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第二章 戦乱への序曲 第三十九話
「遅い!もう一時間も立っているというのに、ヨハネスの奴・・・・・・」

アンジェラはついに怒り心頭に達し、官舎に帰ろうとした。そのとき、往来の男が叫んだ。

「殺しだ!向こうの路地で人が倒れてるぞ!!」

普段ならば気にも留めない、警察に任せておけば良い。だが、アンジェラは嫌な予感に襲われ、路地へと走った。路地に入り、暗がりの中でアンジェラはよく知る者の変わり果てた姿を見つけた。血だまりの中で、力なく腰を落としたヨハネスのもとにアンジェラは駆け寄った。

「ヨハネス!!」

大量の出血で目もかすみ、ショックで震えを起こしながらも、ヨハネスはアンジェラの声のする方向に顔を向けて笑った。

「や・・・・・・ぁ、済まない。アンジェラ・・・・・・食事の約束、遅れてしまったね・・・・・・」

「しゃべるな。今医者を・・・・・・」

アンジェラはすぐに立ち上がろうとしたがヨハネスに止められた。

「もう、助からないよ・・・・・・これを・・・・・・」

ヨハネスは血にまみれた封筒と龍の眼を差し出した。ヨハネスはアンジェラの顔に手を触れると、硬い違和感を感じて、力なく微笑んだ。

「こんな・・・・・・ときも、仮面・・・・・・なんだね・・・・・・」

アンジェラは仮面を外し、ヨハネスを見つめた。

「そうだよ・・・・・・君はその方が、美しい・・・・・・」

そう言うと、ヨハネスは静かに目を閉じた。

「ヨハネス?ヨハネス・・・・・・?」

アンジェラはヨハネスに問いかけた。しかし、ヨハネスは二度と動くことも、息をすることもなかった。

「馬鹿が・・・・・・目が見えなかったら、私の顔など分かる訳がないだろう・・・・・・ヨハネス・・・・・・!」

何年ぶりだろう。涙を流したのは。女を捨てた日だったか。いや、もっと昔かもしれない。アンジェラは白のドレスを紅く染めながら大粒の涙を流し続けていた。
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