第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第百六六話
第三軍団が後退しても、フォレスタル第一軍団の危機は去らなかった。マレーネ・フォン・アウブスブルグ率いるワイバニア軍第二軍団五〇〇〇がフォレスタル第一軍団に攻撃を仕掛けたのである。
自軍に倍する兵力を叩きつけられては精鋭といえども防ぐ術はない。たちまちのうちに戦線は崩壊し、分断された第一軍団の残存兵力は後続のワイバニア軍に各個撃破されていった。
フォレスタル兵が次々とミュセドーラス平野に倒れていく中、フランシスら二〇〇の兵は未だ秩序を守って敵の攻勢を支えていた。
「これまでのようじゃな」
「はい」
フランシスは参謀長のキングストン・ウェルズリーと目を合わせた。
「よくやった。よく戦った。これで思い残すことはないのぅ」
晴れやかに笑うフランシスにウェルズリーが杯を差し出した。別離の酒である。老将二人は杯を合わせると、一気に酒をあおった。
「いい酒だな、キングストン」
「はい」
杯を放り投げ、フランシスは愛剣を引き抜いた。
ワイバニア軍先鋒はフランシスらが築いた防御陣を突破し、司令部にまで迫っていた。装甲馬車から降りたフランシスに一本の矢が襲い掛かった。
武芸に秀でたつわものですら、深手は避けられなかったであろう矢を、フランシスは苦もなく素手でつかむと、地面にたたきつけた。
「さて、いくとするかの……」
「軍団長、おさらばでございます」
手槍を携えたウェルズリーがフランシスに敬礼した。
「長い間、世話になった。あちらでも酒を酌み交わそうぞ」
「はい」
ウェルズリーはフランシスの前に出ると、敵兵に向かっていった。これ以後、ウェルズリーの姿を見た者はいない。ある者は戦場で散ったといい、またある者は戦いを生き抜き、家族と再会したとも言われている。これは乱戦のため、誰によって討ち取られたかが分からないことによる。しかし、名将フランシスを支え続けた参謀の死を惜しむ者が多かったことも事実であり、このような生存説がまことしやかに流れたのではないかと推測されている。
相棒を見送ったフランシスの視界に金色の槍を背負う白銀の龍の紋章旗が入ってきた。ワイバニア第二軍団の旗印である。
「さぁ、来るがいい!」
フォレスタル随一の老将は裂帛の声をあげた。
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