5th Stg第64話「Hostage-5」
「ベン!パエリアは最悪だ!!応援頼む!!」閃光弾が放たれた瞬間、ひっくり返したテーブルの裏でパブロが襟元の通信機に向かってどなった。さっきまで難なく通信できていたにもかかわらず、向こうからベンの声が聞こえてくることはなかった。
「ジャミング?」コンパクトをあけたサラにも、ザーッという音だけが聞こえていた。
「この部屋から出なければ・・。」銃を片手にグラナドス大佐が口を開いた。その瞬間、遠くで拳銃が軽くはじく音が聞こえてきた。
裏ゲートのカギを開けた給仕人が、暗い食糧倉庫の奥で、耳にMP3をかけたまま自殺した音だった。それと同時にあちらこちらで、いくつものピストル音が聞こえてきた…。
サラはいったい何があったのかと、テーブルからそうっと顔を出してみると、なんの恐怖も感じていない様子の一人の男が、カートに木箱3箱を乗せ、その部屋に入ってくるのが見えた。
「あの男は・・・さっきもあのカートを運んでいた・・・」グラナドス大佐がそう言った瞬間、民族衣装の男たちは木箱を壊し、中に入っていた重火器を次々に手にした。
「やつら・・前もって・・・」唇をかむ大佐だったが、つぎの瞬間彼の眼を疑うような光景を目の当たりにした。木箱を運んできた男はMP3を聞きながら、何のためらいもなしに持っていた拳銃を頭に突き付け引き金を引いたのだった。大量の武器を持った民族衣装の男たちがじわじわとサラたちに近付いてきた・・・。
「・・・・この人数じゃ・・・とても・・・」パブロは一言そう呟くとサラもゆっくりうなずいて見せた。
「私たちから連絡がなければ、ベンもおかしいと思ってなにか策を打って出るはず・・・。このまま銃撃戦になったとしても、あの人数とあの装備では、無事にここから出ることはできないだろう…。」
「彼らの目的はやはり、例のものなのでしょうか?」アンドレの問いにサラは首を縦に振った。
「何があっても、その話は知らないとだけ・・・」アンドレもうなづいて見せた。その瞬間グラナドス大佐がゆっくりと隠れたテーブルから身を乗り出し、立ち上がって見せた。一斉に民族衣装グループたちの銃口が彼に向けられた。
「ホセ・・・それにオルテガ。貴様たちはやはりここに来ていたか。」大佐の視線は二人の男に注がれた。
「大佐、うまく息子を連れ出してくれましたね。パブロもよくぞアンドレ王を招待してくれた。感謝する。」
「なんだと?」ホセのセリフに驚いたグラナドス大佐だった。
「あなたを囮として使わせていただいたんですよ。その王子様をここへ連れてくるためのね。」オルテガはニヤニヤ笑いながら、大佐に近付いてきた。
「すべてお前たちの計画だったというのか!?」
「そのとおり。おっと・・・身体検査をさせてもらいますよ・・・。物騒なものを持っていられちゃ、困りますから。」すっかり囲まれてしまったサラたちに、銃を突き付ける男たちは、次々とアンドレたちから武器や通信機器を奪っていった。
「さて、アンドレ王。あなたが一番の主役だ。われわれとビジネスのお話でもいかがですか?」一人の男がアンドレに銃を突き付け、部屋から出るように差し向けた。
「何の話が私にできるとでも?」アンドレは両手を上げたまま、サラたちから引き離されようとしていた。
「待て!私は彼の婚約者。一緒についていく!」そう言い放ったサラに近づいてくるひとりの女性がいた。
「あんたがSAS隊員、フランス外人部隊などの軍人暦があることは十分知っているんだよ。あんまり派手な演出はしないほうが身のためだよ。」そういった瞬間、持っていたナイフでサラのドレスを破った。
「!」ロングドレスのスカートが破かれ、その足にまだナイフが隠されていることがばれると、その女はすかさずそのナイフを取り上げ、その隣にいたパブロの右腕に突き刺した。
「うわーー!!」血が飛び散り、後ろにのけぞるパブロだった。
「パブロ!!」サラがそう叫ぶや否や、女は思い切りサラの腹に蹴りを入れた。
「ぐ・・・・」後ろによろめきそこにいたアンドレに抱きとめられるサラだった。
「やめなさい!!私に用があるのでしょう!!彼らにはなんに関係もないはずだ!!」
アンドレは仲間が傷つくのを見て、思わす大声でそう叫んだ。
「物分りのいい王子だ。」彼の腕の中でサラは小さな声で言った。
「ウィル・・・絶対に交渉には・・・応じるな。奴らに石ころを渡せば、もっと・・・大勢の人間が死ぬことになる・・・ぎりぎりまで粘ってくれ。なんとかチャンスを作る。」
サラはアンドレの腕の中から離れ、ゆっくりと床に倒れこんだ。
「・・・・サラをよろしく頼みます。」そこにいたグラナドス大佐にそういうと、テロリストに向かって歩いていくアンドレだった。
「・・・・・ウィル・・」サラはそう呟いて、この時は彼の身を案じることしかできなかった。
そんなころ、定時連絡がないことになにか異常があったことを感知したベンは、ICCトラックの中で次の手立てを考えていた。
「ベン!これはどこからか通信障害を引き起こす電波が発信されている模様!しかしアパッチから撮影した映像は、かろうじて映るようです。」オスカーがコンピューターを操作し、つかんだ情報をベンに伝えた。
「ピックアップポイントには人影はない。まだ大使館内に取り残されているはず!」ホウィも見ていたディスプレイを見てそう叫んだ。
「くそ!赤外線探索は使えるか?」
「はい。今切り替えます。」画面には大使館内の熱源が映し出された。
「かなり人数が多いな・・・。さっきのダンサーが怪しい。」そう呟くと携帯電話をかけるベンだった。
「ベンジャミンだ。指令1、警察庁に現場の交通統制と住民の避難、マスコミ対策を内密に要請しろ。不発弾処理とか言い訳を適当に作って、スペイン大使館近辺5キロ範囲にいる人間はとっとと追い出せ。そしてただちに陸軍大臣には主力第102陸軍部隊の出動を。武器の携行はクラスAを装備。指令2、大使館への電力の供給をストップしろ!電話もだ!指令3、館内の見取り図と、地下の排水溝、ガス管などの情報を1時間以内にこっちに転送完了せよ。」一方的に指示を伝達すると、電話を勝手に切ってしまうベンだった。
ひっくり返ったテーブルの向こうで、大佐はルシュドの遺体に白いテーブルクロスをかけ、サラは破れたスカートを引き裂き、その布をパブロの傷ついた腕にきつく巻いた。
「Muchas gracias」(ありがとう)
「De nada」(どうしたしまして)片言のスパニッシュに3人から少し笑いがこぼれた。
グラナドス大佐は自分のスーツの上着を脱ぎ、サラの短くなってしまったドレスの足元にそうっとかけて、こうつぶやいた。
「こんなことになるとは・・・。これは私の失敗だ」
「いや、こんなに簡単にテロリストの侵入を許したのは、多分大使館員の誰かが手助けをしているとしか考えられない。事実、大使館職員の自殺行動はどう考えてもおかしい。」
そのとたん、大使館内の照明が落ち暗くなった。
「ベンの指示だな…。」サラがそういうと、パブロもこくりとうなづいた。
「長期戦になることを覚悟しておこう。」そう言ってグラナドス大佐は、暗くなった部屋の装飾品に目をやった。
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