5th Stg第71話「Love and Music-5」
その光景には、さすがに教会内にいたほとんどの者が、窓という窓から様子をうかがっていた。この結婚式に有名な国会議員がたどり着いたかと思えば、今度はどんな有名人が現れるのか・・・。全員の視線が高級車から降りてくるであろうその1点に注がれた。
そんな傍観者たちと高級車とのど真ん中で、一人驚いた表情のまま立ちすくんでいるメリッサは、足が震えてしまってその場から歩き去ることもできなかった。
「どうしよう・・・。ここで立ち去ったほうがいいのは分かっているんだけど・・・足が動かないよ・・」
SPが見守る中、高級車の後部座席のドアが開くと、そこから優雅に舞い降りたのはアンドレ国王だった。
「ええ??」メリッサは目をまん丸くして、今度はその場に座り込んでしまった。
「あのおばさん!何やってんだ??国王の到着だというのに、あんな所に座り込んで!!」
教会からその様子を見ていた、一人の男がそう言い放った。
「薄汚い服でアンドレ様の目の前に現れるなんて、身分をわきまえているのかしら!!」
「でもどうして、国王が!?」この参列者の言葉に、そこにいた全員が一斉に振り返ってスージーとピートに視線を送ったが、二人は互いに顔を見合わせ横に首を振っただけであった。
「グレイソン先生・・・・これは・・・」オールバックの髪を気にしながら、秘書の男がたじろぎながらエリックに近づいて来て、耳元でそう尋ねた。
「私ではない・・・。一体誰の知り合いなのだ?」そのセリフにスージーやピートは驚いた。父の知り合いでもない???
礼装をしたアンドレと、この日ばかりはとドレスを着たサラの姿がメリッサの目の前に現れた。
「この前は楽しいひと時をありがとうございました。」
「突然、失礼かと思いましたが、娘さんに祝福をと思いまして・・・」
「・・・・・・・」座ったまま足ががくがく震えているメリッサに、アンドレはゆっくり手を差し出した。なんとか立ち上がったメリッサに、一人のメイドが大きな箱を車から運んできて、アンドレに手渡した。
「これはこの前のお礼なんです。」メリッサはその箱を受け取り、中をそうっと開けると、素敵なベージュカラーのドレスが入っていた。
「そんな!!めっそうもない!!この前のお礼って、あんな汚いバーで、しかもマスターが高額な料金ふんだくって・・・」
そう言いかけたところで、あわてて口を両手でふさいだメリッサだった。
「中に案内していただけますか?」
アンドレはそんなメリッサのセリフを気に止めることもなく、やさしく微笑んでそう尋ねた。
「いや・・その・・・私は、今日は参加しないつもりで・・私みたいなのが母親だなんて、とても言えないよ。あの娘の幸せのためには、私はいないほうが・・・」
「今まで、一人で一生懸命育ててきた娘さんの晴れの姿、是非行くべきです。」
そういうとメリッサを誘うようにして、教会に向かって歩き出した。そんな二人を、後ろから見ていたサラは少しだけ微笑むと、耳元に付けた小型の無線機に指を当て、近くに停まっているICCトラックと交信を交わした。
「オスカー、サラ・・・。準備はOK?」
「まさか、俺が警察に捕まってしまうなんてことないだろうね?」オスカーはパソコンをたたきながらちょっと心配そうにそう言った。彼が使っているパソコン画面には、あの日スージーのコンピューターから盗んできた、二人の家族の写真が写っていた。そんなオスカーの耳に飛び込んできたのはベンの声だった。
「大丈夫だ。MP3奪取のためだと前もって警察には通報してある。」
「写真をゲットするために彼女のパソコンにウィルスを送りスパイ工作、今日はメリッサを騙して教会へ誘導・・・なんだか一番損な役だな…」
「俺が一番の損な役どころだ。ぼやくなよ!」そう割って入ってきたのはパブロだった。教会の屋根に上りアンテナを立て、勝手に屋外のテレビ配線をいじっているようだった。彼のセリフは続いた。
「大型スクリーンへの配線は終わったぞ。」その会話を聞いていたサラがほほ笑みながら言った。
「みんな、ありがとう。悪いわね…」
「いいって事よ、サラ。君の頼みなら」教会の屋根の上で、空を飛んでいく鳥を目で追うパブロだった。
「君の頼みなら、なんでもするさ。よし!準備OKだ。」オスカーはパソコン画面のセットアップをすべて完了し、後ろにいた二人の部下とともに親指を立てて見せた。
そんな教会内では、アンドレ国王の登場にあわてて神父様が奥から飛び出してきた。
「これはこれは・・・」
「突然で申し訳ありません。私はスージー嬢の母親であるメリッサの友人で、アンドレ・ウィルヘルム・スタインベックと言います。今日はよろしくお願いします。」アンドレはそこに使えていたメイドの2人に合図をすると、メイドはメリッサを誘導するかのようにその場から連れ出し、着替えをさせるようだった。
「この女性は私の婚約者、サラ・ブルックナー嬢です。」
この時サラはこう紹介されて、うろたえることなく自然に右手が前に出て行った。軽く神父様と握手を交わすと、ぎこちなかった今までの微笑みとは違い、自然な表情で微笑んで見せた。
「突然の訪問で申し訳ありません。」サラがそう言うと、神父も微笑んだ。
「いえいえ、ようこそわが教会へ。私どもは誠に光栄です。こうして国王に来ていただけるなんて・・・・」
そこにエリック国会議員が澄ました顔で近付いてきた。サラはそれに気づき、エリックの隣にいるオールバックヘアーの秘書に視線が釘付けになった。
『一番上の背広のボタンが外れている。・・・銃を携行しているな・・・』サラはアンドレの前に出た。
「まさかここに国王が来られるとは知りませんでした…。アンドレ国王、私は国会議員のエリック・グレイソンといいます。お会いできて光栄です。まさか、私の元妻、メリッサの友人だったとは…」そこまで言いかけた時、サラはこの秘書の左わきの銃を、背広の上からギュッとつかんで見せた。あまりに急なサラの行動に、秘書は言葉一つ発することもできなかった。
「細身の優男には、女性ものの拳銃が一番か?Smith&Wesson M3913(レディスミス)ダブルアクション式の自動拳銃・・・・悪いがここでは武器の携行は許されていない。はずしてもらおう。」サラがそう言った瞬間、いつの間にかベンジャミン・ゴードン中尉が気配もなく近付いており、このオールバックヘアの肩をガシっと掴んだ。
「す・・・すみません。」秘書はそこに現れたがっしりした体格のベンに、急におどおどした態度になり、誘導されるがまま二人してどこかに消えてしまった。
「申し訳ありません、国王。」
「いいえ。このご時世ですから。」エリックと国王は苦笑いをしてすませた。
「お母さん!!」着替えが終わりメイドの二人とともに現れたメリッサに、スージーが駆け寄った。その声にアンドレとサラは振り向き、お互いに微笑んで見せた。
パイプオルガンの演奏が始まり、参列者たちは次々と席に座りだし、アンドレとサラ、メリッサは一番最前列の席に座るよう神父様に言われ、そこに腰をおろした。
おごそかな挙式が始まり、父親であるエリックとともにバージンロードを歩いてくる花嫁がメリッサの前を過ぎていくと、今までの思い出があふれ出したのか・・・目には涙があふれせっかく化粧したその顔をぐしゃぐしゃにして嗚咽しだした。
「きれいだよ・・・本当にきれいだよ・・スージー・・・」
スージーもそんな母の姿を見ると、一気に涙があふれ頬をつたっていった。
式の後、教会の外で行われたガーデンパーティに、アンドレとサラも白ワインを片手に参加していた。そこに現れたベンとホウィが二人のところに集まるとベンはこう切り出した。
「あのオールバック男の話だと、エリックが娘の親権を獲得すると決めた理由は、新郎ピートの家柄が決め手だったそうだ。」
「ピートの?」サラは不可思議な顔をして見せた。
「金持ちばかりと親交があるらしいぜ。あの国会議員・・・でもって熱心なカトリック信者で、いつもセレブ仲間に自分と同じ教会に行こうと誘っているそうだ。」ホウィのセリフにアンドレも驚いて見せた。
「また教会ですか…」そう言った瞬間、庭先にセットされたスクリーンに、音楽とともにスライドショーが始まった。ベンは時計に目をやると時間ぴったりにそれが始まったことに、納得したように笑って見せた。会場はそのエモーショナルな音楽と、メリッサとスージーの写真に見入ってしまったようであった。幼いころから母親が一生懸命育てた娘との写真は、会場にいた誰もに涙を誘ってしまった。
その写真の中には、メリッサがバー「ルナ」で働いている写真もあったが、この会場にいるセレブ達は、彼女がそんなバーで働いていることを揶揄することはなかった。なぜなら、彼女が必死に働き、そしてどれだけスージーを愛して育ててきたかがわかったからだ。
そんなMusicつきの写真スライドショーを見ながら、アンドレは隣にいるサラに口を開いた。
「サラは・・・お母さんには会いたいと思わないのですか?」不意にアンドレがサラにそう尋ねた。サラは答えに詰まった・・・・。
「生んでくれたのはだれか分からない・・・。育ててくれた人には感謝してるけど、・・・私のせいで生活はむちゃくちゃになってしまったから、今さら合わせる顔がない・・・」
「エリザベスさんですね。」
「キャリアだった、テレビレポーターの仕事を辞め、そこまでして私を育ててくれたけど、私は・・・・」
「私たちの結婚式には、彼女も来てくれるといいですね。」
「え?・・結婚式!」サラはその言葉に胸がドキンっとしてしまったようだった。
スライドショーの終了と同時に、ホウィの大声が聞こえてきた。
「このスクリーン前に集合して下さーい!写真撮影しまーす!!」新郎新婦を中央に座らせると、その後ろにアンドレ国王とサラが並び出す。すると女性セレブ達は一気に国王の近くで写真に映ろうと、我先に押し寄せる姿が見えた。カメラを構えるホウィはファインダーを覗きながら、また大声を張り上げた。
「こらー!新郎新婦はもっとぎゅっと寄って!!国王の周りだけ女性ばっかりなのはなんでー!??あーもー!!」
そういってカメラから離れ、新郎新婦の距離を力ずくで近づけるホウィだった。アンドレはサラの肩にそうっと手をかけた。
「エリックさんも!!」ホウィはエリックの体に触り、動かすフリをしてポケットからMP3を取り出した。
「じゃ、行きまーす!!」カメラのシャッター音が聞こえてきた。
我先に席を立ったスージーがブーケを持ったまま、教会の階段の一番上に駆け上がった。そのあとを女性たちがキャーキャーいいながら我先にブーケをとろうと大騒ぎだった。
「そろそろ、帰りましょうか・・。」サラのその声にアンドレが振り向いた。その顔はもっとここにいたそうなそんな表情だった。サラは戸惑いながら言葉をつづけた。
「いや・・その・・・ホウィの任務は遂行したし、あなたの危険を排除するには早くここを立ち去ったほうが安全かと・・」
その瞬間、スージーがブーケを思い切り投げた。それと同時にベンの声がこだました。
「サラ!予備の弾倉だ。受け取れ!」
「え?」反射的に振り返り、そこに飛んできたブーケを掴んでしまったサラだった。一斉に女性たちが国王とサラに近づいてきて、残念そうな顔をしたりうらやましそうな顔をするみんなに囲まれてしまった。遠くで車を回したベンが笑ってそれを見ているではないか・・・。
「プリンセス!おめでとうございます!!」
「キャー!!アンドレ王と婚約者にブーケが渡されるなんて!ステキだわー!!」
サラは、自分の周りを囲むその意味を初めて知った。『そういえば・・・このブーケを受け取った女性って…』そう思った瞬間、いつものように照れくさそうにうつむいてしまったサラだった。アンドレはサラの体を引き寄せ、彼もまたいつものように微笑んで見せた。
「ウィル・・・早く車に戻りましょう。テロリストがいつ襲ってくるか・・・」
「はい、了解です。」
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