4th Stg第52話「The Sullen Tones-6」
この日、アンドレが先日の文化祭に出席した、母校マッケラン中学校の駐車場には、アンドレの専用車と数台の警察車両が駐車していた。校長室に通されたアンドレ国王とサラは、そこにあるソファに腰掛け、突然の国王の来校に冷や汗を吹きまくっている校長と話をしていた。
「ええ?ここでチャリティーコンサートを!?」校長のバラキレフがアンドレの顔を見て驚いて言った。
「はい、ぜひともお願いしたいのですが。」
彼のリクエストは、この中学校で恵まれない子達の寄付を募るチャリティコンサートの開催要望だった。もちろん、そのお金の行き先はギャンブル狂のスンニのところであるはずだ。とりあえずは借金の返済ができるくらい集まってくれればそれでいい・・・。
アンドレ達の本当の狙いは、その裏に隠れている怪しい団体の情報収集だということは言うまでもない。校長はにこやかな笑みを浮かべて言った。
「それはもう、アンドレ王のお願いであればいつでも!!」
校長室のドアがノックされ、そこへ先日のバンドのメンバーが入室して来た。子供たちは突然の国王からの要望に驚き、興奮した様子だった。
「アンドレ王!!」子供たちの一人が緊張した面持ちでそう叫んだ。
「またアンドレ王とライブを?本当ですか?校長先生!」
「本当だとも!!是非頼んだよ。」子供たちはその話を聞いて大喜びだった。しかも、大勢の観客が学校の体育館に呼び込まれると聞いては、この上ないチャンスであることも感じ取っていた。そんな彼らの後方から、汚いドレスを着たソニンが無言で校長室に入ってきた。彼女を見つけたサラはその名前を呼んだ。
「ソニン!」そのとたん、今まで大喜びだったバンドメンバーの顔色が曇った。まるで汚いものでも見るように、ソニンが歩み寄ってくるその姿を見つめていた。
「・・・なんだよ!お前がこんなところに来るなんて!!」ひとりのバンドメンバーが表情を変え、嫌な目つきでソニンをののしった。そのとたん、アンドレはソファから立ち上がり、バンドメンバーの行動を制した。
「私が呼んだのですよ。」
「これはいったいどういうことで?」校長もこの話は初耳だった。アンドレはソニンの近くに歩み寄った。
「ソニン、私たちと一緒にチャリティーコンサートをやってくれないかな?ここにいるメンバーと一緒にステージに立つんだ。」
「はい・・・落し物」サラはそういって腰をかがめて、彼女にフルートを渡した。
「でも・・」ソニンは周りにいるバンドメンバーを気にしている様子だった。案の定、男の子たちは小声でヒソヒソ話し合っている・・・。
「こいつと一緒に何かやったら、俺たちまでいじめられるかも・・」
「でも、せっかくのチャンスだし。どうする?」
どうやら、ソニンはこの学校でいじめられている様子だ。アンドレはソニンの両肩に手を当て、優しいまなざしで語った。
「ソニン、私も一緒に参加するよ。この学校の体育館にたくさんのお客さんがくる。もちろん、テレビ関係者もだ。それが病気のお母さんを救うことになる。是非フルートを吹いてほしい。」
「・・・私なんかがそんなことしたら、またみんなにいじめられるわ」
「あなたが悪くて、いじめられる対象になったんじゃないのよ。それに、ソニンはまだしっかりと生きているじゃない。生きているうちは、人間は助け合わなくっちゃ。苦労しているお母さんを助けるのよ。・・・」
サラはそういい終わると、立ち上がりバンドメンバーに向かって厳しく非難した。
「あなたたち、いいこと?弱者をいじめて楽しむなんて最低よ。私たちはソニンを助けるわ。ソニンはお母さんを助けるの。あなたたちは今、誰を助けるべきなの?・・身近にいる仲間を助けないで放っておくの?いじめられているクラスメイトを見てみないフリをするの?そういう奴こそ不幸になる!」男子生徒3人は無言でうつむいた。
「それでもソニンと組めないって言うのなら、あさっての夕方の練習には来なくていい。こっちから願い下げよ!」
その日の夕方、ソニンはスラム街にある家に戻ると、暗い家の中で自分の机の引き出しを開き、楽譜を取り出すとじっとそれを眺めた。その楽譜はアンドレが書斎で取り出したモーツアルトの曲と同じものだった。
「・・・・前は、よく家族でこの曲を弾いた。お父さんはピアノを弾いて、お母さんはバイオリン。そして私はフルートを・・・。あのころはお母さんもとっても優しくって、とても幸せだった。」
ソニンの視線の先には埃をかぶったバイオリンが見える。まさしくそれは、あの荒くれ者でギャンブル狂の母親、スンニのものだ・・・。
「もしかしたら、本当にまたあのころに戻れるかも・・・私が頑張ればきっと・・優しいお母さんにまた戻ってくれるかもしれない」
そう決意すると、フルートを吹き始めるソニンだった。
今夜も酒に酔った状態で家に戻ったスンニは、ヨロヨロしながらキッチンにある椅子に腰掛けると、薬を飲もうと手を伸ばすがその手がガタガタと振るえ、薬の小瓶を床に落としてしまった。大きくため息をつき、くしゃくしゃの髪を両手でかきあげた。その時、ふとどこからかソニンの吹く、軽やかなフルートの音が聞こえてきた。
「・・・曲?」聞こえてくるメロディは、昔家族でよく弾いたあの曲・・・。思わずその曲を聞き入ってしまったスンニは、幸せだったころのことを思い出し、目から大粒の涙を流して机の上に泣き崩れた。
「ロバート・・・どうして急に別れたいだなんて・・。愛していたのに・・」
暗い家の中に静かに流れるソニンのフルートの音色は、母親のスンニの心を激しく取り乱したようだった。彼女がなぜこんなことになってしまったのか・・・急に幸せな家族を捨て離婚を申し立ててきたロバートに、一体何があったというのだろうか・・・。その答えはスンニにも分からなかったことがいうまでもない。
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