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  Mission!! 作者:Rach
5th Stg第67話「Love and Music-1」
フォイオンの港に近い町では、夜になると昼の顔とは異なって、あちらこちらのバーが華やかにネオンを輝かせ、多くのビジネスマンや観光客がたむろしている様子がうかがえる。
一軒のバーのサインが点灯し、「ルナ」と書かれたイルミネーションが、華やかな港町を彩る。ふとみると、白い背広に襟の高い紫のインナーを着たホウィが、駐車場にそのスポーツカーを停め、楽しそうに口笛を吹きながらバー「ルナ」のドアを開けた。
「ちーっす!マスター!!」ホウィのその声に、カウンターのテーブルを拭いていた初老の男性が振り返った。開店早々誰が?という雰囲気だ。
「あれ?メリッサ・・来てないの?」辺りを見渡すとそこには誰もおらず、この時間ならいつもいるはずのダンサー、メリッサの姿も確認できなかった。
「ホウィ、また女とデートの約束か?・・そろそろ来る頃だよ。まさか、うちの踊り子に惚れちまったんじゃないだろうね?彼女には19歳になる娘がいるほど、年も食ってるよ」
「年なんか関係ないよ。用はハート!」ホウィはそう言って、心臓のあたりを指さして笑った。
そこへ派手な衣装を着た女性がドアから入ってきた。胸元を大きく露出し少しふくよかなその女性は、ホウィがいることに気がつかない様子で、店に入ってきた。
「ごめん、ちょっと遅れちゃったわ。あらホウィ、また来てるの?」
「ちょっと君に会いたくなってね。今日仕事終わったら二人で会える?」
「話があるならここで話しなよ。」そう言いながらホウィの横を通り過ぎていくメリッサだった。
「つれないなあ、君の家までちゃんと送り届けてあげるから。」そういって車のキーを見せ、彼女の肩に手を置くと、軽くはじかれてしまう。ホウィはカウンターに座ると、目の前で働き出したメリッサの顔をじっと見つめる。
「まったく・・・・あんたは何を考えているんだか…」あきれたようにホウィにそういうメリッサだった。

他の客さんが何人かバーに入り出したころ、ホウィとメリッサは駐車場まで出てきた。白い高級スポーツカーの前まで来ると、急にメリッサはいぶかしそうに腕を組んで警戒して見せた。
「あんたさ、一体何の仕事してんの?この車、どう値引きしたって1千万はする車だよ。まさかやばい仕事してるんじゃないだろうね?」運転席のドアを開けるホウィにそう聞いた。
「フォイオンのしがない公務員さ。それにこれは俺の仕事に必要不可欠なわけ!君のような素敵な女性を送り迎えするためにね。じゃ、終わったら連絡くれよ!」そういって手を振って車に乗り込み、派手に発車して去っていくホウィだった。残されたメリッサはため息をつき、またお店に戻って行った。
山の中腹に位置する宮殿フォートフォイオンは、マシューとジョルジュによる坑道作戦と、ヘリからの攻撃を受け、前庭と正面ゲートがめちゃめちゃに破壊されてしまったため、その後急ピッチで修復と改装工事がおこなわれていた。新しくなったゲートをくぐりぬける黒塗りの車が、警衛隊員の敬礼を受け、ゆっくりと美しい宮殿の前庭に侵入して来たのが見えた。前よりも警衛所のセキュリティが厳重になったようで、建物内には最新のコンピューターシステムが新しく導入され、それを取り囲み難しそうな顔をしながら話をしている軍人の姿があった。
屋敷の前にはヘリからの攻撃で破壊された噴水が新しく作り直され、山から流れてくる水を、夏に近づく太陽がキラキラ輝かせていた。
正面玄関にたどり着いた黒塗りの車から、アンドレとサラが降りてくると、辺りをぐるっと見渡した。
「ずいぶん早く修復しましたね。」前庭にある噴水を見てアンドレはにこやかにそう言った。
別の車からベンとグラナドス大佐とパブロが降りてきた。噴水近くまで歩み寄って行ったアンドレをすぐ追いかけ、ベンは宮殿を指さして説明しだした。
「壊されついでに最新のセキュリティシステムの導入と、爆発物に対する防御を施しました。リアルIRAが対戦車ロケット弾を撃ち込んでも、損害は軽微でしょう。」
そこから見える宮殿には、噴水から反射した太陽光が反射し、その美しい外観をよりいっそう輝かせていた。そこに全員が集まって壮観なフォートフォイオン宮殿を見上げると、やはりここがわれらの家なんだという実感がわいてきた。
「イギリスのSIS本部の建物のようね。実際、建物の8階にロケット弾が飛んできたけど、損傷はほとんどなし。フォートフォイオンの現代版が完成ってわけね」サラがそういうと、全員が納得したようにうなづいた。グラナドス大佐がパブロの肩をたたきにこやかに笑った。
「立派な宮殿だ。」
そんな建物のサイドにある舗装道路を、大きなトラックがゆっくりと侵入していき、宮殿の裏側にある荷物搬送口に停車した。別荘セイレンで使われていた一行の身の回り品などが、次々と運び込まれていくのがうかがえた。

アンドレとサラは案内されるまま、2階中央に位置する国王の部屋に入って行った。アンドレがそこにある懐かしい家具を一通り眺めると、自分の後ろのほうでソファにどさっとねっ転がるサラに気がついた。
「最初にここに来たときも、まずそこに座りましたね。覚えていますか?」
「そうだっけ?」大きく伸びをしたサラは、リラックスした気分でそう言って見せた。自分の家でもないのに、なぜかここが落ち着くようだった。
しかし次の瞬間、アンドレが急に横に座り込み、サラの顔をじっと見つめていた。嫌なわけではないが…慣れていない・・そう言ったほうが無難か・・。
困惑の表情のまま顔を赤くして、アンドレから目を背けると、そんなサラに彼は言った。
「また、そう言う顔をする・・・。テロリストに囲まれてもあんなに冷静なサラだったのに、こういうときはまるで慌てて逃げる猫みたいですね。」
「そ・・・それは・・・」サラはあのスペイン大使館でのことを思い出した。この国王の目の前で、オルテガに太もも辺りを触られたこと、自分の着ていたドレスの肩ひもを切られ、胸元がはだけてしまったことを急に恥ずかしく感じ始めた。あの時はアンドレもそんなサラの姿にドキドキしてしまったが、ベンの『続きは別荘に帰ってからだ!!』という声にせかされ、大使館を脱出してきたという経緯があった。
「もう少しで3Xの譲渡に応じてしまうところでした。」アンドレは笑ってそう言うと、サラのおでこにキスをして見せた。
「あの・・ベンの言ってたその・・続きというのは・・」
「大丈夫ですよ。・・・サラがその指輪を左手にしてくれるまでは・・・でも・・」
アンドレはサラの髪をなでながら、やさしく彼女の顔を両手で包みこみと、その唇にキスをした。アンドレの付けていたコロンの臭いがやさしく漂ってきた。まるで二人を取り囲むすべてのものが、この優しい香りとともに溶け込んでいくかのようだった。
その時、新しくセットされたインターフォンが甲高い音を発した後、フランツの声が飛び込んできた。フランツは宮内庁の国王側近の第2秘書だ。
「アンドレ王、ただいま警察庁情報2課と防衛省情報本部のかたがたがお見えになりました。外務大臣もご一緒です。会議室にお通ししてあります。」アンドレはソファからゆっくり立ち上がると、ネクタイを直しながらボタンを押し返事を返した。
「わかりました。ベンたちにも連絡をお願いします。」サラはソファであわてて髪を直して、自分の胸の鼓動を抑えるかのように、胸元に手を当てた。

会議室では警察の制服を着た男性が、書類を手にして何か説明をしている様子だった。それを黙って聞いているアンドレ、ベン、オスカー、サラそしてグラナドス大佐とパブロがそこにいた。
「例の教会で使われていたオルガンを調べてみたところ、ある音の部分だけ、時別な装置がつけられていることがわかりました。この音階にだけかすかに別の高周波が混ざって音が出る仕組みになっています。人体に及ぼす被害ですが1日や2日聞いただけでは、たいした効果はありません。しかしこれを継続的に聞くことによって精神的不安定をもたらす結果も考えられるとのことです。」教会でのオルガンとは、有名な音楽家ロバート・ヤン氏が焼身自殺を図る前に、教会でよく弾いていたものだ。
「精神的不安定とは、たとえば?」ベンが質問をした。
「音響科学センターと臨床心理学及び社会心理学教授の出した結論では、なんらかの衝動的行動を取る可能性があるかもしれないとのこと。過去、ハードロックミュージックを好んで聞いていた若者たちが、無意識に自殺を図ったケースと酷似しているとも言っています。」
「でもその事件は裁判によりアーティストが勝訴してるわね。」サラはオスカーと顔を見合わせそう言った。
「当時、サブリミナル効果と自殺との因果関係が立証できませんでした。現代においてもこの効果の実証性は模索中であり、確たる結果は出ていません。従ってこのオルガンを毎週日曜日に聞くことによって自殺または各種の犯行に至るとは、現段階ではなんとも・・・」
全員がその報告に黙りこんでしまった。
「音楽家のロバート氏の焼身自殺は、やはりここからは結論は出ないということか。」ベンが持っていたボールペンをくるくる回しながらそう言うと、隣にいたオスカーが口を挟んだ。
「例のMP3にも、何かトリックが隠されているのかもしれない。彼ら全員が毎日聞いている音楽データーに、感情を左右する信号が仕組まれているとしたら、彼らがマインドコントロール状態になるのは可能だ。それに、MP3に録音されているものが音楽とは限らない・・。過去日本で起きた宗教団体オウム事件で、毎日Bossの狂った道徳観念を聞かされた信者たちが、立派に洗脳されたということも起きている。」
天才肌のオスカーの意見を聴き、長々と説明をしていたその警察官も、大きく納得した様子でその続きを話し出した。
「そのとおりです。そこで先日のスペイン大使館での事件。ここで7人の大使館職員の自殺死体が上がりましたが、残念ながら、かれらの所有物の中にMP3もしくはIPodといったミュージックプレイヤーは見つかっていません。」
若干照明も暗くなったその瞬間、パソコンとつながったプロジェクターが、スクリーンに自殺した男たちの写真を写しだした。その時、グラナドス大佐が画像を見ていった。
「いや、ちょっとまて。この男・・・・」
「父上殿、この男をご存知なのですか?」
「テーブルのグラスに水を注いでいた男だ。それに、この男は廊下で木箱を運んでいた。この二人は確かにポケットにMP3を持っていたぞ。」
「確定ね。やつらは彼らの死後、証拠隠滅にミュージックプレイヤーを持ち去っているっていうことよ。なんとしてでもMP3を誰かから分捕って確かめるしかないわ。」
サラはベンに諭すようにそう言った。
「それなら、今ホウィが獲物を追いかけている最中だ。」サラは彼の返事にうなずいた。
「肝心なことは、誰がこんな面倒なことを仕組んで、何を企んでいるのかだな。」オスカーが眼鏡をかけなおしながらそう言った…。
「そして、死んだはずのロイ兄さんがなぜ、クライブと名前や顔を変えて、私を襲ってくるのか・・・・・」
最後のアンドレのセリフに、全員が首を縦に振った。そして長い沈黙が流れた…。
その沈黙を破ったのはオスカーだった。
「ETAのメンバーからは何か情報は?」
「スペインである男と接触し、多額の資金を提供され作戦成功の報酬にバスク地方の独立を援助すると持ちかけられたそうです。今、その男の行方を追っていますが、残念ながら足取りは掴めていません。」
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