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黒い炎と氷の刃 作者:雪華

最終決戦

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47話 炎の里に黒い影 〖挿絵アリ〗

 ――――獅凰たちがギーブルと戦っていた、ちょうど同じ時刻

 マーレの船で炎の里に到着したアークは、港からでもよく見える、高台にある自分の住まいを見て冷や汗を浮かべていた。
 屋敷が炎に包まれている。
 只事ではない気配にアークは周囲を警戒していると、森の中へゴブリンが走り去るのが見えた。

「マーレ、キミは剣を持っているか?」
「馬鹿言うな、俺は漁師だ。作業用のナイフくらいしか持ってねぇよ。まぁ、ナイフ一本ありゃ、大抵はどうにでもなるけどな」

 腰のナイフを鞘から引き抜いて、マーレはニッと不敵に笑った。

「心強いな。里の中心部まで走るぞ。戦闘はなるべく避けて行こう。あぁ、あと、女の子なんだからやっぱり『俺』は良くないんじゃないかなぁ」
「今そんな事言ってる場合かよ! 里の奴らはちゃんと避難したのか?」
「ああ、教会や学校は、元々結界が張られている。そこに避難しているはずだ。炎の里と言ったって、婚姻を機にこの土地に移り住む他の種族だって大勢いるんだ。今頃は作戦通り、戦闘と結界の強化を同時進行しているはずだよ」

 里の中心部へ続く石畳の道を、二人はひたすら走った。時々出くわす魔物はゴブリン程度だったので、行く手を阻まれた時だけ迎え撃つ。
 片手で剣を振りながら、アークは水晶でルージュと情報のやり取りをした。

 ゴブリンを片付け終わったマーレが、大きく息を吐いてアークに目をやる。その視線に気づくと、アークは水晶を胸元にしまいながらニコッと笑った。

「中央都市でも魔物が暴れているらしいよ。ギーブルだってさ、おっかないね」

 空気を和ますためか、アークはおどけたような口調で肩をすくめた。

「ギーブル?」
「昔話で聞いたことはないかい? 翼を持つ大蛇さ」
「そんな化け物、倒せんのかよ?」
「獅凰殿が戦っている。彼ならなんとかしてくれるはずさ。それより、この里にはどんな化け物がいるかね」

 里で一番大きな教会にたどり着いた二人は、肩で息をしながら教会を囲む精霊たちに近づいた。

「アーク様!」

 周囲に魔物の気配はなく、それでも不安そうな顔をして剣を構えていた精霊たちが、アークの姿を見てホッと表情を緩ませた。

「やあ、みんな無事でよかった。思ったよりも魔物の数が少ないね?」
「最初の頃は、ゴブリンの大群が押し寄せて来たんですよ。でも、炎の一族は範囲攻撃が得意ですから、束になって襲い掛かかってくるのを片っ端から焼き払ったんです」
「なるほど、それでこれほど落ち着いているのか」
「はい。今は水の一族が、火の手の上がった家屋の消火に回っています。ゴブリンは魔法が使えないし、どっから火の手が上がったんだかサッパリわからないんですがね」

 アークは周囲を見回し、民家から上がる黒い煙に目をやった。
 ゴブリンだけとは、中央都市に出現している魔物と比べると、随分と差があると感じ腕を組む。それに、火災の原因も気になった。
 本当にこれで終わりか――?

「消火に魔力を使うのはもったいないな。今後何があるかわからない。火の手の上がった家の持ち主には気の毒だが、そこは諦めて、今は休息をとろう。見張りと結界を強化する者を残して他の者は教会に戻るよう声をかけてくれ」
「はい、直ちに!」

 体力のありそうな若者を数人残し、他の者達が教会の中へぞろぞろと戻っていくのを見届けると、アークは炎を上げる、高台の自分の住まいに向かうため歩き出した。

「俺も行くよ」

 借り物のロングソードを携えたマーレが、アークに歩幅を合わせて肩を並べる。

「また俺って言う」
「気にすんなって。それより、レンの両親はどこ? 保護しなくていいの?」
「ああ、教会にいるのを確認したよ。あの場所なら問題ないだろう」
「そうか。良かった」

 高台に向かう坂の途中、安堵したマーレがふと教会を振り返る。

「なんだ、あれ……?」

 つられて振り返ったアークの目にも、黒い塊のような物が、物凄い速さで教会に近づくのがわかった。

「マズイ、嫌な予感がする! マーレ、引き返すぞ」
「ああ」

 踵を返し、二人は坂道を全速力で駆け下りる。どう頑張っても、あの塊よりも先に教会にたどり着くのは不可能だと判断したアークは、水晶を通して見張りの一人に異変を知らせた。

「そちらに正体不明の黒い物体が近づいている! 結界強化の者は、そのまま作業を続行。教会内の森の一族から補助魔法を受け、臨戦態勢を取れ!」

 アークの通信を聞き非常事態を知った見張りの者が、慌てて教会内から森の一族を呼び出すのが見えた。これでなんとか最初の一撃を耐えてくれと、祈るような気持ちで走り続ける。

 思った通り、アーク達よりも先に教会にたどり着いた黒い塊は、見張り役の数歩手前で高く飛び、構えていた盾に怯むことなく体当たりをする。
 ドンと鈍い音をさせ、見張りも黒い塊も弾かれたように双方後ろへ吹き飛んだ。

 転がりながら態勢を整えた黒い塊が、初めて動きを止め次の攻撃の機を狙うように低く身構えた。
 黒い塊だと思ったその正体は、闇のように濃い黒色の犬に見える。真っ黒い毛並みに爪まで黒く、それなのに目だけは異様に赤く光っていた。通常の犬よりかなり大きく、人が背に乗れそうなほど、がっしりとしている。
 鋭い爪で腹を裂かれればひとたまりもないだろう。
 その黒い犬が低く唸ると、口元から火がこぼれだした。

「まさか……ヘルハウンド……?」

 声に出したアークでさえ、信じられないという表情だった。

「ヘルハウンド? 黒い犬の姿をした不吉な妖精? そんな、絵物語の中の話じゃなかったのか」
「中央都市にはギーブルが出たんだ。こちらにヘルハウンドが出ても、おかしくないな。炎の里に、火を使う邪悪な妖精を向かわせるとは、じいさんも悪趣味だ」

 どこか悲しそうな笑みを浮かべたアークは、教会とヘルハウンドの間に割って入る。

「アーク様!」

 先程吹き飛ばされた見張り役が立ち上がって再び剣を構えた。アークは静かに耐炎魔法を唱えると、その場にいた者達は赤い光に包まれた。

「さあ、このすばしっこい犬っころと、どうやって戦おうか?」

 舌なめずりをして、剣を手に持ち低く構える。
 唸り声を上げたヘルハウンドは、口を大きく開けるとまるで火炎放射の様に周囲に炎を吐き出した。アークはその炎を、自身の出した炎の壁で食い止める。

「炎に炎は効かないんだよ」

 ヘルハウンドの放った炎は、アークの防御壁に吸い込まれるように消えたが、それはつまり、アークの炎の攻撃もヘルハウンドには通用しないことを意味していた。
 魔法攻撃は諦め、炎を盾代わりに剣を握ってヘルハウンドに飛びかかる。

 捕らえたと思ったはずが、ヘルハウンドは軽々とアークの剣をかわす。アークは空振りながらも、剣を握っていない左手をかざすとヘルハウンドに向けて炎を放った。
 剣を避けるため空中に飛んでいたヘルハウンドは逃げ場がなく、至近距離で火の玉を食らい民家の壁めがけて吹き飛ばされる。
 炎によるダメージは与えられなくても、火の玉をぶつけられた衝撃までは無効化出来ないようだった。

 しかし、激突するかに思われた瞬間、くるんと身を翻したしたヘルハウンドは、叩きつけられるはずだった壁を両脚で蹴り、その勢いのままアークに噛みつこうと牙をむき出す。
 迎え撃とうと剣を構えたアークの手前で、地面に炎を吐き、突然ヘルハウンドが軌道を変えた。黒くて鋭い爪が、アークの首元を狙う。
 咄嗟に身をのけ反らせたアークのシャツにヘルハウンドの爪がかすり、襟が引き裂かれた。

 首を掻き切られるところだったアークは、全身に嫌な汗が一気に噴き出し、袖で額の汗を拭う。

「アーク!」
「大丈夫だ、問題ないよ」

 青ざめた表情のマーレは、恐怖心を振り払うように、大きく息を吸ってから自分の頬を叩いた。アークに加勢しようと剣を握り、素早い動きのヘルハウンドを目で追う。

 狙いを定められたくないのか、一か所にとどまらないで絶えず動き回るヘルハウンドの軌道を捕らえ、マーレが横一線に剣を振った。

 キャンキャンと甲高い悲鳴を上げ、足に切り傷を負ったヘルハウンドが地面を転がった。

「くっそ、致命傷にはならねぇな」
「いや、当てられるだけ凄いよ」

 感心しながらアークが、教会内に戦えそうな水と氷の一族を呼び出すように指示を出す。

「氷と水で囲い、範囲を狭めて戦おう」

 自身の傷口を舐め、静かに起き上がったヘルハウンドの目は、先程よりも赤々と燃えているようだった。


挿絵(By みてみん)



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