挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
黒い炎と氷の刃 作者:雪華

闇の正体

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

29/56

28話 思いがけない作戦

 氷の里に身を隠した翌日。
 丁度アークがユグドラシルの樹から宮殿へ戻り、「アイスケーヴへ向かえ」とファロに告げられていた頃、ルージュ達は白銀の別宅にある広い客間に集まっていた。
 部屋には赤い絨毯が敷かれ、部屋の中央にこげ茶色で大きな楕円形のダイニングテーブルがある。そのテーブルを囲み、全員がルージュの話に耳を傾けていた。

「そんな……では司令官こそが闇の正体で、記憶を持ったまま生まれ変わり、今もこの世界を手に入れようと水面下で動いていると?」

 美兎は思わず立ち上がる。ルージュはあえて淡々と話したのだが、それでも衝撃的な内容に、香澄は青ざめ、マルベリーは手で顔を覆ってしまう。
 一階の客間には、重苦しい空気と沈黙が流れていた。美兎はため息とともに、椅子にストンと再び腰を下ろす。しばらく考え込むようにじっと唇を噛んでいた雫が、同席している夜霧を横目に見ながら口を開いた。

「そもそも……夜霧の話を信じても良いのですか?」

 それは、もっともな疑問だった。

「僕は信じていいと思うな。だって夜霧が教えてくれなきゃ、司令官と姫を引き離せなかったし、ルージュさん達を助けに行くこともできなかったから」
「わっちも汐音と同じ考えでありんす。船を襲った時の、司令官の動揺……芝居をしていたようには思いんせん。夜霧が歯向かったことに、本気で驚いたのでありんしょう」

 早い時期から行動を共にしていた汐音と氷鯉の言葉に、雫は「なるほど」と、うなずいた。

「司令官は、なんで世界を支配しようとしてるんっすか?」

 レオパルドの問いに、夜霧はレンをちらりと見た。レンはその視線には気づかずに、茶が入ったカップを見つめたまま、うつむいている。

「魔界は膨大な魔力が溢れている。その魔力を利用して、巫女姫と共に不老不死になろうとしているようだ」

 夜霧の言葉を聞いて、レンの肩がピクリと揺れた。

「不老不死? 実質、今でも不老不死みたいなものなんじゃないっすか?」
「王は記憶を引き継げても、姫に記憶は残っていない。それに転生を繰り返しても、姫と出会えるのは稀な事。三千年前も、ようやく再会できた姫と離れがたくて、起こした凶行じゃ」

 レンが小さく震えていることに気づいた香澄は、そっとレンの背中に手をあてた。

「じゃあさ、司令官がじーさんのうちに、やっつけちゃえばよくない? 真夜中に夜霧に空間を宮殿へつないでもらってさ、寝込みを一突き!」

 物騒な事を無邪気に提案した汐音だったが、夜霧は首を横に振る。

「先日、宮殿へ忍び込んでからは結界が張られて直接宮殿には入れぬ。もし入れたとしたら、それは罠じゃな」
「じゃあ、普通に宮殿に帰って、寝首を掻くとか?」

 今度はルージュが首を振った。

「恐らく、司令官は俺たちが夜霧と一緒にいることに気づいているだろう。何かしらの理由を付けて、俺たちを宮殿には入れないはずだ。それでも無理やり押しかけて、『司令官の正体は闇だ。世界を支配しようとしているから討ちに来た』なんて言っても、誰も信じちゃくれないだろ? 門前払いだ。実力行使で正面突破すれば……全面戦争になる。お前、同胞に刃を向けられるか?」

 汐音は反論されたのが悔しくて、上目遣いでルージュを見た。

「魔法で動きを止めてるうちに……とか」
「司令官は、気が遠くなる時間を生きてきた。今思えば、闇に関する書物が見当たらないのも、何世代にもわたって自らの手で処分してきたんだ。次に巫女姫と会えた時のために、用意周到に準備してきたはずだ。今、策もなく宮殿に乗り込めば、向こうの思う壺だぞ」
「じゃあ、どうしろって言うんだよ!」

 汐音は両手で頭の髪をぐしゃぐしゃとかきむしった。

「まずは味方を増やすべきだろう。白銀様も、お力を貸していただけますか?」
「もちろん、協力は惜しまないつもりだ。昨日も水の里の長と、どう対処すべきか話をしたよ」
「ええ。父から連絡があり、白銀様と同じことを申しておりました。あとはカンファー様のお力もお借りした方が良いと」

 雫がそう言いながら、ルージュの方に視線を向けた。その視線を受けて、ルージュが少し考えるように、空中を見る。

「カンファー様に、直接お会いして伝えたいが……夜霧、ユグドラシルへ空間をつなげるか?」
「残念ながらそれはできぬ。空間をつなげるのは、余か煌牙が訪れたことのある場所だけじゃ。それも、強く記憶に残っている、印象深い場所へしか行けぬ」
「では、私がカンファー殿に連絡をとってみようか」

 白銀の申し出に、ルージュは一瞬考え込んだ。

「こんな話を水晶の通信だけで信じてもらえるでしょうか……」
「ふむ。確かに」

 白銀がうなずいた瞬間、その白銀の水晶が高音の鈴を鳴らしたような音色で、誰かからの通信を知らせた。
 部屋中に緊張が走る。
 それでも白銀は落ち着いた様子で、応対する。

「ではアーク殿がアイスケーヴへ? わかりました。氷の里からも誰か向かわせましょうか。ああ、そうですか。では、せめて帰りに少しでも寄って頂ければとお伝えください。ええ。この度は愚息がとんでもないことをしでかしまして、なんとお詫びしたらよいものか。……はい。わかりました。ええ。ではまた改めて……」

 少しの動揺も見せることなく、白銀は通信を切るとルージュと夜霧の顔を交互に見た。

「ファロ殿……いや、もう『殿』などつける必要もないか。ファロからの通信だ。騎士団員が行方不明になったので、アーク殿がアイスケーヴへ捜索に来るらしい。援軍は不要だそうだ。帰りにここに寄ることもない。話しぶりから察するに、きみたちが氷の里にいる事にはまだ気づいていないようだな。まあ、油断はできないが」

 そう言って白銀は椅子から立ち上がると、窓辺へ向かい、外の様子を伺いながら「それから……」と話を続けた。

「世界会議をもう一度行うそうだ。今度は中央都市で」
「ファロはユグドラシルの樹には上陸できぬからな。しかし、会議が行われるのならその『カンファー』とやらも中央へ来るのではないか?」

 夜霧がテーブルに片ひじをつき、頬杖をしながら、どこか楽しそうにルージュに視線を送った。夜霧の言葉を聞いて、汐音が勢いよく立ち上がる。

「それなら、会議に向かう白銀様のお供にまぎれて、宮殿に乗り込めばよくない? カンファー様にも直接会えるし、あわよくばファロに一撃食らわせられるし」
「うーん。宮殿の人たちにすぐ気づかれちゃいません? 汐音や雫が髪を赤く染めて炎の一族のフリでもしたら、すぐにはバレないかもしれないけれど。でも、炎の一族が白銀様のお供は不自然よね」

 マルベリーは腕を組んで「うーん」とうなりながら首を傾げた。

「でも、バレない変装ができるなら、汐音の案って結構いいっすよね」

 レオパルドにそう言われた汐音は、嬉しそうにパッと顔を輝かせ「もっと褒めて」とまとわりつく。

「私の供にまぎれるのは構わんよ。ただ、やはり何人も同行するのは不自然だ。一人か二人までだな」
「それなら宮殿の者に顔を知られていない汐音が適任では? 本当は参謀長に行っていただきたいけれど、あまりにもお顔が知れていますから、無理でしょうね……」

 美兎がそう答えて、考え込むような仕草をした。氷鯉がクスッといたずらっぽく笑う。

「わっちにいい考えがありんす」

 着物の袖を口元にあて、隣に座るルージュを横目でチラリと見る。

「何か嫌な予感がするんだけど」

 ルージュは氷鯉から目を逸らし、眉を寄せた。氷鯉が何を言い出すのか知らないが、碌なことではないような気がした。

「女の格好をすればいいでありんす」
「は?」

 予想外の提案に、ルージュは立ち上がって首を振った。

「そんなのすぐバレるに決まってんだろ!」
「そんなことありんせん。青く長い髪をつけ、化粧をすれば、誰も参謀殿だとは気づきますまい」

 むしろ否定された事が意外だという顔をして、氷鯉が具体的な事を言い出したので、ルージュはさらに首を横に振った。

「こんな時に、そんな冗談よせよ。なあ?」

 斜め前に座る美兎に、助け舟を期待して同意を求めたが、肝心の美兎は真面目な顔でルージュをじっと見つめる。

「いえ、名案だと思います。中途半端な変装をしてコソコソするよりも、性別を偽り化粧をし、堂々と振る舞った方が怪しまれないかと」

 美兎の言葉にマルベリーがうんうん。と、二度もうなずいた。

「ふむ、良い案だな。ファロに近づくのは危険だが、宮殿に入るだけならまず気づかれないだろう。では、ルージュ、汐音、よろしく頼むぞ。会議は二日後だ、明日の朝ここを立とう。氷鯉、ルージュと汐音の支度を頼めるか?」
「御意」

 氷鯉は白銀に深々頭を下げたが、噴き出してしまいそうなのを堪え、口角が上がっているのをルージュは見逃さなかった。

「氷鯉、絶対楽しんでるだろ」
「さて、何の事でありんしょう」

 席を立ったままのルージュが冷たく見下ろすと、氷鯉はニッコリと艶やかな笑みを浮かべる。その隣に座っていた汐音は「あれ? 僕も女装すんの?」と、きょとんと首を傾げた。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ