1st Stg第9話「Just Arrived!」
フォイオン中央映画館前のビルの中に、マシューとジョルジュはたてこもっていた。というより、逃げ道を見出せず隠れているといったほうが無難か・・・。16階建ての老廃したビルは、その腹にヘリから機銃掃射を受け、彼らのいる15階から下へは降りられないような惨状だった。足止めをさせるには好都合だったが、侵入する側から見れば、こんな不安定なビルに入りたくないと思うのが普通だろう。それくらいこのおんぼろビルは不安定だった。
そんなビルの一階中央ドアでは、10人ほどの102陸軍部隊の精鋭が、四周を警戒しながらビル内に進入していく最中だった。
すっかり日も落ち、あたりは暗闇に包まれていった。
問題のビルから1キロほど離れた暗い道路に、深いグリーンカラーの軍用大型トラックが駐車していた。折りたたみ式のアンテナがいくつも装備され、辺りを警戒するレーダーを搭載しているのは一目瞭然だった。
フォイオン陸軍102部隊の軍人がその周辺を立哨していたが、ベンとホウィがこちらに向かってくるのを確認すると、トラックの荷台バックテールドアを開き、中に誘導してくれた。
そのトラックの内部にはハイテク機材が所狭しと詰まっており、光のインジケーターが怪しく光っていた。
「長い船旅が終わったと思ったら、いきなりこんな事件とはこれからが思いやられるな。」
ICC(中央指揮)トラックの中では、白いワイシャツを着た東洋系の男が、コンピューターを起動させながらにやりを笑った。
「そういうなよ。オスカー。俺も今日フォイオンに入国したばかりだ。」
この男の名はオスカー・重森・ラビンドラナード。国籍はインドだが、祖父は太平洋戦争後にインドネシアに残り、この国の独立戦争をともに戦った日本軍人の血を引く日系インド人だ。
彼の父親の世代になって家族でインドに移民した後、彼は中学、高校とトップの成績をあげ、ついにはインドと日本でコンピューター関連の大学院を卒業するほどになった。今や、世界でも有名なコンピュータリテラシーを持つ男だった。
サラとは英国内SAS本部において、彼がハッキング調査を任されたときに知り合った。ベンやホウィとは、彼がフランス外人部隊で短期民間雇用の情報分野教官を任されたときから、親密な仲間になっていた。
「挨拶は後だ。建物内を調べてくれ」
「了解、教官」
ものすごい速度でパソコンをたたき出すオスカーだった。中央に表示されているスクリーンにマシューとジョルジュがいるビルの内部構造が映し出された。
「青い丸い点が味方です。この赤いスクエアサインは何らかの電気器具もしくは熱を伴う武器、発火装置と考えられます。マシューとジョルジュは、ここ・・・・」赤い星印となって表示されているのを指差した。
「すげ!・・よく開発したな」
「まあな・・・・まだ完璧じゃないがね」そのとたんどこからともなくアラームが鳴った。
「なんだ?」ベンはそのアラーム音のするほうに振り向いた。
「やつらがどこかに連絡している。携帯電話の電磁波をキャッチしました。」
「拾えるか?」
「まかせてください・・・・フォイオン国の携帯電話会社へのハッキングは朝飯前です。・・・」
そんなころ、ビルの15階の一室では、布地を見つけそれを血が滴る右足に、力強く締め付けるマシューの姿があった。
「くそ・・一体だれが・・・」ふとみると、ジョルジュは手に携帯を持ち、誰かと電話をしていた。
「俺だ。助けてくれ・・・くそったれ3流軍隊に囲まれた・・・国王アンドレはダミーだった!ここにはいない!!フランツの野郎・・」
「馬鹿野郎!」ついにジョルジュをどつきあげ、携帯を奪った。
「こっちのことは気にするな。それよりレオナードイタリーレストランへ行ってくれ。アンドレがいるはずだ。なんとしても奴を人質にとって、3Xを頂くんだ!!」
それだけ言うと電話を切った。
「いてーな!なにすんだよ!」
「助けを請うなんざ、1流軍人のすることじゃねえ!なぁに大丈夫だ。心配するな・・・もうすでに手は打ってある。最悪俺たちが捕まっても、アンドレ王さえ奪えば、やつらは俺たちの言いなりさ。ま・・・ただじゃ捕まりはしないけどな・・・」
彼はそういって、胸元のポケットから小さい装置を取り出して見せた。
現地から遠く離れた小高い丘に位置していた白いバンが見えた。外出禁止令の出されたフォイオンであるのに、この男たちは悠々と動き回っているようだ。
その後部座席では、薄茶色の髪をした男が携帯電話を切り、それを静かに胸のポケットへしまうと、ゆっくり次の台詞を繰り出した。
「レオナードイタリーレストランへ」
「は!」白いバンのエンジンがかかり発進すると、目の前の交差点を左折して消えていった。
一方、レオナードイタリーレストランでは、他に客のいない広い部屋で4人だけの食事が始まっていた。
イタリア領事館のブラマンテは、そこに並べられたパスタ料理をおいしそうにほおばりながら、次から次へと話題を提供し盛り上げている様子だ。
「私もこのフォイオンに来て、早くも3年が経ちましたよ。誠に美しい国で、ワイフも母国には帰りたくないと駄々をこねているんですよ。」
「それは光栄です。イタリアからこの国まで飛行機で5時間ですから、是非またお越しいただきたい。」
「国王こそ、是非このお美しい姫とともにイタリアへ。」
サラの顔が引きつった・・。私のことはほっといてくれてもいいのに・・・。
「サラ様はイタリアへは行かれたことありますか?」そんな不安を抱いているとも知らずに、ブラマンテの同僚がサラにも語りかけてきた。
「イタリア・・・ええ。何度か・・・」
「どちらへ?」興味深深な表情でサラを見つめてくる。
『上流階級のお嬢様じゃないんだから、・・・そんなこと急に言われても・・・』
サラは答えにいきづまった・・・。アンドレが援護に回ろうとした瞬間、サラは外人部隊で習った歴史を思い出した。
「ソルフェリーノです。・・・過去に外人2連隊がその戦いに従事しオーストリア軍と激戦を展開したというので・・・・いえ!・あの・・赤十字を創設することになった場所を・・・友達と訪れてみようかと・・・・」
「おお・・・アンリ・デュナンに興味をお持ちなんですね。」
「彼の執筆した『ソルフェリーノの思い出』、私も読みましたよ。その場所は赤十字運動発祥の地ですからな!」
思いのほか、外人部隊でも教育も捨てたもんじゃないと、サラは胸をなでおろした。そんな安心しているのもつかの間、このレストランにアンドレ捕獲作戦を画策している男たちが近づいている事実は確かだった。
(参考)
アンリ・デュナン『ソルフェリーノの思い出』
ソルフェリーノの戦い(Battle of Solferino)は、イタリア統一戦争中の1859年6月24日にイタリアのソルフェリーノを中心に行われた戦い。アンリ・デュナンが赤十字を創設するきっかけとなったこの戦さでは外人第2連隊がオーストリア軍と激戦を展開した。
この戦いを観戦していたアンリ・デュナンは、戦場の惨状に強い衝撃を受け、「ソルフェリーノの思い出」と題した書籍を出版、これが後の赤十字運動へつながった。(Wikipediaより)
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