理解する。

 一番面倒なのが今回の作戦の意義を理解せず、突っ込みたがる連中だ。

 故に実質的な司令部はこう考えた。

 

 『なら突っ込ませてやろう』


 ならば前衛、先陣を任せると言えば喜んで自分達の陣営を駐屯地の前の方へと置く事を了承した。

 無論、彼らの配下や彼ら自身が犠牲になる可能性は高かろうが、それでもあくまで名誉の戦死の範囲であり、家という観点で見るならば貴族としては問題がない。彼らの家はある程度力を落とすだろうが、彼らとて跡継ぎは実家に残している、はずだ。全員で特攻して結果、家が断絶しようとさすがにそれは各自の家の問題だ。彼らの知った事ではない。

 けれども、まさか感知魔術の射程外から全建物へ一斉に攻撃が行われるとは予想だにしていなかった。

 お陰で地下道も埋まってしまったが、どのみち普段抜け出す時ならともかく、緊急時の脱出には地下通路なんか危うくて使えたものではない。間違いなく渋滞と将棋倒し、或いは誰も彼もが動けなくなって骨折などの重傷者や圧死者が出るかもしれない。

 なので、即効内側からは楽に倒せるよう細工してあった防壁を倒し、部隊は離脱した。……建物の下に埋もれた連中はすっぱりと見捨てて。

 結果、部隊の損害自体は想定内だったが、想定内ではなかった部分でこうしてガルガンタ侯爵が呻く事になっている。


 「……駐屯地にいた貴族達の三分の二が死傷と来たか……」


 頭を抱えたい気分だった。

 建物は十分に頑丈だった。

 だが、それはあくまで住居としての頑丈さであって、敵の攻撃を受け止める要塞としての頑健さではない。

 要塞ともなれば、ある程度居住性を犠牲としてでも防御重視という事になるが、それでは貴族の滞在する建物として相応しくない、と言い出す連中が必ず出る。

 例えば窓を大きく取れば、見晴らしは良くなる。風の通りも良くなるだろう。

 反面、壁の強度は下がるし、そこから矢が飛んでくる可能性が高まる。サイズが十分大きければ、そこは敵の侵入路ともなりうる。

 結果として、今回作られた建物は砲撃に耐えうるだけの耐久性を保持していなかった。崩壊した建物の瓦礫は中にいた人員を殺傷するに事足りる上、今回は攻撃が行われた場合の迅速な退避が事前に命令されていた。下手に逃げるべきか否かに迷って手遅れになる事態を懸念した為だが、その結果、崩壊した建物内で生存していた貴族も多数がそのまま取り残されたのである。死傷、と言ってはいるが、その大半が死亡という大惨事だった。

 助かったのは自分同様建物に入らず、テントや外にいた者やたまたま崩壊した建物から脱出出来た者程度だ。

 だが、とガルガンタ侯爵は考え直す。


 (……こちらを非難する者もいるが、大多数はむしろ私を支持しているからな。問題はなかろう)


 元々、今回の作戦自体は事前にきちんと了承を得ていた。

 その上で、やって来た連中の大半はヴァルト連盟を甘く見て、そこまで慎重にならずとも大丈夫だろう、戦果を上げる、功績を上げるチャンスだ!と勝手に判断していた連中である。

 本当に強硬な話を聞かない馬鹿は一部で、大半の連中はおこぼれ狙い、後についていって勝利の一端を担ったという結果を得る腹だった為にきちんと何か予想外の事が起きたら即効退却、というのは素直に了承していた。

 何が言いたいのかと言うと、あの駐屯地にいたのは「被害を受ける可能性」を想定していた者ばかりだという事だ。本当に覚悟が出来ていたのか、これまで王国側が敗退してきたという現実を理解していたのか怪しい部分はあったにせよ。そもそも戦争な以上、そしてその最前線に自分から来た以上死ぬ可能性を考えていない方に責任がある。

 もちろん、それでも文句を言う者はいる。

 だが、大半の貴族はむしろガルガンタ侯爵のヴァルト連盟が何らかの手を隠しているかもしれない、という可能性が的中した事を評価していた。

 実際、彼ら貴族達の本音はこうだ。


 「侯爵が今回の囮作戦を考えなかったら、自分達も死んでたかもしれない」


 こうした読みが出来る人物の存在は貴重だ。

 何しろ係っているのが命そのものだ。 

 兵士にした所で無闇と突っ込ませるだけの相手より、きちんと考えてくれる相手の方が有難いに決まっている。結果、貴族達もガルガンタ侯爵の読みをお世辞だけではなく、本気混じりで褒め称えるという訳だ。

 しかし、密かにカペサ公爵とも話したが、ガルガンタ侯爵自身は憂鬱な気持ちが取れないままだった。


 (……長引くかもしれん、対陣がな……だとすれば公爵と協力して早々にヴァルト連盟との和平を進めた方が良いかもしれん)


 今回の攻撃の正体が分からないと、また同じ事の繰り返しだ。

 現在は撤退後の拠点として準備していたアルカ城砦にこうして篭ってはいる。

 アルカ城砦はブルグンド王国王都南方方面にある城砦である。

 元々はかつて南方地域を攻略する為の拠点として開発された城砦であり、当時南方に大きな勢力を持っていた相手の虚をついての建設が求められた為に元からあった岩山の内部を外観そのままに魔術で時間をかけてくり貫いて建設したという代物故、先のヴァルト連盟からの攻撃にも十分耐えうると判断されていた。現在は城砦としては使われていなかったが、南方からの侵攻があった際の防衛拠点として必要な整備という名の管理はされており、この度本来の役割を取り戻したのだった。

 だが、それでも。

 あの攻撃の正体が分からない事には、迂闊に仕掛けられない。

 おそらく何らかの物体を感知魔術の射程外から飛ばしたのだという事ぐらいは彼らも既に理解していた。

 問題は「何を」「どうやって」「どのぐらいの距離を」飛ばしたのか、だ。

 魔術なら分かりやすかった。それならば観測の手段さえ何とか出来れば超遠距離から発動させる手段を持っていると認識すればいい。

 だが、魔術ではない、とブルグンド王国軍の魔術師達は断言した。

  

 飛ばしているものに関しては正確な正体はわからずとも、見当自体はついている。

 おそらく、だが破裂する性質のある何らかの物体を飛ばした。正体が分からずともそれで十分だ。

 この考え自体はすぐに思い浮かんだ。実際、投石機を用いて行う攻撃でも石以外を投げつけるという事はよくある。火災を発生させる為の油や火種というならまだマシな類で、防衛側の士気を砕く、或いは冷静さを失わせる為乃至伝染病の発生を狙い死体やばらした人体を放り込むといった事さえ行われる。それに比べれば爆発する何らかの物体を飛ばした、というのは戦闘においては真っ当なやり方だった。

 飛来する物の正確な正体は不明だったが、これは仕方の無い話で、高速で飛来する砲弾となった矢死の実は人には昼間でさえ精々影が一瞬捕えられれば良い方。夜間ともなればまず見えない。この世界には曳航弾などといったものはないのだ。

 加えて、飛来したのは植物であり、野営地にも木材や植物は多用されている。吹き飛び焼けてしまっては正体を知る由もなく、また迅速な逃亡を優先した為に手掛かりをのんびり探している余裕もなかったし、それは今はいいと後回しにされていた。


 問題とされているのはは「何を」でもなく、「どうやって」でもなく、「どのぐらいの距離を飛ばしているか」だった。

 通常の弓矢の射程は精々がところ数百メートル程度。

 大型の攻城兵器も似たり寄ったり。

 人の手で引ける程度の武器となれば更にその射程は短いものとなる。

 一方、今回の攻撃は飛来する方角が判明した時点でその方向に絞って感知魔術を数キロに延長したが尚、感知出来なかったという報告が上がってきている。

 それを考えるとガルガンタ侯爵もどう対処するべきかと悩む。

 

 (……仮に射程が十キロとしても)


 常にその十キロを感知魔術の範囲に納めるなど不可能だぞ、と頭を抱えたくなる。

 通常、感知魔術の範囲は半径一キロ程度。

 それ以上は見張りで対処するし、感知魔術での結界は基本潜入工作や忍び込もうとする魔獣対策で行われている。

 これを十キロにした場合、ただ感知範囲が十倍、という訳にはいかない。

 上空警戒も必要で、地下から仕掛けるという事も過去にあった為に感知魔術は球状に展開される。すなわち、感知の距離が十倍に広がるならば感知魔術を広げた場合体積で計算しなければならないのでその三乗、十かける十かける十で、感知魔術がカバーしなければならない範囲はこれまでの千倍にもなる。しかも、それでカバーしきれる保証すらなく、最悪魔術師にただ負担をかけただけで同じ攻撃を再び受けるという事になりかねない。どう考えても処理不足だ。いきなり「これまでの千倍の仕事をしろ」といった所で出来る訳がない。そんな事は馬鹿でも分かる。

 やるとしたら人数を増やすしかないが、軍属魔術師の動員割合をこれまでの千倍に増やすというのもまず無理だ。

 しかも射程が不明である為、この数は増える事こそあれ、減る可能性はまず、ない。

 だからこそ、ガルガンタ侯爵はいっそと考える訳だ。


 (どのみちこのまま膠着状態へ突入すればヴァルト連盟側はゆっくりと南方の制圧を行う事が出来る)


 つまり、ヴァルト連盟側は時間を稼げればそれで十分。

 これ以上王国側が侵攻するのを躊躇えば、南部は見捨てられたと判断するだろう。

 元々、南部というのはブルグンド王国では最後に加わった、というか占領された地域であり、実の所未だ王国への反感も根強い。開発が遅れているのもそこら辺に理由がある。

 王国もまだ他の地域同様にドライに割り切ってくれるのならばまだやりようがあったのだが、当時の南部というのは家族的な結びつきが強い地域であった。

 小さな小領主と呼べる存在が多数いて、外部には連合して立ち向かい、内部の揉め事は集まって話し合って決めるというもの。

 無論、家族的といっても仲の悪い者同士はいたし、そこから対立を煽ってというのは常套手段な訳だが、南部の住人というのは酷く外部からの介入を嫌い、どんな仲の悪い相手を倒す為でも王国の誘いには絶対乗らなかったのである。

 当時の交渉を行った者の言葉として残されている言葉があるが。


 『あそこまで行くと最早病気』


 と匙を投げたとしか思えない言葉だったりする。

 実際、最終的に一個一個潰していくしかないと判断され、その面倒さから攻略が後回しになり、またそのしぶとい抵抗故に破壊の度合いも大きく、深い遺恨も残った。

 南方がこのまま孤立すれば、王国の軍勢がすぐにはやって来ないと分かれば、王国派遣の官吏など早々に叩き出されてしまうだろう。下手をすれば殺される可能性もある。

 開発が進んでいれば利権で転ぶ者もいただろうが、未だ開発が緒についたばかりの状況で、反抗心も根強いとなれば官吏も当然力でそれを抑えるという手段を取らざるをえず、結果更に恨まれるという悪循環。何せ、これまで地元の権力者を取り込む形で大きくなってきた王国だけに地元の権力者が激減している上に恨みを残しているとなればそのまま貴族に取り立てる訳にもいかず、なるはずもなく。

 かといって、長年根付いてきた地元を罪もなしに離れて、戦乱で荒れた地へ貴族として赴け、というのは何の罰ゲームだ、というような話であり、それが前例になったら、という疑心暗鬼が広がれば王国の政情不安定へと繋がりかねない為、南部は貴族が置かれず王国直轄領として扱われていた。地元に根付く貴族ではなく、一時的に中央から派遣される官吏、というのも力による制圧が安易に選択された原因でもあったのだろう……とガルガンタ侯爵は思う。

 そんな地域だ。

 ヴァルト連盟がどのような統治を行うかは不明だが……元々彼らは大森林地帯に人が手をかけるその時まで後退に後退を重ねてきたエルフ達だ。

 逆に考えれば彼らは別段自分達の領域を侵されなければ、争いを避けてきた種族である……いや、あった、と言い換えるべきだろう、今では。

 南部領域にした所で王国へと味方するのでなければ案外あっさりと協力体制を築きかねない。ことブルグンド王国に対抗する、という部分だけでは彼らは協力出来るはずなのだ。

 その七面倒な領域をそれでも押さえ続けてきたのは下手に独立を認めたり放置したるすると他の地域からも不安や不満が噴出す危険があった為……。

 そこまで考えて、ガルガンタ侯爵ははた、と気がついた。


 (……南部は本来そこまで、大量の血を流してまで維持しなければならない程は王国にとって価値はない。むしろ赤字だ。それを維持してきたのは他の地域が動揺するのを防ぐ為……)


 今なら可能ではないか? 

 王国のお荷物となっている地域を切り捨てても貴族が納得する状況が成立しうるのではないか?  

 もちろん、それですんなりと行く訳がない。

 貴族達からの突っ込みもあるだろうし、説得にも手間はかかるだろうが……それでも今の状態でヴァルト連盟と戦うよりはマシだとガルガンタ侯爵は考える。

 

 ヴァルト連盟は引き出しが多く、未だ不明な点が多すぎる。

 そもそも、現在の森の急拡大もヴァルト連盟が絡んでいる事だけは間違いない。

 異常すぎるのだ、あの森は。

 急速すぎる繁茂、通常何年も何十年もかけて生まれるような森が数日で生まれ、悪意を持って踏み込めば帰って来ない。

 そういう意味ではあの森がそもそも要塞のようなものだ。

 加えて今回の魔獣の軍勢に超遠距離攻撃。

 これらの情報を明らかにすれば、保身に長けた貴族程危険を察知するだろう。

 ……双方に被害が発生していれば、ヴァルト連盟も強硬姿勢に出たかもしれないが、今回は向こうは一方的に勝利を得た側。

 ガルガンタ侯爵自身の立場を考慮するならば、失敗があればそこを付け込む者がいたかもしれないが、今回は相手の手を見破る為の罠を提案した側だ。自身を非難するにしても、その理由となると精々が被害が予想されていたより大きかったぐらいだろう。その程度ならば何とでもなる。

 ふむ、と僅かに笑みを浮かべると立ち上がった。

 カペサ公爵と話をする為に……。


 (とはいえ、放置も出来んな……教国からの例の話の事も話し合ってみるとするか) 


 そんな事を考えながら……。

久しぶりの更新です

長らく間があいてしまいました……


しかし、詰まった時に限って他のネタが思い浮かぶのは……

まあ、今回思い浮かんだのは前にこちらで投稿していた「飛竜になりました」のオリジナル話バージョンなのですが

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