4th Stg第53話「The Sullen Tones-7」
数日後のマッケラン中学校の体育館には、大きな音楽器材一式が運び込まれていた。そのステージには、上半身の筋肉を見せ付けるかのように、パブロがせっせと大道具を運んでいる姿があった。
大柄で筋肉質な彼に驚く音楽関係のスタッフの向こうには、少し趣の違う様子の王室警護官や、陸軍102部隊の通信兵等がせっせと警備強化をしている様子が見えた。
緑色のバトルドレスユニフォーム(BDU)を来た陸軍の幹部とオスカーが、コンピューター片手になにやら話をしている途中、お忍びで入ったアンドレ国王とソニンがステージ中央で、それぞれバイオリンとフルートを軽やかに弾き始めた。
この日は男子中学生のバンドメンバーも来るはずだったが、ソニンと一緒のステージに立つことを嫌った彼らの姿はそこにはなかった。一通り演奏を終えたアンドレに、ぽつりと語りかけたサラだった。
「来ないわね・・・。」その言葉を聞いてソニンはうつむいて黙ってしまった。アンドレはソニンの肩に手を当てて優しくこう言った。
「ソニン、・・・・大丈夫。彼らが来なくても、ちゃんとコンサートはできるから心配しないで」ソニンは黙ってうなずいただけだった。
そんな頃、フォイオンのビジネス街に位置する、コンビニエンスストアの本棚に並べられた新聞のトップ記事には、『アンドレ国王がマッケラン中学校でチャリティライブ!!』と見出しが出ていた。なにやらオフィスレディたちがその記事を見て、興奮した様子で立ち話をしている様子が伺えた。
所変わって、フォイオン国際空港には各国のマスメディアがぞくぞくと入国をしてきた。一国の若き王が、チャリティコンサートを行うことに世界中の人が興味を持っているらしく、彼の姿を報道することはマスコミにとってはよいビジネスチャンスでもあった。
アンドレの人気も元になったのは、今から数年前に、ウィルがイギリスで有名なファッション雑誌の表紙を飾ったことが最初だった。それ以来、ひそかに若い女性から熱いまなざしを受けていることは事実だった。
フォイオン・エレオ市にあるカジノでは、広い敷地に所狭しと並べらた幾台ものマシンが、キラキラと光を放ち、かつ軽快な音を出し続けていた。ある台の前に座っているスンニが、顔を引きつらせて、そこにある透明のガラスの向こうにある絵柄『トリプルX』 を3つ揃えようとムキになってボタンを押していた。
「なんだい!このマシンは!!ちっとも面白かないね!!まったく。少しぐらい楽しませてくれたっていいじゃないか!!」
入金したお金がみるみる減っていき、彼女のイライラは募るばかりだった。その後方でそんな彼女の行動を、みんながヒソヒソと噂していることなど、彼女が知る由もなかった。
しかしある男が彼女に近づき、背後から呼びかけた。
「ヤン・スンニさんですね?」
「金なら無いよ」いきなりの返事はぶっきらぼうだった。また借金取りかと思ったらしい。
「ちょっとお話をさせてもらえませんか?私はこういうものです。」彼女の横に立ち名刺を差し出したのは弁護士のベルヌーイだった。それには驚いて、ボタンを押す彼女の動きが止まった。
「弁護士?」
その後、スンニとベルヌーイは共にカジノを出て町に向かうと、オープンカフェテリアの奥に位置する場所に座り、コーヒーを飲んでいる姿があった。ほとんどの客は屋外で、サンシャインを楽しみながらお茶をしていて、屋内にはほとんど誰もいない状態だ。
「ダンナさんについてちょっとお聞きしたいのですがね。離婚前、特に変わったことは?」
コーヒーカップをガタガタさせながら一口飲み、その質問に答えるスンニだった。
「変わったことねえ・・携帯で誰かと内緒話するのが増えたわね。どこの女か知らないけど、まったく浮気だなんて・・・。家にぜんぜんお金も入れなくなって、保険金も勝手に名義が変わっていたわよ・・。おかげでこっちは毎日食べるのが精一杯!!」
「彼は教会へは毎週欠かさず行ってましたか?」
「3年前くらいだったかしら。私たちがずっと通ってた教会に行くのをやめ、別の教会に変えると言い出して・・・。私たちも一緒に半年くらい通ったけれど、あいつがお金を家に入れなくなったから、代わりに私が働かなくてはいけなくなってさ。それから教会にはいかずじまい。あいつはまじめに行ってたよ。だから、てっきりその教会に行ってる女といい仲になったんじゃないかって思ってる。」
「その教会の名前は?」ベルヌーイはせっせとメモを取りながら質問を繰り返した。
「セイントホーン教会(St.Hone)。カタリナストリートにあるよ。・・・」
「わかった、ありがとう・・・ところで、君は来週の日曜日は暇かね?」
「あら、私とデートでもしてくれるの?おじさん独身?」スンニが黒い瞳をぎょろっとさせながら、ベルヌーイを見つめた。彼は苦笑いをしながら答えた。
「悪いね。ちゃんと結婚して子供もおるよ。でも来週の日曜日は是非私とデートしてほしい。場所はマッケラン中学校、午後1時じゃ。」
そういうとベルヌーイは、会計を頼むためウェイトレスを呼んだ。
「その中学校・・・ソニンの行ってるところじゃないか?まさか、あの子が何かしでかして、母親が呼び出し食らったってこと?」
「そんなこと、なんで弁護士である私がしなくちゃならないのかね?来てくれれば借金はチャラだ。もし来なかったら現状のまま・・・。きちんとした服装をしてちゃんと化粧もしてこい!いいね?」彼は少し強めの声でそういいつけた。
「変な話!!」
テーブルでふてくされるスンニだったが、それだけで借金がチャラになるのかと思うと、心の中でしめしめと思う気持ちを隠せず、隠れてにやりと笑って見せた。ベルヌーイはウェイトレスとの勘定を済ませチップを払うと、帽子をかぶりスンニに軽く会釈をすると、ゆっくり歩いて喫茶店から出て行った。
残ったスンニは、震える手でコーヒーカップをソーサーに戻すと、黙って考え込んでしまった。『そういえば、学校に何しに行くのか聞くのを忘れたわ・・・』
彼女の脳裏に不安がよぎった・・・。
『まさかあの老人・・・弁護士というのは嘘で私を殺すように頼まれたのかも・・・』彼女は借金を返せない自分を、いつか誰かが殺すかも・・・そう思っていた。
ふと見るとベルヌーイが座っていた場所に雑誌が置かれていた。それを思わず手に取るスンニはそのTOP記事を見て驚いた。
「・・・・アンドレ国王が来週、日曜日に・・・マッケラン中学校でチャリティーコンサート・・・。ええ!?」
マッケラン中学校の体育館では、引き続き作業が続けられていた。ステージでライブの練習をしているアンドレとサラのもとに、ホウィがあわてて走ってきた。
「サラ!!大変だ!!」
「どうしたの?ホウィ・・」そこにいたアンドレ、サラ、ソニン、そしてベンがホウィに注目した。
「・・・ソニンのお母さんが・・・スンニがひき逃げされた・・」
「ええ?」その台詞に4人は驚いた。
「・・・・お母さんが?・・・」スンニはショックのあまり両手で顔を覆った。
「・・・ベルモンド中央病院だ。」それを聞いてアンドレは、勢いよく椅子から立ち上がった。
「すぐ行きましょう!!ベン、車を回してください。」
「了解、・・・サラ・・きな臭いものを感じる・・・気をつけろ。」
ベンはサラにそう耳打ちをした。黙ってうなずいたサラは、見えない敵の存在を感じた・・・。私たちがこの情報を調べ始めたことを、奴らは気づいている・・・。証拠隠滅のため?
その犯人がロイだとしたら、やはり宮殿からの脱出劇の後、海岸で出会った彼を確保して置けばよかったのかも・・・。そう思うサラだった。
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