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第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第九十五話
ヒーリーの命令を受けたフォレスタル第五軍団第一機動歩兵大隊は二つの凸形陣を形成すると、マンフレート・フリッツ・フォン・シラーが直率するワイバニア第三軍団第一歩兵大隊に向けて前進した。両軍の距離はたちまちの内に縮まり、兵士達の間に剣戟の音が響き渡った。

「弓兵大隊掃射用意。歩兵大隊を援護せよ!」

フォレスタル軍の攻撃ポイントに手持ちの歩兵兵力の大半を集中させてヒーリーの攻撃を防いだシラーは叫んだ。シラーの防戦に応えるように、ワイバニア軍は速度を上げながら撤退していく。あと少し、あと少し。後ろを振り返ったシラーにわずかだけ隙が出来た。

「今だ! 第二機動歩兵大隊突撃!」

ワイバニア第三軍団の陣形の中央が手薄になったそのときだった。第一歩兵大隊の後方に隠れた一個大隊が、鋒矢の陣を敷き、文字通り矢のように飛び出した。

「しまった……」

敵の中央突破は十分予想できた。出来たはずなのに、ヒーリーは彼にそれを備えることを許さなかった。ヒーリーは局地戦において、自軍と敵軍に大きな兵力差があることを利用し、前線に兵力密度の差を生じさせ、中央部の守りを薄くさせた。そして、中央部の兵力が疎になった時期をねらって、歩兵大隊を突撃させたのである。

当時ワイバニア軍の横陣中央部を守っていたのは、わずかに二個中隊のみ。そこにフォレスタル軍の機動歩兵一個大隊が殺到した。いかに不動の第三軍団といえども、持ちこたえられる訳がなかった。

「ちくしょう……」

シラーは間近で押し寄せる人の津波を見た。副官のヘルマンが独断で、シラーの馬を引いて脱出しなければ、それがワイバニア第三軍団長マンフレート・フリッツ・フォン・シラーの最後の光景になっただろう。

「放せ! ヘルマン!」

「軍団長、死んではいけません! あなたはワイバニア軍の柱石に……」

そこまで言って、ヘルマンの言葉が止まった。ヘルマンの腹には血に濡れた槍の穂先が生えていた。口からは紅色の血を吐いた副官はシラーの視界から消えるように馬から落ちていった。

「ヘルマン!」

シラーは副官の名を呼んだが、若者はもう、彼の言葉に二度と応えることはなかった。第三軍団長付副官へルマン・プファイル戦死。わずか二十年の短い生涯だった。

「ヘルマン……」

シラーは振り返ることが出来なかった。今、戦場に戻れば、間違いなく死ぬ。前途ある若者が散らして救ってくれた命を無駄にすることが出来なかった。
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