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  Mission!! 作者:Rach
5th Stg第69話「Love and Music-3」
時は夜、閑静な住宅街にある小さな家。この日仕事が休みだったメリッサは、家の中でくつろいだ格好でコーヒーを飲んでいた。キッチンのテーブルに広げた新聞を読みながら、ふと時計に目をやると、時計はすでに12時を回っていた。
『今日こそちゃんと言わなくちゃね・・・。』新聞の下には、バインダーに挟まった書類が置かれていた。
急に新聞をたたみ窓の外に目をやると、家の前で一台の車が停まり、助手席から娘のスージーが降りてきた。彼女は運転席にいる男にキスをすると、急いで家の玄関に向かった。
「ごめんなさい!すっかり遅くなってしまって・・母さん?」彼女の声に振りむき笑って見せた。
「あ・・・おかえり、彼氏と一緒だったのかい?」
「ええ、結婚式の打ち合わせとか、新婚旅行のこととか、いろいろ話してたら、時間がたつのも忘れちゃって・・。あ、それでね、母さん、ピートのご両親が是非お母さんに会いたいって言ってるの。ほら、前にレストランで一緒にランチするってとき、お母さん熱出して、向こうのご両親と会えなかったじゃない?」
「あの時はごめんね・・・。」そう言って新聞の下の書類をいつ出そうか戸惑っていた。
「母さん、もしかして会うのが怖い?」スージーはいつもと少し様子が違う母親を心配して、椅子に腰かけそう尋ねた。
「いや、そんなことないよ。」
「よかった!今日ピートと話したんだけどね。結婚しても大学を出てちゃんとした医者になるまでは、子供は作らないって決めたの。だって、勉強しなければならないことがいっぱいあって、赤ちゃんの世話は中途半端になんかできないし、そしたらピートが言うのよ!その頃新しい家を買って、母さんも一緒に住もうって!素敵だと思わない?」
「あのね・・そのことなんだけどね・・・。はっきり言わせてもらうけど、・・あんたは明日から父親のグレイソン家に引き取られるから。」スージーは母親の言葉に驚いた表情をした。
「え?父さんの?・・・どういうこと?」
「本当のこと言うとね!!わ・・わたしはね、アンタが出て行ってくれて心底うれしいんだよ。これでやっと自由の身。自分ひとりの生活なら食費もそんなにかからないしさ!!あんな汚いバーで踊らなくても済む!それと・・・レアリーから求婚もされて、これからこそ私の本当の人生が始まるってわけ!」
スージーはその名前に驚いた。いつも母が毛嫌いしている男の名前ではないか…
「母さん?レアリーって・・あいつは飲んだくれのろくでなしじゃないの!!」
「あ・・あいつは優しくていい奴だよ。エリックにあんたのこと話したら、彼は喜んで親権を譲り受けると言ってた。」
メリッサはそういって、新聞の下にある書類を差し出した。
「アンタは明日からスージー・グレイソンだ!いいね!!」まるで念を押すかのようにそう言いきると、椅子から立ち上がり自分の部屋に戻ろうとするメリッサだった。
「母さん!!今まで一緒に頑張ってきたのに、どうして急にそんなこと言うの!?」
彼女の部屋のドアがパタンと閉まった。
「母さん!!」
自分の部屋に飛び込んだメリッサは、ドアにもたれたままうつむいた。そんな彼女の背後からスージーの声が聞こえてきた。
「母さん・・結婚式には来てくれるんでしょ?私のウェディング姿は見に来てくれるんでしょ?」
その声を聞いて、メリッサはベッドに飛び込んだ。
「私のような女が母親だなんて、セレブの皆様の前になんか出られやしないよ・・。あの子の為にも・・・・・」
そう言いながらメリッサは静かに泣いた。その時、彼女の部屋にあったホウィからのプレゼントであるクマのぬいぐるみが、そんな二人の会話を聞いていた。
メリッサの家の近くには白い高級車が停まっていた。車の中でヘッドホンを耳にかけ、その会話を聞いている男は、だまって一言つぶやいた。
「なるほどね・・・」ホウィは静かにヘッドフォンを外すと、いつもの様子とは違った表情を見せ、車のハンドルをギュッと両手で握って見せた。
 
翌日のバー「ルナ」はいつもの様子とまったく違っていた。開店と同時に、高級なスーツを着込んだ男女が押しかけ、カウンターにいたマスターは、大慌てで蝶ネクタイを探し出し、その首元に取り付けた。メリッサは窓から顔を出すと、目の前にある駐車場に高級車がずらっと並んでおり、周囲にある同業者たちも目を見張って何事かとうわさしているようだった。
そんなマスターとメリッサに近づいてきたホウィは、ニッコリ笑ってこう言った。
「こんなんでOK?」
「この人たちはいったい・・・・」メリッサがホウィに恐る恐る尋ねてみた。
「友人だよ!」そう言いながらホウィの横を通りがかったフランツを呼び止めた。
「こいつ、フランツは王室の秘書。このレミーって奴は王室内の料理人。でもって、こいつは警察庁のヘインズ警部。で、こっちが通信事業の社長ワトソン君。」次々に彼らの名を呼び肩を組んだり、ふざけあっている姿にあっけにとられるメリッサだった。しかしそんな彼女をもっと驚かせたのはこの後の出来事だった。玄関口にいた男の一人が叫んだ。
「国王の到着だ!」その声と同時に、全員が起立をして見せた。今までザワザワしていたバーの中が、一転して静かになった。
「国・・・王?」メリッサはマスターと顔を見合せた。汚い玄関ドアが開くと、その向こうから金髪をなびかせた背の高いアンドレがバーに入ってきた。それに続いて背広を着込んだベンとラフな男物のシャツをはおったサラが続いた。
「みなさん、こんばんは・・。どうぞ今日は気楽にお願いします。」アンドレがそう言うと、そこにいた全員がゆっくりと席に座り出し、楽しげに会話を始めた。
アンドレに挨拶をしようとホウィが近づいてきた。
「ありがとうございます。アンドレ国王、私のお願いを聞いてくださって感謝します。」
そう言って深々と礼をした。なんだかんだ言いながら、礼を忘れない本当のホウィの姿でもあった。そんなホウィにアンドレは微笑んだ。
「とんでもない。私は嬉しいのですよ!一度こういうところに来て見たかったんです。」
そういうとサラとともにカウンター席に座り、興味深そうにそこにあったお酒のボトルなど見渡した。
「変わった名前のお酒ですね・・。初めて見ました・・・」そのセリフにマスターが慌てて、高級なお酒を引っ張り出してきた。それもそのはず、ここに並べられた2級の酒など、国王は見たこともないに決まっている。サラは笑った。
「私はビール、ハイネケンある?ウィルは?」
「では同じものを・・」マスターが慌てて冷蔵庫から小さいビンビールを取り出した。
「グラスは必要でしょうか?」
「・・・・いいわ、このままで」二人の前に差し出されたビールにもアンドレは驚いた。
「ビンから直接飲むのですか?」
「うふふ、初めて?」
「ええ、まあ・・・」サラがビンを口に運んだのを見て、アンドレもその小瓶を持ち上げてみた。
「では私も」そこへメリッサが、そこにいるホウィを気にしながら近づいてきた。
「あの・・・あなたが・・・一般人から選ばれた婚約者サラ嬢ですか?」サラは振り返ってこう返事をした。
「選ばれたっていうか・・・。出身はイギリスの孤児院、子供の頃アフガンに売られて、まともな義務教育も受けてないわ。戦争の中で育ったから、普通の生活になじめず英国SAS部隊に入り、そのまま流れてフランス外人部隊、ウクライナなどなど・・・。」
「たくましい婚約者です。」そういって笑うアンドレだった。
「あ・・すみません・・・私ったら余計なことを尋ねてしまって…。こんな貧困層の通うバーに飲みに来ていただいて、本当にありがとうございます。」
「そんな・・・。人間はみな平等ですよ、メリッサさん。どんな職についているとか、肌の色がどうとか、本当の人間の本質はそんなもので計れるものではありません。一生懸命生きていることこそ、一番の価値ある存在です。」
その言葉に、ホウィがにこやかにほほ笑んだ。メリッサが他の客に呼ばれてお酒を運ぼうと失礼すると、ホウィはまじめな顔をしてこう話しだした。
「いや〜〜、国王・・今のセリフナイスでした!!これぞ、当意即妙の答弁。実は、メリッサ・・・自分がスラム出身だってこと気にしていて、一人で大切に育てた娘さんの結婚式、出ないつもりでいるんだ。」
「お母さんが出ないなんて」
「その娘スージーの結婚相手ってのも、かなりの裕福な家庭らしくてね。メリッサは自分の立場がスージーの結婚を妨げるのではないかと心配している。だから、今日付けで娘を手放し、父親側に引き取られたってわけ・・・。」
「その父親が、今ホウィが追っている人物なんですね。・・・」ホウィは黙ってうなづいた。
「それより・・結婚式には、是非出てもらいたいな・・。」アンドレも小さくうなずいた。
「私は地位や名誉にしがみついて権力におぼれている人間が大嫌いなのです。権力を握ったものはおよそ、一生懸命毎日を生きている美しい人たちを、時として罵ることがあります。兄、ロイは大学時代こんなことを言っていました。」
「なんて・・・?」サラはアンドレの話にのめりこんだ。
「自分が次の国王後継者だと知ったクラスメートが、急に態度がやさしくなった。本当の友達のような顔をして、でも実は自分の利権だけのためにそばにいるんだと気づいた。彼は本当の友達ではなかったとね・・・。優しさを振りかざして、幾人も美しいお嬢様が目の前に現れたけど、本当に自分を心から愛してくれていたわけではなかったと…。」
「そんなことが・・・」
「父上の厳しい教育と、自分に言い寄る友人のフリをしただけの亡霊と、そして王妃になりたいがために愛を売る女性たち・・・、そんな毎日に疲れてしまったのでしょう。」
ホウィがあきれた様子で言った。
「権力を手に入れたいだけの連中だったんだな・・・・おっと、失礼。」ホウィはポケットの携帯を手に、その場から離れていった。
「ウィル・・・ウィルもお金持ちのきれいなお嬢様は嫌いなの?」アンドレがサラの顔を覗き込んだ。こんな廃れたバーの雰囲気がサラには合っているのか、いつも口にしないような質問をしてしまった。
「・・・いや・・・その・・前から聞こうと思っていたんだけど、ウィルだったら、きれいなセレブお嬢様とか、どこかの国のプリンセスが放っておくはずないと・・。なぜこんな、がさつな私のことが好きなのかわからなくて・・・」
「私はそんな基準で選ぶことができない男なんです。・・・少し、このビールはアルコール度が高いですか?」
アンドレはそう言ってサラの目をじっと見ると、公共の場であることに戸惑う彼女に、ためらうことなくそうっと唇を重ね合わせた。
そんな二人の姿を、メリッサは遠くからそうっと見ていた・・・・。
感想くださいませませ。
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