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ワールドネイション  作者: 雷帝
第二章:王国
27/39

蠢く者達

遅ればせながら…


 「それが結果か」

 「そうだ」


 ヴァルト連盟の奥深く、かつての大森林と人族の領域の境目であった地に建設された彼らの都市。

 自然と融合して生まれたような森の中にある都市。誰が信じられようか、ほんの半年前にはここより先には切り開かれた平野が広がっていたとは……もし、初めてここに来たならば間違いなく数百年は経った森と勘違いするに違いない。

 手に入れたポルトンはあくまで玄関口として扱い首都となるのはここ新都、その名をサントゥアリオという。

 まあ、どこに抜け道があるか分からない人族の築いた都市を首都として定める事は出来ないという面があったのは間違いなく、当初はこれまでの集落から抽出された人員が軍事的にも、文官的な意味合いでも訓練を積む為に準備されたのだが、数が集まれば自然と交流は活発化し、そして商人というものは商機があればどこにでも行く。

 ポルトンとサントゥアリオとの間にも道が出来、許可が下りるなり、速攻で人族の商人が姿を見せるようになった事がそれを示している。

 その余りの迅速さには常盤でさえ内心驚いたものだが、人族も利益を上げられる環境を作り上げ、エルフ達も経済活動に組み込む、というのは常盤にとっては規定路線である。間者、いわゆるスパイが入り込まないようその点は注意しなければならないだろうが、今の所ヴァルト連盟は着実に、しかし急速にその国力を拡大しつつあった。

 

 そんな首都の一角、最もかつての大森林に近い位置に設けられた執政府という名のかつての訓練場はそこで巨大な「彼」からの報告を受けていた。

 ここがそのまま実質的な王宮として改築されたのもこうした大型魔獣も必要ならばやって来れるという元練兵場が存在しているからだ。もっとも、今そこにいるのは常盤(の分体)と桜華、「彼」の三名(?)だけであったが……。

 常盤とて本来ならば正式な聴聞という形を取りたかった。

 しかし、その余裕もない。

 まだまだやっと確保した人材も次から次へと舞い込む仕事に押し流され、とにかく人手が足りない。

 加えて、今回敗北したとはいえヴァルト連盟の部隊ではないのだ、魔獣達は。

 もちろん、ブルグンド王国側は『ヴァルト連盟軍』の一部と判断するだろうが、そんな事は知った事ではない。何せ、あくまで今回襲撃を行ったのは正式な旗も掲げていない魔獣の集団。ヴァルト連盟は表向き動くのは今の段階ではエルフ達であり、魔獣の首を上げた所で「ヴァルト連盟軍を打ち破った!」とは誰も信じない。何せ、証拠として示せるのは多数の雑多な魔獣だけ。

 現場を見ていた者達ならばその整然とした対応に魔獣の裏にヴァルト連盟があるのでは?と考える可能性もあるだろうが、見てもいない者は信じられない。


 「まあ、そうした事を考えると、今回、ブルグンド王国側としては今回の遠征軍内部に情報を閉じ込めた上で我々に勝った、という情報を流すという所だろうな」

 「外部には洩らさないのですね」

 「そうだな。証拠がろくにない以上、洩らした所で意味がないからな」


 魔獣の死骸を出して「ヴァルト連盟軍の兵士だ!」と言った所で諸外国には失笑されるのがオチだ。

 いや、国民も呆れるだろう、「ヴァルト連盟に勝てないから適当な魔獣を狩って帰って来たのか」と……。無論、それでヴァルト連盟に何らかの譲歩をさせたなら各国も民も納得するだろうが、ヴァルト連盟は当然ながらこれで白旗を上げる気は毛頭ない。

 そして、今回の件では常盤はプラスマイナスではプラス面が大きいと考えている。

 マイナス面は相手の士気を上げる事になったかもしれない事。

 プラス面は相手に常に緊張を強いる事が出来るという事。

 常に張り詰めたままでいなければならないというのは予想以上に相手に消耗を強いる事が出来るだろう。

 ……今回は余り意味がないだろうが。


 「それを踏まえて君の処分だが……」

 「うむ」


 ………。


 「……それで良いのか?」

 「まあ、プラス面も考慮したのと、国が立ち上がったばかりで正式な処罰に関する規定がまだ出来上がっていないという状況を踏まえての事だ。言うまでもなく、勝手に部隊を動かす、など二度は許さん」

 「……了解した」

 

 常盤が「彼」に対して下した処罰(?)。

 それは魔獣を部隊として運用する行程と運用に関する考察をまとめろ、というものだ。

 極めて労力を要する仕事ではあるから罰になってはいるのだが、同時に言われずともそれをするつもりだった「彼」にとっては罰に感じられないのも仕方あるまい。

 もっとも、常盤にも事情がある。

 常盤にとって魔獣とは未知の存在だ。実はゲーム世界である『ワールドネイション』に魔獣という存在は運用出来なかった。彼らは他のゲームにおけるモンスター的な存在であり、動かせるとしたらプレイヤーが中に入った時だけだった。実際、常盤も魔獣の群を罠として用いた事はあるが、それはあくまで薬で暴走させたり、集めた所に敵を誘導させてぶつけたりしただけの話。こうやって戦力として編成し、運用するといった経験はない。

 本音を言えば、常盤自身がやりたい。

 ゲームでも出来なかった事が今、目の前に転がっている。

 魔獣という新しいユニットが出現し、これまで苦しめられたその特殊能力を解析し、自軍として運用可能な場面がすぐ目の前に転がっている!

 これまで「こういう事をやってみたい」と思ってもシステムがカバー出来ていなかった為にエラーや、なかった事にして処理された、というケースはどうしても発生していた。それこそどんなゲームでも、だ。

 だが……時間がない!

 常盤には他にもやらねばならない事が山のようにあり、しかもそれらは魔獣の部隊編成と運用の考察なぞより遥かに緊急度が高い。となれば、魔獣に関しては誰かに任せるしかなく、そして魔獣を知る者などそうそういるはずがない。そして、目の前には格好の相手がいる。だからこそ、常盤は「彼」に託した訳だ、内心泣く泣く。

 

 一方の「彼」にとっては今度こそ、という思いがある。

 

 (やるべき事は山積みだな!)


 まずは数を調べねばなるまい。

 それから各自の持つ能力だ。

 ……今回自分の能力でさえ持続時間が分からない事に気づいた「彼」はそれも頭に入れる。

 

 「ああ、そうだな。出来れば能力なども同じように揃えたい。今回は臨時だった故に空と陸、陸でも同じような速度のみで分けたが……」


 ぶつぶつと呟きながら考えをまとめる。 

 そんな姿を見ながら指を咥えている、とでも言いたげな雰囲気を漂わせている者が傍に一人。

 

 「いいなあ……」

 「お父様、そろそろお仕事の時間です」

 

 そう言いつつ首根っこ掴まれて引きずられていく……とはならない。

 桜華は「お父様」に対してそんな事はしないし、常盤もまだ自分をここから引き剥がす程度の理性は残っている。どんなに宿題や課題、仕事が残っていてもつい手を出してしまう時の本は止められないものだが……自覚があったからこそ桜華を連れて来たとも言う。


 「ところでうちのは既に動いているんだな?」

 「はい、新しい弟も張り切っていました」


 桜華の返答によし、と頷く常盤。

 当事者から情報を直接聞いた以上、対応を取る必要がある。

 毎度毎度常盤の手の者を使うのはどうか、という意識はあるがまだ遠方に十分な規模の部隊を派遣出来るような状況ではない。

 

 「まあ、五年や十年やそこらで一つの国が完成すると考える方がおかしいのですからお父様は十分にやっておられます」

 「……そうだな。一年やそこらでどうにかと考える方が無理があるんだよな……」

 「?……お父様?」


 真剣な表情で考え込みつつ、執務室へと二人は歩いていった。

 既に対策は取った以上、次の報告が来るまでは何が必要という訳でもない。


 「ふむ……ああする手もあるが、だがしかし……」


 後にはただ一人、いや一体。

 残されても未だ考えに没頭し、頭を捻る竜こと「彼」が常盤達が立ち去ったのも気付かず、ひたすらに頭を捻っていた。




 さて、書類相手も戦場といえば戦場だが、その頃本当の戦場にいる者もいる。いわずとしれたブルグンド王国軍であり、司令官役を務めるガルガンダ侯爵である。

 空を飛べる「彼」は最高速で空を飛び報告をその日には成し遂げたからこそ、ああして常盤もまだまだのんびりしていられた訳だ。

 生体魔術機関で最高速が亜音速に達する「彼」だからこそ出来た芸当であり、これだけでも魔獣の戦力化には大きな意味がある。言うまでもなく、正確且つ迅速な情報の入手は重要であり、その為に古来より人は伝書鳩や腕木通信、伝令など様々な手段を開発してきた訳だが……空を飛び、意志を持って伝達が可能な魔獣はそれだけで貴重だ。速度が速くて知能が高ければ言う事はない。

 実は、常盤は今回の一件を見て、戦闘に耐えない下位の魔獣でも空を飛ぶ者には伝達だけならば十分という事に改めて気づかされる事となり、そうした下位魔獣を人工的に作り上げた魔力溜まりを餌に取り込んで伝令部隊を構築しようと既に動いてもいる。

 環境が魔力溜まりを生み出すならば、人工のそれも精霊王エントの力を用いれば十分可能性があると判断している。

 いずれにせよ、ブルグンド王国軍は遠く離れた常盤に正確な情報が届けられている頃、未だブルグンド王国軍は詳細な情報を掴んではいなかった。

 上空から状況を把握していた「彼」に対して、ブルグンド王国軍側は当然だが地上にしか軍勢はおらず、死者怪我人多数という状況。

 当然、到着した増援も伝令を走らせつつもまず重要視するのは治療と遺骸の回収。なまじ優秀で現地の混乱が理解出来るだけにガルガンダ侯爵は詳細な報告は後回しにさせると共に、別の伝令部隊を現地に送り込み一定時間ごとに報告を送らせているが、それが精一杯だ。

 さすがに戦闘続行中なら無理を承知でもやらせただろうが、幸い、というべきか既に一応勝利と呼べるものを納め、敵は撤退した、と判明しているからこその余裕でもある。

 最も、詳細を知るのは極一部の者のみだ。前衛部隊が戦闘に突入、これを撃退に成功した、という事だけだ。嘘は言ってないが、全てを明かしてもいない。

 そもそも、これを明かしたのも下手に情報を遮断すれば、血気に流行った馬鹿貴族が下手な正義感に燃えたり、或いは抜け駆けを目論みかねないからだ。

 片方が詳細な戦闘情報を入手し、手を打っている段階で、相手方は未だ詳しい情報を掴めず動いていない、という情報戦という面ではヴァルト連盟の完勝とでも言うべき状況が既に成立しており、これが後々大きな影響を及ぼす事になるのだが、この時点ではさすがのガルガンタ侯爵も知る由もない。

 

 (まったく……兵と将だけ出して自分達は屋敷で震えていればいいものを!)


 なまじ『貴族の義務』を主張して前線に出てくるから始末が悪い。

 こんな事を言えば「じゃあ、お前はどうなんだ」と思われるだろうが、ガルガンタ侯爵は当初は前線に出るつもりはなかったのだ。大体、自分が将として動いたのはもう随分と昔の話で、体も思うようには動かない。それならば現場は専門家に任せて、自分は後方で物資、糧食の手配などをしていた方がいいだろう。

 ところが、貴族達の動きがその予定を全て崩壊に追い込んだ。

 何しろ、オルソ騎士団が再建中である為、貴族派で尚且つ高位の爵位を持つ者乃至嫡子に相当する人材がいない。

 そこへ下手に貴族達が郎党を引き連れて乗り込んだりしたらどうなるか……。無論、殆どの連中はきちんと自分の飾りとしての立場を理解して専門家に任せているか、或いは専門家の意見をきちんと聞いてから動くようにしているし、そうでなくとも自身に十分な軍の経験があったりしているのだが、中には心底馬鹿な者も矢張りいて、軍を動かした経験もろくにない癖に、そういうのに限って自分が優秀な将軍だと思い込んでいたりするから性質が悪い。

 お陰で、そういう貴族にも押さえが利く存在としてガルガンタ侯爵がこうして司令官の立場で現場に出向かなくてはならなくなっている。

 もちろん、現場にやって来ても仕事がなくなる訳ではないので、不便なのを承知でここでも仕事を行っている。


 軍とはひたすらに消費する存在だ。

 四万の大軍ならばまず最低でも一日辺り朝と夜に調理した八万食と行軍しながらつまめる簡易食が四万食。

 更に、四万人プラス馬が消費する水。

 馬を連れて動くなら、馬が食べる草も馬鹿にならない。馬なんかそこらに放っておけば、適当に食って帰って来る、なんて訳にはいかないのだ。

 食事の材料が一人辺り水込みで一食五百グラムの重量だとしても一回辺り二十トン。

 朝晩に絞っても一日辺り四十トン。これが毎日。

 これらを一台五百キロの荷物が積める荷馬車を用意したとしても一日辺り八十台の馬車を動員する必要があり、その馬車を動員するには馬車を動かす馬と人員が不可欠で、彼らを食わす為にまた重量が……という事になってしまう。

 しかも、彼らは農夫や狩人と違い、何ら生産的な活動を行っている訳ではない。ただ消費していくだけだ。

 大軍を動員し、維持するのが難しいのはこうした純粋な消費という面も大きい。

 本来なら同じ王宮に篭って行うはずだった、これらの仕事、すなわち兵站をガルガンタ侯爵は現場で行わねばならない。

 はっきり言おう、彼としては「ふざけるな!」と叫びたい。

 何せ、今も高価極まりない通信の魔道具を用いて王宮と連絡を取っているのだ。この通信の魔道具、現代では作成出来ず古代の遺跡から掘り出すしかないので物凄く貴重且つ高価。それこそ国レベルがお買い上げするレベルの品だ。この世界、そこまで簡単に遠くと通信出来る環境ではないのである。

 当然、今ガルガンタ侯爵が使っている品も王宮の宝物庫に普段は保管してある三つある通信の魔道具の一つだ。

 尚、残る二つは北と東、それぞれの重要な拠点とを結ぶ為に使われているので、自由に使えるものとしてはこれ一個であったりする。

 これを使う許可が出た時点でどれだけ王国が今回の件に関して真剣なのか分かるというものだ。

 ……王宮も黙認しているように見えるかもしれないが、それはそれ、これはこれ、だ。


 「……しかし、魔獣か」


 魔獣。

 人の勢力圏ではその危険性故に敵視され、積極的に狩られた事と相手が低位の魔獣であっても多少の知性を持っていた為に人の領域を危険と感じてさっさと逃げた結果、現在では人族が見かける事は滅多になくなった存在である。

 今、魔獣を見かける事があるのは人の領域の境界線近辺、開拓村の住人や警備の砦に勤める兵士ぐらいのものかもしれない。

 それにしたって、真っ当な相手なら普通に避けてくれるので、互いに知らん振りをするのが普通、例外は魔力不足による飢えの挙句に狂ってしまった魔獣相手ぐらいだ。

 

 「ヴァルト連盟に関しては情報が少なすぎるからな……」


 大森林地帯に住まうエルフ達によって建てられた国家。

 現状判明している確定情報はこれだけだ。

 どのような政治体系を取っているのか、トップは誰か、など何も分かっていない。各国と接触しているのは各国の承認から判断して間違いないが、ブルグンド王国とは最初から交戦関係にあった為か全く使者が送られて来ない。

 まあ、そもそも戦端を開いたのはこちらであるし、相手を承認してもいない。交渉を行おうという形すら示していないのだから当然かもしれないというのはさておき。

 問題はヴァルト連盟がどれだけ早くこの情報を入手し、それに対応する反応が出来ているか。それが問題だ。

 

 (……建国したばかりではあるが……いや、遅いと仮定するよりは奴等が我らと同程度の連絡網は調えているとしよう) 

 

 だとしても、しばらく前まではこの辺りはブルグンド王国の領地であり、普通に街道が走っていた。

 逆に言えば、ここにはヴァルト連盟の砦も都市も存在しなかったのだ。

 エルフ達が森をホームグラウンドにしており、森の中では迅速な行動が出来るとしてもさすがに馬よりは遅いだろう、普通は。

 だが、魔獣を彼らが取り込んでいるのだとすれば森の中を騎兵並の速度で移動する事が出来る可能性が出てくる。

 

 (全く厄介な……そうなると最寄の連中の部隊がどこにいるか、だな……)


 然程多くはなかろう、というのが軍人達からの意見だ。

 彼らの推測によれば一定以上の数の部隊を駐留させるとなると、それには当然ある程度の数が長期間暮らせるだけの条件が必要となる。

 短期間ならば雨露をしのげるだけの場所があればいいかもしれないが、長期間そんな環境でとなればそうもいかない。食料を保存する場所も不可欠だ。今回のブルグンド王国軍が示すように数が集まれば要する食料も多くなる。無論、エルフ達次第では周囲の森から収集する事も可能だろうが、数が多くなれば毎日それをやらねば追いつかないだろう。何せ、砦の総出でやる訳にはいかない。出動に備える部隊、予備部隊に夜間警備を行う為の部隊、出撃した際に砦を守る人員、掃除や点検など砦を管理する為の人員なども不可欠。

 毎日収集というのが現実的ではない、となるとどうしてもある程度まとめて食料を運び込み、それを保存する為の設備が必要になる。

 武器とてきちんと管理しなければすぐ駄目になる。弓一つとて、普段から張りっぱなしという訳にはいかないし、きちんと手入れしなければならない。それを怠れば、すぐに武器は駄目になってしまう。

 当然、それらを保管する場所に、整備する道具類を納めておく場所も不可欠だ。鍛冶も行うなら、その場所も必要となる。

 これらを作るにはどれだけの手間がかかるだろうか?

 当り前だが、それらを作るには相応の資材と人手も必要で、急拡大した森の全てにそれを設ける事も不可能。

 となれば、かつての街道の近辺という事で優先的に砦の整備が行われたとしても、さすがに最優先で作られているのは大森林の近辺であろう。

 如何に城塞都市ポルトンを奪取したとはいえ、彼らの本拠地である大森林地帯まで障害もなく一直線、という事は考えられない。まさか、天然の障壁に全面的に頼っている訳でもあるまいし、まずはそちらの整備が最優先であろう……。

 その結果として、どうしても他に回す資材と人手の問題でこちらに動かせる戦力は限られるだろう……という予想であり、その内容にはガルガンタ侯爵も特に問題はないと判断した。

  

 「まあ、最寄の部隊が急行し、或いは我々の派遣に伴って本国から増援があったとしても……それぞれの本国、王都からの距離を考えればそれでも我らが相当優位に立っているはず……小部隊による奇襲への警戒さえ怠らねばそこまで大きな問題にはなるまい……」


 正直に言おう。

 この時ガルガンタ侯爵の脳裏には妙に嫌な予感とでも呼ぶべきものがあった。 

 だが、侯爵はあくまで文官であり、軍人ではなかった。

 もし、これが彼の本領である文官仕事であれば、きっとガルガンタ侯爵はその直感を信じただろう。だが、軍事に関しては自信を持てず、専門家が口を揃えての言葉を信じる事にした。

 それは間違った事ではない。下手に専門外の事に首を突っ込んでもろくな事にならぬのは確かだし、そもそも彼にしても「何故そう思うのか」説明出来ないのだ。理由もなしに横槍をさしはさむ訳にもいくまい、とガルガンタ侯爵が考えたのは当然だが、彼がこの時の直感を信じていればまた別の可能性があったのかもしれない……。




 「よっしゃ、準備はいいか?」


 そう声をかけるが声は返ってこない。

 ただし、声なき声がきっちりと彼には聞こえているのでそれで十分だ。

 森の中、その緑に沈むように彼らはいた。

 果たしてその総数はどれ程なのか……それに奇妙なのは彼らの形状もそうだった。

 植物系統の魔物なのは確かなのだろう、でなければこれだけの数をこれだけの短時間でここまで持ってはこれない。

 だが、大多数を占める者の形状は普通の人型とは明らかに異なっていた。もし、明るい中、形状をはっきりと確認出来ていれば、最初に声をかけた相手も形状こそ人のそれに近いが大きさは数倍、更に人として見るには明らかに異質な器官と言えるべき部分がある。

 

 「くっくっく、さあて、いよいよ俺らのお披露目って奴だぜ」


 相手は四万の大群だ。

 蟻のそれがそうであるように、群れる相手というのは殲滅は難しい。

 だが、今回親父に命じられた作業は相手を一匹残らず食い尽くせって話じゃあない。あくまで頭を潰し、相手を追い払えってえ話だ。

 ま、お袋も今回は素直に引っ込んでるみたいだしよお……幾ら強くってもハラハラするってえ気持ちはあるって事は理解して欲しいぜ。親父と違って、お袋は万が一ってもんがあるんだからよお……。


 「ちゃっちゃと片付けてお土産で飯だな」


 お袋は喜ぶだろ。親父は……ま、使えるもんは使うだろうさ、色々とな。 

 楽しむなんて事はしねえ。仕事はきっちり素早く終わらせるのが男ってもんだ。

次回再び戦闘

……ただし、王国軍もやられてばかりにはなりません


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