第三章 メルキド侵攻 第二話
アドニス要塞群が見渡せる位置に、ワイバニア十一個軍団全軍が布陣していた。
「アドニス要塞群全てを陥落させる」
軍議の席で、ワイバニア帝国皇帝ジギスムントは戦いに先立って宣言した。
「アドニス要塞群は相互に連絡しあっている。できるだけ早く、しかも同時に陥落させなければ、我々は退路をふさがれてしまう」
ジギスムントは淡々と、その理由を述べた。実戦指揮官である九人の軍団長はそれを黙々と聞いていた。
「それで、戦力をどう割り振ろうかのう・・・・・・我々とて一個軍団で要塞一つ抜くのは無理があろうて・・・・・・」
第四軍団長のグレゴール・フォン・ベッケンバウアーが言った。彼の長い戦歴の中でも、このアドニス要塞群を攻撃したことは数えるほどしかない。それほど、ワイバニアはメルキドとの交戦を避けており、一個や二個軍団程度の戦力で、要塞を落とすのは無謀であると言えた。
「いや、要塞一つ程度ならば、我々だけで十分だ。第一軍団はベリクリーズ要塞を攻めさせていただこう」
第一軍団長のハイネが言った。
「おい、それはいくら何でも無茶ではないのか?せめて、あと一個軍団くらいは・・・・・・」
「いいえ。クライネヴァルト軍団長の言う通り、第一軍団単独で要塞を攻略した方が最善です。私の第二軍団もタッソー要塞を単独で攻略させていただきます。そうすれば、残りの要塞を3個軍団ずつで攻略することが可能になります」
第六軍団長のオリバー・リピッシュの言葉を遮って、第二軍団長のマレーネ・フォン・アウブスブルグが言った。
ワイバニア第二軍団はハイネ率いる第一軍団に次ぐ精強さを持つと名高く、マレーネの指揮があれば、第一軍団とほぼ互角と言われるほどの強さを誇っていた。
マレーネ・フォン・アウブスブルグは今年、30歳になる指揮官で、代々名外交官を輩出した名家であるアウブスブルグ家に生まれ、幼少期から高い教養を身につけた才女だった。その上品な物腰と気品ある美しさから、”ワイバニアの聖女”と呼ばれ、外交にも手腕を発揮する名軍団長だった。
「ほほ・・・・・・これで、決まりのようじゃの。皇帝陛下」
グレゴールが皇帝を見た。若き新皇帝は自分が軍議を主導出来なかったことに少しいらだちを覚えていたが、表面は平静をとりつくろい、号令した。
「いいだろう。第一軍団はベリクリーズ、第二軍団はタッソーを攻略。第四、第八、第十一軍団はカルデーニオ、ベッケンバウアー軍団長が指揮をとれ。第五、第七、第十二軍団はメルヒェン。右元帥ビフレストが第七軍団を直率し、攻略の総指揮をとれ。第三、第六、第九軍団はデミアン。第三軍団は予自らが直率し、攻略の総指揮をとる。よいか、この攻略は時間が勝負だ。そのことを努々忘れるな。二日以内に攻略せよ」
軍議に集まった諸将は敬礼すると、直ちに自分が指揮する軍団に散って行った。
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