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  Mission!! 作者:Rach
4th Stg第50話「The Sullen Tones-4」
ソニンと話をしている途中、大きな音を立てて一台のポンコツ車が近づき、家の近くに止まった。中から酒を飲みながら出てくる一人の女性が、くしゃくしゃの黒髪を振り乱しながら荒々しくドアを閉めた。
「おい!もう酒はほどほどにしておきなよ。スンニ!!これ以上面倒見切れないぜ!」
運転席の東洋系の男が窓を開け大声で叫んだ。
「わかったよ。まったく・・友達甲斐のない男だね・・」
「けっ!!もう2度と電話してくるな!!」罵声を浴びせると同時に、車は走り去った。そんな事など少しも気にせず、スンニはフラフラしながら家の前まで来た。そこにソニンがフルートを持って立っているのを見つけると、急に顔つきが険しくなった。
「ソニン!!あんたまだこんなフルートを持っていたのかい!捨てろといったはずだよ!!」
彼女の、フルートをもつ手が小刻みに震えているのを見て、サラは慌てて前へ躍り出た。
「すみません、私たちは怪しいものでは・・・」
「・・・あんた、この国のもんじゃないね・・・」じっと母親のスンニはサラの顔を眺めると、にやっと笑いながらこういった。
「あんた。よかったらこの子を買ってくれない?いくらになる?」
サラはその言葉を聞いて、いきなりスンニの頬をはたいた。
「なにすんだい!!」サラに食って掛かろうとしたスンニとサラの間に、慌ててパブロが入り込み二人を止めた。よく見るとスンニの足やあごが震え、自分でそれを必死にとめているようだった。体をガタガタと病的に振るわせながらも、サラのことが気に入らないらしく、それでも彼女に文句の一言でも言ってやろうとまた近づいてきた。
とたん、パブロの後ろに停まっていた高級車から、ベンが勢いよくドアを開き出てきて、銃を片手に腕を組み、車にゆっくりもたれかかった。こうやって見ると色黒で背の高い彼の姿は、どことなくマフィアのようだ。
スンニはここにいる全員をじっと見ると、急に背を向けソニンの手を引っ張り、家に向かって歩き出した・・・。
「行くよ!」あまりに急にソニンの腕を引っ張ったので、その反動でフルートを地面に落としてしまったが、母親の命令に背けないソニンは、フルートを気にしながらも、家の中に連れ戻されてしまった。
サラはそのフルートを拾い上げると、悲しそうにじっとそれを見つめた。
「大丈夫ですか?・・・」
「ええ・・ごめんなさい。ついつい、頭に血が上ってしまったわ。・・だめよね、すぐ独りよがりの正義感に酔ってしまって・・・。」
そこへ銃をしまいながら、ベンがサラに近づくや否や、サラに向かって話し出した。
「またここでも、放ってはおけないっていう表情だな。サラ・・・・いつぞやのアフリカ戦線のときのようだ。」
「ごめんなさい・・・」彼女の肩にポンッと手をやると、ベンはそこで説明をしだした。
「彼女の名前はヤン・スンニ。2年前に亭主と離婚。ダンナとは子供の親権をめぐって言い争い、大喧嘩になった際に怒りのあまりこの場所で、しかも子供の目の前で焼身自殺。その後、母親はまともな仕事もせず、毎日賭博に明け暮れているってわけだ。」
「絵に描いたような悲惨な家族だな・・」パブロはもう一度家のほうを見つめた。
「お金がないからって・・・子供を売るなんて・・」
サラがこう思うのは当然のことだった。イギリスで生まれた彼女はまだ幼児の頃に、両親に捨てられ、孤児院で育てられたからだ。うつむくサラにアンドレが優しく声をかけた。
「・・・・私にできることがあれば手を貸します。今日はもう、別荘に戻りましょう。この件で話したいことがあります。」
そういうと全員が黙ってうなずき、その場から去っていった。

別荘セイレンに帰ってから、ソニンの家族に起きた不幸な事故について詳細を知ったサラは、とても心を痛めていた。同じような境遇であるソニンに対して、なんとか母親であるスンニの経済的支援などできないものかと考えあぐねている様子だった。
アンドレとサラの部屋の目の前に打ち寄せる波の音が、余計に彼女のシンパシーを乱し、ソニンに思い入れを深めていることは間違いなさそうだった。
屋外にあるバルコニーでぼうっとしている彼女を見て、アンドレはいろいろと思考を凝らしていた。机に座った彼の目の前に用意された書類を裁きながら、ふと何かに思い立ち、数ある書物が並べられた書棚に向かうと、一冊の本を取り出した。
「なつかしいな・・・。モーツアルト・・。兄がよく弾いてくれました。」
本の題名はモーツァルト フルート四重奏 全集--フルートとヴァイオリン等々・・。

夏に近づく翌日の太陽は、強い日差しをサンサンとビーチに照りつけていた。
サラはパラソルの下で砂浜に座り込み、ソニンのフルートを手に持ったまま、黙ってぼうっと海の彼方を見つめていた。その視線の向こうから、海に泳ぎに出ていたアンドレとパブロが姿を現した。
「サラ!」アンドレの声に我に返ったようにハッとするサラだった。
「・・・あ・・。遠泳訓練、どうだった?」
「今日は4キロほど泳いできました。パブロ教官より、泳ぎは私のほうが上手みたいです。」
そう言いながら、駆けつけたメイドが持って来た、バスタオルを受け取り肩から羽織ると、サラの横に座った。
「残念ながら、この筋肉質の体は水に浮くようにはできていないらしい。」パブロもタオルを受け取り首に掛けると、その体を太陽に輝かせながら仁王立ちして見せた。
「見るからに重たそうだし」そう言ってサラにも笑いがこぼれた。

「では、アンドレ王。今日の訓練はここまでということで」
「ありがとうございました。」そういうとパブロは別荘のほうに向かって去っていった。
「いったい、いつまでこんな訓練を続けるつもり?」
「んー・・・サラがその指輪を左手にしてくれるまで・・」
「・・・・・」サラはどんな返事をすればいいのか悩んだ。メイドがくれた飲み物を一口ぐっと飲み干すとアンドレは笑い出した。
「うふふ。困らせてしまったみたいですね。気にしないでください。強制するつもりはありませんから・・・。でも、私も男です。少しでも訓練をしてフィアンセを守りたいと思う気持ちもあるんですよ。」
「そんな・・・」
「私の勝手な気持ちですから、でも・・・サラはいっとき傭兵生活をやめ、普通の生活をすることを決意したと聞いています。よかったら何があったのか聞かせてもらってもいいですか?」
「あ・・・それは・・・アフリカの小さな部族抗争停戦合意監視のために部隊展開していたとき、ある難民キャンプに重症の子供がいたの。どことなく、孤児院で友達だった子に似ていたので、その少女を助けようと躍起になって上層部と掛け合い、救助のヘリコプターを要請したの。」
「その子は助かったのですか?」
「ううん」サラは首を横に振った。
「ようやく来たヘリに乗せ、一番近い病院に運ぶ途中、強硬過激派部族のヘリによる攻撃を受け私たちは必死に戦った。20ミリ機関銃の射撃をしていた私は、敵のヘリを排除するも右足に敵の弾を食らって、そのまま失神。その少女も口から血を吐き瀕死の状態。」
「・・・過酷な状態だったんですね」
「でもその後、病院で目が覚めたとき、病院のスタッフ全員に私はとがめられたの。なんで、あの少女を連れてきたのかって」
「・・・・・」アンドレはその先のサラの台詞を待った。
「彼女のせいで、数人の病院スタッフも同じ病気になってしまった。私の意見に賛成して尽力してくれたヘリのパイロット、デッケン中尉も、その病気に倒れて数日後に悲惨な死を迎えた。まだ結婚して1年もたっていなかったというのに・・・。その病気の名はエボラウィルス出血熱、現代の医学を持っても完治できないウィルス性の不治の病。正式な手続きを怠って、ただ独りよがりの正義感に酔っていただけだった。」
「そんなことが・・・」
「そうなの・・・独りよがりの正義感だけじゃ、人を助けられないこともあるのよね・・・。」
「ソニンのことですね?」サラは少しだけ微笑んだ。
「でも!おかしな話でしょ。給料もらって戦場に来て人を殺す傭兵でありながら、そんなときに人命救助だなんて。私のしていることって何なんだろうって思ってしまった。結局、任期終了とともに傭兵業を捨て、ありきたりな普通の生活をしようと努力したんだけど・・・・毎日の生活の中にどうしても軍人である自分を見つけてしまうの。」
「普通の生活の中に?」
「ええ、たとえば・・・買い物に行っても、(ベンと手をつなぐと怖いのよ。テロリストが突然襲ってきたら対処できないとか。オープンカフェテリアでは、狙撃される可能性があるから行かないとか・・・うふふ、おかしいでしょ。普通の人はそんなこと考えもしないのにね。」
「なるほど・・」
「あの・・・ウィル。ソニンのことなんだけど・・」
「今朝わかったホウィの話によると、離婚後母親のヤン・スンニはパーキンソン病を発症して、病院から薬の処方を受けているそうです。その医療費もまだ払っておらず、その他も含めかなりの借金を抱えているとのこと。とりあえず借財整理するため弁護士を雇って、計画的に返済をするしか手はないようです。」
「あの震えはアルコール中毒ではなかったのね。でも弁護士を雇うといっても・・・あの家族にはそんなお金もないかもしれない・・」
「・・・そこで昨晩考えたんですけど、こういうアイデアはどうでしょうか?」
サラの耳元に何かをささやくアンドレだった。急にサラの表情が明るくなった。
「それっていいアイデア・・」
その瞬間、サラの耳元に近づいていたアンドレは、彼女を砂浜に押し倒し、突如彼女にかぶさってきた。
「!!・・ウィル?・・」太陽の光が、彼の長めの金髪をキラキラ輝かせている。
「あの・・・・」サラは困った表情を見せた・・・。
「This is my royalty isn’t this?(これは私のアイデア料ということで)」アンドレはそうっとサラの口元にキスをした。
「・ちょ・・・・ん・・」アンドレの右手が優しくサラの髪をなでた。長い、長いキス サラの右手に自分の左手を重ね合わせるアンドレ その右手の指輪が太陽の光にきらめいている。長い時間が経過し、ようやく彼の唇がサラから離れると、いつもように微笑みかけた。
「・・・・こんなときでも、テロリストから襲われることを考えていましたか?」
「・・・そ・・・それは・・」そしてアンドレはサラの耳元でささやいた。
「・・だいじょうぶですよ。サラ・・・私があなたを普通の世界へ連れ戻してあげます・・」
そういうとサラの耳を少し噛み、またキスをするアンドレだった。

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