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ワールドネイション  作者: 雷帝
第二章:王国
28/39

混沌の初戦

 植物は動けない。

 その為様々な手段で虫や鳥の協力を得る。

 例えば、蜜を集める蜂はその蜜を集める為に花の中で動き回るが、結果として狭い空間内で動き回る為に受粉が行われる。そして、受粉した花は実となる事が出来、良い香を発する事で鳥をひきつけ、その実を食べた鳥によって種がやがて遠方で糞という形で排出される。

 それによって植物は自力では到達出来ないような場所へも種を運び、繁栄する。

 或いは種自体を風に乗せて空へ飛ばし、或いは海に浮かべ……。


 だが、世の中そんな上手くいく事ばかりではない。

 

 一部の種が砕かれ、生える事なく散っていくのは良い。

 だからこそ植物は多数の種を宿し、蒔くのだから。

 だが、時に病気が、気候や災害が、そして虫や獣が植物の命を刈り取る。

 これに対抗するかのように植物も対策を取る。或いは虫の嫌う匂いだったり、純粋な毒であったり様々な訳だがこれがファンタジー世界となると少々異なる。

 例えば、抜けば相手を殺す悲鳴を上げる植物であったり、果ては相手を襲う最早撃退するのではなく襲撃する側に回ったりと様々だが、それは『ワールドネイション』でも変わらなかった。例えば、ある植物は危険を感知すると異様な速度で逃げ出す、という代物であり、この植物の実を求めるクエストではきっちり地形を把握し、その植物の特性を理解し、罠を張り、追い詰めていかないとまず手に入らないというものだった。

 それを目的としたクエストである事はご理解頂けると思うが、今回常盤が出した植物も大概である。

 

 要塞樹。

 

 それが今回常盤が持ち込んだ代物だ。

 この植物、サイズによって呼び方が異なる。

 最小サイズならば砦樹。更に大きくなると城砦樹となり、最大サイズで要塞樹となる。

 この樹木の特性は自分を守る兵士を生み出す事。

 自分が動けないなら自分を守る者を自分で作ればいいじゃない、とばかりにその巨体に生る実や葉、果ては地下茎に至るまでが素材となるある種のゴーレム兵団を作り出す砦や城というよりは生きた工房とでも呼ぶべき樹木なのである。その数は砦樹ならば十体、城砦樹ならば百体、要塞樹では千を構築する。

 これを防衛に必要と思われる場所に常盤が配置した。

 いちいち砦や出城を作っている時間も資材もない?それなら自力で整える奴に代わりをやってもらおう、という初めて聞いたエルフ達の誰もが何とも言えない顔をした話だ。まあ、効果的なのは間違いない訳で、何か納得いかないような顔をしていたエルフ達も植えるのには反対していない。

 無論、どこにでも植えている訳ではないが、ここは元々街道があった場所。

 当たり前だが王国側が進軍してくる場合、一番可能性が高いルートだ。元々王国の領土、当然だがその支配層は王国の可能な限り詳細な地図を保有しており、変な方向へと進む事はない。

 この場合重要なのは切り離された南方との連絡をつける事であり、それには南方最大の都市プライアを目指すのが一番良い。そこを基点に南方は開発を進められており、裏を返せば南方の街道は一旦プライアに収束するからだ。そこから王都へ向けて街道が伸びている。他にも道がない訳ではないがいずれも間道と呼ばれる類のもので、大軍を動かすのに十分な道幅はない。更に言うなら、大軍の移動を支えられるだけのインフラが間道周辺に揃っていない。

 四万という大軍を動員した時点でブルグンド王国軍は正規の街道を選択せざるをえなかった、という事だ。

 

 そして、街道が走っていたとなれば馬鹿でもそこが重要な事は理解出来る。

 結果として要塞樹、と呼べるだけの大きさに成長した樹木が複数。そして更にその上、ゲーム内での限界サイズを超えた城塞樹と呼ばれるに至った巨木が存在し、複数の要塞樹を統括していた。その高さは実に五十メートルを超え、八十メートルに迫ろうとしている。最も、これでも世界樹の若木を母体とする精霊王エントこと常盤と比してはまだ小さいとしか言えない訳だがそれでも高さだけではなく、いや、高さ以上に横に大きく広がったその巨木の威容は決して笑えるような規模のものではなかった。

 しかし、如何に巨木といえど、自らは動けない以上見える範囲には限りがある。

 それをカバーするのが自律行動型のゴーレム、というより意志を持つゴーレム部隊を統括する木人。

 

 「それが俺って訳だ」


 そう呟いて……けれども周囲にいるのは意志を持たぬゴーレム達故に、しんと静まり返った空間に気まずい思いをしたのか「ゴホン」と咳払いする。

 今回作り出されたゴーレム達には共通の特徴があった。

 元々ゴーレムである以上、視覚に頼る必要はなく、元が視界の悪い密林地帯でも稼動可能な事が必須条件である為に視覚ではなく生命そのものを感知して彼らは動く。オーラでも気でも呼び名は何でもいいが、とにかくそういう生命の気配を感知する。

 無論、それだけでは同じゴーレムなどからの防衛に不備を来たすので光感知、視覚も一応備えてはいる。

 今回用意された兵力は城塞樹x1+要塞樹x5の兵力。それぞれが自己防衛の為にある程度の兵力を残し、半数を派遣。

 総兵力四千。

 十分な兵力ではあるが、これだけでは相手側と比較するなら所詮は十分の一に過ぎない。

 つまり、真っ向からの勝負は考えるだけ無駄。

 

 「ま、真っ向勝負なんてやる気ねえけどな」


 ニヤリ、と。

 木人である彼は視線を後ろに向けた。

 今回の任務にあたって、いずれも事前に準備されていた物……。後は夜と報告を待つばかりであった。

 既に地上警戒網は植物達によって構築されている。

 空中の視界も確保されてはいるが、そちらは空を漂うといよりは空をゆっくりと舞う程度のものなので現在は投入されていない。

 その任務についている一つから野営の支度が為され始めた旨の報告が入る。

 ……どうやら予想通り、現在の野営地からの移動を諦めたようである。それならば良い。昨晩までの観測で掴んだ情報で判明した配置が大きく変わる事もないだろう。


 「さて、もう少し暗くなったら俺らも移動だな」


 連中が警戒して森の中へと踏み込むどころか近づかないのが助かる。

 お陰で、こちらは森の淵ギリギリで待機する事が可能だ。


 「足が今の所は遅いのがうちの欠点だからな……別働隊がそこは羨ましいぜ」


 ぼやくように呟く木人。

 識別名称などはない。

 彼らはいずれも意志はあれど、一つの樹木の下に生まれ、その樹木の意志を受け、戦い散る者。

 名前などなくとも彼らは互いを識別出来、互いを理解出来る。そう、彼らは手足であり、頭脳ではない。そして頭脳であり母たる樹木は常に自らの手足がどのように動いているかを理解しており、右手をどこに、左手をどこに、右足と左足はどこにあってどのように動いているかを常に把握しており、故に木人たる彼に迷いはない。

 そうして、常盤より伝えられた狙いのままに生み出された彼らは母の意志に従い正に一糸乱れず行動を開始したのである。




 ブルグンド王国軍が先に設けた野営地から動かなかった事。

 それは仕方がない事であった。

 そもそもこの場所は簡易ながら立派な拠点、野戦築城が為された状態にあった。

 原因は単純。ここから先は実質彼らにとっての敵地である。

 元がブルグンド王国の領土であるとかは関係ない。冷徹な事実として口には出さないが森によって侵食され、南方との街道を遮るそこはヴァルト連盟を名乗るブルグンド王国の「敵」によって支配される地であると誰もが理解していたのだ。

 当然だが、ここから先は安全な場所を確保出来るとは限らない。

 最終的に道を切り開きながら進む事には一応決定はしたものの、森の中というのは基本的に大軍の行動には向かず、また今日の魔獣の襲撃で相手は魔獣すら組織化している可能性が出てきた。

 となれば、最悪道をある程度切り開いたら一旦その周辺を制圧する事すら余儀なくされる可能性がある。

 一番手っ取り早いのは派手で目立つ大勝利な訳だが、そんなものを得られるとは少なくとも上は思っていない。

 何せ、相手は森の中からまともに出てきたのはポルトン包囲戦以後全くない。これで真っ当な戦が為されると考える方がおかしい。


 「所詮奴等は亜人よ」

 「正々堂々と戦う事すら出来ぬか」


 などという嘲笑も聞こえたが、それもどこか虚しい。勝利を求めているのはブルグンド側であってヴァルト側ではないからだろう。

 まあ、何が言いたいかというとこの場所は拠点として物資集積所も兼ねているという事だ。

 それだけに警備も厳重、各種の防備施設も永久築城レベルだ。ここら辺は材料さえ揃っていれば建物を即効で作れる職人芸の魔術師の存在あっての事だとも言える。

 既に儀式魔術に対する防御魔術の結界も敷かれ、現在は四万近い兵力が駐屯している状況、さすがにこの状況ではここへの攻撃は自殺行為……。


 そのはずだった。


 無論、別にそれは嘘ではない。真正面から突撃すれば、それは確かに自殺行為だろう……だが、別に正面から当たる必要はない。

 もちろん、王国側とてこれまでの事もあり、あれこれと対策は練っていた。

 内部に入り込まれた時を考え、内部に対しても警戒の為の兵士の巡回を行わせるようにし、魔獣対策に周囲には堀を形成、壁も構築した。

 一度にまとめてやられないように、貴族や上級軍人らの宿舎は幾つかに分けて配置し、食料などの物資も小分けにするだけでなく、もしも破壊工作員の潜入により放火が発生しても被害を少なくするべく水を張った小さな池をその傍らに形成した。

 彼らは実に真っ当に対策を考え、実行した。

 

 さて、唐突だが魔術の射程というものについて説明しようと思う。

 実の所、魔術というものの射程は長くて短い。

 矛盾しているようだが、その原因は魔術の照準をつけるのは人の目だから、という事に尽きる。

 魔術の本来の射程は長くても、見えなければ撃てない、正確には撃つ訳にはいかない。まさか、適当な当てずっぽうで大規模破壊魔術を撃ち込む訳にもいかないので、どうしても自身の目で見て確認してから撃ち込む事になる。

 山に登っても木々が生い茂っていれば案外視界は限られるし、遠すぎても個々の区別がつかない。

 ちょっと紛らわしい服や鎧を着込んでいればそれだけで誤射の可能性が生じる。

 結果として、魔術の射程はどうしても短くなってしまう訳だ。 

 野球スタジアムに行って、バックスクリーン近辺からバッターを見ても「人がいる」ぐらいしか分からない。鎧や武器で見分けるにしても、騎士クラスならともかく一般兵レベルでそこまで遠目に見てはっきりした区別がつく程の見た目の違いを与えるのは難しい。大体、騎士にした所でまさか鎧全部を真っ青に塗るだの、真っ赤に塗るのもどうかと思ってしまうので、大抵は旗や鎧に紋章を描く事で対応しているのだが、少なくとも大部分を単一色で塗らないと遠目には区別がつくような訳がない。

 では建造物相手ならどうかというと、これは案外防がれやすい。

 誰だって、超遠距離からの儀式魔術による攻撃というものは考えるし、事実「ワールドネイション」においてもベータテスト時に行われた。

 結果として、建物自体に一定距離以上の攻撃に対する結界が敷かれるのが当り前になった。儀式魔術による超遠距離攻撃にした所で事前に固定された目標を認識し、その大まかな位置目掛けて干渉し、魔術を発動させるという形式には変わりはなく、即興で組まれる干渉と、事前に時間をかけて建物自体に組み込まれた干渉妨害とでは後者に軍配が上がる、という訳だ。

 結果として、魔術の射程そのものは長く、その気になれば数キロ離れた地点から発動させる事は出来ても、固定目標に対しては防御手段が確立されてしまっており、かといって移動目標に対しては視認して発動させねばならない上に軍と呼べる規模となれば当然互いにそれなりの数の魔術師と魔道具を揃えている。

 結果として魔術は互いに視認出来る距離での火力という事になり、教育の手間を考えると一般兵には弓の方がまだ手っ取り早い。

 自然と人族における国家レベルでの魔術の使い方というものは味方への強化、鍛造へのエンチャント、探知や防御系の魔術が発達していく事になり、攻撃系の魔術となるとダンジョンなどに挑む冒険者向け、というイメージが固まってしまっている。

 

 結果として、人族の魔術師はその飛来を感知する事に成功した。

 防御系の魔術も発動した。

 問題は飛来したものが彼らが想定していたものとは訳が違った事だった。

 王国側の魔術師は手順に従い、感知担当は周囲に警戒を促し、それに従って伝令が走り、防御担当者達は分担して魔術に対しての干渉による防御魔術と矢に対する風の防御魔術を発動させた。

 矢や槍というものは点で攻撃してくる為、横風を万遍なく叩き付けて勢いを弱らせて弾き飛ばす、そんな魔術だった。


 そして。


 飛来したのは回転の加わった砲弾だった。


 鉄の男と呼ばれる人物はある存在を指してこう呼んだという話がある、すなわち「戦場の神」と。

 そう、現代戦では必須の存在、砲兵である。   

 今回動員したゴーレム達は複数の合体機構を持ち、合体する事で砲となる。

 これに砲弾の運搬要員相当を含め、四千といえど実際に砲撃可能な砲形態となれば一門辺り五名で形成され、五名が砲弾運搬を行う為に四百組になる。

 しかも、移動させる為の合体機能や砲撃形態を持たせる為に単体としての戦闘力は決して高い訳ではない。

 本音で言えば常盤としても合体機構などオミットして、自走砲のような形態にしたかったのだが、構築サイズの問題と移動の問題で断念せざるをえなかった。

 移動に関しては自走砲のキャタピラや車輪を考えたのだが、森の中では車輪は論外、キャタピラは実は耐久性が厳しい。それだけでなく森を破壊しながら進む事になってしまう。余り歓迎したいやり方ではないし、何より破壊しながら進んではどっちの方向に進んだのか教えているようなものだ。破壊痕を追っていけば出会えるのだからこれは却下。

 そうなると多脚戦車なんて色物になってしまう。

 これは一からバランスを考え、脚の太さや本数まで全て手探りだ。カニとかがサンプルにはなるだろうが、あちらは海、こっちは森。場所や加重の掛かり具合がまるで違う。

 加えて、建造サイズの問題があった。

 一体一体実から生れ落ちる木人は問題ない。元から例えるなら職人芸による一品物だからだ。

 だが、ゴーレム達は違う。

 サイズが大きくなると量産に支障を来たし、計算した所分離合体機能を搭載した小型を多数生産する方が一体で自走砲機能を持つ大型を生産するより効率が良いと判明。分離合体でまた最初のゴーレム達が完成するまで手間取ったのだが、一旦出来上がると後は早かった。

 砲弾は危険植物を加工したもの。

 発射は薬室担当のゴーレムが爆発魔法によって弾き飛ばす形式。

 ライフリングによって砲弾の軌道をある程度安定させ、観測班は事前配置した警戒網を用いる。

 更に加工した植物にRAP砲弾に似た効果まであった事から射程は大幅に伸びる事になる。

 こうして得た砲撃機能。

 実を言えば当初、常盤は素直に空からの攻撃を考えた。空爆というのは密林地帯ならばともかく、開発され開けた平地に相手がいるとなれば極めて有効だ。地上攻撃機を考えるならバルカン砲みたいなものを据え付ければもっと有効だが、あちらはさすがに無理だろうと諦めている。

 問題は爆弾に相当する品の運搬である。

 小さな爆弾では十分な爆発が生まれない、かといって、大型では数が限られる。

 そもそも空を飛べるといっても元の世界の大型重爆撃機とは違うのだ。持ち運びにしても両手で持つしかないし、専用の持ち運び道具を用意しても運べる量はたかが知れている。むしろ空挺師団レベルの軽装備だが個々の戦闘力が高い面々で構築した方がまだいいだろう。

 では、と考えて思いついたのが砲撃だ。

 爆弾を抱えて空を飛ぶのは難しくても地上を運ぶだけなら何とかなる。それこそ馬車なんかを使ってもいい。そうして、今、王国側にとっては想定外の攻撃が飛来し続けていた。

   

 「何が起きた!」

 「お、おそらく投石機の類かと……」

 「ならば斥候を出せ!!そう遠くはないはずだ!!」

 「見張りは何をしていた!!」


 ここで出た投石機というのは古来より存在する。一般にイメージされる投石機はカタパルトか、乃至はトレビュシェットと呼称される二種類のタイプだろう。

 だが、射程は精々が数百メートル程度。大型のトレビュシェットの場合で飛ばすものも重い為に三百メートル程度。

 幾ら夜間とはいえ、野営地近隣の周囲に視界を遮るようなものはない。加えて、ここまでの破壊をもたらしているとなると当然採用されるのは小型のものではないはず。すぐに発見出来るはずであった。

 そして、そもそもそれらは機動性がない。

 カタパルトならまだ多少は動かす事も出来るが、それなら小型のはず、ここまでの破壊はもたらせないはずだ。そう考え、彼らは周囲を検索した。前述の通り、軍は感知系の魔術に関してはアレコレと資金も投入し、研鑽を積んでいる。一キロも検索するぐらいなら然程時間はかからない、そのはずだった。


 「……まだか!?何時までかかっているのだ!!」


 なのに、何時まで経っても「発見した」という報告が入らない。

 何かが飛来しているその、大まかな方向は分かっている。

 それなのに未だ飛来する方向が分からないとはどういう事なのか!感知を命じた軍人はそう憤りを感じる。見張りが気付かなかったのはまだ仕方がない。既に夜だ、彼らに期待されているのは近づいてくる者がいないかの警戒であり、遠方に投石機が現れたとしても詳細を見て取る事は出来ないだろう。

 だが、魔術で未だ……。

 そう考えていた為に魔術師達の戸惑いを込めた返答に反応が一瞬遅れた。

  

 「……なんだと?」

 「半径三キロを既に探索致しましたが、未だ発見に至りません……!」

 「ば、馬鹿な!!そんなはずが」

 「事実です」


 彼らが知る由もなかったが、この時砲兵部隊となった集団がいたのはこの駐屯地から離れる事実に十五キロ。

 これでも最大射程からすれば余裕を見ているのだが、この世界の常識からすれば非常識としか言いようのない距離である。

 だからこそ、魔術師達も軍人達もこう考える、すなわち……。


 「……何らかの魔術で隠蔽しているはずだ!徹底的に探せ!!」

 「了解!!」


 結果として被害は拡散する。

 魔術師達も無傷ではいられず、次第に倒れてゆく。

 幸いだったのは……。


 「む……」

 「!侯爵閣下!お気づきですか!!」


 総司令官が無事だった事だろう。

 ガルガンダ侯爵は呻き声を上げながら起き上がった。

 王都の三騎士団の一角オルソ騎士団が実質的に壊滅したあの戦、貴族達の天幕が真っ先に焼き払われた、という事を侯爵はしっかりと覚えていた。つまり、相手には少なくとも真っ先に指揮系統の頭を叩こうとする程度の戦術眼はあるという事。

 ならば狙われる可能性が高いのは自分。

 それが分かっていれば対策も取る。

 貴族達用の建物を分散させたのは無論だが、それでも余りに分散させすぎる事は出来ない。それはそれで兵士達の迷惑になる。故に分散出来たのは三箇所。果たしてそれだけで足りるだろうか?侯爵自身はそれだけでは足りないと判断した。

 だからこそ、侯爵自身は普通の兵士用の天幕へと偽装された場所へと密かに移動した。

 司令部と物資集積の為の倉庫を兼ねた貴族用の宿泊施設は既に完成しているが、兵士達用の宿舎は未だその全てが完成はしておらず、大部分の騎士兵士は天幕で寝泊りしている。

 侯爵はその中に紛れた。それも司令部を出る時は普通の騎士用のコートを着用し、顔もフードで隠してという徹底振りだ。悪い言い方をすれば、他の貴族達を囮にしたとも言える。

 結果から言えば成功だっただろう。

 事実、最初の砲弾は司令部の建物とその周辺に着弾した。


 危険植物第七種分類:矢死


 形状は椰子の樹と実である。

 その性質は種族繁栄の為か、それとも敵対者への攻撃の為か実をRAP弾の如く飛ばす事にある。内部に蓄えた脂を燃焼させて飛翔時の加速を稼ぎ、その堅い殻で着弾の衝撃に耐え、最終着弾時に重量でもってめり込ませ、残る脂と外側の殻を弾き飛ばして種を地面へと到達させる。

 破壊力は極めて大きい。矢死の実の砲弾は単体で重量が実に四十キロにも及ぶ。なのに、危険度が比較的低いのは常に発動する訳ではなく実が実っている状態である事、その実が熟している事、放つ数が少ない事などが原因であり……きちんとした手順に則って加工を行えば……。

 四十キロの重量物が加速された状態で飛来する。

 その破壊力は想像以上だ。

 結果として、司令部は崩壊した。

 ガルガンダ侯爵も天幕近辺に飛来した砲弾によって負傷したものの、狙われた訳ではなかったからだろう。


 「……混乱の収拾は困難か」

 「……残念ながら」


 一つ溜息をついてガルガンダ侯爵は決を下した。


 「まあ、無能共の処分がまとめて出来た事とヴァルト連盟の手札の一つが明らかになっただけ良しとしよう。手はず通り全部隊に後退命令を出せ」

 「了解しました」 



>砲弾重量40キロ

現代の自走砲、152mmクラスの砲弾に準じるぐらい、ですかね

203mm砲クラスになると90kg近いようですが逆にこれ以上は地上での運用は厳しいみたいですね、無論列車砲とかやってやれない事はないのは過去の実績が示していますけれど


やっとこさ更新です

やられっぱなしか、と思いきや……実は?

ちなみに侯爵自身が前に出てたのは囮達が自分が囮だと気付かせない為ってのとか幾つかの理由の為です


※一部修正

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