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  Mission!! 作者:Rach
6th Stg第78話「Pablo George Granados〜Scoundrels7」
その日の朝、サラはベンの家でシャワーを浴びていた。
服を着て、タオルを肩からかけたままシャワー室から出てくると、ホウィが車の鍵を持って待機していた。
「部隊に戻らないと、怪しまれるよ。俺たちの仲が・・」
窓から入り込む朝日が、寝不足気味のサラの瞳に差し込んできた。
「イワンは?」
「一足先にもどったよ。ほら、サラの分隊員ほとんど警察行きだったろ?そこで新しい分隊編成を組みなおしているはずだからって、あわててた。」サラは無言でジャケットを羽織った。

外人部隊に戻ると、まだ昨日のひと騒動の余韻が残っている様子だった。グランドでは現場の保存をさせるべく、黄色のテープで巻かれた立入禁止部分が見えた。
サラは、バラック前でホウィが運転する教官のミニクーパーから降りると、その汚いドアを開けてみた。
「よお」サラのベッドの横には、新しく編成が変わったことの証に、今まで別の分隊だったイワンが引っ越してきていた。
「で・・・なんで、隣のベッドに来るの?」
「君を守りたい。そんなナイトの気分なんだけど。」
「自分のことは自分で守る。余計な御世話だ。」
そう言うとカーテンをざっと開け中に入っていってしまったサラだったが、その表情は少し微笑みを見せていた。
「で、あのモーリスがしたことってなんだ?」
カーテン越しにサラはイワンに話しかけた。イワンは周りをぐるっと見渡しそこに誰もいないことを確認すると、ベッドに横になり天井を見つめた。

「・・・俺の家族が住むウラジオストックで、やつは北朝鮮から中国経由で流れてきた麻薬を売りさばいていたのさ。当時大学生だった俺の妹が、そんな彼らの餌食になってしまった。妹は決して自分からそんな危ないものに近づくことはしない性格だったが、大学の友人とやらに騙されて手を出したのが運のつき・・・。気がついた時には両親からお金をくすんで買い出す始末。」
「そんなことが…」と、カーテンの向こうからサラの声。
「その後、もっと恐ろしいことを知ってしまった。酷寒のシベリアで働く軍人たちの間で流行った麻薬元も、あのモーリスだった。当時FSB(ロシア連邦保安庁)で働いていた俺に白羽の矢があたった。やつを探せとね。どうやら、我が同志(FSB)は、モーリスの後ろにいる大きな組織にも興味があったらしい。そんなころ、療養所で妹が死んだのさ。だから、俺は・・・」
「あいつが許せなかった。」
「そのとおり。」
「で、イワン。」カーテンがガラッと開き、BDU(戦闘服)に着替え終わったサラが寝転がったイワンの隣に近づいてきた。
「そのイワン・ストラヴィンスキーという名前は、本名なのか?」
「俺のこと、気になる?」イワンは寝転がりながら、サラの目をじっと見つめた。サラはそれを気にする様子もなく、すっと目をそらし屋外に出ていこうとした。
「言いたくなければいい。」彼女はぶっきらぼうにそう言いきると、彼を残し外へ出ていった。
「こりゃ、一筋縄ではいきそうもないな・・・・。」イワンは笑った。

3連休を迎えたその日、ウィークエンドを外で楽しもうと外出する隊員たちの姿があった。サラはジーンズに男物の黒のジャケットを肩にひっかけると、外で待つホウィの車に乗り込んで言った。今までなら、出かけるサラに同じ分隊員の男たちから一言二言、からかわれていたのだが、分隊再編成後にはそういうことは一切なくなっていた。
今まで数々の訓練等で、他分隊から見て知っていたサラの本当の実力を評価していたのだ。そのことを鼻にかけることもしないサラの言動には、ここにきて新しいチームワークを生み出す結果になった。個人の持ついい面、得意な面を部隊行動に十分貢献できる体制が熟成したのだ。そればかりでなく、弱い面は非難する前に助け合う土壌が培われたことは、最強の部隊を構築したといってもいいだろう。
『個人でできることはたかが知れている。』サラのこの言葉が、仲間を変えたことは言うまでもない。

南仏カステルノダリにある軍病院には、外人部隊だけではなく、正規の国軍の兵士も大勢診療に来ていた。サラはホウィとともに、ある病棟の部屋のドアをスライドさせると、そこにダークスキンを持つ二人の男が、なにやら楽しそうに話をしていた。
「パブロ!」サラはそこにいた男がパブロだとすぐにわかった。その声にパブロは思い切り直立不動の姿勢をとり、サラに向けて申し訳なさそうに礼をした。
「サラ・・・許してほしい。」そんなパブロにサラは笑って肩を叩いた。ベッドに寝ていたベンが、上半身を起こした状態でサラに話しかけた。
「残念だが、パブロは外人部隊からは退職処置だ。事件が事件だったんでな。」
「そう・・・残念ね。」
パブロは、サラとベンが自分が去っていくことを、残念と表現してくれたことに驚いた。
「こんな俺がいなくなることを、残念だと思ってくれているのか?」
「同じ仲間で同期だったんだから、当然でしょう。」それを聞くとパブロはサラの肩に両手を置き、自分の肩を震わせた。

「警察からは一切おとがめなし。来月にはアフガニスタンに行くらしい。向こうで米軍雇用軍人の職を見つけたそうだ。」ベンの言葉を聞いてサラは少し神妙な顔になった。
それも当然だ。彼女は幼い頃あの戦火にいた。あのアフガニスタンにパブロが・・?

「で、ベンジャミン教官、足のほうは・・・。」ホウィがそう言うと、ベンはしぶしぶ毛布をめくって見せた。その右足はそこにはなかった。一瞬シーンとなってしまったその空気にベンがフォローを入れた。
「気にするな。そろそろ別の仕事に手をつけようかと思っていたところだ。刑務所行きのマシューとジョルジュからしっかり金を分捕って、しばらく地中海のリゾート島でバカンスだな。」
サラは思った。そう言って笑ったベンの顔を見たのは、この時が初めてだと。

そう言えば教官は、自分の危険を顧みずそこにいる部下を守るため、身を呈してあの手りゅう弾に向かってきた。なかなかできることではない…。サラはそう思い幹部として、いや・・・人間として彼に尊敬の念が込み上げてきた。それと同時に申し訳ないとも思った。

もちろん、ベンもサラに対して同じような感情を抱いていた。
サラは自分の体が手りゅう弾に覆いかぶさることで、被害を食い止めようとした。
『自分の命を軽んじる傾向があるのは知っていた。死ぬのなら誰も泣く人がいない自分が一番先だと思っていることも…』ベンはこの時、あの運動場で倒れた自分を、彼女が介抱してくれたことを思い出していた。なぜだかわからない。彼女の膝の上で感じたあのぬくもりが、妙に温かく感じたのは・・・。

そこへ看護師が注射器を持って入ってきた。サラとパブロ、そしてホウィは顔を見合わせると、互いにうなずきベンに言った。
「教官、今日はこれで失礼します。」サラがそう言って、借りていた家の鍵を取り出した時、ちょうどつけていたテレビに、マシューとジョルジュが警察に捕まった瞬間の映像が映し出された。背中に猫の絵が描いてあるその姿が滑稽だった。
「サラ、今回のことは俺のせいでもある。俺がお前を仲間として信じていなかったことが、最大の原因だといってもいい。だから、どうか気にしないでほしい。」
「それは・・・。」
「ウホン!!」ベンは大きく咳をした。
「しばらく俺は家に帰れそうにない。よかったらその鍵、持っていてくれないか。できれば、新隊員課程卒業後もずっと残ってもいい。」
そう言うとベンはじっとサラの目を見つめた。

しかし、そういったセリフを告白だと認識するほど、サラの人生経験は普通ではなかった。イギリスで親に捨てられ、施設で育ち、アフガンに売られ戦火でその幼少期を過ごした彼女には、普通の女性が体験するであろうそのほとんどを知らないといってもいい。
サラの答えは単純明快だった。

「了解した。私が右足代わりになろう。」
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