***
けれど、無情にも朝は来る。
ぼんやりと目を開ければ見慣れた天井だ。
「けふっ」
あれ? なんだか喉がいがらっぽい。風邪かな?
私は喉を擦りつつベッドから起きだした。
当然、彼は目を覚まさない。
私にはきっちり背を向けてくれている。腕が痺れるだろうから、腕枕をしろとも、抱き締めたまま寝ろともいわないけれど、こちらくらい向いても良いと思う。
偶然? というか、こっち向いていることがあるのを私は知らない。
熱を出しても私の毎日は変わらないから、出来れば元気に過ごしたい。
体調が悪くて家事をサボったからといって責めるような人は居ないけど、でも、やっぱりやらないという選択肢は存在しないような気がする。
―― …… ――
みんなを送り出して、一通りのことを終わらせてソファに腰を降ろす。
「……うーん、微熱か」
念のため、検温したら三十七度二分だった。
このくらいなら寝てれば治るかな。今日はバイトがない日だし、少しだけ横になろうとソファに掛けてあったブランケットをひっぱってお腹に掛けて横になる。
今朝も夫との関係改善をするべく、スキンシップ率を上げようと努力した。
起きてきた彼に「おはよう」と抱きつき、出かける彼に「いってらっしゃい」とキスをした。
当然振り払われたり、拒まれたりはしない。
返されないだけだ。
見返りを求めるから哀しくなる。
これが私の普通なんだ。
これで、良いんだよね、これで……これが、一生続くと思うとやっぱりうんざりする。
文句も主張も十分したと思う。
これ以上は私からは出来そうにない。
でもやめてしまったら、完全に私と彼は触れ合うことはなくなってしまう。きっと彼はそれをなんとも思わないだろうけれど、私は我慢ならない。
きゅっと瞼を閉じれば、つぅと涙が目尻からこめかみへと流れていく。
―― ……早く、生き終わりますように……
静かにお願いしてうとうととする。
―― ……RRR……RRR……RR……
ちょっとだけ、そう思ったのに、ぐっと眠りこけてしまったようだ。
ローテーブルの上に置きっぱなしなっていた携帯が震えている。時計を見たら、おやつの時間、買い物にも行かなくちゃ、身体を起こして電話に出れば店長さんだった。
『今大丈夫ですか?』
携帯越しに聞こえてくる店長さんの声はどことなく嬉しそうだ。私までふんわりと嬉しい気持ちを分けてもらう。
そして、大丈夫ですよと返して続きを待った。
『明日入荷予定だったものが、今日届いたんですけど見に来ませんか? 僕もまだ開けていないのですが』
「明日って、確かハンギングランプが届くんでしたっけ?」
『そうです、そうです。オイルランプ型の可愛らしいやつですよ』
ハンギングランプは玄関とかダイニングテーブルの上とかに設置するタイプのランプだ。白熱球の明かりが室内を柔らかく包んでくれる。
うちにも欲しいなーと思うのだけど、今回のも売値で四万円くらいするんだよね。私にとっては欲しいな、買っちゃえっ! と即決出来る額じゃない。
「じゃあ、今から買い物に出ようと思っていたので、先に寄らせてもらっても良いですか?」
『どうぞどうぞ』
嬉しそうな店長さんの声は、やっぱりなんとなく沈んでいた気持ちも持ち上がる。
身体は熱いような気がするけど、さっきより断然動きやすい。ぐっすり寝落ちしたからきっと良くなったんだろうと、私は出かける準備を整えて、お店に向った。
「んー、折角ですからカウンターの上にディスプレイしましょうか?」
お店に到着すると、店長さんは例のノートに新しく入ったものの情報を書き加えてくれていた。
そして、一緒にダンボールを開封する。
宝箱を開けるようでこの瞬間がとても楽しい。
今回中に入っていたのは、予定していた、ハンギングランプと、クリスマスが近くなるからかキャンドルスタンドが幾つか、あとは外枠の彫が豊かなトレイだった。
仕事できているわけじゃないから、見ているだけで良いといってもらえたけれど、そういうわけには行かない。取り出した商品についていた梱包材をダンボールに突っ込んで、ぎゅっぎゅっ……と、
「わわっ」
「危ないっ!」
ぐしゃりと二人分の体重でダンボールを破壊してしまった。
ふわふわ、さあぁぁぁ……と、流れ出た小さなボール状の梱包材に涙が出そうだ。
「大丈夫ですか? 気をつけてくださいね。貴女を箱詰めにしては駄目ですよ」
「あ……あぁ……」
ぺたんと床に座り込んだまま呆然としてしまった。
私、何やってるんだろう。
片手でぐっと頭を抱える。背の高いダンボールだったから、そのままずるっと入り込みそうになってしまった。店長さんが腕を引いてくれたけど、間に合わなくて店内の一部が梱包材だらけだ。
「吃驚して腰でも抜けましたか?」
ぱっぱっと私の髪に絡んでいたのだろう、小さな白い粒を払い落としてくれながら、私の手を引いてくれる。ぐぃっと強い力で引き上げられてよろりと立ち上がった。
そのまま、ぼぅっとしてしまっている私のスカートに付いた粒まで叩き落としてくれながら、のんびりと店長さんが慰めてくれる。
「大丈夫ですよ。壊れたのはダンボールくらいです。因みにそれも僕が壊しました。掃除すれば元通りですから」
……和泉さん? と心配そうに呼びかけられて、私はびくりと我に返った。
「す、すみませんっ。そうですね、掃除! 掃除します。掃除……そう、じ……」
―― ……あ、れ……?
いいながら方向転換すると、一瞬自分がどこを見ているのか分からなくなった。
くらりと視界が揺らいで、慌ててカウンターに手をつく。
「ちょ! 大丈夫ですか? 手も凄く熱かったですし、もしかして、熱があるんじゃないですか?」
「大丈夫です。とりあえず、片付けないと」
「こらっ、大丈夫じゃない、大丈夫なわけないですよ。とりあえず、座ってください」
強引に傍にある椅子に座らされる。
おかしいな、大丈夫だと思ったのに、ぐるぐるする。座ったら益々身体が揺れているような感じに襲われて額を押さえて俯いた。

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