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  Mission!! 作者:Rach
この話のベースに少し、1996年に起きた在ペルー日本大使公邸占拠事件の実話を取り入れております。
5th Stg第63話「Hostage-4」
別荘セイレンの玄関に、きちっと正装をしたアンドレが建物から現れた。いつものように黒い車が3台、玄関前にエンジンをかけたまま静かに停車していた。この車は止まっている時は恐ろしく静かだった。それもそのはず、今時流行りのハイブリッドカーは、パワーを必要としない時には電池だけで作動している優れものだ。
国王の後をパブロも苦しそうにネクタイを直しながら歩いてくると、ベンが小さな黒い機械を彼に手渡した。
「特殊通信機だ。スーツの襟元につけておいてくれ。」パブロが大きな手でそれを受け取ると、ベンの顔を見ながら言った。
「サラにつけておいたほうがいいのでは?」ベンは笑った。
「そうなんだが・・・、あの格好ではな・・・」そう言って着なれない水色のロングドレスの裾をモタモタさせながら歩いてくるサラを指さした。彼女はやっとの思いで玄関までたどり着くと、履いていたヒールをもう一度履きなおしてみたりと、かなり落ち着かない様子だ。
「大丈夫ですか?」アンドレはサラにそう尋ねた。
「ええ・・・・」少し笑ってはみたものの、かなり不満げな表情だ。『ボディガードなら何もこんな格好しなくても・・・』そう言いたげだ。そんなときにまたしてもホウィの登場に、サラの顔つきが余計に険しくなった。
「決まってるねー!!王子の青系のスーツに、サラの淡い水色のドレスですか。なかなかのコーディネート・・・で、もって拳銃はどこに?もしかしてそのドレスの中の太ももあたりにくっついているとか?」
そう言ってスカートをめくる格好をして見せた。
「ホウィ・・・」握りこぶしを作ってみせるサラだった。
「拳銃ならここです。」そばにいたアンドレが、そう言って自分のスーツの下から拳銃を取り出してみせた。
「ありゃ・・・・王子様がそんな物騒なものを持ち歩いてちゃ・・・」サラも鞄から小さな拳銃を取り出した。
「これじゃ少し心細いが・・・。」ホウィに言われてスカートをめくって見せたわけではないが、自分の太ももに固定されたナイフをドレスの上から確認したサラだった。
「OK!準備は万端!でもま、スペイン大使館でパブロの父上様に会いに行くわけだし、今回は気楽に楽しんできて頂戴ね。」天真爛漫な能天気男はそう言って笑った。
「しかし、海岸で見つかったゴムボートのこともある。気をつけてくれ。われわれはICCトラックを近くに駐車させ待機しておく。非常事態発生時には計画通りのピックアップポイントで落ち合おう。アパッチもその時間には上空に待機しているはずだ。」ベンのその言葉に全員が大きくうなづいた。
「了解。」アンドレとサラそしてパブロが車に乗り込むと、警察の護衛車に先導されながらゆっくり別荘を後にした。

フォイオンのビジネス街から少し離れた場所にスペイン大使館はあった。この日、ビッグな来客があるため、いつにもましてあわただしい様子がうかがえた。ひそかに大空に舞うアパッチヘリがその緊張感をさらに高揚させているようだ。
ある部屋の中央に豪華なテーブルが置かれ、これまたきらびやかなグラスやお皿がその食卓を飾っていた。そこへ黒褐色の肌に少し白髪交じりの髪をきちっと後ろに固め、たくさんの勲章をつけた海軍の黒い制服を着た大柄な男が入ってきた。その男は一通り部屋の中をぐるっと見渡すと、椅子を引きどっかと腰をおろした。
「グラナドス大佐、そろそろご子息の到着かと・・・」その次に部屋に入ってきたのは、大使館長であるルシュドだ。
「そうだな。ひさしぶりだ。かれこれ3年ぶりといったところか・・。」
「せっかくのいいチャンスですから、ここは是非例の鉱石のことを質問していただけるとうれしいのですが・・・」ニヤニヤ笑いながら、大佐に尋ねるルシュドだった。彼にしてみれば、噂になっている新エネルギー鉱石の情報を、ぜひともこの機会に聞いてみたいと思うのは当然のことだろう。しかしこの男の表情はぴくりとも動くことはなかった。
「ルシュド館長、私は軍人だ。エネルギー鉱石の話には興味はない。そんなことより、ここのセキュリティが心配だ。アンドレ王がここへ来ることは多分、奴らも知っているはず・・。」
「それでしたら、体制は万全です。丸2日間かけてセキュリティチェックをしましたから。」
「ETAの動きが活発になってきているのが気に入らん・・・」そこに丁寧にドアがノックされゆっくりとドアが開くと、白い服を着た給仕人が入室し、テーブルの上のグラスに水を入れて回りだした。そんな彼をじっと見ているグラナドス大佐は、給仕人のポケットからイヤホンのコードが飛び出していることに気付く。
グラナドス大佐と大使館長のルシュドは、腕時計の時間を確認すると、二人して大きくうなづいてその部屋を後にした。『そろそろ国王の到着時間か・・・。』
グラナドス大佐は廊下に出た瞬間、カートに乗せた大荷物を運ぶ男とぶつかりそうにあった。重そうな木箱を3つ重ねて、それをカートに乗せている若い男にルシュドが叫んだ。
「おい!そんな荷物この廊下を通すんじゃない!!せっかく掃除してきれいにしてあるのに、絨毯に車輪の跡がつくだろ!!」緊張もあってか、今日の彼の言葉は少々きつめだった。時すでに遅し。廊下にひかれた赤い絨毯にくっきりと車輪の跡がついてしまっていた。
「あ、すみません・・・すぐ片付けます!!」男はそういって慌ててカートを押し戻し始めた。その瞬間、彼のポケットからMP3プレイヤーが廊下に落ちた。
「仕事中にそんなもの持ってくるな!!」ルシュドの怒りにあわててMP3を拾い上げる男だった。
「ごめんなさい!」グラナドスは大きくため息をついた。
「いまどきの若いもんは、いつでもどこでも音楽ばかり聴いているな。」
「大佐の息子さんもそうなのでは?」
「さあ・・・」二人は笑って玄関に向かった。
大使館長のルシュドと大佐は、時計を気にしながら玄関で国王の到着を待っていた。グラナドス大佐は遠くに聞こえるアパッチヘリの音を確認すると、大きく納得した様子だった。そこへ警護車両に先導された黒塗りの車がゆっくり玄関前に侵入してきた。ルシュドは思い切り緊張し始めたようだった。
後部座席のドアが開かれると、そこからアンドレ王が現れた。
「これはこれは、アンドレ王。ようこそいらっしゃいました。私がここの大使館長です。」
「ルシュド館長、今日は私たちまでお誘いいただき光栄です。」二人は握手を交わした。
「いやいや、お目にかかれて私どもは感無量です。こちらがグラナドス大佐、スペイン海軍情報部のもので・・」
「初めまして、アンドレ・ウィルヘルム・スタインベック国王、こうしてお会いできうれしく思います。」
「あなたが・・・私の厳しい教官のお父上でいらっしゃるのですね。」
「え?・・・」大佐はその意味が何のことなのか分からず、しばし答えに詰まってしまった。
「父上殿、国王から依頼を受けて、少しばかりですが戦闘レクチャーを教えているのです。」
パブロが車から降りて顔を出すと、グラナドス大佐は厳しかった表情が一転して笑みがこぼれた。久しぶりの息子との再会に喜ばない親などいないだろう。
「おお、息子よ。元気だったか?」大佐はパブロに駆け寄った。
「父上殿も、元気そうで」そういって肩を抱き合い喜ぶ二人を、アンドレとサラも微笑んで見守っていた。
「家族か・・・」サラはそう言って思わずアンドレの顔をちらっと見ると、彼はサラの肩を抱きながらやさしく微笑んで見せた。
夕食会場に通された3人は、先ほどのテーブルを取り囲むようにして椅子に着席すると、 すぐフォイオン名産のワインが運ばれてきて、テーブルのグラスに軽く音を立てながら注がれていった。ほのかなワインの香りが漂った…。
「窓から離れた場所に置かれたテーブル、しかもカーテンは降りている。出入口からも相当距離があり、私たちは窓にも出入り口にも背を向けていない。いい感じだ・・・・父上、グラナドス大佐の指示だとしたら彼は相当の切れ者だな。」
サラはパブロにそうっと耳打ちして見せた。『もちろんだ』と言わんばかりに親指を立てたパブロだった。
「サラ?」隣に座ったアンドレがサラに声をかけた。
「・・あ、はい。すみません・・・ついきれいな部屋なので見とれてしまいました・・・」
「スペインの代表料理であるパエリアは食べたことありますか?」
「・・ええ・・・バレンシア地方から来た仲間がいて、彼がよくでっかい・・いや・・大きなフライパンで作ってくれました・・・。」ルシュドが大きくうなづいて、そのあとのセリフをつないだ。
「さすがですなあ、プリンセス。パエリヤといえばバレンシア地方の郷土料理ですからな。」
一見何事も起きそうにない、平和な夕食会が始まった…。

そんなころ、大使館裏手ではスペイン民族衣装を着た10人ほどの人影が、閉まっている裏ゲートに近づいてきていた。そんな彼らがちょうどたどり着いたと同時に、大使館内から白い服を着たさっきのグラスに水を入れていたあの給仕人が現れ、ゲートの鍵を取り出し開け彼らを中に招き入れた。一人の民族衣装を着た男が、顔をちらっと見せた・・・。その男は喫茶店で新聞を広げていたあの男、ホセだ…。
「ご苦労・・・最初の銃撃音が聞こえたら、・・・始末しろ。」
「Yes,Sir.」給仕人はぼうっとした様子で静かにそう答えると、ゲートにまた鍵をかけ、ポケットからMP3を取り出しそのイヤホンを両耳にねじ込んで見せた。

大使館から少し離れた場所に、数台のM1131ストライカーICVがプロテクターM151RWS( ブローニングM2重機関銃)を天井に背負って警戒に当たっていた。もちろん、彼らが守るものはベンとオスカー、そしてホウィが待機している中央指揮所ICCトラックだ。
「東側のゲートから、フラメンコ衣装のダンサーらが敷地内に入ったようだ。」各所に潜んでいる偵察要員が映すカメラ映像が、ICCトラックにリアルタイムに伝えられていた。
「ダンサーだと?そんな連中は今日の宴のリストに入っているか?」ベンはホウィに向かってそう聞いた。ホウィは持っていた資料をパラパラとめくると、そこに記載されているダンサーの名前を確認して、きっぱりとこう答えた。
「ああ、今朝大使館からもらったリストには記載されている。」それを聞いてベンは時計をちらっと見た。
「そろそろ通信ラインチェックが入ってくる頃だ。」そう言った途端、サラの声がトラック内に届いた。
「ゴルフ・アルファ」アルファはサラの声そして・・・。
「ゴルフ・ブラボー」ブラボーはパブロの声だった。ゴルフはもちろん、ICCトラックのことだ。
「こちらゴルフ・感銘度良好、問題ない。パエリアの味はどうだ?」
「パブロは緊張のあまり、まったく味がしないらしい」
「了解、通信終了。・・・・・異常なしか・・・」サラのジョークに笑いを見せる3人だった。

サラは女性用の化粧室で、化粧コンパクトを直しカバンに入れると、急いで食事会が行われているその部屋に戻ってきた。パブロはその部屋の窓際で襟もとの通信機でコンタクトを終了すると、椅子に座りなおしたその瞬間だった…。さっきまであの窓のカーテンの向こう側で、通信を終えたばかりだったその景色に、あわただしく走り去るいくつもの人影が見えた。そして、荒々しい靴音・・・。
「どうした!!」血相を変えて席を立つルシュド大使館長だった。その時、突如ドアが蹴り開けられ、数人の民族衣装を着た男達が乱入し、持っていた軽機関銃を立っていたルシュドに向けて火を噴かせた。
サラは左隣にいたアンドレを左腕で思い切り床に引き倒した。血しぶきを上げて倒れるルシュドがそんな彼の目の前に大きくのけぞって倒れ、動かなくなった。次の瞬間、別の民族衣装男が閃光弾を投擲した。パブロはそれを見て一気にテーブルをひっくり返し、その裏で全員が目をつぶった…。
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