ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
  Mission!! 作者:Rach
この話は1890年に実際に起きた、エルトゥールル号遭難事件を参考にして書きました。
フォイオンではなく、日本の和歌山県串本沖にトルコ船籍が難破して、その時に以下のような献身的な日本人の手によって多くのトルコ人が救われました。
詳しくは「エルトゥールル号遭難事件」で検索してください。私は日本人であることを誇りに思います。
7th Stg第79話「Fly High1」
南欧の島国フォイオンの澄んだ青空に向かって、空軍基地から数機のF−22Aが飛び出して行った。通常の飛行訓練とはいえ、そこに搭乗したパイロットは常に緊張した面持ちで、これから始めるであろう空中戦のシナリオを頭に中に描いていた。
そんなころ、スクランブル待機中のパイロットが集うアラート待機室に、ベージュの髪をした一人の男が、なにやらソファに座ったまま物思いにふけっていた。スクランブルといえば、いつ国籍不明機がレーダーに飛び込んでくるかわからない、通常の訓練よりも緊張した任務のはずだ…。そこへ濃紺の制服姿の女性軍人が、手に書類を持ったまま歩み寄ってきた。
「あら、マルセル・クローデル大尉、また何か考え事でも?」
ふと聞こえてきたその声に彼ははっとした様子で我に返った。あわててベージュの髪をかき揚げ、こうとりなおしてみせた。
「・・いや・・なんでもない。手順をおさらいしていただけだ。」
「・・・もしかしたら、レイモンのこと考えているのでは?マルセル・・」
その女性軍人イッシュ中尉は、紺色の短い髪にくりっとした大きな瞳を輝かせながら、マルセルに近づきそうっと耳元でそう囁いた。
「イッシュ。職場ではプライベートなことは話さないと約束したろ?」
「ま、そうだけど。あなたがそんな顔しているときは、決まって私のことじゃなくって、レイモンのことばかり。少しは私たちの将来のことも、考えてもらいたいんですけどね・・。」
「わかってるよ。・・・でもあいつ、今頃どこで何をしてるんだか・・」
そんなマルセルを見てため息をつくイッシュだった。

話はこのマルセル・クローデル大尉の昔話に移る。ついついその頃の話に思いを寄せ、今でも忘れられない自分の過去の汚点に、思いは集中してしまう。

『そう・・・最初に出会ったのは航空学生の頃。レイモン・トーゴーはトルコ空軍の最優秀パイロットで、数人の仲間とフォイオン空軍に研修にきた。当時の俺は航空学生として最低の成績・・・。いつ振り落とされるかと、毎日怯えていた・・・。そう・・・―パイロットになりたい―、ただそれだけではダメだったんだ。でも俺は変わった。あいつと空に対する思いを語る事で、心の中でなにかが弾けとんだ。』
マルセルはそんな過去を思い出しながら、すっと席を立ち、窓から見える大空を見上げた。

『しかし、レイモンは突如、トルコ空軍を除隊してしまった。その理由は・・・彼の家族を乗せた旅客機が、同盟国のイージス艦から発射されたミサイルを受け死んでしまったからだ。』
夕暮れのトルコ国国立墓地。葬式も無事終わり、参列者が言葉少なめにそこにたたずむレイモンの肩に手を当て、心配そうにうなずきながらも次々とその場所を後にしていった。家族が埋葬されたその場でじっと動かず、いつまでも黙って祈りをささげるレイモンだったが、その手はかすかにふるえていた。マルセルはそんなレイモンの肩に手を当てた。
「・・・国を守ることは国民全員の責務だ。だから、俺はパイロットになってこの国と家族を守る道を選んだ。なのに、同盟国のイージス艦からミサイルの誤発射を受けて、守るべき家族が死んだ。なぜこんなことが・・・。」
そう言って震える背中から、嗚咽が聞こえてきた。マルセルは失意にくれるレイモンの背中に手をやるが、どんな風に彼を慰めたらよいのか分からず、そのままうつむいてしまった。国を守るべく苦労してパイロットになったが、まさか同胞から撃たれたミサイルによって、その家族が海に散っていったことの矛盾。
後に、風のうわさでレイモンがトルコ空軍を除隊したことを知った。
『あいつに助けられた俺なのに、俺はあいつを助けることができなかった・・あんなに空を愛していたのに。もうお前はこの空にはいないのか?・・』
マルセルは遠い昔のことを思い出していた。あの日、レイモンは戦闘機をタキシングし、白い手袋をした左手のこぶしで、戦闘機のキャノピーを2回たたき、その後に親指を立て、揃った4指の腹をガラスに押し付けるパフォーマンスをマルセルにしてみせた。ハンドシグナルは彼らと整備員をつなぐコミニュケーション。彼だけが持つそんなパフォーマンスの意味は「Go for it!」航空学生だったころのマルセルはそんな彼に大きくうなずいて見せた。

そんなもの思いから現実に引き戻すかのように、突然アラートハンガーにけたたましいベルが鳴り出した。アラート待機室のドアが勢い良く空き、トイレに行っていたもう一人のパイロットもあわてて部屋に帰ってきた。スピーカーから飛び出す声。
「ホットスクランブル!!」マルセルはヘルメットをもぎ取ると建物から飛び出し、スクランブルハンガーに駆け込むや否やコクピットに上るラダーに手をかける。狭い席に身をねじ込ませると、すぐ整備員が同じラダーを上ってきた。
「この頃多いな。」マルセルが一言言葉を発した。その整備員は笑って答えた。
「中東諸国が臨戦態勢ですからね。」
「情報収集にどの国もお盛んなわけね。しかし領空侵犯されちゃ、たまりませんな。」
ハンガーから2機のスクランブル機F−22Aが滑走路エンドへ向かい、大きくエンジンをうならせると、2機並行して大空へ飛び立っていった。

その緊迫した国際情勢はもちろん、宮殿でも慌ただしさを増していた。第1秘書および側近であるベンがパソコン片手に、アンドレの部屋に行き来していた。
「国王、イラタ国とイラソ国の状況資料が防衛省と外務省から届きました。」
アンドレの執務室にある彼の机の上には、乱雑に置かれた数多くのリポート用紙が散乱していた。南欧の地中海に浮かぶフォイオンは、その位置的にも戦火の絶えない中東諸国とはトルコ国同様比較的近い場所にある。この緊急事態に一人の政治家としての手腕を問われるアンドレだった。
「例の緊急事態対処想定研究はどうなっていますか?」
アンドレは書類から目を離しベンにそう尋ねた。
「内閣安全保障室が中心となって適用できるオペレーションを作成段階です。万が一わが国に飛び火したケースを想定して、まず『パニック対策』と『避難民対策』そして、両国からの『難民救助対策』の3点についてもう一度見直されています。」
「毎度毎度のこと、彼らの長年の戦争はなかなか消えないものですね。」
アンドレはため息をついてそう言って見せた。
「わが国のエネルギー鉱石が発見されたことにより、中東諸国からの外交接近回数は、以前とは比べ物にならないほど増えています。今回の有事は以前と違い、別のシナリオが展開されるとしたら、わが国への間接侵略をもくろむ可能性があると想定されます。」
「こちらが下手な動きをして、向こうがわが国に敵対行動を取る可能性は?」
「防衛出動待機命令はもうすでに出ております。後はなんらかの武力攻撃を受けたときには、それを排除する手段を講じるのみです。」
「そうならないように願います。」

同じく宮殿のキッチンに隣接している、一般職員用の食堂のドアが開き、サラがいつも通りのジーンズ姿に長袖のポロシャツというラフな格好で入室してきた。そこにある長テーブルにはホウィ、オスカー、パブロが座って、目の前にあるテレビニュースにくぎ付けになっている様子だった。そんなサラに気づいたホウィが最初に声をかけた。
「ありゃ、サラちゃんったら、国王と一緒じゃなかったの?」
「その言い方やめな・・・」ホウィのセリフを聞いて、サラは皆の所に一緒に座るのをやめ、すぐ隣にあったソファに腰をおろした。
「今、国王は電話対応や書類の処置におおわらわさ。」オスカーがそういった視線には中東諸国の戦争の行方を報道するニュースがあった。
「この状況じゃあね・・。」パブロもそのニュースに目を凝らした。
サラは、そんなテレビニュースの様子を気に止めることもなく、ソファの横にあったランプ台の上の一冊の本を見つけた。
「誰の本?」そこへ料理人のレミーがカッティングチーズとフルーツを持って、キッチンから出てきた。
「あ、それ・・私のです。」レミーはそう言うと、テーブルに食べ物を置き、腰に巻いたエプロンを外しながらサラの近くに寄ってきた。その本の表紙にはこう書かれてあった。
「『あの日の感謝を忘れない』・・・エルトゥールル号って何?」
「昔、フォイオンの近くでトルコ船籍のエルトゥールル号が難破したんです」
「ナンパ?」フルーツとチーズを口いっぱいにしながらホウィがそう言うと、隣にいたパブロに頭を殴られたホウィだった。
「地中海とはいえその日は天候が荒く、海は大荒れでした。トルコ船籍の木造軍艦エルトゥールル号は、このフォイオン沖に難破し、大勢の軍人が海に放り出され、そのうちの数名はこの国の小さな村の岸にたどり着いたのです。」
「海難事故の話なのね」
「ええ、当時フォイオンは異常気象による食糧難であったにもかかわらず、村にある自分たちの食料をすべて彼らに与え生存者を献身的に助けたとあります。このエルトゥールル号遭難の報は、そんな村から県知事に伝えられ、そしてフォイオン国王に言上されました。当時の国王は、直ちに医者と看護士を現地に派遣し、さらに礼を尽くし生存者全員を軍艦2隻に乗せ、母国トルコに送り届けたんです。この事は、フォイオン中に大きな衝撃を与え、フォイオン全土から弔慰金が寄せられトルコの遭難者家族にも届けらました。」
「ステキな話ね」
「はい、フォイオン人として誇りに思います。」
「ただいま入ったニュースによりますと、イラタ国の首相インサダ・ムフセは『今から48時間後に、イラソ国の上空を飛ぶ全ての飛行機を撃ち落とす』と発表しました。この発表により、同国に滞在しているフォイオン人は急遽帰国を迫られることになり、防衛省では空軍の輸送機を直ちに救出に向かわせる決定を下しました。」
面白かったらここをクリック♪


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。