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  Mission!! 作者:Rach
7th Stg第83話「Fly High5」
走ってはいけないはずのエプロン地区で、ヘルメットを片手に旅客機に近づくマルセルがいた。遠くに見える家族の姿は、臨時に設けられた入国審査や検疫などを終え、それぞれの家路についている様子だった。すっかり音を落とした旅客機の中から、帽子を小脇に抱えた姿で現れるレイモンが見えた。
「レイモン!!やっぱり・・やっぱりお前だったんだ!」

レイモンはラダーをゆっくり降りてくると、そこにいたマルセルを見て、にやりと笑ってみせた。
「マルセル、立派なパイロットになったな。あの状況でよく俺だとわかった。」
そう言ってレイモンはマルセルと肩を抱き合い、久しぶりの再会を喜んだ。
「軍を辞めたと聞いたから、あれからどうしてるのか心配だったんだ。だって、お前がもしいなかったら、おれはとっくにパイロットコースから外れていた。」
「すまない・・・。あの時、俺は家族を失って、同じ空に散ってしまった妻と子供のことを思うと、この空を飛ぶ気力をなくしていたんだ・・」
そこへイッシュがそうっと歩みよってきた。
「過去にあれだけ勇気付けられた俺なのに、俺には悲しみにくれている君に何にもしてあげることができなかった・・・すまないと思っている。」
「でも、こうしてまた空に戻ることができた。それはマルセルとイッシュ・・・君たちのおかげだ」
「イッシュ?・・」振り返るとそこにイッシュがいることに気づいたマルセルだった。今頃気づいたのと言わんばかりに、イッシュはふくれっ面をして見せた。
「彼女から手紙が届いたんだ・・・。マルセルが俺に浮気ばかりしているから、お前のことなんかなんとも思っていないと言ってやってくれと・・・。いつまで彼女を待たせる気だ?とっとと一緒になっちまえ!!」
「え・・ちょっと」マルセルの突然のセリフに驚いたイッシュは、顔を真っ赤にして恥ずかしそうにうつむいてしまった。トルコ航空のフライトアテンダントがラダーを降りきった頃、ちょうどそのタイミングにゆっくりと迎えのバスが近づいてきた。バスの中からトルコ大使館の館長パスチュルクが出てくると、レイモンと館長は固く握手を交わした。
「ご苦労だった・・・。例のものは?」パスチュルクがそう言うと、レイモンはちらっとマルセルを視界にかすめ、持っていたアタッシュケースを持ち上げこう言った。
「ここにあります。なるべく早くこの国の首脳陣とコンタクトを取りたい。」
「手はずは整っています。では、・・・」パスチュルクはそう言うと、バスへ乗るように誘導した。
「レイモン?・・・」マルセルはそんなレイモンに声をかけた。
「明日、連絡する。一緒に飲もう!」にんまり笑うとフライトアテンダントとともに、バスに乗り込むレイモンだった。

宮殿に帰ってきたアンドレは、部屋に入るなりすぐシャワーを浴び、ナイトガウン姿で何か本を探している様子だった。サラは何かしら心臓の高鳴りを抑えることができず、書斎に入ったアンドレの姿を、ソファに腰かけたままチラチラと見ていた。
「シャワーは朝、入りますか?」
アンドレの声が書斎から聞こえてきた。驚いた様子で振り向いたサラは、いきなりソファから立ち上がってみせた。
「え?あ・・・いつも朝だけど・・・」
「明日は特に公務はありません。ゆっくり寝ているといいですよ。」
「そ・・そうよね。朝寝坊は得意だから・・・じゃ・・・」
サラはそう答えると、浴室へと歩を進めた。そこに、電話で話をするアンドレの声が聞こえてきた。
「あ、私です。すみませんが、例のものを準備していただけますか?」
浴室に入って静かにドアを閉めたサラは、そこにある鏡に映っている自分の紅潮した顔を見てため息をついた。
「例のものを準備?・・・いったい何を・・・・ダメダメ!!私はボディガードとしてここにいるのよ。まんまと国王の計画に乗せられてはいけない・・・。傭兵の私に王妃なんて務まるわけないじゃない・・・・・。」
大きく息を吸ったサラは、真っ先にジャグジーバスへと飛び込んでいった。

その後、サラは勇気を出してズカズカと浴室から出てくると、濡れた髪をタオルで拭きながら、リビングでくつろいでいるアンドレに近づいて行った。
「あの!!」そう言いかけたサラは、テーブルに置かれたものを見て、一瞬口を開けたままぽかんとつっ立ってしまった。きれいに飾りが施された小さめの円形ケーキとフォイオン産のワイン、そのケーキのトップには『ロイ スタインベック』の名前が書かれていた。
「これは・・・・」サラはアンドレの顔を覗き込んだ。
「今日は兄の誕生日なんです。肝心の彼はいませんけど・・・。彼の好きだったチョコレートケーキで、どこかにいるロイ兄さんを祝福したいと思います。」
そういってろうそくを立てるアンドレだった。サラは、自分の近くにあった照明スイッチスライドさせ、部屋の明かりを少し暗くすると、バースデイケーキにともったキャンドルの明かりが二人を幻想的に包み込んだ。
サラはアンドレの隣に腰かけた。ふと見るとアンドレの表情はなにげに悲しそうで、どこかにいるはずの、たった一人の家族との思い出をかみしめているのか、揺らめくキャンドルの炎を黙って見つめていた。
「・・・・ロイとは仲良かったの?・・・」
「・・・私は仲が良い兄弟だと思っていました。でも残された彼の日記には、私に対してライバル意識があったようです。」
「ライバル意識?」
「・・・私のほうが学業や社交界での評判、国民からの人気があったようで、それを父がいつも比較して、彼を責めていたと聞きました。残念ながら私がそれを知ったのは、兄さんがここを出て行った後のことでした。」
「それだけで人間のすべてを評価できないのにね。」
「サラのようにそう思ってくれる人が、あの時私の周りにいてくれたらと、悔しくてたまりません。だから、今度兄さんに会うことがあったら、そう伝えたいと思っています。」
「でも、わざわざ会いに行くなんてことは・・・」
「分かっています。危険なことはなるべく避けますから。さ、ワインでも飲みましょう。」
アンドレはそう言って、グラスをサラに手渡すと、冷えた白ワインをグラスに注いだ。
「ホウィに頼んで、戦争映画を借りてきてもらいました。サラはこういうの好きですか?」
「え?戦争映画??・・・この雰囲気にそんな映画は合わないわよ。」
「私にも、少しは勉強になるかもしれませんから。」
そう言って木製のテレビボードの扉を左右に開くと、大型スクリーンとDVDデッキが登場した。DVDをスライドインさせると、スクリーンにはまるでこの宮殿に似合わない別世界が映し出された。
アンドレはろうそくの炎を吹き消すと、ケーキを小さく切ってサラに手渡した。
しばらくは無言のまま、二人はスクリーンを見ていたが、サラは自分たちを取り巻く豪勢な装飾品の数々と、スクリーンの中に描かれる殺伐とした世界とのそのギャップに、何かしら違和感を感じ始めていた。
『まるで私とウィルのよう・・・・』
サラは隣に座っているであろうどこかの国の王子様とは、やはり住む環境があまりにもちがうと感じていた。サラはふとテーブルの上に置かれた本に気づいた。
アンドレがさっきまで読んでいたその本には、長年続く歴代のフォイオン国王の偉業が書かれてあった。彼はちょうどトルコ船籍のエルトゥールル号について調べていたようだった。そしてそこに印刷されていた歴代王妃の写真は、誰もがみな美しく高学歴で、かつ気品あふれる女性ばかりであった。
「あの・・ウィル・・」サラがそう話しかけたとき、アンドレはゆっくりサラにもたれかかるように倒れこんできた。
「!!」サラは驚いて彼の体を受け止めると、疲れていたのかアンドレはすっかり熟睡してしまっていた。サラの肩に持たれた彼の流れるような金髪から心地よい香りがしてきた。
「あ・・・疲れていたのね。無理もないか・・・。」彼の体をゆっくり自分の膝の上に寝かせると、サラは彼の顔をじっと見つめた。
「ウィル、どうして私なの?・・」サラは小さくため息をつき、スクリーンに目をやった。
数人のアメリカ兵が、中東のどこかで戦っているシーンだった。頻繁に聞こえてくる爆発音と自動小銃の連射音。サラにはこの世界が当たり前だと思っていた。どこかにこんな平和で穏やかな世界があることなんて、思ってもみなかった。
「もし、私が今の契約を破棄して、このスクリーンの中に戻りたいって言ったら、あなたはどうする?」
当然その答えはアンドレから聞こえてはこなかった。まるで天使のように、サラの膝の上で寝ているアンドレだった。映画の中で負傷した兵士をコンクリート造りの家の中に運び込むシーンが飛び込んできた。ドク(衛生兵)が急いで手当てをしている。
「でも私はあなたを守りたいから・・・もう少し・・・このままで・・・」
サラはアンドレの髪に触れてみた。彼のぬくもりを感じていたサラだった。
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