4th Stg第49話「The Sullen Tones-3」
サラにとってはこの日は、まるで自分らしくない・・・どこか、調子の狂う日であった事は間違いない。なにが自分をそうさせたのか、その理由ははっきり解らないが・・・。
アンドレとサラを載せた車は、また市街地へと戻っていった。車内では沈黙が2人をつつんでいたが突如、アンドレがいつもと変わらない笑顔で、いや、いつもより上機嫌な表情でサラに話しかけた。
「今日はとても楽しかったですね。」
もしかしたら、ここにいる国王とやらがサラの気持ちをかき乱しているのかも知れない。そう思ったサラは一気に文句を言い出した。
「私は全然、楽しくなんかありませんでした!・・っていうか、ボディガードとして言わせていただきますが、・・ちょっと勝手な行動が多すぎます。あんなライブに出られたら、守りきれるかどうかわかりません・・・しかも屋外ですし・・・。」
本当はもっと強くとがめるつもりでいたが、彼のにこやかな笑顔が徐々にその威力を弱めてしまった。
「それは申し訳ない・・・」そういいながらも、サラのほうを見てにこやかに笑うアンドレだった。彼にしてみれば、サラの婚約者発言はうれしいことだったに違いない。
フォイオン港3埠頭には、もうかれこれ2週間近くになるだろうか・・。豪華な客船が停泊していた。そう、第3埠頭といえば、宮殿を襲ったジョルジュとマシューが、アンドレを攫いここへ引き渡しに来る予定だった。結局はそれは大きな囮作戦で、前もって脱出を図るであろう国王を別働隊が拉致してここへ運び込むはずだったのだが・・・。
しかし、それも結局失敗した。
顔がいかにもアメリカ南部、メキシコ系を思わせる顔つきをした無礼な男ハンスが、またもやノックもせず客船内の、ある部屋のドアが開けた。
その中には白衣を着た数人の男と、ナース姿の女性が、中央にあるベッドを取り囲むようにして立っていた。
「様子はどうだ?」彼は中央のベッドに近づき、そこに寝ている傷だらけの男、クライブの顔を覗きこんだ。
「今は鎮静剤で眠らせております。常用の飲み薬では彼を落ち着かせるのが困難となってきています。」白衣を着た医者らしい男が静かに答えた。
「このことは上層部にも報告しなければならんな・・・。しかし、薬が効かなくなってきているのは、われわれのミスではない。お前たちのミスだ。こいつを助けろ。」
「最善を尽くします。とりあえず、いったんこの男をもっとよい施設へ預からせていただきます。」
そう言うや否や、ドクターたちは得意の専門用語でなにやら話を始めだした。
「・・・・本国へ移送ってわけか。・・・しばしのお別れだ。クライブ・・」
寝ているクライブの傍らにはMP3が置かれていた。そんな彼の表情をじっと見ると、ハンスは部屋を出て行った。
客船内の食堂らしき場所には、きちっとスーツを着こなした少々肥満体系の色白の男と、細身で眼と歯だけ白いブラックガイの二人が、缶ジュースをテーブルに置き話し込んでいた。そこへハンスが現れると、色白男がハンスに問いかけた。
「あの男、まだ使えるかね?」
「まったく、ここまで梃子摺るとは思ってもいなかった。」ハンスはため息混じりにそう言って椅子にどかっと腰掛けて足を組んだ。すぐさま、ブッラクガイが言葉を滑り込ませた。
「奴には巨額の医療費がつぎ込まれている。そう簡単に手放すわけにもいかん。」
「わかっていますよ・・・。」ハンスは大きくうなずいた。そして無駄だとは思うが、次の提案を口にしてみた。
「標的をアンドレ王から、この国の内閣総理大臣に変えるっていう案は、無理なのですか?」ハンスの質問に色白男は何も答えず、ブラックガイに視線を移した。彼もハンスの意見には賛成らしい。しかしブラックガイはきっぱりこう答えた。
「だめだ。総理大臣の替わりはいくらでもいる。唯一無二の希少価値であるアンドレ王でなければ話にならん。」それを聞くと、白人男は自分のたるんだ腹をゆすりながら、不満を口にしだした。
「すなわち、総理大臣なら3Xは渡さないが、アンドレ王なら、おいそれと手放してくれるかもしれないってわけですね・・・。そんなことしていると、あの女と結婚して子供作っちまう。」
「元SAS隊員、フランス外人部隊、ウクライナ爆破処理教官、その他各地戦争を渡り歩いてきた女兵士・・。あいつさえいなければとっくにこんな任務は終了していた。まったくウザイやつだ。」
ハンスは視線を遠くの海に移して台詞を続けた。
「とりあえず、一個でも3Xが手に入ればいいんだ。発掘権もあればなおさらいいが・・・。どんな手を使ってでも、盗んできてやる・・・しかし、いったいどこに・・・」
そこにいた3人は沈黙した・・・。どんな手を使っても、この情報だけは入ってこない・・。このフォイオンのVIPにはそれとなく秘密工作員を侵入させ、かつ別の手段を駆使して入手しようと努力しているのだが・・・。
この国をオレンジ色に包み込んだ太陽が、西の水平線に傾いていった。フォイオンにも、もちろん貧富という格差は存在した。どこの社会でも生きていく努力をする上で必ず存在する格差。これを平等というスケルで埋め合わせようとすると、そこに共産主義的な考え方が見え隠れする・・・・。
フォイオンのスラム街には、想像したとおり庭の手入れなどしていない、落書きだらけの建物が立ち並んでいた。ある一軒の家の玄関前で、座って地面に何かを書いているソニンがいた。
夕暮れになりあたりの家は次々と電気が灯るが、ソニンの家には誰もいない様子だ。そこへ車が停まり中から2人のチンピラ風の男が出てきて、彼女に近づいてきた。
「よう、ソニンちゃん!お母さんかえって来た?」
「・・・・・」ソニンの顔が引きつった。
「ちゃんと働きにいってくれてる?借金返してほしいんだけどね。よかったらお母さんにいい商売紹介するんだけど」
「・・・・・・しつこいわね!ないものはないのよ!!」
「ソニンちゃんでも、その気になればちゃんと働けるよ。よかったらおじさんたちと一緒にくる?もう、僕たちお母さんは当てにできないんだー」そういってソニンの体をジロジロ見回し、近寄ってくる・・・。
「来ないでよ・・・」ソニンはそうっと後ずさりし始めた。
「ありゃりゃ・・もう体はもう十分大人だろ。こいつに母親の借金を肩代わりしてもらうか」そういうと男は、ソニンの腕を引っ張り無理やり車に連れ込もうとした。
「いや!!何するの!!やめてよ!!」
「静かにしろ!!恨むんだったら母親を恨みな!!」ソニンの体を抱えあげようとしたところに、後ろから誰かに肩をわしづかみにされた。
「何だ!!」男は勢いよく振り返ると、そこにはパブロとサラが立っていた。
「キッドナップするなら俺にしとけよ・・・」パブロは自分を指差しにんまり笑った。突如別の男がいきなりパブロの体に体当たりをして逃げようとした。それを交わして思い切りその男の腹を殴ったパブロだった。
「げえーー」腹を抑えてその場にうずくまる男を見て、ソニンを抱え上げていた男のほうは、彼女を地面に降ろし、2,3歩後退した。しかしその腕はしっかりソニンの腕を捕らえている。
「なんだ!?お前ら!!」体は震えているが、それでも精一杯の威嚇をしたつもりだった。
「子供をさらうなんて最低な男ね。クズ野郎・・、絶対に許さない!私があんた達を買って、戦場に売り飛ばしてやる!!」
「な・・なにをー!!」そういってソニンの腕を放し、サラに殴りかかろうとしたとき、サラはその男の腕を左手で受け流し、右腕を男のわきの下から入れ担ぎ上げると、体を反転させ前かがみに倒しこみ、一気に背負い投げで男を地面にたたき落とした。
「お見事!」となりでサラに拍手を送るパブロだった。
「教官がいいから」二人はにこやかに笑うと、そこにいたチンピラ男らは猛烈ダッシュで車に乗り込み、砂煙を上げて逃げていった。
「あなたは先日の・・学校での・・・・」ソニンはサラを見てつぶやいた。
「覚えていてくれたんだ。ソニン・・・」そのとたん、また2台の黒塗り車が走ってきた。もしかしたらさっきの仲間がまだここにいたのかと、パブロとサラは辺りを警戒しだした。大胆不敵にもソニンの家の前で停まった車から、髪の毛を後ろで一つに束ねて、黒のキャップ帽にラフな格好をしたアンドレが現れた。その姿はいつぞやの宮殿からの脱出劇の姿そのものだった。よく見ると車はレンタカーナンバーが付いている。
「え?ウィル!?・・・なんでここに?」サラは驚いた。一国の国王がスラム街にラフな姿でレンタカーでご登場とは・・・。
「ホウィに場所を聞いて、私も来ちゃいました。」
「・・ちょ・・ちょっと。こんなところに勝手に来て、・・もし何かあったらどうするの?!」
「うふふ。けっこうばれなかったですよ。」
「そういう問題では・・。今頃、別荘ではベンがあわてて探しているかもしれないし」
「大丈夫です。彼も一緒です・・ほら」アンドレはそう言ってもう一台の車を指差した。その車にはベンが乗っているらしく、窓ガラスの向こうに人影が見えた。アンドレはそのまま台詞を続けた。
「ソニンの件も、どうやら私たちの事件と関係があるという情報が入ったので気になって」
「関係が?」
アンドレはソニンの近く寄ると、唖然とした表情の彼女は、じっと国王の顔を見たままほうけて突っ立ていた。それもそうだろう、一国の国王ともあろうお方が、目の前に立っているのだから・・。
「こんにちはソニン。私がここに来たことは内緒にしておいてください。」
ソニンは首を縦に振った。アンドレはその場に膝を折って座って、ソニンに話しかけた。
「ご両親は?まだ帰ってないのですか?」
「・・・・・夜、遅くにお母さんが帰ってきます・・・」
「お仕事で?」それを聞くと、ソニンは視線を地面に落として小さい声でつぶやいた。
「あの・・・知られたくないの・・・。恥ずかしいから・・」アンドレはそれ以上聞くつもりはなかった。そのかわり、彼女のポケットに入っていたフルートを見つけた。
「・・・わかりました。あ、これは君のフルート?」ソニンは黙ってうつむいた。
「音楽は好きなのですか?」
「・・・パパの形見なの。パパはフルートがとっても上手だった。よく一緒に吹いたのよ・・・」
「悲しいことを思い出させてしまったね。ごめん。」サラはパブロと顔を見合わせた。
『悲しいことって?』
いうなればこの家族に起きた悲劇が、これから彼らと対峙することになろう『アーネスト』という団体が画策する悪の陰謀を知ることになる。
その謎の組織と一国の小さな島国で発見された3X鉱石が、世界を震撼させるビッグニュースに発展しようとは、まだ誰も想像できないでいた。
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