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全テニ依存スル
第十二話
「お待ちしておりました、神子姫」

 神殿の前には馬車が付けてあって、歩み寄ってきた宰相閣下がそっと手を伸ばした。
 私はその手を取りつつ、

「馬車、ですね」
「ええ、馬車ですが……」

 こんなもの結婚式場でくらいしか見たことなかった。ごてごてとした装飾があるわけでもないし、天気が安定しているからか、屋根もない。
 思わず眺めてしまっていたら、くすりと笑われてしまった。

「早馬ではありませんから、時間も掛かります。そろそろ出発しませんか?」
「あ、はい」

 彼は先に乗り込むと、不安定な揺れにバランスを崩しそうになる私の手をそのまま引いて座らせてくれた。その隣りに閣下が腰を降ろせば馬車はゆっくりと動き出す。

「お手間を取らせてすみません」
「いえ、こんな機会に恵まれるとは思いませんでした。それに、この馬車は私のものではなくて神殿所有のものですよ」
「え?」

 そっか、神殿にだって人が沢山住んでいるんだから、移動手段というものは必要になってくるよね。私が一人で納得していると閣下は話を続けた。

「私はどうにも信用していただいていないようで、そのまま姫を連れ去ると思われているようですよ」

 前例でもあるのでしょうかね。と意味ありげにくつくつと口元を覆って笑いを零す。
 別に疚しいことはしていないけど、確かに、その点について神殿の人たちが警戒しても仕方ないと思う。

 それにしてもこの人、元気になると、腹黒いタイプだ。
 落ち込んでいるときの方が余程大人しく人畜無害そうに見えるのに……私はこのときやっと人選をミスしたような気がした。

 見覚えのある門前まで来たところで馬車は一度止まる。

「ご要望の場所はどちらですか? その門前まで馬を進めますよ」
「え、あ……ええと、私ここで降ります。特に場所は決めていませんし、その……」

 ごにょごにょとそういえば「私も供をしましょう」彼は静かに立ち上がり先に降りてしまう。
 遠慮する隙もお断りする暇もない。

「あの、私は一人でも」

 気ままに一人でショッピングというわけには行かなさそうだ。
 続けて立ち上がった私の手を取って、ゆっくりと地面に降ろしてくれる。まだ揺られているようで、かくんっとひざが折れそうになるのを支えると彼は静かに続けた。

「一人でどうされるのですか? どちらにしても私は一度神殿に戻らないといけない。私は神殿に馬車を預けたままですからね」
「―― ……ご迷惑お掛けします」

 確実に人選をミスした。
 押し負けた私に彼は微笑み「それに」と続ける。

「護衛が居ないというのも問題ですよ。私は傍に控えておりますから、そう邪険にしないでください」
「そのような、ことは……」

 太陽の下で見ることはなかったし、直接個人を個人として見ることがなかったから気がつかなかったけれど、涼しげな美人さんだ。
 こんな人と昨夜一緒だったのだと思うとくらくらする。

 引いてくれそうにない宰相閣下にはこの際目を瞑るとして、私は気を取り直し街へと入る。

 外門を潜ると、あの日来たときと変わらず街は生き生きとしていて輝いている。
 その空気に触れるだけでも自然と心が軽くなる。
 閣下は控えているという言葉通り、私より数歩離れたところをのんびりとついて来ていた。

 広場まで出ると今日は市が立っていたのか、その跡始末をする姿も見えた。
 朝市の後片付け? といったところだろうか? そんなものがあったなら是非見てみたかった。私はそれを横目にしつつお店を一つ一つ眺めて回る。

 彼は何が好きだろう? 私にとっては見るもの全て新鮮でどれも楽しいし大好きだけど、彼はそういうわけではないはずだ。

 うーん、一口に贈り物といっても色々あるだろうし。
 私は彼の趣味を何も知らない。

 そういうときのプレゼントの鉄則は『自分の好きなものを贈る』うん。きっとこれだ。

 私はそう思って、改めてショーウィンドウを眺める。

 お菓子はこの間買ってもらったし、ケーキ……美味しそうだけど、日持ちしないだろうしな。大体私が起きてしまったら、時間軸が良く分からない。駄目になっている可能性だってある。
 うーん、でも、ああ、これなら。とふと思いついて、私はふと顔を上げると後ろを見た。控えていた、閣下に「あの」と声を掛けると、すっと歩み寄ってくれる。

「あれなんですけど、」
「ケーキですか? 可愛らしいものを好むのですね」

 女性らしいと加えられ、また笑われてしまった。
 私はそんなに彼のツボを刺激するのだろうか……。というか、顔が近いのですが、頬が当たるほど近くに来なくても同じものは見えると思うし、何気に腰に掛けられた手がくすぐったいのです。
 むぅっと眉を寄せたところで「買ってきましょうか」と重ねられ私は慌てて首を振った。

「い、いえ、そうではなくて、私お小遣いは貰ってきたので」
「小遣い、ですか?」

 慌てて口にすれば、彼は涼しげな目元を驚きに変え、僅かな沈黙のあと、我慢ならないと笑い出してしまった。

「え、あ、え、ええと……あの、私、そんなに変なことをいいましたか?」
「いいえ、滅相もありません。間違っていません」

 それならそんなに目に涙浮かべるほど笑うことないのに……。

「すみません、あまりに可愛らしかったので……それで、私は何の相談に乗れば宜しいでしょうか?」

 私がしょぼんとしたことに気がついたのか、彼は姿勢を正し丁寧に問い直した。
 私は、ポケットから受け取っていた小さな袋を出して「これで足りますか?」と訪ねた。閣下はなるほどと微笑んで、そっと私の背を押し、店の扉を開いた。
 そして確認して私の代わり買い物をしてくれた。

 どうぞ、と渡してもらえたパウンドケーキはまだ暖かくて柔らかい。
 今すぐ食べさせてあげたいのに、一緒に居るのが別の人で物凄く残念だ。

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