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第一章 オセロー平原の戦い 第十二話
ロミオ峡谷に到着したヨハネス率いる第三軍団は峡谷入り口にて一時進軍を停止した。

「どうして、進軍しないのですか?敵は目の前なのですよ!!?」

副官のヘルマン・プファイルが言った。ヘルマンは今年21歳になったばかりの若い将校で、大規模な戦闘はこれが初めてだった。ヨハネスは血気にはやったヘルマンを制した。

「ヘルマン。どうやら、相手はフォレスタル第一軍団だ。軍団長のピットは老練な名将だ。木々の茂る斜面に布陣したことで龍騎兵が、狭い峡谷に我々をおびき寄せる騎兵の機動力が封じられることになる。そうなれば、我々は実質足をもがれたに等しい状態になってしまう。慎重にならざるを得ないさ」

ヘルマンはヨハネスの話を聞き、我に返った。

「申し訳ありません。初の実戦で、熱くなり過ぎました」

「いや、いいんだ。我々の役目は、敵の軍団を釘付けにしておくことだが、兵力を減らしておくのは後のことを考えると、悪くはない考えだからね」

ヨハネスはかけている黒ぶちメガネを少し上げた。敵の出方を読み、考える時の癖だった。

「重装歩兵隊を前衛と両翼に展開、弓兵による狙撃に警戒しつつ、前進」

ヨハネスは手持ちの重装歩兵大隊を3隊に分割して、味方の防御を厚くさせ、前進を開始した。

その様子を見たピットはすかさず次の指令を下した。

「ほほう。やっと動いたか。さすがは第三軍団。一筋縄ではいかん。2個機動歩兵大隊を展開し、鶴翼陣形で対応せよ」

機動歩兵はフォレスタル独自の兵科で兜と胸甲のみで防御し、軽装ゆえの素早さで敵を翻弄する部隊であった。扱う武器も多彩で、ボウガンや剣や槍、ナイフなど取り回し容易な武器を戦況に応じて操った。ピットはワイバニア軍の前進に合わせて、攻撃態勢をとった。

森に身を隠したとしても、1,000人単位の兵力の移動は気づかれる。双眼鏡で敵の陣形変換を見たヨハネスは、直ちに次の指令を下した。

「前進やめ!弓兵隊は火矢の用意をさせよ。森を焼き払う」

森からワイバニア軍の動きを見たピットはさらに陣形変換を命じた。

「各歩兵大隊は分隊単位に分かれ分散。各分隊で消火班を組織し、消火に当たらせよ。それから、騎兵大隊に伝達。峡谷を迂回し、ワイバニア軍の退路を絶て」

ピットと時を同じくして、ヨハネスは命令を配下の部隊に下していた。

「そろそろだろう。後衛の歩兵大隊と騎兵大隊に伝達。敵は我々の背後をに展開し、退路を絶とうとするはずだ」

ワイバニアの後方部隊が後ろに下がるのをみたピットはさらに陣形を変換させた。

「まずい。騎兵大隊の攻撃を中止。もどらせろ!」

実際に二つの軍は戦端を開いている訳ではない。だが、壮絶な戦いがこの二つの軍団に展開されていた。

「こんなに張りつめた戦いは初めてだ・・・・・・」

ヘルマンの隣で、第三軍団参謀長のアルバート・フォン・ヘッセがひとりごちた。
ヘルマンは、アルバートに尋ねた。

「そうなのですか?私には絶えず陣形が変化しているだけにしか見えないのですが・・・・・・」

「おそらく、並の軍団なら、こうはいくまい。最高レベルの将帥だけがなしえる戦いだ。貴公も刮目しておけ。こんな戦、もう見れんかもしれんぞ」

「は・・・・・・」

ヘルマンは頷いた。ヘルマンの目の前では、各部隊に陣形の変更を命じ続けるヨハネスの姿があった。
この数時間後、両軍の戦闘はこう着状態に陥った。一人の死者、一人のけが人も出さないままで・・・・・・
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