4th Stg第48話「The Sullen Tones-2」
体育館で行われている創立30周年記念行事に参加したアンドレ国王は、当学校の卒業生としてスピーチをするため、マイクの前に立っていた。彼が前方のステージに上がると同時に、サラの変わりに要人警護要員があたりを監視し始めた。
「みなさん、こんにちは。アンドレ・ウィルヘルム・スタインベックです。今日はこのマッケラン中学校の創立30周年記念行事に参加できたことをうれしく思います。みなさんのこのすがすがしい笑顔と明るい表情が、私の財産でありこのフォイオンの宝だと思っています。ぜひ夢をもって勉学に励んでほしいと思います。・・・・」
「国王!!この後の文化祭も、いてくださいますよね!?」
突如、女子生徒の声がこだました。そのお願いにアンドレは躊躇した表情を見せた。
「こら!!忙しいところをお越しいただいているのに、無理言うんじゃない!!」
慌てて校長が横から口を挟む。しかし彼女たちの熱い要望は止まることを知らなかった。
「ぜひ!私たちの描いた絵を見ていってください!」
「音楽も聴いていってください!!」
アンドレはチラッと右側の出入り口付近に立っていたベンに視線を向けた。彼は腕時計を見ながら、しぶしぶうなずいてみせた。
「えっと・・・では少しだけなら・・」
「きゃー!!!」女子生徒たちの大きな悲鳴が体育館中に響き渡った。タイミング悪くその雄たけびと同時に体育館に戻ってきたサラは、なにか危険でもあったのかと驚いて身構えた。
「心配するな。女子生徒が黄色い声をあげただけだ。」
サラが入ってきた出入り口付近に立っていたベンが、ため息混じりにそう答えた。
「黄色い声?・・・」不思議そうな顔をするサラだった。おそらく生まれて初めて聞いた言葉だったであろう。黄色い声なんていうものは彼女の育った過程において、まず存在しなかったといっても過言ではない。サラはステージに立っているアンドレが、そのまま式辞を終え、校長らに握手を求められている姿を見つめた。
式典が終わると、元気な生徒たちが体育館から出てきて、いろんな催し物を始めだした。校長に案内されるまま、アンドレは文化祭のイベントをひとつひとつ見入っていた。写真部の男子生徒がアンドレ王の周りを取り囲み、せっせと写真を撮っているが、時々先生や警察が、執拗な写真撮影がエスカレートしないように適当にあしらいながらその歩を進めていた。
「すみません、ベン。私のわがままを聞いてもらって・・」ベンが行く先々を警戒しているのを見ると、アンドレは彼に近づきこういった。
「ここは教育の場ですし、警戒も万全を期していますから。たまにはこうやって国民に触れ合うのも国王の仕事だと思っています。」
「ありがとうございます。・・サラ?どうかしましたか?」
ふとサラのほうに視線を送ると、アンドレの後ろのほうに位置したまま、急に人だかりに囲まれた国王を、遠くにぼうっと眺めている・・そんな様子だった。
「え?いや・・・なんでも」急に大きな音が鳴り出し、サラは一瞬びくっとして見せた。校庭の一角のステージから音楽が鳴り出したのだ。アンドレは今日は少し様子が違うサラに近づきそうっと肩に手を当てた。
「あ、中学生のバンドクラブですよ・・」サラはすこし安堵の表情になり、自分の隣に来てくれたアンドレに尋ねた。
「ごめんなさい。なんだかこんな学校なんて、ちょっと私には・・・。」
「あ・・・サラはイギリスではどんな学校生活を?」彼の言葉にサラは首を横に振った。
「私は、こんな普通の学生生活なんてしてきてないから、ちょっと不慣れよね。特にあんな女子生徒の黄色い声とやらには、・・・」大きなスピーカーから音楽が流れ出し、二人の会話が途切れてしまった。ふと周りを見ると、若い女子生徒たちがアンドレとサラを取り囲んで、なにやら話しているのが眼に留まった。もちろん、サラを見ているのではないことぐらい解っている。自分の隣に立っているこの長身でブロンドヘアのモデルのような男に、少しでも近づきたい女の子たちが周りに集まってきているのだ。
「・・・・ウィルはなにか音楽は?」
「家族全員、音楽が大好きでした。兄はピアノをずっとやっていて、特にモーツアルトが素敵でしたよ。」
「ふーん、モーツアルトね・・・私にはこんな文化祭とか、音楽の趣味なんて持てる青春期じゃなかったから、よくわからない」
「今からでもなにか音楽をやり始めませんか?よかったら特別に講師を雇いますよ」
「私は・・そんなセンスないから・・・」
サラはふと建物の2階の一室から、先ほどのソニンがじっとアンドレ王のほうを覗いているのを見つけた。彼女は音楽を奏でるバンドクラブに興味を持っているようだった。
「で・・ウィルは何を!?」
「私ですか?うふふ・・何だと思います?・・・実を言うと・・・エレキギターなんですよ。ハードロックのね。」
「・え?・・・・うそ」
「でも親の手前、一応バイオリンなどもこなしますけど。」
「ウィルがハードロック?・・・・」きょとんとした顔のサラに微笑んだアンドレは、急にステージの上に舞い上がった。その瞬間、女子学生のあの『黄色い声』とやらがまた、辺りを包んだ。
「ちょ・・ちょっとウィル!!」ステージに上がるなんて、体育館ならまだ知らず、ここは屋外だ・・どこから狙撃されるかわからない・・・。サラはあたりを見渡し、狙撃可能そうな場所を探した。
「私にも一曲、披露させてもらってもいいかな?」アンドレはそんなサラの心配をよそに、子供たちにそう頼んだ。ギターを手渡されたアンドレにバンドメンバーが楽譜を片手に、なにやらヒソヒソ話し出した。会場ではその光景に女子生徒が集まりだしたことはいうまでもない・・・。サラはベンや警護要員とともに、ステージの方向ではなく180度別の方角を監視し、全く彼のほうを見ることはなかった。何よりボディガードとしてこの非常事態をどう乗り切るかが先決だった。またあの、女の子たちの『黄色い声』を聞くまでは・・・。
「アンドレ様!!」
「王子!!」大きな彼を呼ぶ声が聞こえてきた。
サラはステージに視線を移した。アンドレを含めた4人のバンドメンバーが動き出し、音楽が鳴り始めた。いままでの温厚なイメージとかけ離れた彼の姿に、サラはしばし任務を忘れぼうっと見入ってしまった。大音響でがなりたてる彼のギターは実にスムーズで、ボーカルも時々アンドレのほうを見ては、また時々寄ってきて、ステージを盛り上げている。
「アンドレ様!!私とデートしてー!!」
「私と結婚してー!!」その躍動的なライブに女子生徒たちはもはや興奮状態だった。
「な・・・・」サラは彼女たちの台詞に、なにやらむかつくような・・そんな複雑な気分を隠すことはできなかった。アンドレは夢中になっているステージ下の女子の前までしゃしゃり出て、目の前でギターを弾いてみせている。キャーキャーと騒ぎ立てる女子・・・。
「まったく・・・・・・」そんな彼に少し怒りを感じ始めたサラだった。
ベンがサラの後ろに現れ耳元でささやいた。
「そろそろ時間だ。車をここまでまわすぞ」しかしアンドレを注視したまま固まっているサラは、そのベンの言葉を理解するには相当時間がかかった。
「おい。聞いてるのか!?」
「あ・・・了解。この曲が終わったらステージから引きずり降ろして、車に投げこめばいいのね」我に返ったサラは慌ててそう答えた。
「そのとおり」
ベンは現場から少し離れて、無線機で車を呼びだした。サラはふと校舎の2階にいる一人ぼっちのソニンに目をやると、彼女の表情が先ほどとは異なり、優しい顔つきをして、アンドレたちの演奏する音楽を聴いて微笑んでいる姿が見えた。
「さっきのフルート・・・きっと彼女も音楽が好きなのね・・・。」
遠くから黒塗りの車が近づいてきた。アンドレは音楽演奏を終えギターを子供に返すと、ステージ中央でバンドのメンバーとハグしたり、握手したりしている。カメラのシャッター音やフラッシュが鳴り止まない。
そこへ一人の女子中学生が、教師や警察官の制止を振り切って、ステージに飛び上がった。
「!!ウィル!!危ない!」なにか危険なことがあるかと思い慌てたサラだった。
ステージにあがった女子生徒は、いきなりアンドレ王に抱きつき、その大胆な行動に周りの見物者たちから大きな声が上がった。アンドレは、サラが心配そうな表情をしてこちらを見ていることを知ると、急に女子生徒の腰に手を回し、ハグをしてそうっと彼女をステージから下に降ろした。
それにはサラは何かしらショックを覚えた。周りにいた女子全員が興奮した様子で、全員がステージに上り詰めようかという瞬間、警察官や教師がそれを止めだした。そんな状況をわざとこの男が作り出しているかと思うと、サラの気持ちは一気に怒りが爆発しそうだった。
「まったく!!!!」サラはアンドレを降ろそうと、ステージに近づこうとした瞬間、サラのことを知らない教師に腕をとられて引き止められた。
「ちょっと!!何するのよ!私は、ちがうの!」
「だめですよ!アンドレ王にご迷惑ですから!」サラのことを勘違いしているようだった。
「私は違うの!!ちょっとウィル!!」
「今日は生徒しかこの学校に入ってはいけないことになってるのに、あなたは誰ですか?!!」
「わ・・私はアンドレ王の・・・・」ステージ上のアンドレがサラの近くに寄ってきた。
「さ、学校から出て行ってください!!」数人の教師たちに腕を押さえ込まれたサラは、ステージから遠くに引き剥がされようとしていたその時、ステージからサラに声をかけたのはアンドレだった。
「あなたは・・・この私の何ですか?」ステージの上で身をかがめ、じっとサラを見るアンドレだった。周りの教師たちはそれ見たことかといった表情でサラの腕をぎゅっと掴んだ。
「え?ちょっと・・何でこの状況でそんなこと急に私に聞くの?」
「その先の答えを教えてください。」微笑むアンドレはこの日は少し意地悪だった・・・。
サラの周りにいる、若い女子中学生が口々に彼の名前を呼び、少しでも近づこうとしているそんな状態を見回すサラは、なぜかこう答えてしまった・・・。
「・私は・・・ウィルの・・アンドレ王の・・婚約・・・者・・・」
うつむき加減にぼそっと答えた瞬間、遠くからベンの声が聞こえてきた。
「サラ!何をしてる?早くしろ!!」驚いた教師は慌てて彼女の腕を解放すと、サラはさっき自分が発言したことの意味を噛みしめた・・・。
『私、何を言ってるの??こんな任務中に、くだらないことを考えている暇は・・』
ステージから華麗に飛び降りたアンドレは、サラの肩に手をかけぐっと引き寄せた。サラはハッとしてアンドレの顔を覗きこむと、彼はサラに微笑みかけ二人で車まで歩いて近づいていった。大勢の女子生徒がため息にも似た声がその場を包む・・・。
「本日はお越しいただいて本当にありがとうございました。」
「私もとても楽しかったです。また是非呼んでいただけるとうれしいです。」
「そりゃーもう・・・ぜひとも・・・。ではお気をつけて」
ドアが閉まると、車はゆっくり発進し、校舎のゲートを抜けていった。
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