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色トリドリノ世界
第十三話
「……ん、……ずみさん、和泉さん」
「え! はいっ!」
「大丈夫ですか? 具合悪いんじゃないですか?」

 最後にぽふんっと裾のほうに綿を盛って「大丈夫です」と答える。
 なんとか平然と答えたつもりだけど、大丈夫かな。店長さんはそんな私に「そうですか?」と少しだけ心配そうな声を出した。でも、それ以上は深入りしてはいけないと思ってくれたのか、にっこりといつもの笑顔に戻って話を変える。

「あ、少し下がってバランス見てください。偏ってません?」

 いわれて少し離れて眺める。
 青々としたモミの木に、飾ったオーナメントは赤いリボンが中心。リボンの中央にある石が少しずつ違う色を出していて、とても綺麗だった。
 あとは中にキラキラの入った透明なボール。銀のモールに散った雪、凄く綺麗だと思う。

「大丈夫です」

 とオーケーを出すと店長さんも脚立から降りてきた。

「では、片付けて点灯式でもします?」

 転がっていた大きな段ボール箱を潰しながらそういってくれる店長さんに、そうですねと頷いて私も足元を片付ける。

「そういえば、小夜子さんってどんな奥さんだったんですか?」

 何でもこなすイメージがあるけどやっぱり家庭的な感じがしない。
 なんとなく細かいゴミを箒で集めながら問い掛けると店長さんの動きが止まった。

 あれ? と首を傾げると「小夜ちゃんですか……」と折っていた腰を伸ばしてカウンターに預け溜息。

「彼女は一人では生きられない人なんですよ」

 ……庇護欲を掻き立てられるタイプの可愛い奥さんということだろうか? いわゆる、甘え上手。そういえば、家事が不得手だといってたけど、その辺は店長さんがカバーしたんだろうな。
 器用そうだし。
 実際お料理はとてもお上手だし。

「精神的な面ではなく、彼女は本当に何も出来ないんです。昔から不器用な子だとは思っていましたけど、家事一般というレベルではなくて……あれほどとは」

 重ねた溜息が重い。
 店長さん相当に苦労してそうだ。

「料理や洗濯や掃除が、ただ出来ないだけじゃないんです。破壊した上に引っ掻き回す天才なんですよ……僕が仕入れも兼ねた旅行で八日間くらい居なかっただけで、あの家は樹海になっていました……」

 利き手で眼鏡を軽く浮かせて反対の手でぐっと目頭を押さえる姿に哀愁すら感じる。

「そんな大げさな……」
「大げさじゃないです。それを全部片付けるのに出かけていた期間の倍は掛かりました。業者さんを入れれば良かった。そうだ。そうすれば良かった」
「お、店長さん?」

 あわわ、店長さんがどこか遠くへ行きそうだ。

「はぁ、家電はほぼ全滅。別れるときも一人で生きて行けるのかと相当に心配したんですけど、運が良いのかそういう運命なのか、彼女が好きになるのは女性ばかりなので、今もなんとか大丈夫そうです……」

 仕事は出来るんですけどねぇ。僕にとっては荒行でした。としみじみ。

「荒行……そ、それは、大変そうですね」

 微妙に涙目な店長さんにそれ以上突っ込んではいけないような気がした。
 かたかたと、塵取りのゴミをゴミ箱へと落として終わると、店長さんが消えていることに気が付いた。黙々と作業していた上に、もしかして、お店閉めてるんじゃないかと思うくらい静かだったから全然気が付かなかった。

 自分のやってることしか見えなくなるのはあんまり良くないよね。
 もっと全体が見えるようにならないと……そう自己反省したところで「お疲れ様」と声が掛かる。

「お茶淹れてきました。一休みしましょう?」

 そういって裏からカップを二つ持って戻ってきた店長さんにこくこくと頷き「片付けてきます」と掃除道具をしまいに走る。

「今日は静かですね」

 掃除道具を片付けて戻ってきた私は、カウンターに置かれた紅茶を両手に包んで、ふーっと息を吹きかける。ふわんと上がった湯気が、ふさぁっと散って鼻腔に優しい香りを届けてくれる。
 良い香り……。

「……あ、そうでした」

 私の台詞に、店長さんはぱたぱたと入り口に向い、ぱたんっと表のプレートを返した。

「どうせ朝の内の一時間くらいだからと閉めてたの忘れてました」

 お客さんが少ないうちにっていってたのに、ホントに閉めてたんですね。まあ、そのお陰で早く終わったんだと思うけど。時折店長さんのやるうっかりは、ちょっぴり可愛いと思う。ほんの少し照れ臭そうに笑った店長さんは「あぁ、そうだ」とカウンター裏から買い物袋を引っ張り出してくる。

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