想いは交差(クロス)して…縦書き表示RDF


あなたが死ぬことになった時、あなたは恋人に何をしてやれますか?
想いは交差(クロス)して…
作:みゅき


僕らには夏休みと同時に始まったある習慣があった。
それは"毎日二人で海を見ること"
僕たちは小さな港町に住んでいて、二人が待ち合わせをするその堤防は、お互いの家から歩いて1分もしない中間地点にあった。
決して僕が遅刻をして行く訳では無いけれど、彼女はいつも僕より早く来ていた。
僕はいつも歩きながら、堤防に座る彼女をいち早く見つけて、彼女の色素の薄い長い髪が海風にさそわれなびくのを見ながら、その場所に向かった。
近付くにつれて見えてくる彼女の普段白い肌が夕日で赤みをさして見えるのを、僕はいつも美しいと思っていた。
軽く挨拶をかわし、その日のほんのささいな出来事なんかをちょっと話したら、僕たちは必ずいつも無言になる。そうしてただ手をつないでしばらく海を見ていた。
でも僕は、ホントは海を見るふりをして彼女の横顔に見とれていたんだ。彼女を大事にしたいって、いつもここで静かに誓ってた。
ある日、夏海がこんなことを言い出した。
「ねぇ慎ちゃん、もし私がいなくなったらどうする?」
「なんだよそれ。急に…」
夏海は海を見たまま話を続けた。
「もしもの話よ。もしもあたしがいなくなったら、慎ちゃんはどおするのかなぁと思って。」
波の音が響く。
俺は戸惑った。何故なら小さい頃から一緒にいて幼馴染みである俺たちは、はっきりとした付き合い始めというものが無く、17年も当たり前のように一緒にいる。だからそれは当然の事で、わざわざどちらか一方がいなくなるなんて事は考えたことがなかったからだ。
「お前がいなくなるなんて想像もつかねえしわかんねえよ。ただ…」
「ただ…何?言ってみて!!」
夏海はいつになく真剣に俺の顔をじっと覗き込んで俺の話に耳を傾けていた。
「ただ、普通にはしてらんねえと思うよ。かなり参るだろうし。まあ、夏海は僕にとってかなり存在大きいしさ。っていうかどうしちゃったの今日は。やけに変な事聞くね。」
「だって、慎ちゃんがいなくなっちゃったらあたし…ううん。やっぱ何でもない。あたしもそう。きっと耐えきれないわ」
夏海はそう言うと立ち上がってスカートをはらいながら言った。
「今日はもう帰ろっか」
と僕は
「そうだね」
と言って夏海の唇に軽く唇を重ねた。
僕はこの時の夏海の話にたいして気にする事をしなかった。
それは僕たち二人が離れるなんて全くの想定外だったから。
僕は
「ガン」
を患った。
僕は真実を隠し、肺炎と聞かされ入院した。最初のうちは何の疑問もなくいたが、やっぱこういうのって本人には分かってしまうみたいだ。僕はうすうす僕の病気に気付いていった。
でも僕は、誰かに聞いて
「ガンである」
と確定してしまうのが怖くて、僕が勝手に
「ガンかもしれない」
と思っているだけでいたかった。
やっと決心がついたのはすでにクリスマスの時期になった時だった。見舞いに来た夏海におもむろに僕は切り出した。
「夏海。僕はホントは何の病気なのかな?」
夏海は一瞬驚いた顔をし、でもすぐに表情を戻してから
「なあにイキナリ?いいから病人はよく寝て早く治しなさい」
と笑った。僕はここで、僕の質問に否定も肯定もしない夏海の態度から、僕は少なくとも肺炎ではないと悟った。夏海は話をそらそうと必死だけど、その思惑に乗ったらもう二度と真実は聞けないような気がして、今度は少し強い口調で聞き返した。必死だった。
「夏海?僕は肺炎って聞いてもう4ヶ月も入院してるんだ。夏休みに入院したのに冬休みに入っちまう!!学校も行かないでここでボーッとして毎日が過ぎてく。僕はホントは何の病気なんだ!?嘘なんだろ?肺炎なんて!!気付いてるんだ!僕の事なんだよ!!隠さないで教えてくれよ。頼む…」
夏海は目にいっぱい涙をため、まっすぐ、あの海を見るようにこっちを向いて、
「慎ちゃん、慎ちゃんのホントの病気はガンだよ…」
とそれだけ言った。
それだけ聞ければ充分だった。
━ああ、やっぱり。確かにあの頃体調がわるかったし、風邪だと言いながらやけにいろいろ検査をすると思った。やっぱり僕はガンか。遅い。何もかも気付くのが遅過ぎた。僕は死ぬのだ。
この若さで、夏海を置いて。夏海は僕が死んだ後も生き続け、その中で結婚したり子供を産んだりするだろう。
でもそれは僕じゃないし、僕の子供でもない。死ぬとはそういうもんだ。
「でも慎ちゃん治るよ。早く良くして、また海、見に行こうね。」
これは僕が入院してからの夏海の口癖だ。
僕はこうなって初めて、あの時すでに夏海は僕がガンだと知っていたんだと気付いた。家族ぐるみの付き合いだったし、僕の親から前もって聞いていたのだろう。
だからあの日、夏海は海であんな話をしたのか…。どんな気持ちで彼女は僕にあれを問い掛けてきたんだろう。すごく幸せだと思っていたのに、すでにあの時幸せなのは僕だけだった。
夏海との幸せは僕がきっかけで崩れ始めていたんだ。
僕は…僕のせいで夏海を不幸にするんだ。
このままでは彼女を幸せになんかできない。どうにかしたい。
でも…。
死ぬ僕に一体何ができるというんだ?悔しい。イライラする。ここまで自分が無力だったなんて初めて気付いた。彼女を大事にしようだなんて毎日誓っていた僕がこのありさまだ。
僕は彼女に何もしてあげられない。
ならばせめて彼女をもう放してあげよう。
「夏海…」
「え?」
夏海は、買って来た花を花瓶に移し替えながら
「なあに?聞こえないわ」
とほほ笑んだ。
「今日はもう帰ってくれないか?それで…明日からは…もうここには来ないでくれ。」
「慎ちゃん?何言ってるの?明日何かあるの?」
「…」
「黙ってたんじゃわからないわ。何なの慎ちゃん!」
「うるせえ!!二度と来るなったら来るな!!」
僕は泣きそうになったから布団をかぶった。
「慎ちゃん!!」
「夏海別れよう。もう疲れた」
「慎ちゃん意味がわからない。怒るよ!」
「夏海出て行ってくれ」
「…いやよ。どうしてそんな事いうの!?こんなに好きなのに!あたし別れない!!」
夏海は泣き崩れた。
「あたし何でもするよ。慎ちゃんお願い。別れるなんて言わないで。二人で頑張ってこう?」
「夏海…何も分かってないな。頑張るとか、僕はもう疲れたんだって言ってるだろう。なんでもするなら死ぬ前の最後の願いなんだ。聞いてくれよ。俺と別れてくれ。そしてもう二度と僕に会いに来ないでくれよ。」
夏海は泣いていた。僕は布団から絶対出ないようした。
「慎ちゃん、好きだよ」
僕は黙っていた。
夏海は病室を出ていく。
僕は泣いていた。
夏海、僕だって君を好きだ。でもそれ意外は何もしてやれないから。好きなだけじゃ君を苦しめるだけだ。守ることも共に生きていくことも出来ないのだから。だから僕は僕から君を解放する。これが僕のしてやれる精一杯の事だ。それから夏海は僕の前には現れなかった。
時折、花瓶の花が母親の趣味ではなく、むしろ夏海の好きな花に代えられていたりはしたけども、僕は気付かないふりをした。
そして2006年 1月 28日、僕は死んだ。
葬式の日には冷たい雨がいつの間にか雪へと変わり、こんこんと降っていた。
「夏海ちゃん。こっち!」
「慎ちゃんのお母さん…どうしたんですか?」
「夏海ちゃん、今日はわざわざ慎太郎の為に悪いねえ…。あの子も喜ぶよ」
「そうだと嬉しいです…」
「あの子も親より早く逝っちまうなんてね…親不孝もんだよ」
「…」
「ところで夏海ちゃん。昨日慎太郎の病院の荷物片付けてたらさ、こんなもん出てきたんだよ」
それは"夏海へ"と書かれた手紙だった。
「あたし達親にはなあんにも残さないで、夏海ちゃんにだけ手紙書いたみたいよ。読んでやってね。」
「はい。ありがとうございます」
「それじゃまた近いうちに落ち着いたらね。」
「はい…」
慎ちゃんがあたしに手紙を…。あたしを嫌いになったんじゃなかったの?
『夏海へ』
ぼくはもうすぐ死ぬ。さいごにぼくは君をずっとずっと大事に想ってる
それはもう弱々しく、充分に力も入らない手で書いたであろう字だった。気持ちがすごく伝わってくる…。彼はあたしを愛してくれていた…。あたしたちこんなに愛し合ってたのに、どうして彼は死ななければいけなかったのか…。どうしてあたしは最後まで彼と一緒にいなかったんだろうか…。
彼の優しさとわたしの気持ちはすれ違ってしまっていた。やり直したいよ。
「慎ちゃんっ」
彼はもういない。


17歳になり初めて小説を書きました。至らぬ文章で申し訳ありません。また書きますので次回も読んで頂けたら幸いです。













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