6th Stg第73話「Pablo George Granados〜Scoundrels2」
この日の夜は、ことのほか月夜の明かりがきれいだった。バラックでは多種多様な言語で寝言を言い、まるで恐竜の雄たけびのようないびきがこだましていた。カーテンだけで遮られた場所に寝ているサラは、それを気にする様子もなく静かにベッドに横になっていたが、二人の男とその後を追って外へ出る大男の靴音に、ふと目が覚めてしまった。
サラは、今のカーテンに映った人影が誰なのか分かっていた。マシューとジョルジュ、そしてパブロだ。しばらくすると外で3人の話し声が聞こえてきた。
「あの猫のこと、ゴードン中尉に話してもいいのか?」
やはりその声の持ち主はマシューだ。
「脅すつもりか?」
「頼みがあるんだ。実は・・・」サラはその会話に耳を澄ました。
翌日の朝、外人部隊カステルノダリの司令室では、細身で背の低い何とも頼りなさそうな男が、立ったままティッシュを何枚もごみ箱に捨てながら、目の前にいるベンに話をしていた。
「まったく、猫は入隊できないって何度も言ってるのに!!ネコアレルギーの私を怒らす気!!」
そう言ってまた鼻をかむ司令官だった。
「まあ、たかが猫ではありませんか?」
ベンの言葉を聞き、気に入らない顔をしてじろっと睨みつけてきた。
「市の衛生局に言って、この敷地内にいる猫という猫を駆除してもらったにもかかわらず、またいつのまにか猫だらけ!!どこから侵入してくるのか!!どこかの国のスパイより上等だ!!・・・ゴホン!!・・・で、そのマシューとジョルジュ、MPからの連絡によるとダウンタウンの怪しい場所で、怪しい連中たちと密会しているそうだが・・。」
そう言ったあと、司令官はどこかに電話をかけた。
「ホウィを呼んでくれ。」短くそう言うと、電話を切って椅子にどかっと腰掛けた。ベンは少し笑ってしまった。なぜなら、この背の小さい男が椅子に座ると首しか見えない…。
「なにか?」
「いえ・・・。で、その怪しい連中というのは・・・」
司令官が机の中から資料を取り出した。
「実にきな臭い。詳しいことは事務員として新しく雇われたホウィ・ラマルク君から話してもらおう。」
そう言った瞬間、ドアがノックされ白いワイシャツを着たホウィが、元気よくドアを開け、いつも通りの能天気な表情で飛び込んできた。
「失礼しまーす!!ホウィ・ラマルクでーす!!」ベンは一瞬顔色が険しくなった。どちらかというと、こう言うお調子者は好きなタイプではない。司令官が言葉をつづけた。
「仕事中悪いね。実はこの男、カステルノダリでは腕利きの探偵業をしていてね。町のことは彼に聞けば大体分かる。例のマシューとジョルジュについて、彼の担当教官であるゴードン中尉に説明をしてくれないか。」
そう言ってまた鼻をかむ司令官だった。
「ああ・・・OK!単刀直入に言いましょう。マシューとジョルジュが近日接近した男は、世界でも有名な麻薬密売人で、もっか警察から逮捕状も出ているほど危険な人物です。名前はモーリス・ショーロホフ。フランス系ロシア人で、彼の活動エリアは北朝鮮、中国およびロシア極東地域。私の知人の情報では、モーリスがカステルノダリ入りしたのは1週間ほど前、警察の話ではこのモーリスとマシュー、ジョルジュとの間にずいぶん前からコンタクトがあったとのこと。やばいですよ・・・麻薬関係の事件がらみなら、これは外人部隊初のスーパー大ニュースだ。」
ホウィの話を聞いて、腕組みをした中尉だった。
翌日の午前中 銃の分解結合の試合が行われようとしていた。コンクリートむき出しの部屋にテーブルだけが置かれ、その上にはFA-MAS フランス製のアサルトライフルが5丁、ライトに当たって黒光りしていた。4列の横隊で並んだサラたちの4個分隊(約40人=1個小隊)がそれを取り巻き、これから始まる個人戦及び分隊戦の試合ルールを聞かされていた。ルールは簡単だ。銃を分解してそしてまた組み立てる。誰が一番早く完成させるか・・たったそれだけのことと言えばその通りだが、結構焦ってしまうものも少なくない。
サラはこの日、嫌な空気を感じ取っていた・・・というのも、武器に関して言えば同分隊のパブロが一番優秀で、その経験も知識量も豊富だ。同じ分隊としてその点は安心だが、今日のパブロは何か様子がおかしい。昨晩のこの3人の話も気になるところだ。
『マシューとジュルジュに脅されている?』サラは、隣に立っている大柄なパブロにこそっと話をした。
「元スペイン軍のエリートなら、どんな状況にも最善を尽くせるはずだな。」
「お前に言われたくない。」そう強気になって答えたパブロだったが、その指先はふるえていた。教官ベンがルールを説明しているその前で、サラは彼に小声で言った。
「パブロ、頼みがある。一流軍人として私に格闘技を教えてくれないか?柔道、拳法、合気道・・なんでもいい。課業終了後に体育館で待っている。」サラは何気なく彼の得意な格闘技を自慢できるチャンスを作って、パブロとゆっくり話をするつもりだった。
そのとたん、パブロの前にいた男性が振り返り、ヘラヘラした笑いを見せながら言った。
「寝技専門で、俺も参加!!」ついつい大声でそう口にしてしまった男性に、ベンが険しい顔をしてその男のほうに振りむいた。
「そこ!私語は慎め!!」あわてて前を向き取り直す男だったが、サラはその時ベンがサラの顔を見て、まるで毛嫌いするかのように首を横に振ったのが見えた。
『だから、女がいると面倒くさいんだ…』そう言いたげだった。その時にも、じっとサラの行動を見ていた男がいた・・・。あのイワンだった。ヤツと何気に目が合ってしまったサラは、無言のまま目をそらした。
やがて競技がはじまり、パブロは少し緊張した面持ちで銃を分解していった。しかしなにか動揺は隠せなかったようで、分解した部品を失くすというミスをしでかしてしまった。そこにいた全員で部品を探したが、どんなに探してもそれが出てくることはなかったのである。全員の前で、ベンはパブロを叱責した。
「あんまり責めないでください。」それを仲裁に入ったのは、なんとあのマシューだ。
「俺、小耳にはさんでしまったんですけどね・・・、誰もが1流軍人であるパブロが優勝すると思っていたが、なんと優勝したのはあの女だ。」マシューはサラを指さした。
「何が言いたい?」ベンは不可思議な顔をしてマシューの顔を覗き込んだ。
「あの女がこうパブロに言ったんですよ。私に優勝させてくれれば、夕方体育館で寝技の練習させてあげる・・てね。」
その一言にサラは驚いた。その瞬間、私語を叱責されたあの男もマシューを援護した。
「私もそう聞きました!」サラはその男とマシューをにらんだ。
「・・・・わかった。サラとパブロを残し、あとは解散!」そう言うと、ドヤドヤとその場所から出ていく仲間たちをバックに、不敵な笑いを見せ踵を翻したマシューとジョルジュがいた。イワンは思わず、他の分隊の教官ベンに足を向けた。
「彼女はそんなこと言っていませんよ、教官、少しは彼女の言うことも信じてあげたらどうです?」イワンがそう言うと、サラは静かに首を振った。
「私はパブロを信じている。彼は優秀な軍人だ。」そう言われ、イワンはしぶしぶ黙ってその体を翻した。その時イワンの目に飛び込んできた光景は、武器庫を出ていこうとするマシューが、壁に掛けられていた武器庫のカギに、何か柔らかい粘土のようなものを押し当て、何食わぬ顔で外に出て行った瞬間だった。『カギの型どり??』
もちろん、教官ベンはその時、目の前にいるパブロとサラに意識が集中していたことは言うまでもない。
「パブロ、部品のロストは外人部隊上層部までレポートしなければならん。当然、名前入りでだ。お前の経歴に傷がつくことになるがそれでもいいか?」全員が去ったその場所で、ベンが静かにそういうと、黙っていたパブロは面を上げじっとベンの顔を見つめた。
「・・・・確かに、サラは夕方体育館に来るようにとそう言った。だから・・・」
自分のポケットから、銃の部品を取り出すパブロだった。どんなに探しても見つからなかったその部品が、まさかパブロ本人のポケットから出てくるとは…。
「パブロ・・・」それでもサラはまだパブロのことを信じていた。しかし・・・。
「女の色香っていうものは、戦場において一番の敵となりうる。父上がそう言っていました。今、身にしみてそれがわかりました。申し訳ありませんでした・・・・。」
ベンはため息の後こう言った。
「この分隊の成績は、俺が歴代担当した中で一番悪い。なぜか分かるか?」
「・・・女がいるからとでも?」
「正解は俺にも分からん。だが、推測のうえではそれ以上の明快な解答は俺の中には見出せない。いくらお前がアフガンで幼少期を育ち、イギリスSAS部隊で輝かしい経歴を持っていたとしても、所詮女であることには変わりはない。味方の戦力を大きく損耗し、その能力を十分に発揮できない理由は、今一度どこにあるのか考えてみるといい。」
そう言いきると、パブロが出した部品を手に取り、結合し出すベンだった。
「だったら・・・・勝負してみる?私と?・・・」教官ベンの動きが止まった。サラはその返事を待たずに、武器庫から銃を一丁持ち出し同じテーブルの上にガシャッと置いた。
「教官に勝負を挑む気か?」パブロはあわてて、二人を止めようと身を乗り出した。
「そんな八百長で私が勝ったと思うんだったら、この勝負を受けてみる価値はありそうよ。教官として慣れ親しんでいるこの銃の分解結合を、新米の私より早く済ませることができるはず。」サラは珍しく強気な態度だった。彼女はいつも目立たず、おごらず、決して自分の能力を自慢することのない性格だった。戦場でどんなに自分が優秀だったか・・なんて話は、敵の銃弾が飛んでくるそれを、盾となって防いでくれることはないのだから。
パブロは一人うろたえていた。『サラは何も悪くない・・・。悪いのは俺だ。』そう思い本当のことをしゃべろうと唇を動かしたその時、サラは近くにあったストップウォッチをパブロに差し出した。
「サラ・・・俺は・・」
「制限時間は2分。おそらくそれを切ることはあるまいが・・・」パブロは自分の隣で首を横に振るサラから、黙ってストップウォッチを受け取った。
『何も言うな』そう言いたいのか・・・。パブロは唇をかんだ。
お読みいただきありがとうございました。
面白かったら、ぜひこの下をクリックしていただけると幸いです。
また、Mission!!HPでアンケートを行っております。
忌憚のない御意見を頂けると幸いです。
http://anime.geocities.jp/rachsmission/
面白かったらここをクリック♪
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。