4th Stg第55話「The Sullen Tones-9」
フォイオンの閑静な住宅街に混じって、豪華な教会が建っているその正面玄関にタクシーが停まった。そこから降り立ったベルヌーイ弁護士は、おもわずその建物を見上げて、その美しさに眼を奪われた。
「ここがセイントホーン教会か・・・。」教会の門にはSt.horn Churchと書かれたサインを確認すると、そこから静かに足を踏み入れた。
教会の扉の前に立つと同時に、中から誰か尋ねてきたことを関知したのか、若い神父が扉を開けた。
「どちらさまですか?」彼は黒い服に身を包み、丁寧な物腰でベルヌーイにそう尋ねた。
「あ、これは失礼。神父殿・・・昨日電話した弁護士のベルヌーイといいます。」
「ああ、聞いております。私が神父のアレックといいます。」
「どうぞよろしく・・・早速ですが、ロバート・ヤン氏についてちょっと尋ねたいのですが・・・。彼は毎週日曜日にはこの教会に来ていましたね。」
「ええ、かならず・・・」彼のやさしい表情は変わることがなかった。というよりか笑顔を見せ、ベルヌーイに好意的な様子で語ってくれた。
「彼が世界的に有名な音楽家だったことはご存知で?」
「もちろんですとも。賛美歌を歌うときには必ず、オルガンを弾いてもらいました。感謝しております。」
「ここで親しくなった友人はいませんか?」ベルヌーイはこの教会で知り合ったかもしれない女性関係を疑っているようだった。
「挨拶程度の関係で、どなたとも親しい間柄ではありませんでした。」
「そうですか・・・。たいてい、日曜日のミサには何人ほど来られているのでしょうか?」
「この近辺は、近年新しく家が建っているせいもあって、最初は10人程度でしたが、徐々に増え、多いときでは40人くらいかと」
「当時、彼に特に変わった行動などはありませんでしたか?」
「音楽家ということで、ずっとMP3やIPodなどで音楽を聴いていました。だからみんなとは親しくなるチャンスがなかったのでしょう。」
「なるほど・・。職業病みたいなものですな・・。ところで、参加者の中にアーネストという名前の人はいませんでしたか?」
「・・・・いいえ。そのような人はいません。」
「なにかこの名前に心当たりはないですか?」
「ありません」
「ありがとうございました。忙しいところを申し訳ない」ベルヌーイはこれ以上ここでは無駄だと思い、早々に立ち去ろうとした。
「2年も前の事件なのに、またどうして?」若い神父は不可思議そうな顔をして聞いた。
「私の趣味みたいなものです。ではこれで失礼・」そういって軽く挨拶をすると背を向けて教会から早々に立ち去った。
彼は次にダウンタウンにあるテレビ局に乗りつけた。日差しがキラキラと照りつけるこの日の午後は、テレビ局のガラス張りの窓に太陽光が反射して、まるで夏を感じさせるような天気だった。
建物に入ったベルヌーイはとある応接室に通された。ソファに座ってしばらく待っていると、男が一人手にビデオを持って入ってきた。
「お待たせしました。これが今から2年前のある日曜日に、セイントホーン教会で行われたミサの様子を録画したテープです。」
「手間かけさせたね。」
「いえいえ、私たちは大学のクラスメートなんですから、何時でもこういうことは言ってくださいね。本当にたまたまなのですが、特集でフォイオンの教会を毎週番組で紹介していまして。ちょうどあの教会に世界的に有名な音楽家のロバート氏がいて、日曜日に彼のオルガンが聞けるというので、みんな注目していたのですよ。」
「ありがたい!感謝するよ!」ベルヌーイは立ち上がって友人に握手を求めると、二人はにこやかに笑ってお互いに肩をたたきあった。
海がキラキラ輝いている背景をバックに、豪勢なログハウス風の建物であるセイレン別荘が建っていた。そこは夏の避暑地でもあり王室専用のビーチでもあった。そんな風景とは裏腹に別荘内にあるオスカーの部屋は暗く、所狭しと部屋中に敷き詰められたコンピューターがホウィとベルヌーイを迎えた。オスカーは勝手に入室してきたホウィとベルヌーイには目もくれず、忙しそうにしきりにキーボードをたたいていた。
「相変わらず、オスカーの部屋は機械だらけだな。少しは何か人間らしいもの置いてみたらどうだ?」
周りを見渡すとホウィはため息混じりにそういった。
「悪いね、俺はこうなってないと落ち着かないんだよ。」
「こんな部屋、女の子がきたら帰っちまうぜ。イヤーン!!コンピューターオタクだったなんて〜〜!!ショックー」女の子のフリをしてジョークを言うホウィだったが、オスカーはムキになって答えてしまった。
「俺はお前と違う!」ベルヌーイからビデオを受け取りデッキに入れると、いつもふざけているホウィに苦言を吐いた。
「それに、ここには女性を連れてこれないだろ?お前はいつもホテルを利用しているくせに。お互い自分の部屋を心配する必要はない。」
「え?知ってたの?」
「俺を誰だと思ってる?」オスカーはメガネを光らせながらにんまり笑って見せた。図星だったホウィは、急に顔が真っ赤になってそんなオスカーを指差して叫んだ。
「ぷ・・・プライバシーの侵害だ!!訴えてやる!!」そこにいた弁護士のベルヌーイの顔を覗きこみ、助けを求めるかのように同意を求めた。
「残念だが、君の弁護はできんな。仕事中にホテルに行ってるほうが悪いよ。」そうベルヌーイが答えるとオスカーとベルヌーイが、顔を突き合わせて大笑いした。
「お、始まった。・・・これが2年前のロバートだ。」オスカーはそこに映し出された一人の東洋系の男を指差した。その男はイヤホンを耳に取り付け、なにやらぼうっとした様子で教会に入って行った。
「こいつ、まるで生気が感じられないな・・」オスカーはポツリとそう言い放った。
「このころから離婚騒動でお疲れなんじゃないの?」
スンニのダンナ、ソニンの父親であるロバートの生前通っていた教会の在りし日の姿だった。座席に着き、それでも視線を前の椅子に向けたままぼうっとしている様子が伺えた。そこへ神父のアレックがロバートに近づくと、どうやらオルガンを弾いてほしいと頼み込んでいる様子だった。そこでビデオはいったん切れていた。次の瞬間、ミサの賛美歌のシーンが映し出された。ロバートが前方でオルガンを引き出すと、それに続いて全員の合唱が始まった。
さっきまで、からかわれていたホウィが、急にテレビモニターを覗き込んだ。
「あれれ?ずいぶん有名どころが集まっているなあ・・・。」
「どういう意味だ?」オスカーはホウィを見た。
「ここに座っている男、フォイオン建設の社長だ。それにこいつは大学教授、・・・この男は、フォイオン軍の偉いおっさんじゃなかったっけ?」
「それは確かなのか?」
「間違いねえ。こりゃ、ものすごいセレブ教会だ。もうちょっと調べてみるが・・・・。それにしても、なんだか活気のないミサだな。まるで幽霊の集まりようだ。」
「これは・・・」ベルヌーイが一点を指差した。ある男もMP3を手にしている。よく見るとそこに集まったほとんどの人間がみなMP3を所持している様子だ。
「・・・・・なにかおかしい。」オスカーがそういうと、3人は黙り込んでしまった。
「こいつを手に入れる必要がありそうだ・・・」ベルヌーイはそう言って画面に映っているMP3をこついてみせた。
大きな組織の陰謀に一端が見え隠れしだした。フォイオンで発見された新エネルギー鉱石3Xを奪おうとする一味は、なぜこんなにも執拗にこの国の国王を狙うのか?
その一味であるクライブは、本当にアンドレの兄、ロイなのか?
その組織とは一体、何の目的で3Xを手に入れたいのか・・・。
これからアンドレとサラ達に、次々とその謎が問いかけられるのは言うまでもない・・・。
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