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  Mission!! 作者:Rach
5th Stg第58話「Howie Ramark−2」
話は数年前のフランス・カステルノダリに移る。ここはサラが女性としてはじめて外人部隊に入隊した場所だ。都会というよりも住宅に埋め尽くされた閑静な街といった様子で、その中には小さめのアパートメントも軒を連ねていた。
夕暮れも過ぎ、あたりはようやく暗闇に包まれたころ、突然アパートメントの2階から、大きな男性の罵声が聞こえてきた。
「こんな時間に帰ってくるなんて!!ハナンディ!!今何時だと思っているんだ!!」
キッチンのテーブルをたたいて怒っている体のでかい男は、ハナンディの実の兄で、彼女の大学生活を監視する役目も担っていた。体を小さくしてうつむくハナンディは無言でそこに立ちつくし、フロアーをじっと見つめているだけだった。そこにある時計をちらっと見ると、まだ夜の7時を少し回ったところだった。
「あの・・・・今日は大学の図書館で勉強会があるって、そういっておいたはずよ・・」
ハナンディは頭からかぶったベールを少しよけて、恐る恐るそう言って見せた。
「こんなこと・・・親に知れたら・・・俺はお前を・・・」
兄はワナワナを震える手を握り締め、相当の怒りをこらえているようだった。
「バルベス兄さん、ここはパチスタンではないのよ。もうそんな考え方はやめて・・」
「お前は教義に逆らうつもりなのか?そんなことをしたら、わがガーナ家の恥!!ばれる前に・・お前を殺す!!・・・」
「私は何もしてないわ!男性と話もしていないし、そんな行為もしていない!!兄さんこそ、私の言うことが信じられないの?」
「だったら、何でこんな時間に帰ってくるんだ?もっと早く帰って来い!!」
ゆっくりうなずいたハナンディは、持っていたカバンから大学のテキスト類を机に静かに置いた。しかしまだ懐疑的な兄、バルベスはテーブル席から体を翻し、自分の部屋に入っていってしまった。
ハナンディはそこにあった椅子を引くと、静かにそこに座りため息をついて見せた。

いつも通りの朝が来ると、カステルノダリの郊外に位置する大学の校門に、白いオープンカーを運転してくるホウィがいた。この頃のホウィは、その社交的な性格としゃべりの上手さから一人で探偵業をしていた。この日も彼の車の助手席には、相変わらず女性がそのシートを占領していた。大学の門が近付くと、彼はわざと女性の肩に手を回した。
「ちょっと・・みんなが見てるわ。」
派手は白いスポーツカーはただそれだけで注目を浴びているにもかかわらず、ホウィはそれを知ってかわざと、通学途中の学生に見せつけるかのように大胆な行為をしてみた。
「なにか問題でも?」そういって校門前に車を止めると、いきなり女性の体を引き寄せ、キスをした。
「・・・・大学、どうしても行くの?」他の学生が見ている中、彼女は恥ずかしそうにしながらも、まんざらでもない様子だ…。
「単位落としちゃうわけには行かないから・・」
「俺はとっくに、君の中に落ちちゃってるよ・・・休んだら?」
「そういうわけには・・・」
「わかった。この続きは・・授業の後で・・・電話待ってる。」
「うん。じゃあね」そういって車から降りた女性は、軽く髪と服装を直しキャンバスに消えていった。ホウィはそんな彼女を見届けると、まるで次の獲物を探しているかのようにあたりをキョロキョロしだした。
「お?あの娘は、有名作家の孫の、レベッカちゃんではありませんか。」
車から降りてドアを閉めると、車にもたれかかり腕を組むホウィだった。
「ハイ!レベッカ!!」
「あら。久しぶり!ホウィ!」その声にレベッカはホウィを見つけ、彼のもとに駆け寄ってきた。ホウィはしきりにどこかに行こうと誘っているようだった。しかしレベッカは残念ながらそんな女性ではなかったようだ。そこへハナンディが大学に行くため通りを歩いているのを見つけると、彼女はハナンディにわざと大声で聞こえるようにこう言った。
「・・あー・・・・わかったわ!じゃ、ハナンディも一緒でいい?」
彼女がそういうと、そこに真横に来たハナンディの腕を引っ掴み、ホウィの前に連れ出した。驚いたハナンディはドギマギした様子でこういった。
「あ・・・レベッカ・・急に何?」
「このイケメンフランス人、私の友達なの。私をランチに誘いたいみたいなんだけど、ハナンディも付き合ってくれない?いいでしょ?」
「え?それは・・困ります・・。」
「ホウィ、私たち二人でなら今日のランチ、一緒に行ってもいいわ。」
そういって、『まるで離さないぞ』とでも言わんばかりに、ハナンディをぐっと引き寄せた。
しかしハナンディはベールをしっかりかぶり、ホウィのほうをまったく見ようとせずただうつむいていただけだった…。
「OK!じゃ、ハナンディ。そういうことで、12時に迎えに来るね。」
そういって車に乗り込むと、軽く手を振って去っていくホウィだった。

町のはずれにあるフレンチレストラン前に、ホウィの運転する車がレベッカとハナンディを乗せて停まった。
食事が始まると、なぜかハナンディは何かに脅えながら、時折窓の外を見て誰かが自分たちを見ていやしないかと心配しているようだった。
「どうしたの?もしかして、俺に緊張してる?」ホウィは冗談っぽくそう聞いてみた。
「・・・・違うのよ。彼女はパチスタン出身でね。宗教上、男の人とこうやって食事することがタブーとされているのよ。だから怖がっているだけ。」
「タブー?こうやって3人でも?」レベッカの言葉に驚いたホウィだった。
「ハナンディの社会では、女性に対する権利や自由などが制限されていて、結婚後の女性は夫以外の男性と会話したり、自由に外出したりすることさえも許されていないの。もちろん、独身であっても社交的な行動はタブー。こういった教義に反対するつもりはないけれど、女性の立場向上といった視点から考えると、私はどうしても許せないのよね。」
「レベッカは平等主義については論客者だからね・・・・・」
「ハナンディ、あなたもさ、国際弁護士になりたくて大学に通ってるんだから、少しは外の世界にも触れてみたら?この頃、夕方の勉強会にも来てないじゃない?」
「ごめんなさい・・あの・私、大学に戻ります・・」耐えられなくなったのか、食事をほとんど残したまま急に席を立つと、鞄を取ってレストランから出て行てしまった。
「やっぱりだめか・・あーあ、今日が記念すべき国際人第一歩になるかと思ったのに・・。」
レベッカはフォークをプレートにおいて、小さく体をのけぞってみせた。
「宗教上のことなんだから、あんまり無理強いしないほうがいいんじゃないか?」
「それが殺人だとしても?」
「殺人?」
「名誉の殺人って知ってる?」レベッカは今度はナイフを振り回しながら説明しだした。
「結婚前の男との性的交渉が、家族全員の名誉を汚すものと見なされて、娘の父親や男兄弟が、その名誉とやらを守るために実の子供や妹を殺害する風習のことよ。」
「はあ?それが家族の名誉?」
「彼らの家族社会では、娘が処女であるかどうかっていうことが、とても重要なことに値するんですって。」
「そんなこと、処女喪失しました〜って両親に報告する奴なんかいないんだから、黙っていればわからないんじゃないの?」
「それがね・・・女性が急に赤く口紅を塗ったり、帰宅が少し遅かったり、ちょっと電話で男性と話しているだけで、家族は懐疑的になり勝手にそうと決め付けて、残忍な方法で娘を殺してしまうのよ。正当な復讐行為としてね。」
「国家はそれを容認してるわけ?」
「宗教上、家族の名誉を守った英雄として扱われるというし、とある国では政府はほとんど無力で警察力も届いていないから、地方の部族のほうが数倍強い権力と慣習を残している。結果・・・・法律なんてあっても無いに等しいわけ。」
「げ・・」ホウィは思わず、フォークとナイフをお皿の上に置いた。
「知ってる?ここヨーロッパでも中東圏出身の移民によって、名誉の殺人が行われることもあるのよ。」
「知らなかった・・・」
「相変わらずねえ、ホウィ」
「知識じゃ著名作家の孫に勝てるわけないよ・・」
「自分だって高学歴のクセに・・・。なんとか彼女をその環境から救い出してあげたいんだけど・・・なかなかね・・。それに、彼女は家で家庭内暴力も受けているって評判よ。」
「警察へは通報した?」
「ううん。家の中でグラスが割れたり、机が移動する音などは聞こえるけれど、残念ながら彼女の悲鳴は聞こえず・・・。きっと耐えているのかも・・・」

それから数日後 カステルノダリの大空に外人部隊所属のヘリが舞っていた。そんな町の中をハナンディのことなど忘れたかの様に、陽気に口笛を吹きながら歩いているホウィ の姿があった。ふと本屋の前に立ち止まり、そこに張られたチラシに目を付けた。
「カステルノダリ第4外人連隊で事務員募集・・・ふーん」
「ちょっとホウィ!!」その直後、彼の後ろから女性の声が聞こえてきた。ホウィはその声の持ち主が誰なのか分かったらしく、びくっと肩をすくませゆっくり振り返ってみせた。
「げ!やべ!!」そんな彼の目の前にいた派手な女性は、そこに仁王立ちして睨んでいた。
「やべ!っじゃないわよ!!どういうつもり!携帯にも出ないしアパートにも帰ってないし!!それに今日、私の親と会う約束だったじゃないの!!」
「いやー・・そのちょっとしたマリッジブルーっていうやつで・・・」
「なんですって!!あんた・・・探偵業してるって言ってたわよね・・もしかして、うちの会社のこと調査して金もらったんじゃないでしょうね?」
「え?ばれた?ってことは・・・君んち倒産ってことだね」
「私に近づき会社の内部告発手伝いやがったな!!おかげでこっちは路頭に迷うことになっちまった!!」そういってホウィに近づいてきたとたん、血相を変えて逃げだしたホウィだった。
「待て!!この!!この恨みは忘れないぞ!!」

ハナンディのアパートの近くで、ホウィは息を切らせながら壁にもたれた。
「参った・・。付き合ってる頃はおしとやかなお嬢様だったのに・・女ってこわ・・・ん?」
彼の目の前にある建物は、ハナンディと兄バルベスの住むアパートだ。そこから大きな物音が聞こえ、急にドアが開きハナンディが走り出てきた。
「あれは・・・ハナンディ?」
彼女はホウィの声を耳にし、チラッと彼に視線を向けるが、無視してその場から走り去ってしまった。しかし驚いたのはその後だった・・・。彼女の後を追いかけてきたのは兄らしき男・・・怒りに満ちた表情で、手にナイフを持って出てきた。 
「まさか・・・本当に?」あの時、レストランでレベッカが話したことを思い出し、顔面蒼白になったホウィだった。
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