7th Stg第82話「Fly High4」
フォイオンの空軍基地の滑走路の向こう側には、パトリオットミサイルが鎌首あげて待機していた。この日はことのほか、緊張した空気が基地内に漂っていた。
それもそのはず、国籍不明機の大型機がレーダーで捕捉され、まっすぐこのフォイオンに向かってきているのだ。
大空を飛んでいる2機のF−22Aが、まっすぐなコントレイルを引きながら、その目標に向かって飛行していた。計器に囲まれた狭いコクピット内で、マルセル大尉が緊張した面持ちで操縦桿を握り閉めながら、この重要な自分の役割にどう冷静になろうか考えあぐねていた。
『まさか、本当にフォイオンを攻撃するつもりか・・・。しかもたった一機で?なにか別の意図があるはずだ。』
そう考え込んでいた矢先に、バディであるもう一機のパイロットから無線が飛び込んできた。
「IFFを作動しないで領空侵犯してくる旅客機なんて話、初めて聞いたぜ。撃ち落としちまっても、誰も文句言わないだろうな。そう思わないか?」
「え!?」マルセルは思いがけない遼機の言葉に驚いてしまった。
「マルセル、覚えてるか?1983年に起きた大韓航空機撃墜事件。ソビエト軍機は民航機がちょっと領空内に入ってきただけで、バン!!撃墜しやがった。特別、警戒態勢が上がっていたわけでもない、仮想敵国の軍用機だったわけでもない・・・。」
「お前は撃てるというのか?いとも簡単に?」
「こんな緊張状態が続いている中東諸国エリアで、他国の領空に侵入してくるなんて撃って下さいって言ってるようなものだ。米軍だってホルムズ海峡で、イラン航空655便のエアバスにスタンダードミサイルを情け容赦なく発射したんだぞ。ま・・・後であれは正当防衛だったと保身のためか責任逃れしやがったが、民間機に乗っていた乗員乗客290名の命なんて、やつらはどうとも思っちゃいない。」
マルセルにしてみれば、忘れることなんてできはしない。痛いほどその事件を覚えている。兄弟だと絆を結んだレイモンが、空を飛ぶことをやめたきっかけの事件だからだ。
「タリホー!見えた!あれだ!!」前方に視線を戻すとその視界に飛び込んできたのは・・。
その機影が徐々に大きくなっていった。
「これは・・・トルコ航空!!無線を完全に切ってやがる。亡命か?」
マルセルはすれ違った瞬間、機体を反転させトルコ航空と並んで様子をうかがった。
トルコ航空の操縦席から白い手袋が見えた。
「なにか伝えようとしているぞ・・・」マルセルは目を凝らした。
「マルセル、早いとこ進路をはずすように警告をしよう!このままじゃ後、数分でフォイオン領土に入っちまう!!」
「いや待て!!無線封鎖しているのもなにか理由があるはずだ・・・あれは・・・」
操縦席に見える白い手袋が、かつてレイモンがしたハンドサインと同じだと気づいたマルセルだった。
「・・・レイモン!!レイモンなのか!?」
「おおい!マルセル!!何を根拠にそんなことを!?」
マルセルは機体の翼を振ってみせた。すると、旅客機も大きく翼を振ってみせた。
「これは敵なんかじゃない!!友軍機だ!!」
そのころ、エマ(エマージェンシーホットスクランブルの略)で飛び立った空軍基地では、エプロン地区に大勢の政府関係者およびマスコミ関係者が駆けつけていた。警務隊(MP)に先導され、高級そうな黒塗り車両が到着すると、あわてた様子で数人のスーツが駆け寄ってきた。ドアが開き、そこからアンドレが降り立つと、サラはそのあたりをぐるっと見まわし警戒して見せた。
「これは、アンドレ国王・・・」真っ先に出迎えたのはこの国の首相だった。彼の周りにも数人の副官が脇を固めている。
「遅くなってしまって申し訳ありません。」アンドレがそう言った瞬間、そばに駆け寄ったベンが報告をし始めた。
「エマであがったパイロットは、トルコ航空旅客機は敵ではないと報告しています。」
ベンの言葉を待っていたかのように、青い制服を着た空軍TOPの男が、口を開いた。
「はい。ちょうど上がったパイロットの、昔の知り合いらしいです。無線以外の数々の交信では、敵意は見られないとパイロットは判断しました。しかしながら・・まだ距離があります。撃ち落とすならパトリオットはいつでも・・・」
「しかし、その機は民間機なのでしょう?」アンドレがそう言った瞬間、イッシュ隊員が走ってきた。数人の警護官に阻まれながら、なんとかそこにいる一向に近づくと、息を切らしながら慌ててこう切り出した。
「失礼します!!トルコ航空機と無線交信ができました。それによりますと航空機には、わがフォイオンの国民が乗っているとのこと。全員、イラソ国にいた同胞をトルコ国が極秘に脱出してくれた模様!」
「え?」アンドレとサラは耳を疑った。
「それは本当なのか?」青い制服を着た男は信じられないといった表情だった。
「はい!ずっと無線封鎖をしていたのは、旅客機の事故に見せかけ、だましだましイラソ国からの脱出を取り計らっていたそうです。」
「トルコ大使館に連絡を!」首相はあわててそばの男にそう云った。そのとたん、青い制服の男性もはっとしたように、自分の副官にこう告げた。
「ゾコトラ島沖の空母に作戦の中止を連絡せよ!王室専用機にもフライトのキャンセルを至急伝えてくれ!」
アンドレは首相に向かって静かにこう言った…。
「首相、至急ご家族の方をこの基地に呼んであげて欲しい」
「わかりました。」
夕方になり、大勢の報道陣と乗客の家族が見守る中、滑走路に降りて来るトルコ航空旅客機が見えた。滑走路の彼方に待機した消防車の赤い赤色灯をかすめるように、トルコ航空は慣れた様子で基地滑走路に舞い降りてきた。
Follow Meとリヤウィンドウに書かれたランドクルーザーが、その飛行機を誘導し始め、指定された場所にその動きを止めると、間に合わせのラダーが掛けられ、ドアがスライドしていった。
疲労の表情を見せたビジネスマンたちが、ドアから姿を現すと同時に、大きな歓声が辺りを包んだ。たくさんのカメラが取り囲む中、我先にと妻や子供たちが駆けだしていった。
そんなシーンを少し離れたところから見ていたアンドレとサラは、お互いに顔を見合わせると微笑んで見せた。
そこへトルコ大使館のパスチュルク館長が、首相とともにアンドレのところに近づいてきた。
「アンドレ国王。作戦の成功をうれしく思います。お騒がせして申し訳ない・・なにせ、あの国からのフォイオン人出国にいろいろとしがらみがありまして。わがトルコ国はあの国とはお隣同士。人質を勝手に解放したとあっては波風が立つ恐れもある。すべて極秘に行動させていただきました。」
アンドレは満面の笑みを見せ、その男と固い握手を交わした。
「パスチュルク館長、本当にどう感謝の気持ちを述べたらいいのか…、だからぎりぎりまで無線を封鎖していたのですね。」
「出国にはずいぶん危ない橋を渡りましたよ。トルコ航空のグランドアテンダントはまるでスパイ映画のような心境だったでしょう。これから外交上大変です・・。」
「どう感謝を表わしたらいいのでしょう、・・本当にありがとうございます。しかし・・・なぜ?」
アンドレのその言葉に、パスチュルク館長は微笑んで見せた。
「昔、トルコ船籍のエルトゥールル号がフォイオン沖に難破した話はご存知ですか?あなたの国民は厳しい食糧事情だったにもかかわらず、我々国民に救いの手を差し伸べてくださった・・・。」
「あ・・・」アンドレの横にいたサラはその話に反応して見せた。
「あなた様のご先祖である国王が、医師と看護師の派遣を決定し手厚く看病してくれただけでなく、礼を尽くし傷ついた我々の同胞をこの国の戦艦に乗せ、母国まで送り届けてくれました。」
「フォイオン国民から多くの弔慰金までも届けられたっていう話ですね。・・・」
サラの言葉にパスチュルクは、アンドレの隣にいた彼女に満面の笑顔を見せた。
「さすがプリンセス、この国の歴史をよく知っておいでですね。・・我々はあのときの感謝を決して忘れてはいません。」
アンドレは少しうつむき加減にして恥ずかしそうだった。サラの顔を見て少し、ブロンドの前髪を直すふりをして、照れくさそうに笑っていた。
「そんなことが・・・勉強不足でお恥ずかしい。」
「わが国の小学生は、このことを学校で習い、みんなみんな知っていますよ。」
そう言ったパスチュルクの手を固く握りしめ、何度も感謝を述べたアンドレだった。
「国王、あとは我々にお任せ下さい。追ってレポートを提出させます。」近くにいた防衛大臣がそうアンドレに告げた。
「ウィル、日が沈む前に退散したほうがいいでしょう。これだけマスコミも来ているということは、国王がここにいることをばらしているようなもの。」サラは辺りを気にしながらそう告げた。
アンドレはトルコ航空の飛行機を気にした様子だったが、サラの表情を見て微笑んで言った。
「そうですね・・・。では次のMissionに移行しましょう。」
「え?・・・次のMission?? 」サラはアンドレの軍隊調なセリフにあっけにとられたようだった。アンドレは周りにいる者たちと握手を交わし車の方向に歩きだしたが、サラはその意味を模索しているかのように、その場に突っ立ったままだった。次の瞬間、サラは思い出した。
『そう言えば・・・今夜はって・・・午前中にそう言いかけて・・』
午前中に宮殿内でアンドレが言いかけてやめたセリフ、あの意味はいったい・・・。
「サラ!行くぞ!」車列に近い場所から鬼教官の声がした。
「イ・・Yes! Sir!!」サラはあわててアンドレを追いかけ、同じ車に飛び乗った。アンドレは軽く手を振りながら、周りのものと別れを告げ、ゆっくり車は発進していった。
車の中でちらっとアンドレの顔を見るサラだった。
この話は、実際に日本とトルコの間で起きた実話をもとに書いています。もしよかったら、ググっていただけると幸いです。
画像満載な「Mission!!」HPにて、アンケート及び感想待っています。
http://anime.geocities.jp/rachsmission/
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