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旅人と”四季と踊る国”のお話

作者:空橋 駆
その国は、深刻な危機を迎えていた。
この土地を治める神様が居なくなった直後の混乱よりも、遥かに不味い状況に立たされていた。


”季節を司る女王の一人を、魔法使いの塔から連れ戻してほしい”と、
この国を偶然訪れていた旅人は、宿泊していた宿の女将に聞かされた。

『こんな場所にまでやって来る旅人ならば知識も豊富ですよね。
 身勝手な願いかもしれませんが、どうか引き受けてくれませんか?』

申し訳なさそうに宿の女将は言っているが、そこにはどうにも断りづらい雰囲気があった。

旅人は内心では厄介ごとであり関わりたくはないと思っていたのだが、
旅の目的に触れるかもしれないとも考え、詳しい話を聞くことにした。

『国王様のお触れも既に二桁近く出されています。
 もはや猶予はそこまでないのです』

宿の女将は更に申し訳なさそうな顔でそう言う。
村の活気の無さも含め、これは本当に深刻な事態らしい。

『話だけでも、聞くとしましょう』

このまま立ち去ってしまっては、今後の旅路も後味が悪いものになってしまう。
旅人は仕方なく引き受けることにした。


返事をするとすぐに、国王の元へと連れて行かれた。
そして国王は挨拶もほどほどに現状を話し始める。

『この国の外れには、遥か昔に魔法使いたちが協力して作り上げた塔がある。
 ここに季節を司る女王たちが順番に住まう事で季節を動かしていた。
 だが、未だに冬の女王が戻らずに春が来ない』

旅人は心底呆れた。

『神様の代行なぞ永くは続かぬものだが、それを本当に維持し続けるだけでいいのか』と。

国王は落胆し、思わず声が出ていた。

『それでは、この国は静かに滅びろというのか』と。

旅人はそれを聞いて、暫し想いにふけった。

『土地を護る神様を失った地は、滅びるのみ。
 どの場所に行っても、永い時間を持ちこたえるのは叶わない。
 しかし、この地は人の手により護られ続けている。
 この流れは、遺さねばなるまい』

旅人は、この地の成り立ちを少しだけ理解して、
そこに希望を持つ事ができたという。

『四季を取り戻してくれる、と?』

国王の青白くなっていた顔に、赤みが戻る。
ただ旅人の眼をずっと見て懇願していた。

『可能な限り、手を尽くす』

旅人も覚悟を決めた。
やれるだけのことをやってみるのも悪くない。

『できることならば、冬の女王を傷つけずに春を迎えさせてほしい』

旅人は無言で頷き、そのまま一人で塔へと向かっていったのだった。


それが、少し前の出来事。
大した装備も持っていなかったが、塔までの道のりはこれまで巡った旅路の中では険しさなど一切無く、
季節が季節ゆえに道中を脅かすような獣なども一切現れない。
遠くを見れば凄まじいほどの雪景色ではあるが、幸いこの辺りは雪の影響をほとんど受けずにただ寒いだけだった。

そこまで時間を掛けることなく、旅人は塔にたどり着いた。
この塔は、あまり高いものではないが、魔法使いたちが建てたというだけあり少しばかり強い力を感じる。

永い年月の間この場所で四季を操っていたのだろう、随所に古さを感じる。
色々な所に目をやれば綻びている場所が目立つので、
一歩間違えれば冒険者ですら近寄りたくないと叫びだすような場所にも感じ取れる。


しかし、それにしても肝心の入り口が見当たらない。
旅人は先ほどからずっと塔の周辺を歩いてはいるが、中に入るための手がかりが見当たらないのだ。

「どうすればいい?」

思わず、塔に向かって問いかけていた。

ふと、背後に気配を感じて振り返る。
そこには、明らかに怪しい風体をした老婆が立っていた。

「冬の女王が降りてこないから、使者を寄越したか」

不気味な笑みを浮かべているが、旅人は怯まなかった。

「冬の女王を匿っているのか?」

旅人は老婆に強い口調で聞いていた。
しかし、老婆は動じることなく首を横に振った。

「匿われているわけではないのなら、
 何故冬の女王はこの塔から出てこない?」

旅人は少し冷静になりながら老婆に問う。

「この地を治めていた土地を護る神様からの罰を恐れているのだよ。
 季節の変わり目に戻ってきて人の手により季節を動かした罰を受ける、と」

老婆がそう答えると、旅人は何となく理解したらしく目を閉じて頷いていた。
そして、旅人はこの件について更に詳しく話を聞くことにした。

老婆が言うには、神様の代わりに四季を動かすのは元々禁忌に触れる事であり、
季節の変わり目を目掛けて神様が戻ってくるという噂が元々あったというのだ。
今の冬の女王はそれに加えて、次の春が来るときに神様が戻り女王たち皆が神様の罰を受けさせられるという言葉を旅の占い師より授かっていた。
そして、冬の女王が占いを信じてしまい春が来るのを未だに拒んでいるという。

旅人は困惑した。
おそらく各地を放浪する力の無い占い師に法螺を吹き込まれたのだろう。

最後に、更に情報を得るために旅人は老婆に土地を護る神様の名前を教えてもらうことにした。

「そうか、なるほど……」

旅人は祭られていた神様の名前を聞いて驚くと同時に、更に頭を抱えたのだった。

「冬の女王に伝えておいてほしい。
 少なくともこの国の者達が神様から罰を受けることはない、と」

老婆は訝しげに旅人を見る。

「少し前に、神々が集う村を訪れたのだ。
 ここの土地を護る神は、確かそこで修行と称して遊び呆けていた」

老婆は更に旅人を訝しげに見る。

「お仕置きを受けるのならばこの土地を護る神様の方だ。
 感謝しよう、これでまた旅の目的が一つ達された」

老婆は感付いた。

「ただの旅人ではなかったか」

旅人は静かに頷き、老婆は微笑を崩さぬまま塔の中へと消えていった。
どうやら老婆は、この塔を護る魔法使いだったのだろう。


旅人はすぐに国王の下に戻り、報告をする。

「冬の女王の勘違いは無事に解けました。
 暫くすれば戻ってくるでしょう」

国王は驚き、すぐに褒美を出すようにと側近に告げるが旅人はまだ話を止めなかった。

「褒美は結構です。
 それよりも、根本的にこの状況を正す方が先です」

旅人がそう言うと、国王は褒美の準備を止めさせた。
そして、旅人の次の言葉を待った。

「どのような方法を使うというのだ?」

どこか半信半疑で旅人に問う国王だが、国王もおそらく何をするのかを感づいているのだろう。

「この土地を護る神を連れ戻してきます。
 少しばかり時間が必要かもしれませんが、
 おそらく数年のうちには可能になるでしょう」

旅人は、自信を持ってそう言い切った。
しかし、国王は理解はしているものの首を傾げていた。
本当にできるのか、と。

「世界各地を巡る中で、神々が住まう村にも足を運びました。
 そこに行けば、解決方法が見つかると踏んでます」

旅人がそう言うと、今度こそ国王も納得していた。

「どんな形であれ、神様がここに戻れば四季が自然に巡る。
 それまで、もう暫くこの仕来りを続けてください」

国王は頷き、旅人の手を取った。
後は託したと、小声で言っていたという。

そして、再びこの地に神様を連れ戻すことを約束して、
旅人はこの国を去っていったのだった。


それから五年もしないうちに、
神々の住まう村にて遊び呆けていた、この地を治める土地の神様が戻ってきた。

聞く所によると、四季の管理が面倒になり気晴らしのために逃げ出したという。
そして、旅人が戻った後にこの国の現状を告げられ、
散々怒られた挙句神様の力すら奪われそうになったらしいが、
百夜に渡りひたすら謝り倒してこの国に戻る事を許してもらったといっていた。

神様が戻ってきたことで、この国には自然に四季が巡る時代が戻ってきた。
その裏で魔法使いの建てた塔は役目を失った、と思われていた。

残念なことに、この土地を護る神様はやはりどこか怠け者。
『季節の変わり目を教えてくれるのは助かる』との一声により、
魔法使いの塔にて季節の節目を知らせる儀式を行う仕来りがこの国に作られた。

それが塔の中にて舞い踊るものだったこともあり、
最近になって”四季と踊る国”と呼ばれることになり、この塔も有名になった。

一方、この国に偶然訪れたあの旅人は、
土地を護る神様が戻った頃になって、ようやく神様が寄越した存在だったのだと明かされた。
旅をしながら各地を巡り、神様の力を確認してゆく。
今もどこかで、彼とその仲間たちが各地を巡り続けているのだろう。


後に魔法使いの塔の前にこの出来事を記念した石碑が作られるのだが、
一度も名乗ることなく去っていった上に、存在もあまり公にすべきでないと考えられたのだが、
旅人に実際に依頼を出した当時の国王が石碑の文言を考え、全てを丸く収めたのだった。

”名も無き旅人に永遠の感謝を”
記念碑の最後には、こう刻まれている。

2017/1/16 投稿後に改めて一部を書き直し再登録

世界観としては「若き旅人と狐耳の神様」とほぼ同一です。
こちらの作品の方がその時代からすると随分と後の話になります。

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